一通りの訓練を終え――、
「コンビネーションすごいな、お前たち」
俺は感心していた。
まさに一糸乱れぬ動きってやつだ。
ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。
彼らの目が三回光った。
「ん、三回の場合はなんだ?」
首をかしげる俺。
竜牙兵たちは何やら手足をわちゃわちゃ動かしている。
「うーん……イマイチ分からないな。もうちょっとヒントをくれ」
竜牙兵たちはいっせいに顎に手を当て、考えるようなポーズ。
迷っている、というジェスチャーだろうか。
しばらくして一部の竜牙兵が、
ぴょーん、ぴょーん。
飛び跳ね始めた。
「ん、なんだ?」
ぴょーん、ぴょーん。
軽やかに跳んでいる。
「なんだろう……?」
ぴょーん、ぴょーん。
なんだか楽しそうに見えてきた。
「楽しそう……いや、そうか。楽しいってことか!」
ヴンッ。
彼らの目が一度光った。
今のは『イエス』という意味なんだろう。
「ありがとう、けっこう意思疎通できるな」
なんだか嬉しくなってきた。
ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。
竜牙兵たちの目がいっせいに三回光る。
そっか、彼らも嬉しいんだ。
そうやってしばらく訓練していると――、
「あら、こんなところにいらしたんですね」
やって来たのはプリムだった。
「これは――『竜牙兵』ですか? 文献で見たことがあります」
「ああ、竜魔法の中にこいつを作る術式を見つけたんだ」
と、説明する俺。
「これって『竜の牙』を用いて兵士を生み出す呪法でしょう? ゼルさん、竜の牙なんて生えてるんですか?」
「いや、生えてないよ……って顔近っ!?」
「つい興味が」
プリムは俺の間近にまで顔を接近させていた。
じーっと俺の口の辺りを見つめている。
「ほ、ほら、ないだろ」
口を開けて歯を見せてみた。
「……ないです」
プリムは納得した様子だ。
「すみません、口の中を見たりして」
「いいけど、意外と好奇心旺盛なタイプなのか、プリムって」
「です」
プリムが微笑んだ。
それから、ふいに彼女が顔を赤らめた。
「あ……顔近かったですね、す、すみません……っ」
言われてみれば、彼女が俺の顔を覗きこむ格好のため、かなりの至近距離だ。
言われたことで、俺もつい意識してしまう。
あらためて見るまでもなく、プリムって超絶美少女だよな……。
「く、唇を奪われてしまいそうなほど近いです」
いや、奪わないから……。
「どきどきしました」
「えっ」
「い、いえ、なんでも……っ」
プリムは慌てたように両手を振る。
その顔はさっきにも増して赤くなっていた。
竜牙兵の訓練を終え、俺は自宅に戻った。
ちなみに竜牙兵は待機状態で近くの洞窟に入れてある。
竜牙兵の機能の一つに『オン・オフ』というものがあり、マスターである俺が『オフ』状態に設定すると、人間でいう睡眠状態みたいになって動かなくなるのだ。
その間、少しずつ彼らの動力である魔力が自然回復していくので、エネルギーチャージという面でも『オフ』状態にするのは大事である。
ま、人間の睡眠と一緒だな。
で、自宅到着。
「おつかれさま、ゼル」
「おー、今まで訓練してたのか」
家の前にはソフィアと傭兵のエレーンさんがいた。
「どうも」
「村のために色々ありがと」
ソフィアが俺に駆け寄ってきて、タオルを渡した。
「少し汗かいてるんじゃない? あ、今から飲み物用意するからね」
「ありがとう」
「ははは、かいがいしいねぇ」
エレーンさんが俺たちを見て笑った。
「恋する乙女ってのは初々しくていいよ。うん」
「えっ、恋する乙女?」
「ち、ちょちょちょちょちょちょちょっと、エレーンさんっっっ!」
ソフィアが顔を真っ赤にして叫んだ。
「それは内緒ですから!」
「ん、なんだ? バレバレだろう」
「少なくともゼルにはバレてないはずです」
「んー……まあ、鈍感そうだしなぁ」
「???」
ジト目でこっちを見る二人に、俺はハテナ顔だった。
「そうだ、あたしからも差し入れ」
エレーンさんが飲み物の入ったコップを差し出した。
村の名産であるニンジンをジュースにしたものだ。
「ほら、どうぞ」
「ありがとう、エレーンさん」
受け取って、一口。
うん、美味い。
素材の味がよく出ていて、全身に染みわたるような美味しさだった。
「さっきまで井戸で冷やしておいたんだよ。あたしにできるのは、これくらいだからね」
「そんなことないですよ。自警団の仕事以外にも役場の仕事とか、色々手伝ってくれてるんでしょう?」
俺は彼女に微笑んだ。
