「どうだ?」
開けられているドアをノックしながら、中に居る人物に声をかける。
「上村中尉。あぁ今は、大尉だったな」
「どっちでもいい。少しだけ給料があがっただけだ。権限も増えないし、使える武器も増えない。その代わり、机の前に居る時間が増えた」
「安全な場所にいて、給料が貰えて、文句を言うな」
「俺には合わないって言っているだけだ。前線がいい。書類整理は、俺には合わない」
俺が差し出した手を、白衣を着た年配の男性が握り返してくる。
「それで、清水教授。実験はどうですか?桐元が気にしています」
このマッドな教授は、言葉遣いには興味が無いようだ。俺としても接しやすい。桐元に丁寧語で話しかけるように言われているが、素が出てしまうのはしょうがない。前線で戦っている者の宿命だ。
「桐元君には世話になっているな。素材を横流し・・・。違った、調達をしてきてくれて、助かっているよ」
「それで?」
「見ていくか?」
「良いのですか?」
「論文は書き上がった。ギルドで行っている再試験の結果が出来るのを待っている。すでに、登録もされている。問題はない」
「それなら、見せてもらいましょう。俺たちが”命がけ”で採取してきた、魔石の使い途を!」
教授は、少しだけ、マッドな雰囲気を持っている。
実際に、都内の大学に努めていたが、魔物の研究がしたくなって、大学を退官して、ギルドの研究職に無理やり潜り込んだ。これだけなら、よくある話だが、ギルドの研究は基本的には他国で発見された新事実の追試や検証が仕事になっている。それでは、教授の知的好奇心を満たせなくて、自衛隊に交渉して、身分はギルド職員のまま、自衛隊での研究を承認させた。
教授が発見した物は多い。実用的な物から、意味がわからない物までだ。教授は、一つだけスキルを持っている。本人が、明言しているので間違いは無いだろう。”スキル:鑑定”だ。存在は、疑われていたスキルだ。教授が世界で初めて取得した。
しかし、ラノベにあるようなスキルではない。
鑑定は、魔物由来の物しか鑑定できないのだ。教授には、それで十分だったのだが、世間では落胆の声が響いた。反対に、安堵の声を上げる者たちも存在した。真贋の鑑定は出来ない。スキルで出来るのは、同じくスキルで発生した事象や魔物が関わっている物だけだ。
「これが、君たちに紹介したい魔石の使い方だ」
「え?」
実験の様子を見ても何をやっているのか理解が出来ない。
マウスが入っているケースや、魚が泳いでいる水槽が見えるだけだ。
「上村君。レポートは読み込んだのだろうね」
「読んだと思うか?俺に、あんな難しい書き方をした物が読めるか」
論文をレポートと言い切る教授の感性は別にして、魔石を与えた獣が魔物になったと言われた。桐元が、問題だと判断して俺が状況を確認しに来た。魔物を倒せば”スキル”が芽生える。その魔物が”人工的”に作られるとなると、いろいろ問題が出てくる。
「ふぅ・・・。だから、軍人は・・・」
「教授。俺だから、許されますが・・・。俺たちは、軍人ではありません。自衛官です」
「わかった。わかった。悪かった。それで、魔物化の話だな」
「えぇ」
「このラットも、金魚たちは、魔物だ」
「え?」
「今の所、鑑賞用以外の使い途はなさそうだ」
「それは・・・」
「まずは、このラットや金魚たちを魔物だと認定した理由だが、スキル鑑定を使った。それと、ラットと金魚から魔石が摂れる」
「は?」
「それだけではない。ラットは、1週間以上食事を与えていない。排泄もなくなった。金魚も、排泄がなくなった。食事は、水草を食べている様子が確認されたが微量だ」
「それは、餌の必要がなく、排泄も無い・・・。と?」
「あぁ君は、前線で戦っていたのだろう?」
「そうです」
「魔物が排泄をしているのを見たことがあるか?排泄の跡を確認したことは?」
そう言われて、思い返しても、魔物たちが食事をしているのは確認したが、頻度まではわからない。食事をしているのだから、排泄は有るのだと勝手に思い込んでいた。
「ないですね。糞があれば、記憶していると思います」
「これは、他のギルドに問い合わせたが、魔物の排泄を確認した者は居ない。しかし、食事は確認されている」
「・・・」
「わからないかね?」
「えぇ」
「はぁ・・・。魔物は、食べた物を100%吸収している」
「そうですね。だから?」
「君は、本当に前線で戦っていたのかね?」
