「それと私がどう関係あるんですか?」
「うーん、泰明が言うにはなつちゃんが人間の姿になったウサギ姫と似ているからよ」
「なんか聞いたことあります。母が、私や妹たちに読み聞かせをしたような気がします。」

 「ウサギ姫」
 切ないけど、ウサギ姫の王子様に対する純粋な愛が様々な読者に親近感を持たせて話題になった。
 今は影を潜めているけど、今でも根強いファンがいる。

 和泉はさみしそうに語り出す。

「そのウサギ姫の絵本はね、実は幼くして死んだ娘のために買ったものなの。」

「若くして死んだ娘?」

「えぇ。無事に成長していたらもう25歳。結婚して子どももいたはずなの……」
 「でもね」と夏都を見て、優しげな微笑みを浮かべる。
「こうやって、息子たちの共有花嫁として戻ってきてくれた。昨日までじっとしていられなくなったの」
 「和泉お母さん……」と言いかけるも、のど元まで来て呑み込んでしまう。

「なつちゃん、明日は式場を選びに行くわよ。今日は好きなもの食べなさい。」

「はい」
 ようやく夏都も心から笑えるようになった。

 共有花嫁は思ったより大変であった。
 夫たちを支えるのももちろん、どちらかの子どもを産むことにもなるだろう。

 式場選びから、親族たちへの顔合わせから挨拶まで。
 歓迎されないだろうと覚悟をしていたもののみんな優しく出迎えてくれたとてもありがたい。この出会いに感謝するべきだ。

 中には羨望の眼で見てくる人も少なからずいた。

 三兄弟のいとこであり、おそらく彼女も純粋な人間。

「きれい」とその少女は夏都を見つめた。
 そばかすだらけで背も低く美人というより愛嬌のある顔立ちだった。
 この少女こそが、のちに夏都の良き理解者・よき親友になることも本人たちは夢にも思っていないかった。

 明もようやく夏都にあえて嬉しそうだった。

「なつちゃん、よろしくね。」
 明は優しく夏都に微笑みかけた。
 娘の生まれ変わりに会える日をどれほど待ち望んだのだろう。

「はい。こちらこそよろしくお願いします。お義父さん。」
「お義父さんだなんて堅苦しい呼び方はやめて。パパでも好きに呼んでね。」

 夏都は笑顔で返した。

 ――――――
 女神一族の済む天界にて……。

 一人の女神が人間界を映し出す鏡を見ている。