図書館でともやくんに泣きながら想いを伝えた日の翌日からずっと、わたしはひとり、家に引きこもってパズルを完成させた。
ゆうくんに言われたとおり自分の想いをきちんと伝えられてよかったって、そう何度も自分に言い聞かせていたはずなのに・・・・・・。
あれはわたしの本当の気持ちではなくて。
だから心の中はもっとぐちゃぐちゃになってしまったし、今まで以上にともやくんのことを考える時間が増えたような気がしていた。
そんなの矛盾しているって思ったし、なんて身勝手なんだろうって思うと、そんな自分のことがさらに大嫌いにもなったし嫌気がさすようにもなった。
だけど、突然あんなにひどいことを言ったにも関わらず、ともやくんは怒ることもなかったし責めてくることもなくて、あの時も最後までいつもどおりの優しいまま。
優しすぎるんじゃないかって思うくらいだった。
でもそんな風にともやくんのことで悩んだりするのも、今日で終わりだと思う。
今日という卒業式が終わったら、わたしたちは2度と顔を合わせることもないし、話すこともないんじゃないかな。
そんなことを霞んでいく頭の中で考えながら、わたしは頬杖をついて外の景色をぼんやりと見つめていた。
ひらひらと、風に乗って枯れ葉が舞い落ちていく。
「ゆりな、ちょっと話があるんだけど今大丈夫?」
図書室での出来事があって以来、全く話さなくなっていたともやくんがなんだか真剣そうな表情でわたしの方に近づいてきたので、思わず姿勢をただした。
「うん。大丈夫。どうしたの?」
「あのさ、俺、今まで迷惑だったかな? ゆりなにとって。なんか嫌われちゃったかな、とか思って・・・・・・」
口を濁すようにして言うともやくんは目を伏せていて、わたしと顔を合わせようとしない。
「そんなことないよ、全然迷惑じゃない。嫌いなわけないじゃん。この前はわたしが言いすぎた。本当にごめん」
「よかった・・・・・・。なんか俺すごい気になっててさ。ゆりなに悪かったなって」
ありえなかった。ともやくんが迷惑だってことも、嫌いだってことも。
だけど、わたしの態度でともやくんがそんな風に考えてしまうのも無理はないかもしれないって思うと、すごく申し訳なく思うし自分のせいだっても思って、まともに顔すらあげることができない。
「あ、あのね。わたし、自分のことが本当に大嫌いだったの。小さい頃からずっと。みんなとも仲良くなれないし、普通に学校生活送れないし、すぐに迷惑ばかりかけちゃうし。それに自信もなくて、ともやくんともどう接していいのかわからなくて。ただそれだけで、本当に嫌いとか、そんなのは全然ないから」
自分でもわからない。
どうしてこんなにも必死なのか。
だけど、今日で本当にともやくんともお別れだと思うと、どうしても本当の自分の想いを伝えておきたくて、勝手に言葉が口からすべり落ちてきてしまう。
どうしてこんなにも自分は一生懸命になっているんだろうって思うと、なんだか急に恥ずかしくなったわたしは慌てて視線を足元に逸らした。
「あの日、橋の上で話しかけてくれたの覚えてる?」
わたしは頭の中の記憶をたぐい寄せて、”あの日”というのを思い出してみる。
たしかにそんなこともあったかもしれない。ずいぶんと前の話だけれど。
「あの日さ、俺ゆりなが話しかけてくれなかったら死のうって思ってたんだよね。すごい追い詰められてて。でもそこにゆりなが通りかかって。だから俺、今生きてるんだよね」
遠くを見つめたまま話すともやくんは、なんだか今にも消えてしまいそうなくらい弱々しく見えて。
「だから俺、ゆりなに感謝してるし、次は俺がゆりなの支えになりたいって思ってる」
ともやくんの言葉はあまりにもまっすぐで、ためらいがなくて、芯が通っていて。
わたしは頭の中でともやくんの言葉をかみ砕いて、その意味を理解するのに時間がかかった。
え、それって・・・・・・。
「俺はゆりなのことが好きだった。ずっと気になっていたんだ。だけど、なかなか伝えることができなくて。でも、これからも一緒にいたい」
ともやくんは潤んでいるわたしの目から視線を外すことなく、言葉を続けた。
耳たぶが赤くなっているから、きっとともやくんも照れくささを必死に抑えているのかもしれない。
そんな姿を見ているとわたしまで一気に恥ずかしくなってきてしまい、顔が赤くなっていくのがわかった。
だけど、あまりにも突然すぎる告白だったから、どのような反応をしていいのわからなくて、すぐに言葉が何も出てこない。
だって、誰かに「好き」だなんて人生で1度も言われたことなんてないんだから。
それに、今、わたしにその言葉を伝えてくれたのは、わたしがずっと想い続けていたともやくん。
気がつくとわたしの頬には一筋の光がゆっくりと流れていった。
「わたしも。わたしもともやくんのことがずっと好きだった。これからも一緒にいたいし、たくさん思い出作っていきたい」
わたしの声は自分でもどうしようもないくらい震えていたけれど、ともやくんが「よかった」ってゆっくり微笑んだのを見ると、自然と笑みがこぼれた。
よかった。本当によかった。わたしの想いをやっと伝えることができた。
ともやくんがアディダスのハンカチを貸してくれたから、わたしはそのハンカチで目元をそっとおさえた。
わたし、今、すごく幸せ。本当に幸せ。
キーンコーンカーンコーンーーー。
真っ赤なお互いの顔を見合わせて笑っているとチャイムが鳴ったけれど、わたしは「今はお願いだから鳴らないでよ」って心の奥で大きくさけんだ。
