スマートカードにお金をチャージして、ようやくやってきた青色のバスに乗る。
休日だったせいか車内は案外空いていて、わたしとともやくんは1番後ろの席に隣り合わせに座った。
バスがゆっくりと動き出し、窓の外を景色が流れていくのを見ると、見慣れているはずなのになぜだか全てに感動してしまい、わたしは思わず見惚れてしまった。
こうやって男の子とふたりで出かけるだなんて、はじめてのこと。
ましてや隣に座っているのがともやくん、ということにいまだに実感がわかなくて、なんだか心の中がソワソワしてしまい落ち着かない。
「今日は天気がよかったから、夕日も綺麗に見えると思う」
緊張でかたまってしまっていたわたしの耳に、ともやくんの声がさらりと流れてくる。
「ゆりなとの初デート、俺めちゃくちゃ楽しみにしてたんだよね」
続いた言葉に思わずドキッとしたけれど、窓から視線を外すとともやくんのほうを見た。
ともやくんの耳が真っ赤になっている。
「わたしもすごい楽しみだった。よかったちゃんと来れて」
「俺たち前、展望台で会ったことあったでしょ? あの時さ、絶対ゆりなと見にきたいって思ったんだよね」
たしかにそんなこともあったな・・・・・・とその時の光景が頭の中に思い浮かんできて、懐かしい気持ちになった。
だけど、あの時のわたしは自分のことで精一杯だったし、心に余裕だなんて全くなかった。
誰かに見られるということも、友だちと仲良くするのも、嫌われてしまうということも。
何もかも怖くて仕方がなかったし、自分から人というものを避け続けて、みんなとの間に大きな壁を作っていた。
だけど、今のわたしはちがう。
もう大丈夫だと思う。
だって、わたしにはともやくんがいるんだから。
そんなことをひとりで考えていると、目の奥がじんじんと熱くなってきて、わたしはもう1度窓の外に視線を飛ばした。
「あのさ、気にしてる? みなみのこと?」
「え、みなみ? 何を?」
みなみという響きにわたしはちょっとビクッとしてしまった。
もう気にしないようにしようって思っていたはずなのに、心の片隅でチクっとした痛みが走ってしまうのは、今もやっぱり意識していたのだろうか。
わたしとみなみの間では、もう今は何も起こっていないはずなのに。
「俺がさ、みなみから告白された時の話なんだけどさ。みなみってクラスでも目立つやつだったから、結構うわさにもなったじゃん? でも、俺あの時からゆりなのことが好きだったんだよね。ゆりなにもたくさん嫌な思いさせて、申し訳なかった・・・・・・」
『あの時からゆりなのことが好きだった』
そんな風にはっきりと言われると、なんだか自分が小さな子どもになったかのような気持ちになって、くすぐったくなってしまう。
こうやって改めて言葉として言われると、照れくさいけれど、やっぱり嬉しい。
「大丈夫、気にしてないよ。みなみも本気だったんだろうね、ともやくんのこと。好きな人を大切に想う気持ち、わたしにもわかるから」
「気にしてないよ」と言いながら、胸の奥の方が軽く波立つ。
本当はあの時かなり気にしていたし、焦っていたし、怖かったっていうのが本音。
思い出すだけでも涙が出てしまいそうになるし、ともやくんにわたしがずっとひとりで不安と闘っていた気持ちを話してしまいたくなるけれど、さすがに今はそれはだめだと思う。
だってわたしが勝手にみんなとの間に壁を作って関わらないようにしていたから、あんな風にギクシャクしてしまっただけ。
それに素直になれなかったのもわたしだと思う。
ともやくんは何も悪いことなんてしてないんだし、わたしとみなみとの関係には一切関わっていない。
それに今はこうやってわたしはともやくんとふたりで出かけることだってできているんだもん。
だから、これ以上余計なことを考えてもほしくもないから、ともやくんの前で泣いちゃだめだ。
わたしは頬の内側を噛んで窓の外に目線をやる。
気がつくと駅前の大通りを過ぎていて、交通量の少ない山道を走っていた。
この道を通るのはお母さんとドライブに行く時だけだったから、こうやってともやくんと一緒だということがなんだか不思議な気持ちになる。
「あのさ、俺、なんかうまくいかない人生だなって思ったりもしてたんだよね。だけど、これでよかったんだと思う」
ともやくんがわたしの右手にそっと手を添えて、やわらかな口調で言った。
わたしは咄嗟に、何を言えばいいのかわからなかった。
だけど、その言葉の意味はすごくわかるし、わたしもそうだと本当に思う。
ともやくんの手をぎゅっと握りしめると、さっきよりもっと強くわたしの手を握ってきて、思わずドキッとした。
「うん、わたしもそう思う。人生いろいろあるけれど、これでよかったと思うし、今すごく幸せになれたもん」
自然にこぼれた笑みと一緒に、素直な気持ちを返した。
今までずっと辛いことばかりだと思っていたし、学校も行きたくないって思っていた。
自分の人生、どうしてこんなにも苦しいことばかりなんだろうって悲観的にもなっていた。
だけど、今はこうやって生きているのが楽しいって思えるようになっている。
それはきっとともやくんがいてくれたから。
ずっとそばにいてくれたから。
少し前の弱かった自分なら、きっとこんな風に思うのは無理だったかもしれない。
わたし、変わることができたんだと思う。だからこれからも、もっと、もっと幸せになっていきたい。
「ともやくん、いつもありがとう。大好きだよ」
