「魔竜王の力を感じる――」
空の果てに声が響く。
ここは神と天使たちが住まう世界――『天界』。
「かつて我らが封じた最悪の竜……その力を継ぐ者が地上に現れた」
「ならば、天界の総力を挙げて討つべき」
「異論なし」
「異論なし」
「異論なし」
神々は異口同音にそう言った。
天界の総意は『魔竜王討伐』ということで満場一致――。
……と思われた、そのとき、
「ちょっと待ってください」
ひょこっと手を上げたのは、小柄な少女だった。
赤い髪を長く伸ばし、ニコニコと明るい笑顔。
威厳も何もない、ふわっとした雰囲気の美少女だが、これでも女神である。
名は――正義の女神アストライア。
「魔竜王の力を継ぐ者が邪悪とは限らないのでは?」
「異なことを」
「邪悪に決まっておろう」
「悠長なことをしていては、奴はさらに力をつける」
「神々すべてを敵に回し、互角以上に渡り合ったあの魔竜王と同等の力を発揮するかもしれんのだぞ」
「そいつが善か悪かなどと、論じている暇はないのだ」
「もし悪なら――世界そのものが終わる危険性すらある」
「善であろうと悪であろうと、まだ完全ではないうちに潰すべき」
「そうだ、討つべきだ」
「そうだ、殺すべきだ」
神々がいっせいに叫ぶ。
だが、彼女は譲らなかった。
「では、このあたし――女神アストライアが彼を判定してきましょう。それでいいですか?」
「――いいだろう」
主神はうなずいた。
「では、さっそく……ふふ、下界を観光できるなんて何千年ぶりかしら」
「……観光ではないぞ。偵察だ。そして場合によっては、かの者を抹殺せよ」
「はーい。あ、お土産は何がいいですか?」
「だから観光じゃないっちゅーに」
こうして、アストライアは下界に赴く。
その先に待っているのは、魔竜王の力を継ぐ者――ゼル・スタークとの邂逅。
そして、物語は続く――。
【とりあえず一区切り・完】
(グラスト大賞応募用・注釈)
続きがある場合は、アストライアをはじめとした神々とゼル、魔竜王との因縁、プリムの『聖女機関』絡みや、ゼルと実家のその後のかかわり、バーンレイド帝国の逆襲……みたいなエピソードが色々出てくる感じです。