「えぇ」
「食事が100%エネルギーに還元できるのなら、前線での食事が変わるだろう?」
「それはわかりますが・・・。教授。それは、ダメです。人を魔物化するような研究は、禁止されています」
「さすがに、そこまで愚かではない。しかし、これを見てみろ?」
教授が出してきた、ペーパーは、英語とは違う言語で書かれていて、全くではないが読めない。何かの研究資料のようだ。
「これは?」
「君は、古代ギリシア語が読めないのかね?」
「・・・。教授。教授以外で、古代ギリシャ語が読める人間が居たら、ぜひ紹介してください」
「まぁそうだな。それに、古代ギリシャ語じゃなくて、古代ギリシア語と言いなさい」
「それで?このペーパーにはなんと?」
「これは、フランスの”とある”宗教団体が行った実験の記録だ」
「え?わざわざ古代ギリシア語で書いているのですか?」
「そうだ」
「それに、宗教団体と聞いただけで、見なかったことにしたいのですが?」
「ダメだ。上村君。君には、これを桐元君に届けて、説明をしなければならない」
「はぁ・・・。わかりました。それで?」
教授の説明は、簡単に言って、”聞かなければよかった”レベルの話だ。上司が居る場所でよかった。俺は、上司である桐元に丸投げして忘れてしまおう。やはり、前線に戻る方法を考えたほうがいいかもしれないが、毒の後遺症で動きが鈍くなった左腕では戦えない。
「・・・。わかりました。桐元に丸投げします。実験の善悪は俺が判断することではないので、置いておきますが・・・。人が魔物化しないと解っただけで良かったですよ。魔石を埋め込むような・・・」
「そうじゃな。この実験室でも、ラットでは成功した。鳥類でも成功している。与える魔石の大きさに依存している可能性もあるが、今後の研究だな」
「教授。それで、肝心の魔物化の方法は?」
「そうだったな。食べさせても、埋め込む方法でもなく、もっと簡単な方法だ」
「それは、魚なら水の中に、魔石を入れるだけだ。ラットなら、魔石が入った飲水を与えたり、魔石を直接食べさせたり、簡単な方法だと魔石の近くで飼育するだけだ。詳細な実験や経緯は、論文を参照してくれ」
「・・・。教授。例えば、俺たちの最前線で戦って居る者たちは、必ず魔石を回収してくるわけではない」
「そのときに、野生の動物や昆虫がいたら・・・」
「魔物化するな」
「魔物化した動物や昆虫の見分ける方法はあるのか?」
「食事や排泄を観察するか、殺して魔石を取り出すしかない。鑑定があれば認識はできる」
「・・・。教授。もう一つ・・・。教えてくれ」
「なんだ?」
「その、魔物を殺しても、スキルが芽生えるのか?」
「これは、まだ確定はしていないが、スキルを持っていない助手が、100匹の魔物化した魚を殺したが、スキルは芽生えなかった」
「そうか・・・」
「研究所では、魔物を殺して、魔石になった時点で、スキルは与えてしまっていて、魔石は、残滓ではないかと結論づけた」
「残滓?」
「そうだ。魔物だった物ということだな」
「はぁ・・・」
研究者と話をするのは疲れる。無駄に気を使うし、頭も使う。
しかし、魔物が大量に生成されて、スキルが大量に芽生えるような事態にならないのは僥倖だ。我が国のためだけではなく、魔物化したラットを某国が入手して、スキル持ちを大量に作成した場合には、戦力として使い出すのは確実だ。そうなった場合、我が国も座して待つわけにはいかない。スキル持ちを増やさなければならない。それこそ、希望者全員にスキルを芽生えさせないと、人数で負けている状況で戦争にでもなったら・・・。
ひとまず、回避できたのは良かったが、この研究が進めば、どういった状況になるのかわからない。研究所を、桐元が手元に置いている理由がよく分かる。権力者には渡せない。もちろん、他の部隊にも渡したら、どうなることか・・・。
爆弾を抱え込んだ気分だが、知らない状態で、爆弾を渡されるよりは、いい環境だと思っておこう。
最前線ではないが、国防の最前線に居る気分になってきた。
今日も、裏庭に来ている。
最近、日付の感覚がなくなってきている。曜日は、リビングにあるTVで認識が出来る。
スライムには、学校も仕事もない。裏庭で遊んでいても、昼まで寝ていても大丈夫だ。積み本や積みゲームの消化が捗る。
裏庭に作った池を覗き込む。魚たちも元気だ。
え?うそ?