わたしはともやくんの肩にそっと頭を傾けて、小さな声で話しかけた。
休日だったせいか車内は案外空いていて、わたしとともやくんは1番後ろの席に隣り合わせに座った。
バスがゆっくりと動き出し、窓の外を景色が流れていくのを見ると、見慣れているはずなのになぜだか全てに感動してしまい、わたしは思わず見惚れてしまった。
こうやって男の子とふたりで出かけるだなんて、はじめてのこと。
ましてや隣に座っているのがともやくん、ということにいまだに実感がわかなくて、なんだか心の中がソワソワしてしまい落ち着かない。
「今日は天気がよかったから、夕日も綺麗に見えると思う」
緊張でかたまってしまっていたわたしの耳に、ともやくんの声がさらりと流れてくる。
「ゆりなとの初デート、俺めちゃくちゃ楽しみにしてたんだよね」
続いた言葉に思わずドキッとしたけれど、窓から視線を外すとともやくんのほうを見た。
ともやくんの耳が真っ赤になっている。
「わたしもすごい楽しみだった。よかったちゃんと来れて」
「俺たち前、展望台で会ったことあったでしょ? あの時さ、絶対ゆりなと見にきたいって思ったんだよね」
たしかにそんなこともあったな・・・・・・とその時の光景が頭の中に思い浮かんできて、懐かしい気持ちになった。
だけど、あの時のわたしは自分のことで精一杯だったし、心に余裕だなんて全くなかった。
誰かに見られるということも、友だちと仲良くするのも、嫌われてしまうということも。
何もかも怖くて仕方がなかったし、自分から人というものを避け続けて、みんなとの間に大きな壁を作っていた。
だけど、今のわたしはちがう。
もう大丈夫だと思う。
だって、わたしにはともやくんがいるんだから。
そんなことをひとりで考えていると、目の奥がじんじんと熱くなってきて、わたしはもう1度窓の外に視線を飛ばした。
「あのさ、気にしてる? みなみのこと?」
「え、みなみ? 何を?」
みなみという響きにわたしはちょっとビクッとしてしまった。
もう気にしないようにしようって思っていたはずなのに、心の片隅でチクっとした痛みが走ってしまうのは、今もやっぱり意識していたのだろうか。
わたしとみなみの間では、もう今は何も起こっていないはずなのに。
「俺がさ、みなみから告白された時の話なんだけどさ。みなみってクラスでも目立つやつだったから、結構うわさにもなったじゃん? でも、俺あの時からゆりなのことが好きだったんだよね。ゆりなにもたくさん嫌な思いさせて、申し訳なかった・・・・・・」
『あの時からゆりなのことが好きだった』
そんな風にはっきりと言われると、なんだか自分が小さな子どもになったかのような気持ちになって、くすぐったくなってしまう。
こうやって改めて言葉として言われると、照れくさいけれど、やっぱり嬉しい。
「大丈夫、気にしてないよ。みなみも本気だったんだろうね、ともやくんのこと。好きな人を大切に想う気持ち、わたしにもわかるから」
「気にしてないよ」と言いながら、胸の奥の方が軽く波立つ。
本当はあの時かなり気にしていたし、焦っていたし、怖かったっていうのが本音。
思い出すだけでも涙が出てしまいそうになるし、ともやくんにわたしがずっとひとりで不安と闘っていた気持ちを話してしまいたくなるけれど、さすがに今はそれはだめだと思う。
だってわたしが勝手にみんなとの間に壁を作って関わらないようにしていたから、あんな風にギクシャクしてしまっただけ。
それに素直になれなかったのもわたしだと思う。
ともやくんは何も悪いことなんてしてないんだし、わたしとみなみとの関係には一切関わっていない。
それに今はこうやってわたしはともやくんとふたりで出かけることだってできているんだもん。
だから、これ以上余計なことを考えてもほしくもないから、ともやくんの前で泣いちゃだめだ。
わたしは頬の内側を噛んで窓の外に目線をやる。
気がつくと駅前の大通りを過ぎていて、交通量の少ない山道を走っていた。
この道を通るのはお母さんとドライブに行く時だけだったから、こうやってともやくんと一緒だということがなんだか不思議な気持ちになる。
「あのさ、俺、なんかうまくいかない人生だなって思ったりもしてたんだよね。だけど、これでよかったんだと思う」
ともやくんがわたしの右手にそっと手を添えて、やわらかな口調で言った。
わたしは咄嗟に、何を言えばいいのかわからなかった。
だけど、その言葉の意味はすごくわかるし、わたしもそうだと本当に思う。
ともやくんの手をぎゅっと握りしめると、さっきよりもっと強くわたしの手を握ってきて、思わずドキッとした。
「うん、わたしもそう思う。人生いろいろあるけれど、これでよかったと思うし、今すごく幸せになれたもん」
自然にこぼれた笑みと一緒に、素直な気持ちを返した。
今までずっと辛いことばかりだと思っていたし、学校も行きたくないって思っていた。
自分の人生、どうしてこんなにも苦しいことばかりなんだろうって悲観的にもなっていた。
だけど、今はこうやって生きているのが楽しいって思えるようになっている。
それはきっとともやくんがいてくれたから。
ずっとそばにいてくれたから。
少し前の弱かった自分なら、きっとこんな風に思うのは無理だったかもしれない。
わたし、変わることができたんだと思う。だからこれからも、もっと、もっと幸せになっていきたい。
「ともやくん、いつもありがとう。大好きだよ」
わたしはともやくんの肩にそっと頭を傾けて、小さな声で話しかけた。