もう2度とともやくんとは離れたくなかった。
ゆうくんに言われたとおり自分の想いをきちんと伝えられてよかったって、そう何度も自分に言い聞かせていたはずなのに・・・・・・。
あれはわたしの本当の気持ちではなくて。
だから心の中はもっとぐちゃぐちゃになってしまったし、今まで以上にともやくんのことを考える時間が増えたような気がしていた。
そんなの矛盾しているって思ったし、なんて身勝手なんだろうって思うと、そんな自分のことがさらに大嫌いにもなったし嫌気がさすようにもなった。
だけど、突然あんなにひどいことを言ったにも関わらず、ともやくんは怒ることもなかったし責めてくることもなくて、あの時も最後までいつもどおりの優しいまま。
優しすぎるんじゃないかって思うくらいだった。
でもそんな風にともやくんのことで悩んだりするのも、今日で終わりだと思う。
今日という卒業式が終わったら、わたしたちは2度と顔を合わせることもないし、話すこともないんじゃないかな。
そんなことを霞んでいく頭の中で考えながら、わたしは頬杖をついて外の景色をぼんやりと見つめていた。
ひらひらと、風に乗って枯れ葉が舞い落ちていく。
「ゆりな、ちょっと話があるんだけど今大丈夫?」
図書室での出来事があって以来、全く話さなくなっていたともやくんがなんだか真剣そうな表情でわたしの方に近づいてきたので、思わず姿勢をただした。
「うん。大丈夫。どうしたの?」
「あのさ、俺、今まで迷惑だったかな? ゆりなにとって。なんか嫌われちゃったかな、とか思って・・・・・・」
口を濁すようにして言うともやくんは目を伏せていて、わたしと顔を合わせようとしない。
「そんなことないよ、全然迷惑じゃない。嫌いなわけないじゃん。この前はわたしが言いすぎた。本当にごめん」
「よかった・・・・・・。なんか俺すごい気になっててさ。ゆりなに悪かったなって」
ありえなかった。ともやくんが迷惑だってことも、嫌いだってことも。
だけど、わたしの態度でともやくんがそんな風に考えてしまうのも無理はないかもしれないって思うと、すごく申し訳なく思うし自分のせいだっても思って、まともに顔すらあげることができない。
「あ、あのね。わたし、自分のことが本当に大嫌いだったの。小さい頃からずっと。みんなとも仲良くなれないし、普通に学校生活送れないし、すぐに迷惑ばかりかけちゃうし。それに自信もなくて、ともやくんともどう接していいのかわからなくて。ただそれだけで、本当に嫌いとか、そんなのは全然ないから」
自分でもわからない。
どうしてこんなにも必死なのか。
だけど、今日で本当にともやくんともお別れだと思うと、どうしても本当の自分の想いを伝えておきたくて、勝手に言葉が口からすべり落ちてきてしまう。
どうしてこんなにも自分は一生懸命になっているんだろうって思うと、なんだか急に恥ずかしくなったわたしは慌てて視線を足元に逸らした。
「あの日、橋の上で話しかけてくれたの覚えてる?」
わたしは頭の中の記憶をたぐい寄せて、”あの日”というのを思い出してみる。
たしかにそんなこともあったかもしれない。ずいぶんと前の話だけれど。
「あの日さ、俺ゆりなが話しかけてくれなかったら死のうって思ってたんだよね。すごい追い詰められてて。でもそこにゆりなが通りかかって。だから俺、今生きてるんだよね」
遠くを見つめたまま話すともやくんは、なんだか今にも消えてしまいそうなくらい弱々しく見えて。
「だから俺、ゆりなに感謝してるし、次は俺がゆりなの支えになりたいって思ってる」
ともやくんの言葉はあまりにもまっすぐで、ためらいがなくて、芯が通っていて。
わたしは頭の中でともやくんの言葉をかみ砕いて、その意味を理解するのに時間がかかった。
え、それって・・・・・・。
「俺はゆりなのことが好きだった。ずっと気になっていたんだ。だけど、なかなか伝えることができなくて。でも、これからも一緒にいたい」
ともやくんは潤んでいるわたしの目から視線を外すことなく、言葉を続けた。
耳たぶが赤くなっているから、きっとともやくんも照れくささを必死に抑えているのかもしれない。
そんな姿を見ているとわたしまで一気に恥ずかしくなってきてしまい、顔が赤くなっていくのがわかった。
だけど、あまりにも突然すぎる告白だったから、どのような反応をしていいのわからなくて、すぐに言葉が何も出てこない。
だって、誰かに「好き」だなんて人生で1度も言われたことなんてないんだから。
それに、今、わたしにその言葉を伝えてくれたのは、わたしがずっと想い続けていたともやくん。
気がつくとわたしの頬には一筋の光がゆっくりと流れていった。
「わたしも。わたしもともやくんのことがずっと好きだった。これからも一緒にいたいし、たくさん思い出作っていきたい」
わたしの声は自分でもどうしようもないくらい震えていたけれど、ともやくんが「よかった」ってゆっくり微笑んだのを見ると、自然と笑みがこぼれた。
よかった。本当によかった。わたしの想いをやっと伝えることができた。
ともやくんがアディダスのハンカチを貸してくれたから、わたしはそのハンカチで目元をそっとおさえた。
わたし、今、すごく幸せ。本当に幸せ。
キーンコーンカーンコーンーーー。
真っ赤なお互いの顔を見合わせて笑っているとチャイムが鳴ったけれど、わたしは「今はお願いだから鳴らないでよ」って心の奥で大きくさけんだ。
もう2度とともやくんとは離れたくなかった。