2つ設置した巣箱に、何かが入っている。
あと、水瓶近くにも、動物が居る。水瓶の近くには、妹が作った犬小屋みたいな物を置いてみた。
巣箱は、二箇所だけど、両方に何かが入っている。
こんなに早く?前に設置した時には、結局入ってくれなかった。もしかして、池を作ったのが良かったのかな?魚が居るし、餌があると思ったの?
よくわからないけど、来てくれたのは嬉しい。
どうやら、片方はフクロウだ。もう一方は狭いのに・・・。ワシ?お祖父ちゃんが、”裏山にはワシが住み着いている”とか言っていたけど、本当だったの?でも、なんで?
それに、水瓶の近くには、猫とハクビシンが一緒に居る。よく見ると、池の周りにも、トカゲとか蛇とか隠れている。
一日で、急に動物が寄ってくるのは、流石におかしいと思う。それとも、元々近くに居て、水場が出来たから寄ってきたの?
よくわからない事だらけだとけど、極めつけは、動物たちが喧嘩をしていない。捕食する立場の者が居て、捕食される側の者も寛いでいる。魚も減っていない。それどころか、池の中の生き物が増えているように感じる。池を拡大したほうがいいのかな?亀?どこからきたの?
まだ狭そうにはしていないから、広げるのなら、今のうちだな。使っていない。プラ池を埋め込んで、水の道を作ればいいかな?幸いなことに、アイテムボックスには、川の水がまだ残っている。
池の増設は、苦労した。
動物たちが逃げないので、余計に神経を使った。スライムに神経があるのかわからないけど、アイテムボックスを使った穴掘りとか、本来の使い方ではないと思うけど、スライムでは他にやり方がない。スコップが使えたら、違うのかもしれないけど、私にはアイテムボックスを使う方法しか思いつかない。
時間を確認したら、15時を回っていた。
スライムボディになってから、食事を必要としないのか、お腹が空かない。
動物たちの餌をどうしようか?
勝手に食べに行くのかな?今まで、裏山で生活してきたのなら、大丈夫だよね。そんなに、豊富に餌があるとは思えないけど、もしかしたら餌が必要になるのかもしれない。難しいな。魔物になったのだから、動物たちと会話が出来たら楽なのに・・・。
出来ないことを、考えるのは不健全だ。スライムが健康を考えても仕方がないのかも・・・。でも、健康は大事だ!多分、スライムでも必要なことだ!
そう言えば、魔石の使い方を調べた時に、”魔道具”には魔石が使われている。らしい。ゴブリンの魔石で、学校に配置している”スキル検査キット”が3年ほど動くらしい。ゴブリンの魔石がどの位の大きさかわからないけど、錬成した魔石も同じくらいかな?
