今日は土曜日で学校もおやすみ。
部活動に入っていないわたしは土日になるとバイトくらいしか予定がないけれど、今日はそのバイトさえなくて1日中時間を持て余していた。
水道管の工事をするからお店はおやすみにする、とこの前ゆうくんにさちえさんが話しているのをたまたま耳にしたから、きっとそういうこのなのだろう。
だからわたしは朝からソファに寝転んで、この前買ってきた漫画を読みながら時間を潰すことくらいしかすることがなかった。
すでにこの漫画を読むのは3回目だけれど、毎回笑いながら読むことができるわたしは、かなり安上がりな人間なんだと思う。
テレビ台に置いてある時計を見るとすでに夕方の4時をまわっていて、本当に1日中だらけていた自分に少しうんざりしてしまった。
「ゆりな、ずっと家の中にいると退屈するでしょ? お母さんとちょっと出かけない?」
お母さんも今日は仕事がおやすみだから家にはずっといたけれど、わたしと違って朝からパソコンに向かって会議の資料作りをしていた。
だけど、どうやら仕事がひと段落ついたらしくパソコンをバックの中に片付けながら、少し疲れた表情を浮かべて話しかけてきた。
「どっちでもいいけど。お母さんも疲れてるでしょ? 無理にはいいよ」
「お母さんのことは気にしない。全然大丈夫だから。だからもう夕方になっちゃったけど、今からドライブにでも行こうか」
そんなわけで、急いでジャージから紺色のワンピースに着替えて、ボサボサだった髪も結んで、今日夕方にしてはじめて身支度を整えた。
外に出かける予定がないと着替えることすらなくて、1日中ジャージで過ごすことが当たり前になっているだなんて、たまに将来が自分でも不安になってしまう。
これこそ、干もの女子ってやつになりそうで。
ふたりの準備が終わって車に乗り込むと、お母さんがいつものCDを流してくれた。
小さい頃にハマっていたアニメの主題歌が入っている、お気に入りのCDアルバム。
ドライブに行く時には必ずこのCDを聴くということが、わたしとお母さんの中では定番になっていて、今では全曲完璧に歌えてしまうくらい。
「ゆりな行きたいところある? ないならお母さんに付き合ってほしい場所があるんだけど」
当てもなく家を出たつもりだったけれど、どうやらお母さんはすでに行き先を決めているらしかった。
わたしは「いいよ」とだけ短く答えると、窓の外をぼんやりと眺めた。
住宅街を抜けて大通りに出ると、部活動帰りの高校生が横に広がって歩いている姿が目に入り、思わず身体が小さく縮こまった。
何も悪いことなどしていないはずなのに、誰にも見つかりたくなくて自然とそうなってしまうのだから仕方がない。
同じ学生に対するアレルギー反応が出たみたいに、全身で拒絶してしまう。
車が横断歩道の前で信号に引っかかり、歩行者がわたり始めたのを見て「あ」と小さな声が出た。
部活帰りのともやくん。
大きなバックを肩から下げて、首にはタオルを巻いているともやくんの姿は、普段学校で見るよりも清々しく見えてかっこいい。
あまり見ないようにしなくちゃと思っていたけれど、わたしの目は自然とともやくんを追っていた。
「あの子、友だちなの? ずいぶんと気になってるみたいね」
お母さんは少しイタズラっぽく笑いかけながら、わたしの方を見た。
家では学校の話も、友だちの話も話題になることはないから、お母さんはわたしの交友関係を知らない。
話したところでお母さんは心配したり、動揺したりするかもしれないし、最悪学校に連絡してしまうかもしれない。
「うちの子どもが学校でいじめられています」と。
もしそんなことをされたとしても、今の状況がよくなるなんて全く思えなかったし、むしろさらにめんどくさいことになる気がした。
もちろんお母さんもなんとなく今の状況を察してはいるみたいだったけれど、わたしがそのことについて触れてほしくない、と思っていることをうっすらと感じとっているみたいで、あえて聞き出してはこない。
よくもならないけれど、悪化することもない。
状況が変わることのない今のままの方が、1番安全な気がしていた。
「クラスの友だち。頭いいんだよ」
本当はともやくんが誰よりも優しいことも、本当は少し気になっていることも、頼り甲斐があることも。
全部お母さんに紹介したかったけれど、なんだか恥ずかしくなってしまい言葉としては口から何も出てこなかった。
「友だちは大切にしなさいね」
お母さんもともやくんが横断歩道を渡り切るのを目で追いながら、優しい口調で言った。
車はゆっくりと動き出して、車内には小さい頃よく聴いていた懐かしい音楽が流れ、わたしは静かに目をつぶった。
きっと、ともやくんとわたしなんかが仲良くなっても、迷惑しかかけないと思う。
少しずつ自分の中で大きな存在になってきているともやくんのことを考えると、胸がぎゅーっと締め付けられたようになって息が詰まってしまう。