「みんな、それぞれできることをやってる。それでいいと思いますよ」
「だな。あたしも自分にやれることをやるさ」
と、エレーンさん。
そう、みんな自分のできることを精一杯やっている。
だから、この村は発展し続けているんだ――。
俺が村に来た頃は、特になんていうこともない平凡で平穏な村だった。
同時に、村の周辺に出るモンスターや、時折現れる魔族などに苦しめられていた。
また貧困にも苦しんでいた。
けれど、俺の竜魔法によって魔族やモンスターの襲来は事前に防げるようになったし、仮に侵入されても俺を中心に迎撃する体制が整った。
村の貧困問題もチート農作物を開発したり、それに付随する経済効果で一気に改善した。
そんなことが続くうちに、村の人たちも、自分たちの環境をよりよくしたいという意識が強くなっていったんだと思う。
実際、村のインフラもだいぶ充実してきた。
川から引っ張ってきた水をもとにした上下水道。
主要な通り道は石畳で舗装し、定期的に馬車を運航して交通網を整備。
さらに村の各所には他の都市との手紙や魔導通信などの連絡手段を構築してある。
その根幹になるのが、俺の竜魔法である。
今日はその竜魔法によるインフラ整備が正常に稼働しているかを、チェックして回っていた。
特に上下水道を入念にチェックしている。
と、
「毎日忙しいですね、ゼルさんは」
プリムがやって来た。
「まあ、竜魔法関係は俺しか扱えないからな……タスクが多くなるのは、ある程度しょうがないさ」
苦笑する俺。
「そういえばプリムは『聖女機関』に戻らなくてもいいのか?」
ふと思って、たずねてみた。
「この村に来てから、けっこう長いだろ」
もともと彼女は、『魔竜王の力を継ぐ者』がこの村に現れたと感じて、やって来たのだ。
俺のことを世界の敵だと認定するか否か――もし彼女がそう認定していたら、今ごろ俺はどうなっていただろうか。
……『聖女機関』の攻撃を受けていたかもしれない。
そう考えるとゾッとするな。
「私はあなたの監視役ですので。今後も引き続き」
プリムが微笑む。
「村に滞在して任務をこなします……といっても、実質的には村で楽しく過ごしているだけなんですけどね」
と、その笑みが悪戯っぽいものに変わる。
「あなたが世界の敵になるとは思えませんもの」
「じゃあ、今後ともよろしく」
俺はにっこり笑った。
「コンビネーションすごいな、お前たち」
俺は感心していた。
まさに一糸乱れぬ動きってやつだ。
ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。
彼らの目が三回光った。
「ん、三回の場合はなんだ?」
首をかしげる俺。
竜牙兵たちは何やら手足をわちゃわちゃ動かしている。
「うーん……イマイチ分からないな。もうちょっとヒントをくれ」
竜牙兵たちはいっせいに顎に手を当て、考えるようなポーズ。
迷っている、というジェスチャーだろうか。
しばらくして一部の竜牙兵が、
ぴょーん、ぴょーん。
飛び跳ね始めた。
「ん、なんだ?」
ぴょーん、ぴょーん。
軽やかに跳んでいる。
「なんだろう……?」
ぴょーん、ぴょーん。
なんだか楽しそうに見えてきた。
「楽しそう……いや、そうか。楽しいってことか!」
ヴンッ。
彼らの目が一度光った。
今のは『イエス』という意味なんだろう。
「ありがとう、けっこう意思疎通できるな」
なんだか嬉しくなってきた。
ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。
竜牙兵たちの目がいっせいに三回光る。
そっか、彼らも嬉しいんだ。
そうやってしばらく訓練していると――、
「あら、こんなところにいらしたんですね」
やって来たのはプリムだった。
「これは――『竜牙兵』ですか? 文献で見たことがあります」
「ああ、竜魔法の中にこいつを作る術式を見つけたんだ」
と、説明する俺。
「これって『竜の牙』を用いて兵士を生み出す呪法でしょう? ゼルさん、竜の牙なんて生えてるんですか?」
「いや、生えてないよ……って顔近っ!?」
「つい興味が」
プリムは俺の間近にまで顔を接近させていた。
じーっと俺の口の辺りを見つめている。
「ほ、ほら、ないだろ」
口を開けて歯を見せてみた。
「……ないです」
プリムは納得した様子だ。
「すみません、口の中を見たりして」
「いいけど、意外と好奇心旺盛なタイプなのか、プリムって」
「です」
プリムが微笑んだ。
それから、ふいに彼女が顔を赤らめた。
「あ……顔近かったですね、す、すみません……っ」
言われてみれば、彼女が俺の顔を覗きこむ格好のため、かなりの至近距離だ。
