「というわけで、自警団に新メンバーとして入ることになったエレーンだ。よろしく!」
彼女が自警団に入ることになり、その顔合わせに俺も付いていった。
ちなみにプリムやソフィアも一緒だ。
自警団メンバーは騎士崩れなども混じっているが、大半は農家や商家の若者である。
「エレーンって……まさかあの『赤髪の戦鬼』――?」
「一級傭兵がなんでこんな辺境の村の自警団に来るんだよ……?」
「なんかオーラ出てる……」
みんな、ちょっと引いていた。
そんなに怖いのかな、エレーンさんって。
俺には気風のいいお姉さんって感じの印象なのに。
「そんな怖がらないでよ。仲間だろ。な?」
エレーンさんがにっこり笑う。
「ど、どうも……」
「大丈夫だよ。エレーンさんは確かに腕っぷしが強いけど、その力は誰にでも向けられるわけじゃない」
俺はまだビビってる彼らに説明した。
「彼女は力の使いどころをちゃんとわきまえている人だ。たとえばトラブルの仲裁に、抑止力として『力』が必要なケースがあるだろう? あるいは村にモンスターが侵入したときにみんなを守るための『力』が必要なことだってある」
言って、俺はエレーンさんを見つめる。
「そんなときに『力』を発揮してくれるのが、彼女だ。頼もしい仲間だよ」
「そうそう。別に戦闘マニアとか暴力漢とかじゃないって。はは」
エレーンが快活に笑った。
彼らも少し態度が和らぐ。
「す、すみません、ついビビってしまって……」
「まあ、傭兵だったころは殺気が出てたかもしれないけど、今は引退したからね。まだ殺気みたいなものがにじみ出ることはあるかもしれないけど、そこは気にしないで」
……まあ殺気が漏れ出てたら気にしないのは無理だろうな。
思いつつも、俺はエレーンさんを、そして自警団のみんなを見回した。
「そういうことだ。エレーンさんの雰囲気に慣れて行ってくれ。彼女は優秀な人材だ。きっとみんなを助けてくれるよ」
「よろしく」
と、エレーンさん。
とりあえず、こうして顔合わせは終わった。
そして――。
とある酒場でもめごとが起きていると聞き、俺たちは現場に向かった。
「トラブル? どれどれ?」
エレーンさんが顔を出す。
ずおおおおっ……!
おお、これは『歴戦の猛者』オーラだ!
俺は彼女の後ろから内心で声を上げた。
味方だからいいけど、トラブルを起こしている連中からしたら、めちゃくちゃ怖いだろうなぁ……。
いや、本当に味方でよかった。
案の定――。
「ひ、ひいっ」
「申し訳ありませんでしたぁっ」
喧嘩をしていた二人は、たちまちおとなしくなった。
さらに別の場所でも、もめごとが起きていると聞いて、俺たちはまたそこに向かう。
「トラブル? どれどれ?」
例によってエレーンさんが前に出る。
ずおおおおおおおっ!
当然のように湧き出る『歴戦の猛者』オーラ。
そして、案の定、
「わわっ、もうしません~!」
「お許しを……お許しを……」
次の場所でも、喧嘩をしていた二人がおとなしくなったのだった。
さらに、
「トラブル?」
「僕たち仲直りしました!」
次の場所でも、喧嘩を(以下略
「すごいですね、エレーンさんって……」
「はは、ちょっと『歴戦の猛者オーラ』を出せば、こんなもんね」
エレーンさんが胸を張る。
「本当にそういう名前なんだ!?」
「っていうか、すごいのはあんただろ」
エレーンさんが豪快に笑った。
「俺?」
「凄い魔術師なんだって? おまけにこの辺境をあっという間に栄えさせちゃって」
「いや、この力は鍛錬とかで身に着けたわけじゃなくて、なんていうか……血筋とかそういう系のアレですし」
俺は苦笑した。
血筋……といっていいのかな、これ?
俺が魔竜王のスキルを受け継いでいるのは、竜の因子を持っているからだ、と魔竜王に説明されたことがある。
この『竜の因子』とは、竜の視線に受け継がれていく力のこと。
つまり――俺の遠い先祖をたどっていくと、どこかで竜と交わった人がいる、ということになる。
それが父の血筋か、母の血筋かは分からない。
それに『竜の因子』といっても、大多数の人はその素質を発現しないらしい。
俺はかなり色濃く発現し、魔竜王の力を受け継げるほどに『竜の因子』が強かった――ということだ。
ま、少なくとも俺自身の鍛錬によって得た力じゃない。
だから、この力をひけらかしたり、自慢したりするつもりはまったくない。
ただ――この力には使い道が色々とある。
それは無限の可能性を秘めている、と言ってもいいほどの強大な力だ。
だから俺は、この力を村の発展のために使っていきたいと思う。
「俺自身の努力のたまものじゃないんです。別にすごくなんてないですよ」
「力を得たきっかけはどうあれ、使っているのはあんただろ」
エレーンさんが首を左右に振った。
「あんたはその強大な力に溺れることなく、私利私欲に走ることもなく、村を栄えさせるために力を尽くしているんだ。その精神は立派だし、すごいことだよ」
「あはは、褒めすぎです」
「んなこたーない」
エレーンさんはにっこりと笑った。
俺の方は完全に照れている。
そもそも褒められ慣れてないのだ。
実家じゃ、無能扱いされてばかりだったからな……。
「あたしも本格的にあんたに協力しようかな」
「えっ」
「気に入ったのさ、あんたのことが。あはは」
エレーンさんが朗らかに言って、俺の背中をバンと叩いた。
……ちょっと痛い。
数日後、自警団に三人の男女がやって来た。
「ラドウィッグだ、よろしく頼む」
「レンです。はじめまして」
「あたしはアイラ。エレーン姐さんの紹介で来たよ~」
いずれもエレーンさんが呼び寄せた旧知の傭兵仲間だという。
「全員、腕はあたしが保証するよ。自警団の戦闘能力はこいつらが加われば、万全さ」
「むしろ過剰戦力だと思うが」
と、ラドウィッグ。
「エレーン嬢らしいですね」
「いいじゃん、ひさびさにこうして集まれたんだし。文句いいっこなし~」
レンとアイラが言った。
意外なほど和気あいあいとした雰囲気だ。
「これでも戦場じゃ、みんな鬼に変わるけどね。戦鬼ってやつ」
エレーンさんがクスリと笑う。
「戦場から離れれば、気のいい連中さ」
「よろしくお願いします」
俺は三人に一礼した。
ほどなくして、村のトラブルは激減した。
やっぱり何かが起きたとき、毅然と対処できる組織があると全然違う。
好き勝手に暴れることが難しくなるからな。
逆に自警団が村人たちに対して威圧的になったり、過剰な暴力を振るうような事態も避けなければならないけど、その辺はエレーンさんと傭兵仲間たちが上手く手綱を引いてくれていた。
こうして村の治安は安定し、さらなる発展へと進んでいくのだった――。