俺がこの村に来てから、早くも半年が経った。
「これ、美味しい!」
「うわ~、いい匂い!」
「行列すごい!」
観光客たちの明るい声があちこちから聞こえてくる。
ピエルン村は、半年とは比べ物にならないくらい栄えている。
それも農地改良と、それによって収穫されるようになった果物や野菜といった作物のおかげだ。
大量に収穫できて、しかも味が超一級品。
まだまだ、この素材を活かしきれる料理人が少なくて、店によって味の出来にかなりの差があるけれど――。
それがまたいい形で店同士の競争を生んでいる。
村人たちも、ここを訪れる人たちも、「あの店が美味しい」「いや最近できたあの店の方が」などと情報交換をしながら、食べ比べを楽しんでいる感じだ。
「うん、栄え始めてる感じでいいなぁ」
俺は嬉しくて目を細めた。
実にいい。
そんな村の発展に、自分が少しでもかかわっていると思うと誇らしい気持ちになれた。
と、そのとき、
「こいつ!」
「割り込むんじゃねーよ!」
「そっちだろ、割り込んだのは!」
前方の店から怒声と罵声が聞こえてきた。
村人同士でトラブルになっているようだ。
「ち、ちょっと待って」
俺は慌てて二人の間に割って入った。
「こいつが割り込んだんだ」
「いや、こいつが割り込んだ」
「こいつだって」
「いや、こいつ」
「こいつ」
「こいつ」
「こいちゅ……つ!」
あ、噛んだ。
「とにかく、二人とも落ち着いて。確かに割り込みはよくない。たぶん、お互いに紛らわしい行動をしたところがあったんじゃないか?」
俺は二人をなだめながら言った。
「ん? あんた、ゼルさんか」
「おお、村を色々とよくしてくれた大恩人じゃねぇか」
二人が驚いたように俺を見た。
「いえ、そんな……」
照れる俺。
二人はさっきまで怒っていた表情を、いくらか和らげてくれた。
「ま、まあ、あんたがそう言うなら……」
「……悪かったな、熱くなっちまって」
「いや、こっちこそ悪かった」
二人はなんとか仲直りしてくれたようだ。
互いに順番を譲り合いつつ、無事にそれぞれ目当てのメニューを手に入れたらしい。
「ふう……」
俺は大きく息を吐き出した。
今ごろになって緊張感がこみ上げてきた。
本当は、ああいうのって苦手なんだよな。
争いは苦手だし、戦いはもっと苦手だ。
行きがかり上、仲裁したけれど――。
トラブル解決のために何か手を打ちたいなぁ。
「どうかなさったんですか、ゼルさん」
そのとき、前方からプリムが歩いてきた。
「なんか眉間にしわ寄ってない、ゼル? 悩み事?」
ソフィアも一緒にいる。
この二人って、何気に仲いいみたいなんだよな。
特に最近はよく一緒にいるのを見かける。
二人で食べ歩きみたいなことをするのが楽しいんだとか。
まあ、仲がいいのは良いことだ。
年も近いし、いい友だち関係を築いているみたいで、ほっこりする。
「実は――」
俺はさっきのトラブルのことを二人に話した。
「三か月も経つとトラブルが増えるものなのかなぁ……」
「特にここ一月ほどでかなり住人が増えましたからね」
「だな」
俺たちは顔を見合わせ、ため息をついた。
村の名産品が各地で評判を呼び、この村の住人は急激に増え始めていた。
ここで作物を育てて一攫千金を狙いたい――と大挙して農民が訪れたのもあるし、ここの作物を元に稼ぎたいという商人もそうだ。
「治安が悪くなるのは避けられないのかな……なんとかしたいなぁ」
俺は思案した。
「ゼルさんが片っ端から仲裁して回るとか?」
「いや、限度があるし……そもそも、俺はもともと荒事は苦手だから」
「ふふ、あんなに強いのに」
「竜魔法で戦闘能力は爆発的に上がったけど、俺自身の性分は何も変わってないからさ」
俺は苦笑した。
「……で、俺ちょっと考えたんだけど」
さっき思いついたことを、俺は二人に話した。
「自警団?」
「ですか?」
「ああ。町の治安を守るためには、やっぱり自警団を強化するのが一番いいかな、って。人数を増やしてもらえるよう、領主さんに色々と相談しに行くつもりだ」
俺はソフィアとプリムに言った。
ちなみに、この村の領主は他にもいくつかの町を治めていて、この村のやり方に関しては放任状態だった。
実質的に村の有力者たちの合議制みたいな感じで、さまざまなことが運営されている。
自警団に関しても、多分丸投げされるだろう。
とはいえ、村の治安に関することではあるし、いちおう領主の顔を立てる意味でも、話だけは通す必要がある。
……ま、事後承諾でも問題なさそうだな。
「特にパトロールは重点的にしてもらいたいんだ。今日みたいなトラブルがあったら、大ごとになる前に事前に解決したい」
「でも、ただ人数を増やしても、トラブルを解決できるとは限らないんじゃない?」
と、ソフィア。
「量より質だと思います」
と、プリム。
「質――か。トラブル解決に長けた人材が何人かいると、やっぱり違うよなぁ」
「なら、あたしに任せてもらおうか」
突然、背後から一人の女性が話しかけてきた。