「あーあ、追放かぁ……」
俺……ゼル・スタークは途方に暮れながら歩いていた。
この世界では十五歳になると『スキル』が目覚める。
特に貴族の血統の者には、平民よりも格段に優秀なスキルが目覚めることが多く、その力を領地を治める際に有用に活用する者もいる。
また、平民よりも優秀なスキルを持っているというのは、貴族のアイデンティティのようなもので、スキルが弱い貴族はそれだけでメンツが立たない……という風潮さえあった。
そのせいか、貴族の家に生まれたにもかかわらず、優秀なスキルが目覚めなかった者は、外聞を恐れて実家を追放される――というのは、ときどき聞く話だ。
ただし、ほとんどの貴族子息はそれなりに優秀なスキルを習得できる。
俺も、何か適度に便利なスキルに目覚めてくれるんだろう、と気楽に考えていたのだが――。
スキル名【××××・××】
二年前、俺に目覚めたのは、そんなスキルだった。
名称を読むことさえできない。
当然、効果も分からない。
「あー……これは、バグですね」
『スキルの神殿』の巫女は俺にそう言ったものだ。
「バグ？」
初めて聞く言葉だった。
「たまにあるんです。スキルが目覚めたときに、正常に発現しないダメスキルが目覚めてしまうことが」
と、『スキルの神殿』の巫女が言った。
「その現象を私たちは『バグ』と呼んでいます」
「ダメスキルですか……」
「あ、ダメスキルは言いすぎですよね」
「まあ、少し」
「ゴミスキルに言い直しましょうか」
「あんま変わらないような……」
下手するとひどくなってるような。
「すみません。私って思ったことをそのまま口に出しちゃう性質で」
「いえ、お気になさらず」
俺は苦笑した。
「ゼル様のスキルですが、いちおう中央に報告して解析できないか調べてみますね」
巫女が言った。
「今のままでは内容も詳細も不明ですが、スキルの文字を読み取ることができれば、明らかになるかもしれませんから」
「読み取れ……ますかね？」
「うーん……古代文字の一種のような気がするんですが、なんとも」
巫女は申し訳なさそうな顔だ。
「分かりました。とにかく続報を待ちます。俺の方でも調べられる範囲で調べてみます」
――その後、結局俺のスキルの正体は分からずじまいだった。
名前も内容も分からず、当然発動すらしない。
俺は実質的に『なんのスキルも持っていない』のと同じ状態だった。
父上は大きく失望したと思う。
このままじゃダメだ――。
俺は自分のスキルについて調べ続けた。
だけど、二年間調べて……結局徒労に終わった。
何一つ分からなかったのだ。
そして、俺が十七歳になった誕生日に、父上は最終通告をした。
「ゼル、お前をこの家から追放する」
いきなり実家追放を言い渡されたのだ。
「えっ……？」
「ゴミスキルを授かった後、お前はスキルの正体を調べていたな。だがいつまでたっても判明しない……私としても、そろそろ決断を下さなければならない」
父は不機嫌そうだった。
「……決断、ですか」
「お前のような無能はこの家に必要ない。家督はお前ではなくミラールに継がせる」
ミラールとは俺の弟だ。
「さっさと出て行け」
……で、冒頭につながるわけだ。
「あーあ、これからどうしよ……」
追放された俺は馬車の中でしょんぼりしていた。
とりあえず父の最後の情けで、エルメダ王国の辺境地帯まで馬車を出してもらえることになった。
現在はその馬車で街道を進んでいるところである。
目的地である辺境地帯には遠縁の貴族がいる。
貧乏貴族だそうだが、俺の面倒を見てくれるかもしれないんだとか。
「後はお前の交渉次第だ」
それだけ言って、父は去っていった。
「生き延びたければ、その家の養子にでもなれってことか……？」
けど、スキルをまともに使えず、実家を追放されたしまった俺を、その家は受け入れてくれるんだろうか。
まあ、何か仕事をあっせんしてもらったり、新しい生活基盤を作るために力を貸してもらうことくらいはできるかもしれない。
「なんなんだろうな、このスキルって――」
俺はあらためてスキルを発動した。
【××××・××】
……やっぱり読めない。
「……ん？」
待てよ。
よーく目を凝らすと、文字が、かすかに動いているような――。
錯覚だろうか？
でも、確かに文字が少しずつ動いて見える。
『×』にしか見えなかったものが、徐々に変化し、意味のある文字に――。
「そこまでだ」
いきなり、首筋にひやりとした感触が走った。
振り返ると、屈強そうな男が俺に剣を突きつけていた。
いつの間に馬車に入りこんだのか――。
