「けど、具体的にどうやって守ればいいんだろう……?」
俺は帰り道、村を守る方法を必死で考えていた。
モンスター対策のように、ただ城壁を強化すればいいというわけじゃない。
そんなことをしても、帝国は攻城兵器なり大規模破壊魔法なりで城壁を突破してくるだろう。
俺の作った城壁は単純な『物理的攻撃』には強い。
けれど、魔法を併用して弱点を攻められたり、専用の攻城兵器を使われると、さすがにいつまでも持ちこたえることはできないと思う。
相手が並の国家ならともかく、世界最強国の一角であるバーンレイド帝国だからな……。
だから、もっと根本的に――帝国軍を跳ね返すだけの力が必要だった。
「となると、軍隊だよなぁ……」
自警団では、とても立ち向かえない。
相手が軍なら、こっちも軍――。
……なんて辺境の村が簡単に軍隊なんて持てるわけがない。
領主に兵を派遣してもらう、というのも難しいだろう。
あの領主はピエルン村のことなんて眼中にない。
あっさり見棄てるだろうからな……。
「やっぱり……自力で守るしかない、か」
世界最強の帝国軍を相手に。
ああ、どうしろっていうんだーっ!
ぷしゅう……。
悩みすぎて頭から湯気が出るような錯覚があった。
「あ、そうだ。竜魔法にそういうのはないのかな?」
いちおう探してみよう。
リストを呼び出し、竜魔法の一覧を眺めていく。
と、
「竜牙兵……?」
リストを調べていると、【竜牙兵創成】という術式があることを知った。
「なんか、見覚えがあるな、これ……」
あ、そうだ。
俺が竜魔法に目覚めたばかりのころに、この術名を見た覚えがあるぞ。
「どれどれ……」
俺はリストの該当呪文が描かれた部分に触れて、より詳しい説明を表示させた。
竜牙兵はその名の通り、竜の牙から生み出された兵士である。
こいつは俺の言うとおりに動く……というか、俺の言うことしか聞かない。
あまり複雑な命令は受け付けないらしく、自警団のメンバーに入れるようなことはできない。
けれど、竜牙兵をたくさん作って、村の防衛部隊として配置したら役に立つかもしれない、と思ったのだ。
「特にバーンレイドが攻めてくるかもしれない、このご時世だと……な」
よし、ちょっと試してみるか。
俺はさっそく【竜牙兵創成】にチャレンジすることにした。
俺は村の外れにある小高い丘の上にいた。
「【竜牙兵創成】!」
練り上げた魔力を前方に向かって放出する。
竜魔法が使えるとはいえ、俺の体はあくまでも人間のもの。
当然、『竜の牙』なんて生えていない。
本来の【竜牙兵創成】は本物の竜の牙を使って作り出すみたいだけど、俺にはそれができない。
ただし、魔力を固めたものを牙の代替品にすることもできるらしい。
俺は体内の魔力をコントロールし、竜の牙の代替品を生み出し、そこからさらに『竜牙兵』を作り出した。
ぼわんっ。
白煙が上がって、前方に数体の竜牙兵が出現する。
「おお~!」
俺は思わず歓声を上げた。
全身に白い鎧をまとった騎士。
顔には仮面をつけている。
竜牙兵にはいくつかのバリエーションがあり、髑髏とかゾンビなんかもいるらしく、どのタイプになるかは術者によって違うらしい。
俺の場合は、この『騎士タイプ』だったということだろう。
「うん、なかなかいいな。髑髏やゾンビより見栄えがいいぞ」
俺は満足した。
といっても、外見が格好いいからといって、戦闘能力が低ければ使い物にならない。
あくまでも目的は村の防衛である。
こいつらには、その貴重な戦力になってもらわなければならない。
「俺はお前たちを作った者だ。魔竜王の力を受け継いだゼル・スタークという。どうか話を聞いてほしい」
竜牙兵たちに向かって、俺はなるべく威厳が出るように言った。
しーん……。
竜牙兵たちの反応はない。
あ、あれ……?
「威厳が足りなかったかな……」
といっても、どうやったら出るんだろう、威厳……。
もしかして、作ることには成功したけど、竜牙兵たちは俺を主として認めてくれてないとか?
やっぱり威厳か?
ううん、俺はカリスマがあるタイプじゃないからなぁ。
しーん……。
相変わらず竜牙兵たちは無言だ。
もともと『話す』機能がついていないだけなのか。
それとも俺を主として認めていないという無言の意思表示だろうか。
しーん……。
「ま、待って!? やめて!? ずっと無言だとプレッシャーかかるから!?」
俺は思わず竜牙兵たちに懇願した。
彼らからのリアクションは、なし。
よし、とりあえず俺がこいつらを作り出した理由を説明しよう。
威厳はなくても、対話はできる。
そうやって竜牙兵たちとコミュニケーションを取り、主従関係を結んでみせる……!
「お前たちにはこの村の防衛部隊として戦ってもらいたい。いいか?」
ヴンッ。
彼らがつけている仮面の瞳部分が、一斉に赤く輝いた。
今のが返事……ってことでいいんだろうか?
「了承した、って意味でいいのか? そうなら、右手を上げてくれ。違うなら左手を」
ささっ。
俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、全員が右手を上げた。
「おお、ちゃんと意思疎通ができそうだ」
俺は嬉しくなった。
「じゃあ、お前たちの目が赤く光ったら『了承』って意味でとらえるぞ。違った場合は何か意思表示してくれ」
ヴンッ。
彼らの目が赤く光る。
お、言葉でのやりとりはできないみたいだけど、これでも結構コミュニケーションが取れるな。
「そういえば、『了承しない』場合はどんな意思表示になるんだ?」
ヴンッ、ヴンッ。
彼らの目が二回光った。
「なるほど」
分かりやすい。
「よし、じゃあ、さっそくだけどお前たちの基本的な能力を見たい。個々の戦闘能力と連携能力辺りを――」
さあ、訓練開始だ。