魔石は、魔物の心臓と表現している人も居るから、心臓と同じくらいだと考えれば、庭に配置した魔石はゴブリンから得られる魔石と同じくらいだと思って良いのだろうな。もう少し大きくならないのかな?何か条件があるのかな?
魔石は、今日も綺麗に光っている。池の中に入れた魔石は、光の乱反射が綺麗だ。水の中で光っているから、乱反射しているのだろうけど、魚も近づいて居るし、悪い物ではないのだろう。
魔石も謎だけど、得たスキル結界も謎だ。検索をしても情報が出てこない。出てくるのは、ラノベとかで使われている情報だけだ。
結界を発動して見れば何かが解るかな?
え?何か出た?
アイテムリストのようになっている。へぇスキル結界は親切な設計だ。
オプションを設定して、対象と範囲を選んで発動。
庭に設置した魔石も対象になっているようだ。自分はダメみたいだ。なんで?スライムにこそ、必要だと思うのに・・・。
オプションを選ぶと、本当に親切だ。他のスキルも見習って欲しい。
結界は、オプションを選ぶと、詠唱?スキル名?の表示が変わる。説明は書かれていないが、スキルの起動式だと思える。一旦、結界をキャンセルしてから、覚えた起動式を使ってみる。
”結界:物理防御:スキル防御:認識阻害:30メートル:発動”
お!本当に発動した。
足りないのは、対象だ。対象は庭の魔石にしよう。
固定?しか選択できないから、固定を選択して、実行。
結界が発動した?
よくわからない。もう一度、結界を発動すると、今度はリストになった。発動している結界なのだろうか、先程の起動式が書かれている。対象の指定がされている。”合成魔石”が結界を付与した魔石の名称のようだ。
情報は、それだけではなく、時間が表示されている。時間?2,878,859,025?カウントダウンしている様子から、”秒”かな?電卓が欲しい。かなりの日数だろう。たしか、一日が86,400秒。5桁も多い。うん。よくわからないけど、10年くらいは大丈夫だってことだね。スキル判定が3年だから、結界はかなりエコ設計なのかな?
適当に、30メートルって指示したけど、庭の魔石を中心に30メートルの球状?
そうだ、裏山に出てみれば解るかな?
家を見下ろせる場所まで移動して、確認してみた。
うん。家は変わらない。あっ魔石の光が見えない。結界の範囲がわからないのは不便だな。でも、色とか付けたら、結界がバレてしまうから、しょうがないのかな。あっよく見ると、なにか、膜みたいな物が見える。あっ消えた。よく見ようとしないと見えないのかな?誰にでも見えると困るけど、よく見たいとわからないのなら、勘違いだと思ってくっるよね。
せっかく、裏山に来たから、散策をしよう。
お祖父ちゃんもあまり行かなかった東側に言ってみよう。
触手を使って、木々を掴んで立体機動で移動する。爽快な気持ちが、嫌な考えを吹き飛ばしてくれる。もっと、もっと、速度をあげよう。木々をギリギリで躱しながら、速度を上げていく、東側にたどり着いた。
あまり手入れをしてこなかった場所だ。
洞窟とかもあると聞いた。毒蛇も多いから、行かないようにと言われていた。
道も作られていない場所なので、優秀なスライムボディになって初めて訪れた場所でもある。
たしか、隣の山との境目に石垣が作られていると言っていたから、あの石垣までが、家の裏山だ。
来てみたけど、何か目的が有ったわけではない。
飛び回るように、木々の間を抜けていく、猪とか狸とか、野生動物の姿も見える。
人の手が入っていないし、裏山の奥には、裏山よりも高い山がある。そこも木々が生い茂っている。人が入る場所ではない。
湧き水を発見。
岩の隙間から水が湧き出ている。これが、川に繋がっているのだろう。
え?
あっ・・・。洞窟を発見。しかし、洞窟に入っていく二足歩行の動物は、人では無かった。全裸に見えた。身長は、2メートルを越えている。スモウレスラーのような体格をしていた。動揺して、力士をスモウレスラーと表現してしまった。
ゲームなどで見たことがある。”オーク”だ。
何をしているのかわからないけど、洞窟を出たり入ったりしている。何かを持っている印象はない。偵察でもしているのか?
