「よし、もうちょっとだ――」
俺は竜魔法で生み出した石壁を慎重に補強した。
石レベル2になった城壁は、以前とは質感も変わり、なんだか豪華になったように感じる。
村をぐるりと囲むような城壁――。
周辺に生息するモンスターが侵入してこないように、ここに来た時に作ってきたものだ。
もともとこの村は城壁がほとんどなかった。
一部に存在する城壁もボロボロでほとんど役に立たない。
だから、この村に来て間もないころ、俺が竜魔法で石を生み出すところから始め、城壁としてキッチリと組んでは村の外に設置した。
いくら竜魔法があるとはいえ、こういった工事には細かい注意が必要だし、なによりも根気がいる。
一通り作り終えた後も、穴がないか調べたり、破損個所がないかを定期的に点検したり――。
時には城壁の一部が壊れ、モンスターが村に侵入したこともあった。
幸い、連絡を受けた俺が竜魔法ですぐに駆除し、村人に被害はなかったんだけど――。
村の城壁は万全とまではいかないレベルだった。
竜魔法によって作った城壁でも、完全無敵とはいかないみたいだ。
だから、もっと頑丈な城壁を作れないか思案しつつも、なかなか答えが出なかったんだけど――。
この石レベルが上がった城壁は、以前よりもかなり頑丈になっているようだ。
きっと俺の竜魔法にはまだ到達していない領域がある。
「まだまだ竜魔法のことを知らなきゃいけないし、必要なら鍛錬もしなきゃな……」
と、
「わー、すごい。一気に作業したんだね。仕事が早い~」
ソフィアがやって来た。
「ああ、以前より頑丈になった城壁で村全体を覆ったよ」
「みんな、ますます安心して暮らせるね。ありがとう、ゼル」
ソフィアがぺこりと一礼する。
「うん。でも、まだまだもっと安全に暮らせるように頑張っていくよ」
答える俺。
と、そのときだった。
――何かが、いる。
ふいに俺の感覚に『何か』が触れた。
嫌な感覚だった。
強烈な敵意。
攻撃的な意志。
そして――殺意、か?
この村にそんな負の感情を向ける者がいる。
魔族か、モンスターか、それとも――?
「どこだ……?」
俺は竜魔法の【探知】系の術を使った。
が、それらしき者は発見できない。
人間であれ、魔族であれ、モンスターであれ、あらゆる生物の敵意を探る魔法だったんだけど。
「気のせい、なのかな……」
村を守る防壁を作っていて気が張ったせいかもしれない。
「どうしたの、ゼル?」
「……いや、なんでもない。戻って昼食にしようかな」
「あ、じ、じゃあ、一緒に食べない……? 東通りに新しく開店した食堂があるんだよ」
「へえ、行ってみたいな」
「もちろんピエルン村の名産品メニューは完備! 一緒に行こ~」
というわけで、俺はソフィアと一緒にランチタイムへ――。
俺たちは食堂でランチタイムを堪能した。
「あー、美味しかった」
「スープがよかったね~。野菜に味が染みてて、すっごく美味しかった」
「ああ、よかったよな。評判になるのも納得だ」
「また行こうね」
「ああ」
「じ、じゃあ、今度も二人っきりで……えへへ」
「ん?」
なぜかソフィアは顔を赤くしている。
と、
「おつかれさまです、ゼルさん。今日は村の城壁を補強してきたそうですね」
前方からプリムがにこやかな笑顔でやって来た。
「率先して村のために働く……やっぱり、あなたは世界の敵などではありませんね」
と、そっと耳打ちするプリム。
「プリム?」
首をかしげる俺を、彼女は引っ張っていた。
「あ、ちょっと二人でどこに行くのよ」
たずねるソフィアに、
「少しだけ……二人でお話させてください」
と、断りを入れるプリム。
俺たちはソフィアから少し離れ、話し始めた。
「二人で話って?」
「ですから、あなたが世界の敵などではない、という話です」
プリムが俺を見つめた。
「そうあってほしいと願っているんですよ、私」
「ああ……俺も、そうありたい」
俺はプリムにうなずいた。
彼女と知り合ってから五カ月近く経つ。
出会った当初に比べれば、俺のことを信用してくれるようになったかもしれない。
それでも――100パーセント信用したわけではないはずだ。
