今まで何年も使っていたSNSが、突然サービス終了になった。
それは夏休みも半ばの蒸し暑い日。私は比較的過ごしやすい夜にゲームをしたり動画を見たりして夜更かしして、ソファーで寝落ちて昼過ぎにようやく眠たい目を擦り起きる。
サークル活動だとかアルバイトだとか、女子大生ながらそんな青春とは無縁の私は、休みは休むものとしてぐうたらと過ごしていた。
昼ごはんも食べずぐだぐだし、いつものように友達の呟きやDMの確認をしようとしたところで、いくらタップしてもSNSのアプリ自体開けないことに気付いたのだ。
「……は?」
あまりにも突然のことに驚いたけれど、ウェブ版ですら開くことが出来ず、これは不具合などではなく、サービス自体が終了したのだと悟った。
「えー……困る、告知とか何もなかったじゃん……!」
ネット上での趣味の繋がりはもちろんのこと、リアルの数少ない友達との交流の手段も、主にSNSだった。
メールアドレスもラインも知らない子がほとんどで、電話番号なんてもっての他。気軽に声をかけられるSNSこそ、一番慣れ親しんだ連絡手段だったのに。
「芹菜と明日遊ぼうって話してたのに、これじゃ連絡取れない……」
明日会う約束をしていた友達の芹菜とは、他にオンラインゲームでの繋がりもあったけれど、あのゲームにはメッセージ機能はない。
一言コメント欄で待ち合わせ場所なんかの個人情報を垂れ流すのはさすがに気が引けたし、そもそも向こうに気付かれるかも怪しかった。
とりあえず記憶にあるのは、あらかじめ決めていた『明日の正午に駅集合』ということだけだ。
「当日に現在地伝えればいいかって、場所もふわっとしてたし……会えるかなぁ」
連絡手段がないのはお互い様だ。明日会えるかどうかは運に任せるとして、地元がそこまで都会でもないことに生まれて初めて感謝した。大都会の駅なら、遭遇率は一気に下がっていただろう。
「んー、明日会うまでに、他のよさげなSNS見付けとこうかな……」
これを機にメールアドレスやラインを改めて聞くのもいいが、それはそれ。連絡手段だけではない、思い出の蓄積や同じ趣味の語らいの場。SNSはもはやただのツールではなく、生活の一部だった。
それを一夜にして奪われた今、喪失感に苛まれながらも、私は新規開拓をしようと考える。
もしかすると、芹菜も新しい場所を見付けているかもしれないけれど。それなら二ヶ所登録すれば良い。連絡手段を一つに絞るから、それが使えなくなって困るのだ。
そうして午後の茹だるような暑さの中、私はソファーに凭れ類似サービスを確認することにした。するとすぐ、検索の一番上に、以前使っていたものと大差ない使いやすそうなものを見付けた。
そのSNSの名称は『May who』。意味は直訳で『誰が出来ますか』だろうか。そんな挑戦的で聞いたことのない名前だったが、ゲーマーとしては難易度が高い方がテンションが上がる。そこを新天地にしようと、私は早速登録することにした。
「これいいじゃん! 名前の割に普通に使いやすそうだし、前のと仕様もほとんど変わらな……あれ?」
無事登録が済み、早速アイコンなんかを設定しようとホームに戻ると、『もしかして知り合いかも?』と表示された、ひとつのアカウントが目に留まる。
「メイミ……って、これ、芽依美のアカウント!?」
見覚えのあるアイコン、見覚えのあるIDの文字列、見覚えのある名前。
私は思わずそのアカウントを凝視する。
芽依美は、事故で亡くなった友達だった。
高校から仲良くなった芹菜とは違って、幼稚園から同じだったいわゆる幼馴染み。
趣味が合うとか考え方が近いとかそういうこともなく、けれど気付くと傍に居るような腐れ縁。そんな関係性が、何だかんだ心地好かった。
そのお陰で、ほぼ唯一メールアドレスが連絡帳に登録されていた友達だ。
なんとなく消せずにいたメールアドレスからの紐付けで知り合いと判断されたなら、きっとなりすましなどではなく、このアカウントは芽依美本人のものなのだろう。
「嘘……芽依美、別のSNSやってたんだ」
何でも知っていると思っていた友達の、知られざるアカウント。
覗いて良いものか悩んでいると、不意に通知が届く。
『リアちゃん!? 久しぶり!』
まだアイコンも設定していない私の元に届いたその何気ない挨拶は、今まさに確認しようとした、死んだ芽依美からのものだった。
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