いろいろな方向に出ては、戻ってくる。
倒そう。
ゲームだと、オークは初期の方に出てくる魔物だ。ゴブリンを倒したときのように、岩を落とせば倒せるだろう。一個でダメでも、複数を連続で落とそう。
洞窟から出て、戻ってきた所で、一番大きな石を、オークの頭上から落とす。洞窟から少しだけ離れた場所で狙いを定めた。歩く速度がゆっくりだったので、狙いがつけやすかった。
見事に岩が頭上を捕らえた。
血が飛び散るわけでもなく、岩に押しつぶされるように、オークが消えていた。
(なんの肉かわからない)肉の塊と、1cm程度の魔石が残された。
(なぜだ!何故だ!理解できない!)
彼は、塾が終わると、昆虫を魔物化して殺していた。すでに、3桁を越えて4桁に届きそうなスライムを殺している。しかし、彼が望むような変化は訪れない。
(虫だからなのか?僕のような天才がスキルを得る為には、虫ではダメなのか?)
彼が次に狙ったのが、中学校の池に居る魚たちだ。もちろん、自然に出来た池ではなく、貯水湖の役割を持っている。彼は、塾に行く前に、貯水湖の栓を抜いている。それほど大きくない池なので、塾が終わる時間には、膝丈以下まで水位は下がっている。目視で鯉が見られる状態だ。それほど手入れはされていないが、水位が下がったことで、苦労しないで魚を見つける事が出来る。
彼は、手当り次第に、スライムにして、殺していった。
しかし、彼はここで間違いを犯した。
水の中に居る生き物という曖昧な設定で発動したスキルが、魚以外にも適用されてしまう。池には、魚以外の生物ももちろん住んでいる。彼は、見える所のスライムだけを殺した。それでも、20や30の数ではない。魚以外もスライムになったと考えられるのだが、彼には些細な問題だ。
(魚でもダメなのか?それなら・・・)
彼は、ひとまず家に帰る。
抜いた池の水を元に戻す必要性を感じて、栓を戻して、注入する水量を増やした。問題にはならない行為だと考えていた。
通常なら、池の水位が上がった時点で、注入する水量を元に戻せばいいのだが、彼がわざわざ戻ってきて、水量を戻すような行為をするはずがない。
最大の水量が流れ込む池は、またたく間に水位が上がる。
彼がスライムにした多くの魚や虫たちが残っている。池の底は、泥で覆われていた。泥の中には、魚以外にもカエルやドジョウやヤゴなどが大量に住んでいた。彼は、これらの生き物を全てスライムにした。元々、泥の中に居た為に、スライムになっても泥の中に留まった。彼が虐殺を行っている最中も、泥の中で彼の行為から逃げていた。彼が、虐殺した数の数倍に匹敵するスライムが、泥の中に潜んで、彼の蛮行をやり過ごした。
通常の魔物なら、魔物同士で戦うのだが、彼が作ったスライムたちは、いわば同族だ。
泥の中で過ごしていたスライムたちは、意識しないまま、同族で集まった。
そして、池の水量が増して、池は溢れ出す。
いくつかの塊になっていたスライムたちは、脱出時に際して、同族が集まって、一つの個体になった。
スライムが集まって何になる?