『聖女』の務めとして、俺が『魔竜王の力』を悪用しないか監視しているし、これからも監視し続けるだろう。
もし俺が『魔竜王の力』を悪用したり、あるいは力に飲みこまれて暴走するようなことでもあれば、真っ先に立ちはだかるはずだ。
彼女自身が戦うか、あるいは『聖女機関』に報告するか――いずれにせよ、彼女は『敵』になる。
「プリムと敵対するなんて嫌だからな」
「私もです」
うなずくプリム。
「ゼルさんは力を悪用していない、ちゃんと制御できている、って聖女機関に報告してますから」
プリムがまた耳打ちした。
「えっ」
「あくまでも公平に観察した結果ですよ」
「……ありがとう、プリム」
俺は礼を言った。
「別に、何がなんでもゼルさんを『世界の敵』として対処しなければならない、なんて思ってませんし」
プリムが微笑む。
「それは『聖女機関』全体の意見か?」
俺は思い切ってたずねてみた。
「えっ」
「君がそう言ってくれるのはありがたいけど、『聖女機関』としてはどうなんだ? 俺を討伐しろ、って言ってる勢力もいるんじゃないのか?」
「っ……」
プリムは一瞬、息を飲んだようだった。
その反応で悟る。
やっぱり、いるんだ――。
俺を『世界の敵』とみなす勢力も。
いや、もしかしたら、そっちが主流派の可能性だってある。
「私は……ゼルさんの味方です。あなたが力を制御し続ける限り」
プリムが言った。
「村のために尽力するあなたを、ずっと側で見て来ましたから。力になりたいし、味方になりたい」
「ありがとう、プリム」
俺はまた礼を言った。
「君は大切な仲間だ」
「えっ」
「もう村の一員だろ、プリムも」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
はにかんだようなプリムは、可愛らしかった。
「むむむ……なんか親しげに話してる」
小声で話していた俺たちを、ソフィアがにらんでいた。
「やっぱり、プリムさんもゼルのこと、狙ってない?」
「い、いえ、そんな……その、うふふ」
なぜか意味ありげに笑うプリム。
「むむむむむ」
一方、ソフィアはなぜか不機嫌そうな顔になった。
俺は竜魔法で生み出した石壁を慎重に補強した。
石レベル2になった城壁は、以前とは質感も変わり、なんだか豪華になったように感じる。
村をぐるりと囲むような城壁――。
周辺に生息するモンスターが侵入してこないように、ここに来た時に作ってきたものだ。
もともとこの村は城壁がほとんどなかった。
一部に存在する城壁もボロボロでほとんど役に立たない。
だから、この村に来て間もないころ、俺が竜魔法で石を生み出すところから始め、城壁としてキッチリと組んでは村の外に設置した。
いくら竜魔法があるとはいえ、こういった工事には細かい注意が必要だし、なによりも根気がいる。
一通り作り終えた後も、穴がないか調べたり、破損個所がないかを定期的に点検したり――。
時には城壁の一部が壊れ、モンスターが村に侵入したこともあった。
幸い、連絡を受けた俺が竜魔法ですぐに駆除し、村人に被害はなかったんだけど――。
村の城壁は万全とまではいかないレベルだった。
竜魔法によって作った城壁でも、完全無敵とはいかないみたいだ。
だから、もっと頑丈な城壁を作れないか思案しつつも、なかなか答えが出なかったんだけど――。
この石レベルが上がった城壁は、以前よりもかなり頑丈になっているようだ。
きっと俺の竜魔法にはまだ到達していない領域がある。
「まだまだ竜魔法のことを知らなきゃいけないし、必要なら鍛錬もしなきゃな……」
と、
「わー、すごい。一気に作業したんだね。仕事が早い~」
ソフィアがやって来た。
「ああ、以前より頑丈になった城壁で村全体を覆ったよ」
「みんな、ますます安心して暮らせるね。ありがとう、ゼル」
ソフィアがぺこりと一礼する。
「うん。でも、まだまだもっと安全に暮らせるように頑張っていくよ」
答える俺。
と、そのときだった。
――何かが、いる。
ふいに俺の感覚に『何か』が触れた。
嫌な感覚だった。
強烈な敵意。
攻撃的な意志。
そして――殺意、か?
この村にそんな負の感情を向ける者がいる。
魔族か、モンスターか、それとも――?
