それから三週間――早くも成果が現れた。
「ち、ちょっと来てくれ、ゼルさん!」
農民の一人が俺の手を引っ張っていった。
「えっ? えっ?」
「すごいんだ! 農地が!」
「あ、じゃあ行きます……っと、先に行ってきていいですか」
言うなり、俺は【竜翼】を発動する。
ばさりっ。
いきなり背中から翼を生やした俺に、その人はびっくりしたようだ。
「うおおっ!?」
「これで飛びながら行った方が速いし、俺も気になるので……では!」
翼を羽ばたかせ、走りつつ加速する。
と、
「何があったのです?」
プリムが猛スピードで走りながら、俺を追いかけてきた。
は、速い――!
人間が走るスピードじゃないぞ、それ。
「き、君……それ、どうなってるの……?」
「ふふ、これくらいは聖女のたしなみです」
そういえば、前に魔族が村を襲ったときも、すごいスピードで走ってたな、プリム。
「聖力を使った身体強化です。ふふ」
「ああ、そういうことだったのか」
プリムの種明かしに微笑む俺。
「でも、すべての聖女がこの術式を使えるわけじゃないですよ。人間の限界を超えた身体強化は七聖女くらいしか習得していませんから。えへん」
「そうなの!? じゃあ、プリムって聖女の中でもトップクラスってことじゃないか」
「えへん」
プリムがめちゃくちゃドヤ顔した。
「もっと褒めてください」
「ん? えーっと……天才!」
「そうそう」
「プリムすごい!」
「もっとちょうだい、もっと」
この子、褒められるの好きすぎか。
「プリム最高! 美少女! 有能!」
「うふふふふふふ」
プリムは超スピードで走りながら、めちゃくちゃにやけていた。
「うわー、すごい……」
俺たちは農場まで来て、驚きの声を上げた。
一面に作物が実っている。
大豊作だ。
「品種改良の効果、出ているじゃないですか」
「ああ、それに肥料や農具も以前よりも格段に効果が高かったり、性能が高かったりするものを竜魔法で作ったんだ」
「えっ、そんなものまで作れるんですか……?」
驚いたようなプリム。
「まるで錬金術師ですね。それも超高度な実力を備えた……」
「いやー、はは。竜魔法様様だよ」
「思った以上に、能力の応用度が高い――」
プリムが俺をジッと見つめる。
その目は、笑っていなかった。
「あ、ははは……」
俺は汗ジトになってしまう。
竜魔法の応用性を話したことで、かえって心証が悪くなっただろうか?
「……でも、そんな応用力の高い魔法を使っているのがゼルさんでよかったです」
プリムがつぶやいた。
「えっ」
「その力、戦争においても容易に応用が利きますよね?」
「……まあ、その気になればな」
俺は険しい表情になる。
「俺が世界征服をする、とでも言いたいのか?」
「私は――」
プリムが顔をそむけた。
ちょっと前までのお気楽な雰囲気がどこかに行ってしまった。
「見極めるだけです」
――そして、さらに三カ月余りが過ぎた。
俺の竜魔法で品種改良したジャガイモ、ニンジン、キャベツ……これらは従来のものより収穫量が多く、味も良い。
さらに雨量や日照量などの天候の変化にも強く、安定して収穫が可能だ。
この夢のような食材を、さらに俺が土壌改良した土地で育てる。
すると、どうなったか――。
「四か月で一気に収穫量が20倍……」
俺は呆然となっていた。
村の広場には、村人たちの育てた作物がぎっしりと積み上げられていた。
俺の竜魔法で品種改良されたジャガイモやニンジン、キャベツは、鮮やかな色と豊かな香りを放っている。
「ゼル、本当にすごいよ! こんなにたくさんの作物が一度に収穫できるなんて……」
ソフィアは感動の面持ちだ。
「本当に神の与えたもうた奇蹟のようです。これで村の食糧事情も安定するでしょうし、商業的にも大きく発展しそうですね」
プリムが微笑む。
「……よかった。これで『ゼルさんは力を悪用していない』といい報告ができそうです」
「プリム?」
「やっぱり上を説得するには、具体的な成果が重要ですからね。あなたが村のためにこれだけ貢献したという『結果』は、きっと上の心証をよくします。私もホッとしました」
プリムが目元をぬぐう。
「……もしかして、俺のことを心配してくれてた?」
「ええ、まあ」
涙ぐんでるな……。
心配かけて悪いな、という気持ちと……ありがたいという気持ち。
その両方で俺の胸はジンとなった。
「やったー!」
「大収穫だ~!」
喜んでいるのは俺たちだけじゃなく、当然農家のみんなもだ。
全員が笑顔で作物の出荷準備を進めている。
新鮮な野菜たちを丁寧に選び、かごに詰めていく。
一つ一つの野菜は、まるで宝石のように輝いて見えた。
「よし、いよいよ出荷だ」
俺はワクワクしていた。
この村で獲れた新作物は、絶対に評判になる。
それだけの味があるし、量もふんだんにある。
そうして話題になれば、村まで作物を買いに来る商人たちが現れるだろう。
もうすぐだ。
この村には多くの金が入ってくる。
もっと豊かになる。
そして、村人たちの生活も豊かになるはずだ――。
そして――。
村の作物は瞬く間に大人気となった。
商人たちは、村の作物の優れた品質と供給の安定性に魅了され、積極的に買い付けにやって来た。
彼らが大量の作物を購入し、これによって多くの金が村に入ってくる。
村の経済は一気に成長を遂げようとしていた。
「ち、ちょっと来てくれ、ゼルさん!」
農民の一人が俺の手を引っ張っていった。
「えっ? えっ?」
「すごいんだ! 農地が!」
「あ、じゃあ行きます……っと、先に行ってきていいですか」
言うなり、俺は【竜翼】を発動する。
ばさりっ。
いきなり背中から翼を生やした俺に、その人はびっくりしたようだ。
「うおおっ!?」
「これで飛びながら行った方が速いし、俺も気になるので……では!」
翼を羽ばたかせ、走りつつ加速する。
と、
「何があったのです?」
プリムが猛スピードで走りながら、俺を追いかけてきた。
は、速い――!