部活動に入っていないわたしは土日になるとバイトくらいしか予定がないけれど、今日はそのバイトさえなくて1日中時間を持て余していた。
水道管の工事をするからお店はおやすみにする、とこの前ゆうくんにさちえさんが話しているのをたまたま耳にしたから、きっとそういうこのなのだろう。
だからわたしは朝からソファに寝転んで、この前買ってきた漫画を読みながら時間を潰すことくらいしかすることがなかった。
すでにこの漫画を読むのは3回目だけれど、毎回笑いながら読むことができるわたしは、かなり安上がりな人間なんだと思う。
テレビ台に置いてある時計を見るとすでに夕方の4時をまわっていて、本当に1日中だらけていた自分に少しうんざりしてしまった。
「ゆりな、ずっと家の中にいると退屈するでしょ? お母さんとちょっと出かけない?」
お母さんも今日は仕事がおやすみだから家にはずっといたけれど、わたしと違って朝からパソコンに向かって会議の資料作りをしていた。
だけど、どうやら仕事がひと段落ついたらしくパソコンをバックの中に片付けながら、少し疲れた表情を浮かべて話しかけてきた。
「どっちでもいいけど。お母さんも疲れてるでしょ? 無理にはいいよ」
「お母さんのことは気にしない。全然大丈夫だから。だからもう夕方になっちゃったけど、今からドライブにでも行こうか」
そんなわけで、急いでジャージから紺色のワンピースに着替えて、ボサボサだった髪も結んで、今日夕方にしてはじめて身支度を整えた。
外に出かける予定がないと着替えることすらなくて、1日中ジャージで過ごすことが当たり前になっているだなんて、たまに将来が自分でも不安になってしまう。
これこそ、干もの女子ってやつになりそうで。
ふたりの準備が終わって車に乗り込むと、お母さんがいつものCDを流してくれた。
小さい頃にハマっていたアニメの主題歌が入っている、お気に入りのCDアルバム。
ドライブに行く時には必ずこのCDを聴くということが、わたしとお母さんの中では定番になっていて、今では全曲完璧に歌えてしまうくらい。
「ゆりな行きたいところある? ないならお母さんに付き合ってほしい場所があるんだけど」
当てもなく家を出たつもりだったけれど、どうやらお母さんはすでに行き先を決めているらしかった。
わたしは「いいよ」とだけ短く答えると、窓の外をぼんやりと眺めた。
住宅街を抜けて大通りに出ると、部活動帰りの高校生が横に広がって歩いている姿が目に入り、思わず身体が小さく縮こまった。
何も悪いことなどしていないはずなのに、誰にも見つかりたくなくて自然とそうなってしまうのだから仕方がない。
同じ学生に対するアレルギー反応が出たみたいに、全身で拒絶してしまう。
車が横断歩道の前で信号に引っかかり、歩行者がわたり始めたのを見て「あ」と小さな声が出た。
部活帰りのともやくん。
大きなバックを肩から下げて、首にはタオルを巻いているともやくんの姿は、普段学校で見るよりも清々しく見えてかっこいい。
あまり見ないようにしなくちゃと思っていたけれど、わたしの目は自然とともやくんを追っていた。
「あの子、友だちなの? ずいぶんと気になってるみたいね」
お母さんは少しイタズラっぽく笑いかけながら、わたしの方を見た。
家では学校の話も、友だちの話も話題になることはないから、お母さんはわたしの交友関係を知らない。
話したところでお母さんは心配したり、動揺したりするかもしれないし、最悪学校に連絡してしまうかもしれない。
「うちの子どもが学校でいじめられています」と。
もしそんなことをされたとしても、今の状況がよくなるなんて全く思えなかったし、むしろさらにめんどくさいことになる気がした。
もちろんお母さんもなんとなく今の状況を察してはいるみたいだったけれど、わたしがそのことについて触れてほしくない、と思っていることをうっすらと感じとっているみたいで、あえて聞き出してはこない。
よくもならないけれど、悪化することもない。
状況が変わることのない今のままの方が、1番安全な気がしていた。
「クラスの友だち。頭いいんだよ」
本当はともやくんが誰よりも優しいことも、本当は少し気になっていることも、頼り甲斐があることも。
全部お母さんに紹介したかったけれど、なんだか恥ずかしくなってしまい言葉としては口から何も出てこなかった。
「友だちは大切にしなさいね」
お母さんもともやくんが横断歩道を渡り切るのを目で追いながら、優しい口調で言った。
車はゆっくりと動き出して、車内には小さい頃よく聴いていた懐かしい音楽が流れ、わたしは静かに目をつぶった。
きっと、ともやくんとわたしなんかが仲良くなっても、迷惑しかかけないと思う。
少しずつ自分の中で大きな存在になってきているともやくんのことを考えると、胸がぎゅーっと締め付けられたようになって息が詰まってしまう。