ラノベ展開では、ビックスライムやヒュージスライムやキングスライムと思われるが、残念ながらスライムは、どれだけのスライムが集合してもスライムでしかない。ただ、核が複数存在して、全部の核が壊されて初めてスライムとしての生が終わるという化け物になっただけだ。
新たに産まれたスライムは、中学校の池からの脱出に成功する。自分たちを作った者ではない。自分たちと同じ者が居る場所を目指す。多くの仲間たちが、虐殺された。多くの同胞たちが、最後に頼った者が居る。多くの仲間たちを受け入れた者が居る。近くて遠い場所に・・・。
彼は、知らなかった。
彼を憎んでいる者が産まれていることを・・・。
彼は、知らなかった。
彼を殺したいと思っている者が産まれていることを・・・。
彼は、知らなかった。
彼が虐殺するたびに彼を憎んで殺したいと思っている者が力を得ていることを・・・。
彼は、間違っていなかった。
彼は、彼が望んでいた通りに特別な人間だ。
---
今日もダメだった。
魚ではなく、ネズミをスライムにしてみたが、ダメだ。
くそぉ。ネズミはなかなか見つからない。ペットショップで買おうにも、そんなにお金がない。ペットショップや猫カフェに居る獣をスライムにして、僕の糧にしようかと思ったが、誰が見ているかわからないし、ニュースになってしまう。
中学校も、あれから警備が厳重になった。
あれは、天才の僕にしては珍しいミスだ。気持ちが焦っていたのかもしれない。水を出しっぱなしにしてしまった。それで、池が溢れ出して、問題になってしまった。池の魚が消えたとか問題になっていたが、野犬や野良猫が持っていたのだろうと推測されていた。
経験値は少ないだろうが、やはり昆虫をターゲットにしたほうが良いのだろうか?
はやく、偽装や隠蔽のスキルを得ないと、僕が偉大なスキルを持っているとバレてしまう。バレるのは、問題ではないが、早すぎる。アイツらが警戒してしまう。それに、こんな偉大なスキルを持っていると、自衛隊が戦っている最前線に送られてしまう可能性もある。
あれからママは、帰ってきては、すぐに奴の所に向かう。何をしているのか知らないけど、奴を連れて帰ってくるつもりなのだろうか?
パパからは何も教えてもらえない。
毎日、少ないけどお金が貰えるからパパは殺さないで置いてもいいかと思い始めている。
僕は、人類を選別する立場になっている。
まだ、僕の偉大さに気が付かれていないが、僕の偉大さが解ってしまえば、皆が跪くに決まっている。
だからこそ、動きやすいように、新しいスキルが必要になる。
偉大な僕だから、経験値が必要になってくるのは理解が出来る。
何か、方法を考えなければダメかもしれない。
そうだ。
良いことを思いついた。
夜に、養鶏場に忍び込んで、鶏を・・・。さすがは、僕だ。完璧な計画だ。
田舎の山の中に有るような養鶏場なら、防犯施設があっても、僕のような天才なら解除は出来るだろう。解除が出来なくても、すぐに逃げれば大丈夫だ。鶏が一気にスライムになって殺されるとは考えないだろう。
そうだ。昆虫でもダメで、魚でもだね。それなら、鳥類だ。鶏なら、入ってくる経験値も多いだろう。
---
彼は、養鶏場の鶏を魔物化する計画を実行、出来なかった。
彼は、父親の運転する車で養鶏場の近くを通った記憶があり、簡単に行けるものだと思っていた。
彼の家の近くには、養鶏場はない。
この地方の特有の事情なのかもしれないが、養鶏場は存在するが、山の中に点在している。
そして、車で20分ほどの場所にある養鶏場は、歩いていける距離ではない。根性があり、なんとしても歩こうと思えば、到着は出来るだろう。しかし、安易に考えて、何事も都合よく考える彼が歩けるような距離ではない。もちろん、自転車を使っても良いのだが、楽な方に逃げる彼が山道を自転車で登ろうとは考えない。何かしらの理由をつけて、勝手に折り合いをつけて、辞めてしまう。
