五分ほどの飛行で現場にたどり着いた。
【竜翼】を解除し、着地する。

「うわぁぁぁぁぁっ……!」

 村の人たちの悲鳴が響いていた。

 恐怖に顔をゆがめ、逃げ惑う人々。

 ごおおおおおおおおっ……!

 村の家々が焼かれていく。

 次々と吹き飛ばされていく。

 このままじゃ、村一つが全部焼け野原になってしまう――。

 村を襲っているのは、おおよそ三十体を超える魔族だった。

 人間型の個体が三体。
 残りの三十体近くは体長十メートル近い獣の姿をしている。
 奴らが放つ火炎や稲妻が村を焼き、人々を吹き飛ばす。

「くっ……!」

 どうする――。

 一瞬の間に、俺の思考はめまぐるしく回った。

 さっきの『魔竜王の力』を使えば、魔族たちを撃退できるかもしれない。
 いくら魔族が強いとはいえ、俺が受け継いだ力は圧倒的だ。

 なにせ『魔竜王』だからな。

 昔、神々と互角以上に渡り合ったという最強の竜。
 並の魔族なんて、きっと瞬殺だろう。

 けれど、そうすれば俺の存在は知れ渡るだろう。
 国レベルで知られた場合、俺の力が『何に由来するものなのか』がバレるかもしれない。

 ……いや、現在の魔王軍との戦闘状況だと、魔族に対抗できる力というものは貴重である。

 きっと国直属の魔法解析グループが派遣され、俺の力はバレるだろう。

 あの『魔竜王』の力を継ぐ者――。

 そう認定された場合、俺はどういう扱いを受けるのか。

 世界の敵として糾弾されるのか。
 戦時中だから、とりあえずは対魔族戦力として扱われるのか。

 後者だとしても、魔族との戦争が終わった後で、世界の敵として追われるかもしれない。

 何よりも――。

 この力を使うことに対して、嫌な予感がひっきりなしに湧き上がってくる。
『魔竜王の力』の行使とは、踏み越えてはいけないラインなんじゃないか、って。

 さっき暴漢たちに使ったケースとは違う。
 ここには大勢の目撃者がいる。

 だから――使うべきじゃない。

 力を、隠せ。

 本能のすべてが全力で警告を送ってくる。



「……何を迷ってるんだ、俺は!」



 自分に腹が立った。

 たぶん数秒だろうけど、それでも躊躇してしまった。

 他者を救える力があるなら、使う。
 その後のことは、その後考える!

 苦しんでいる人たちがいるのに……それを守るための力があるのに、躊躇するなんてどうかしていた。
 自分が恥ずかしい。

 だからこそ、そんな自分を払拭するためにも。

 そして何よりも、目の前で苦しめられている人たちを救うために。

 俺が、戦う――!

「みんな、下がっていてくれ」

 そう宣言して、俺は前に進み出た。

「えっ、ゼル……?」

 ソフィアは目を丸くした。

「ち、ちょっと、まさか戦う気!? あれ、魔族だよ」
「だろうな」
「めちゃくちゃ強そうだよ。怖いよ」
「けど、このままじゃ村が滅茶苦茶にされる」

 俺はソフィアに言った。

「とりあえず、時間稼ぎだけでもしてみる」

 ……でも、別に倒してしまっても構わないよな?

 俺は自分自身に語り掛けつつ、集中力を高めた。

 ふう、ふう、と呼吸を整える。
 脳内でイメージを固めていく。

 そう、魔法において重要な三つの要素――『集中力』『呼吸』『イメージ』だ。
 そして、最後にもっとも重要な――『魔力』。

 才能のない俺には持ち合わせていない、異能の力。

「だけど――今は違う」

 ごうっ……!

 俺の全身から黄金のオーラが立ち上った。

 分かる。
 分かるぞ。

 俺の中に宿る――魔力が。

 竜の、魔力が。

「来い――」

 俺は呼びかける。

 自らの力の、精髄を。

 その一つを。



「――【竜爪槍(ゼレイド)】」



 しゅんっ。

 前方に出現したのは長大な――五メートルほどの騎乗槍(ランス)だった。
 竜の爪を槍の形に作り替えたものだ。

「【穿て】」

 ありったけの魔力を込め、告げる。

 同時に、竜爪槍が螺旋状に回転しながら飛んでいく。



 しゅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ……!



 魔力をまとった風圧が、三十体をまとめて貫き、その後に跡形もなく消滅させた。

 すさまじい――まさに、すさまじいの一言。

 竜爪槍が生み出す破壊空間の前には、何人たりとも原形をとどめることさえ許されない。

「魔竜王の力、か……」

 俺はゾッとしながらつぶやいた。



「ゼル、あなた、その力――」

 ソフィアが呆然とした顔で俺を見つめている。

 他の村人たちも同じだ。
 彼らの表情に浮かぶのは、畏怖。

 そして――もしかしたら、そこには『恐怖』も混じっているんだろうか?

 ごくり。

 俺は息を飲んだ。

 ……だとしても、後悔はしていない。

 だって、ソフィアやみんなを守ることができたんだから。
 ただ、いちおう口止めくらいはしておいた方がいいか――。

「すっっっっっっごーーーーーーーーーーーーーーーーい!」

 ソフィアは顔を赤くして絶叫した。

「すげぇぇぇぇぇぇっ!」
「なんだよ、今の!」
「一撃だぞ、一撃!」
「かっこいいです!」
「素敵~!」

 ソフィアたちは歓声を上げていた。

 ん、なんだ?

 魔竜王どうこうより、なんか俺……英雄扱い?