言われたことで、俺もつい意識してしまう。
あらためて見るまでもなく、プリムって超絶美少女だよな……。
「く、唇を奪われてしまいそうなほど近いです」
いや、奪わないから……。
「どきどきしました」
「えっ」
「い、いえ、なんでも……っ」
プリムは慌てたように両手を振る。
その顔はさっきにも増して赤くなっていた。
竜牙兵の訓練を終え、俺は自宅に戻った。
ちなみに竜牙兵は待機状態で近くの洞窟に入れてある。
竜牙兵の機能の一つに『オン・オフ』というものがあり、マスターである俺が『オフ』状態に設定すると、人間でいう睡眠状態みたいになって動かなくなるのだ。
その間、少しずつ彼らの動力である魔力が自然回復していくので、エネルギーチャージという面でも『オフ』状態にするのは大事である。
ま、人間の睡眠と一緒だな。
で、自宅到着。
「おつかれさま、ゼル」
「おー、今まで訓練してたのか」
家の前にはソフィアと傭兵のエレーンさんがいた。
「どうも」
「村のために色々ありがと」
ソフィアが俺に駆け寄ってきて、タオルを渡した。
「少し汗かいてるんじゃない? あ、今から飲み物用意するからね」
「ありがとう」
「ははは、かいがいしいねぇ」
エレーンさんが俺たちを見て笑った。
「恋する乙女ってのは初々しくていいよ。うん」
「えっ、恋する乙女?」
「ち、ちょちょちょちょちょちょちょっと、エレーンさんっっっ!」
ソフィアが顔を真っ赤にして叫んだ。
「それは内緒ですから!」
「ん、なんだ? バレバレだろう」
「少なくともゼルにはバレてないはずです」
「んー……まあ、鈍感そうだしなぁ」
「???」
ジト目でこっちを見る二人に、俺はハテナ顔だった。
「そうだ、あたしからも差し入れ」
エレーンさんが飲み物の入ったコップを差し出した。
村の名産であるニンジンをジュースにしたものだ。
「ほら、どうぞ」
「ありがとう、エレーンさん」
受け取って、一口。
うん、美味い。
素材の味がよく出ていて、全身に染みわたるような美味しさだった。
「さっきまで井戸で冷やしておいたんだよ。あたしにできるのは、これくらいだからね」
「そんなことないですよ。自警団の仕事以外にも役場の仕事とか、色々手伝ってくれてるんでしょう?」
俺は彼女に微笑んだ。
「みんな、それぞれできることをやってる。それでいいと思いますよ」
「だな。あたしも自分にやれることをやるさ」
と、エレーンさん。
そう、みんな自分のできることを精一杯やっている。
だから、この村は発展し続けているんだ――。
俺が村に来た頃は、特になんていうこともない平凡で平穏な村だった。
同時に、村の周辺に出るモンスターや、時折現れる魔族などに苦しめられていた。
また貧困にも苦しんでいた。
けれど、俺の竜魔法によって魔族やモンスターの襲来は事前に防げるようになったし、仮に侵入されても俺を中心に迎撃する体制が整った。
村の貧困問題もチート農作物を開発したり、それに付随する経済効果で一気に改善した。
そんなことが続くうちに、村の人たちも、自分たちの環境をよりよくしたいという意識が強くなっていったんだと思う。
実際、村のインフラもだいぶ充実してきた。
川から引っ張ってきた水をもとにした上下水道。
主要な通り道は石畳で舗装し、定期的に馬車を運航して交通網を整備。
さらに村の各所には他の都市との手紙や魔導通信などの連絡手段を構築してある。
その根幹になるのが、俺の竜魔法である。
今日はその竜魔法によるインフラ整備が正常に稼働しているかを、チェックして回っていた。
特に上下水道を入念にチェックしている。
と、
「毎日忙しいですね、ゼルさんは」
プリムがやって来た。
「まあ、竜魔法関係は俺しか扱えないからな……タスクが多くなるのは、ある程度しょうがないさ」
苦笑する俺。
「そういえばプリムは『聖女機関』に戻らなくてもいいのか?」
ふと思って、たずねてみた。
「この村に来てから、けっこう長いだろ」
もともと彼女は、『魔竜王の力を継ぐ者』がこの村に現れたと感じて、やって来たのだ。
俺のことを世界の敵だと認定するか否か――もし彼女がそう認定していたら、今ごろ俺はどうなっていただろうか。
……『聖女機関』の攻撃を受けていたかもしれない。
そう考えるとゾッとするな。
「私はあなたの監視役ですので。今後も引き続き」
プリムが微笑む。
「村に滞在して任務をこなします……といっても、実質的には村で楽しく過ごしているだけなんですけどね」
と、その笑みが悪戯っぽいものに変わる。
「あなたが世界の敵になるとは思えませんもの」
「じゃあ、今後ともよろしく」
俺はにっこり笑った。