人間が走るスピードじゃないぞ、それ。
「き、君……それ、どうなってるの……?」
「ふふ、これくらいは聖女のたしなみです」
そういえば、前に魔族が村を襲ったときも、すごいスピードで走ってたな、プリム。
「聖力を使った身体強化です。ふふ」
「ああ、そういうことだったのか」
プリムの種明かしに微笑む俺。
「でも、すべての聖女がこの術式を使えるわけじゃないですよ。人間の限界を超えた身体強化は七聖女くらいしか習得していませんから。えへん」
「そうなの!? じゃあ、プリムって聖女の中でもトップクラスってことじゃないか」
「えへん」
プリムがめちゃくちゃドヤ顔した。
「もっと褒めてください」
「ん? えーっと……天才!」
「そうそう」
「プリムすごい!」
「もっとちょうだい、もっと」
この子、褒められるの好きすぎか。
「プリム最高! 美少女! 有能!」
「うふふふふふふ」
プリムは超スピードで走りながら、めちゃくちゃにやけていた。
「うわー、すごい……」
俺たちは農場まで来て、驚きの声を上げた。
一面に作物が実っている。
大豊作だ。
「品種改良の効果、出ているじゃないですか」
「ああ、それに肥料や農具も以前よりも格段に効果が高かったり、性能が高かったりするものを竜魔法で作ったんだ」
「えっ、そんなものまで作れるんですか……?」
驚いたようなプリム。
「まるで錬金術師ですね。それも超高度な実力を備えた……」
「いやー、はは。竜魔法様様だよ」
「思った以上に、能力の応用度が高い――」
プリムが俺をジッと見つめる。
その目は、笑っていなかった。
「あ、ははは……」
俺は汗ジトになってしまう。
竜魔法の応用性を話したことで、かえって心証が悪くなっただろうか?
「……でも、そんな応用力の高い魔法を使っているのがゼルさんでよかったです」
プリムがつぶやいた。
「えっ」
「その力、戦争においても容易に応用が利きますよね?」
「……まあ、その気になればな」
俺は険しい表情になる。
「俺が世界征服をする、とでも言いたいのか?」
「私は――」
プリムが顔をそむけた。
ちょっと前までのお気楽な雰囲気がどこかに行ってしまった。
「見極めるだけです」
――そして、さらに三カ月余りが過ぎた。
俺の竜魔法で品種改良したジャガイモ、ニンジン、キャベツ……これらは従来のものより収穫量が多く、味も良い。
さらに雨量や日照量などの天候の変化にも強く、安定して収穫が可能だ。
この夢のような食材を、さらに俺が土壌改良した土地で育てる。
すると、どうなったか――。
「四か月で一気に収穫量が20倍……」
俺は呆然となっていた。
村の広場には、村人たちの育てた作物がぎっしりと積み上げられていた。
俺の竜魔法で品種改良されたジャガイモやニンジン、キャベツは、鮮やかな色と豊かな香りを放っている。
「ゼル、本当にすごいよ! こんなにたくさんの作物が一度に収穫できるなんて……」
ソフィアは感動の面持ちだ。
「本当に神の与えたもうた奇蹟のようです。これで村の食糧事情も安定するでしょうし、商業的にも大きく発展しそうですね」
プリムが微笑む。
「……よかった。これで『ゼルさんは力を悪用していない』といい報告ができそうです」
「プリム?」
「やっぱり上を説得するには、具体的な成果が重要ですからね。あなたが村のためにこれだけ貢献したという『結果』は、きっと上の心証をよくします。私もホッとしました」
プリムが目元をぬぐう。
「……もしかして、俺のことを心配してくれてた?」
「ええ、まあ」
涙ぐんでるな……。
心配かけて悪いな、という気持ちと……ありがたいという気持ち。
その両方で俺の胸はジンとなった。
「やったー!」
「大収穫だ~!」
喜んでいるのは俺たちだけじゃなく、当然農家のみんなもだ。
全員が笑顔で作物の出荷準備を進めている。
新鮮な野菜たちを丁寧に選び、かごに詰めていく。
一つ一つの野菜は、まるで宝石のように輝いて見えた。
「よし、いよいよ出荷だ」
俺はワクワクしていた。
この村で獲れた新作物は、絶対に評判になる。
それだけの味があるし、量もふんだんにある。
そうして話題になれば、村まで作物を買いに来る商人たちが現れるだろう。
もうすぐだ。
この村には多くの金が入ってくる。
もっと豊かになる。
そして、村人たちの生活も豊かになるはずだ――。
そして――。
村の作物は瞬く間に大人気となった。
商人たちは、村の作物の優れた品質と供給の安定性に魅了され、積極的に買い付けにやって来た。
彼らが大量の作物を購入し、これによって多くの金が村に入ってくる。
村の経済は一気に成長を遂げようとしていた。