彼の養鶏場・大虐殺計画は、彼の性格から実行できなかった。
しかし、彼は小学校に忍び込んで、小学生たちが育てている。鶏やウサギを虐殺することを思いついてしまった。
防犯カメラが有るのだが、フードをかぶって、顔を見られなければ大丈夫などと安易に考えて実行してしまった。
昆虫の大虐殺に始まって、中学校の池の魚を殺して、街で見かけたネズミを殺して、今日、彼は鶏とウサギを殺した。
彼は小心者だ。
自分を天才で、特別な人間だと思っていなければ、精神の均衡が保てない。
彼の境遇は、同情すべき部分が多い。
しかし、それは彼が動物を虐殺していい理由にはならない。同級生を呼び出して、偶然現れた女子生徒をスライムにしていい理由にはならない。彼は、被害者でありながら、加害者になってしまった。
彼はスキルを得た事で、間違えてしまった。
彼は間違えてしまった。スキルを得た時に、スキルを公表すべきだったのだ。
彼が犯した間違いは、スキルの使い方だ。
彼が皆から尊敬される未来が存在していた。彼が考える、なりたい自分になれるチャンスを自ら手放したのだ。
僕たちは、産まれたばかりのスライム。自分が、スライムなのを、なぜか理解している。
僕たちが、どうやって産まれたのかわからない。僕たちは、スライムとして一体だけど、一匹ではない。
僕たちは、池で生活をしていた。でも、スライムに生まれ変わった。
今、僕たちは、2つの気持ちに支配されている。
一つは、ご主人さまに会いたい。遠くに居る。ご主人さまに会いたい。僕たちは、産まれた時から、ご主人さまと繋がっている。ご主人さまのために、僕たちは産まれた。でも、僕たち以外の僕たちは、無残にも殺された。なんで、殺されたのか、誰に殺されたのか、僕たちにはわからない。
それが、もう一つの気持ち。僕たちを殺した者に復讐したい。いくら、僕たちがまとまっても、殺されるだけだ。
だから、遠くに居るご主人さまに会いに行く。
僕たちの気持ちを受け取ってくれた優しいご主人さまに・・・。
---
彼が魔物化した魚や昆虫たちは、個での活動は不可能だと悟って、一つにまとまった。スライムの形をした、スライムとは違う魔物になっている。一つにまとまったスライムは、感情と知性が芽生えた。スキルが芽生えなかったことへの代替なのかもしれない。弱い感情も、集まれば大きな強い感情となる。
全ての小さな感情が同じ方向を見ていた。
そして、スライムは彼女の下に移動を開始する。
月下での移動だが、スライムは確かな足取り?で、”ご主人さま”の下に急いだ。
名前を貰い、名実ともに、ご主人さまのモノになるために・・・。
---
はぁはぁはぁ。
んっくっ。
今日も酷い感情の流れだ。
慣れたくない感情の嵐だ。うまく、蓋をして、感情を殺している。抑え込んでいる。いつ、溢れ出しても不思議ではない。
今回は酷かった。連続して襲ってきた感情に潰されそうになってしまった。声が出ないのに、声が出そうになってしまった。きっと、乙女としては出してはダメな声だ。それほど、苦しかった。怖い夢の中で、さらに怖い夢をみてしまうような、わけがわからない状況だ。いつまで続くのか解らない終わりのない拷問を受けているような感じだ。
私を苦しめる奴への憎しみが増大していく。不安なのではない。憎しみの感情だ。殺したいほどの憎しみの感情が押し寄せてくる。
憎しみの感情の波が収まってから、私の所に何かが向ってくる。私に会いたいと思っている感情だ。
なんの感情かわからない。でも、たしかに私を探している。
(私はここ!)
声は出せないけど、私の存在を向けられている感情にぶつける。
歓喜の感情だ。それと、私に会いたいと思ってくれている。
何物かわからない。味方なのか、敵なのかも、何もわからない。でも、私も会いたい。会わなければダメだと感情が告げている。
誰なのかわからないし、どこに居るのかわからない。でも、私の所まで来てくれる。私は、自分の家で待っていればいいの?