「どこだ……?」
俺は竜魔法の【探知】系の術を使った。
が、それらしき者は発見できない。
人間であれ、魔族であれ、モンスターであれ、あらゆる生物の敵意を探る魔法だったんだけど。
「気のせい、なのかな……」
村を守る防壁を作っていて気が張ったせいかもしれない。
「どうしたの、ゼル?」
「……いや、なんでもない。戻って昼食にしようかな」
「あ、じ、じゃあ、一緒に食べない……? 東通りに新しく開店した食堂があるんだよ」
「へえ、行ってみたいな」
「もちろんピエルン村の名産品メニューは完備! 一緒に行こ~」
というわけで、俺はソフィアと一緒にランチタイムへ――。
俺たちは食堂でランチタイムを堪能した。
「あー、美味しかった」
「スープがよかったね~。野菜に味が染みてて、すっごく美味しかった」
「ああ、よかったよな。評判になるのも納得だ」
「また行こうね」
「ああ」
「じ、じゃあ、今度も二人っきりで……えへへ」
「ん?」
なぜかソフィアは顔を赤くしている。
と、
「おつかれさまです、ゼルさん。今日は村の城壁を補強してきたそうですね」
前方からプリムがにこやかな笑顔でやって来た。
「率先して村のために働く……やっぱり、あなたは世界の敵などではありませんね」
と、そっと耳打ちするプリム。
「プリム?」
首をかしげる俺を、彼女は引っ張っていた。
「あ、ちょっと二人でどこに行くのよ」
たずねるソフィアに、
「少しだけ……二人でお話させてください」
と、断りを入れるプリム。
俺たちはソフィアから少し離れ、話し始めた。
「二人で話って?」
「ですから、あなたが世界の敵などではない、という話です」
プリムが俺を見つめた。
「そうあってほしいと願っているんですよ、私」
「ああ……俺も、そうありたい」
俺はプリムにうなずいた。
彼女と知り合ってから五カ月近く経つ。
出会った当初に比べれば、俺のことを信用してくれるようになったかもしれない。
それでも――100パーセント信用したわけではないはずだ。
『聖女』の務めとして、俺が『魔竜王の力』を悪用しないか監視しているし、これからも監視し続けるだろう。
もし俺が『魔竜王の力』を悪用したり、あるいは力に飲みこまれて暴走するようなことでもあれば、真っ先に立ちはだかるはずだ。
彼女自身が戦うか、あるいは『聖女機関』に報告するか――いずれにせよ、彼女は『敵』になる。
「プリムと敵対するなんて嫌だからな」
「私もです」
うなずくプリム。
「ゼルさんは力を悪用していない、ちゃんと制御できている、って聖女機関に報告してますから」
プリムがまた耳打ちした。
「えっ」
「あくまでも公平に観察した結果ですよ」
「……ありがとう、プリム」
俺は礼を言った。
「別に、何がなんでもゼルさんを『世界の敵』として対処しなければならない、なんて思ってませんし」
プリムが微笑む。
「それは『聖女機関』全体の意見か?」
俺は思い切ってたずねてみた。
「えっ」
「君がそう言ってくれるのはありがたいけど、『聖女機関』としてはどうなんだ? 俺を討伐しろ、って言ってる勢力もいるんじゃないのか?」
「っ……」
プリムは一瞬、息を飲んだようだった。
その反応で悟る。
やっぱり、いるんだ――。
俺を『世界の敵』とみなす勢力も。
いや、もしかしたら、そっちが主流派の可能性だってある。
「私は……ゼルさんの味方です。あなたが力を制御し続ける限り」
プリムが言った。
「村のために尽力するあなたを、ずっと側で見て来ましたから。力になりたいし、味方になりたい」
「ありがとう、プリム」
俺はまた礼を言った。
「君は大切な仲間だ」
「えっ」
「もう村の一員だろ、プリムも」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
はにかんだようなプリムは、可愛らしかった。
「むむむ……なんか親しげに話してる」
小声で話していた俺たちを、ソフィアがにらんでいた。
「やっぱり、プリムさんもゼルのこと、狙ってない?」
「い、いえ、そんな……その、うふふ」
なぜか意味ありげに笑うプリム。
「むむむむむ」
一方、ソフィアはなぜか不機嫌そうな顔になった。