俺……ゼル・スタークは途方に暮れながら歩いていた。
この世界では十五歳になると『スキル』が目覚める。
特に貴族の血統の者には、平民よりも格段に優秀なスキルが目覚めることが多く、その力を領地を治める際に有用に活用する者もいる。
また、平民よりも優秀なスキルを持っているというのは、貴族のアイデンティティのようなもので、スキルが弱い貴族はそれだけでメンツが立たない……という風潮さえあった。
そのせいか、貴族の家に生まれたにもかかわらず、優秀なスキルが目覚めなかった者は、外聞を恐れて実家を追放される――というのは、ときどき聞く話だ。
ただし、ほとんどの貴族子息はそれなりに優秀なスキルを習得できる。
俺も、何か適度に便利なスキルに目覚めてくれるんだろう、と気楽に考えていたのだが――。
スキル名【××××・××】
二年前、俺に目覚めたのは、そんなスキルだった。
名称を読むことさえできない。
当然、効果も分からない。
「あー……これは、バグですね」
『スキルの神殿』の巫女は俺にそう言ったものだ。
「バグ？」
初めて聞く言葉だった。
「たまにあるんです。スキルが目覚めたときに、正常に発現しないダメスキルが目覚めてしまうことが」
と、『スキルの神殿』の巫女が言った。
「その現象を私たちは『バグ』と呼んでいます」
「ダメスキルですか……」
「あ、ダメスキルは言いすぎですよね」
「まあ、少し」
「ゴミスキルに言い直しましょうか」
「あんま変わらないような……」
下手するとひどくなってるような。
「すみません。私って思ったことをそのまま口に出しちゃう性質で」
「いえ、お気になさらず」
俺は苦笑した。
「ゼル様のスキルですが、いちおう中央に報告して解析できないか調べてみますね」
巫女が言った。
「今のままでは内容も詳細も不明ですが、スキルの文字を読み取ることができれば、明らかになるかもしれませんから」
「読み取れ……ますかね？」
「うーん……古代文字の一種のような気がするんですが、なんとも」
巫女は申し訳なさそうな顔だ。
「分かりました。とにかく続報を待ちます。俺の方でも調べられる範囲で調べてみます」
――その後、結局俺のスキルの正体は分からずじまいだった。
名前も内容も分からず、当然発動すらしない。
俺は実質的に『なんのスキルも持っていない』のと同じ状態だった。
父上は大きく失望したと思う。
このままじゃダメだ――。
俺は自分のスキルについて調べ続けた。
だけど、二年間調べて……結局徒労に終わった。
何一つ分からなかったのだ。
そして、俺が十七歳になった誕生日に、父上は最終通告をした。
「ゼル、お前をこの家から追放する」
いきなり実家追放を言い渡されたのだ。
「えっ……？」
「ゴミスキルを授かった後、お前はスキルの正体を調べていたな。だがいつまでたっても判明しない……私としても、そろそろ決断を下さなければならない」
父は不機嫌そうだった。
「……決断、ですか」
「お前のような無能はこの家に必要ない。家督はお前ではなくミラールに継がせる」
ミラールとは俺の弟だ。
「さっさと出て行け」
……で、冒頭につながるわけだ。
「あーあ、これからどうしよ……」
追放された俺は馬車の中でしょんぼりしていた。
とりあえず父の最後の情けで、エルメダ王国の辺境地帯まで馬車を出してもらえることになった。
現在はその馬車で街道を進んでいるところである。
目的地である辺境地帯には遠縁の貴族がいる。
貧乏貴族だそうだが、俺の面倒を見てくれるかもしれないんだとか。
「後はお前の交渉次第だ」
それだけ言って、父は去っていった。
「生き延びたければ、その家の養子にでもなれってことか……？」
けど、スキルをまともに使えず、実家を追放されたしまった俺を、その家は受け入れてくれるんだろうか。
まあ、何か仕事をあっせんしてもらったり、新しい生活基盤を作るために力を貸してもらうことくらいはできるかもしれない。
「なんなんだろうな、このスキルって――」
俺はあらためてスキルを発動した。
【××××・××】
……やっぱり読めない。
「……ん？」
待てよ。
よーく目を凝らすと、文字が、かすかに動いているような――。
錯覚だろうか？
でも、確かに文字が少しずつ動いて見える。
『×』にしか見えなかったものが、徐々に変化し、意味のある文字に――。
「そこまでだ」
いきなり、首筋にひやりとした感触が走った。
振り返ると、屈強そうな男が俺に剣を突きつけていた。
いつの間に馬車に入りこんだのか――。