そうだよね。
私は、貴方を知らないけど、貴方は私を認識できるよね。
---
「清水でスライムが居た?」
私が、ギルドに出社して最初に聞いた報告だ。
「主任。どういうことですか?」
「茜。報告の通りだ。スライムを見かけたと、ギルドに問い合わせがあった」
「清水のどこですか?」
「今、発見の連絡があった場所を辿っている」
「そんなにあるのですか?」
「あぁ最初は、ジャスコの近くだ」
「主任。イオンですよ。」
「そうだな」
「でも、おかしいですよね?」
「あぁ。山側の学校とかなら、可能性は否定しないが、あの辺りにいきなりスライムが出る可能性は考えにくい、そう言いたいのだろう?」
「はい。岐阜では、川沿いにスライムが現れたことはありますが、それは川にスライムが流されたのだと、結論が出ています。他国のギルドでも、川で流された魔物が遠くで見つかった例があります」
「そうだ。しかし・・・」
「はい。巴川は、魔物が生息する火山からは離れた水系だ。それに、イオンは巴川からも距離がある」
主任と話をしながら、パソコンを起動する。
PINコードを入力してから、生体認証を通す。OSが起動すると、同時に同期からメールが届いた。主任と私宛で、スライムの目撃情報とサブジェクトが書かれている。メールを開くと、清水の広域地図と、17箇所にピン立てされている。ご丁寧に、スライムのマークのピンだ。
時間の前後があるが、最初の発見場所は、有東坂池多目的広場のようだ。こんな所に、いきなりスライムが発生するわけがない。
そのまま山の方向に進路が設定されている。東寄りになっていることから、確実に目的があるように思える。
「移動の速度が早いな」
時間のズレがあるだろうけど、最初に発見されてから、最後の発見場所になっている国一バイパス近くまで、1時間で移動している。普通に、人が歩いてもギリギリかもしれない。
「そうですね。人の徒歩と同じくらいですか?」
「里見。考えられることは?」
「主任。私達は、推測を言う部署ではないと思います。対処はどうするのですか?」
「もう無理だろう?」
「え?」
「最初に見つかった場所から、最後に目撃された場所まで、ほぼ直線だ。どんな方法で移動したのかわからないが、見つかったスライムには、はっきりとした目的がある」
「そう思えます」
「だろう?それなら、その線を伸ばした先に、スライムの目的地があるということだよな?」
線上に何があるのか?
目撃場所がほぼ一直線なのも気になるが、等間隔なのも少しだけ気になる。
スライムは、空を飛べない。
スライムの移動は跳ねるだけのはずだ。
「はい」
地図をまっすぐに伸ばす。清水や近郊では無いだろう。地図を大きくすれば・・・。
現れてくるのは、富士山だ。
魔物が産まれる、3,000メートルを超える火山だ。富士山のどこで、魔物が産まれているのか、まだ解っていない。他の国のギルドでも同じだ。魔物が産まれる瞬間を観測した者は少ない。規則性が見つけられていない。規則性を見つけられたら、大騒ぎになるだろう。それが証明されたら、ノーベル賞は無理でも世界的な表彰を受ける発見だ。
川を跨いで魔物が産まれることがないと言うのが、今までの見解だ。
しかし、今回は富士山から、何本もの川を越えた場所でスライムが”初めて”見つかった。誰かが、スライムを捕まえてきたのではなければ、見つかったスライムは清水で産まれたことになる。
「富士山ですか?」
「そう考えるのが簡単な答えだろうな」
「はい」
それに、国一バイパスを越えて、民家を越えてしまえば、そこはもう山だ。興津と由比の間にある山に入られたら、スライムを探すのは、主任が言っている通りに、無理だろう。
それに、国の対応が遅れたことで、あの辺りの山には、まだ”はぐれ”が居ると予測されている。スライムが、はぐれの魔物と遭遇したり、獣と遭遇したり、討伐されてしまう可能性がある。
主任はまだ地図を眺めている。
「どうしますか?」
「そうだな。義務として、警察と自衛隊に、スライムの目撃情報と、こちらの推測を付けて、送っておく。簡単な報告書にまとめてくれ」
「わかりました」
「あと、住民に、スライムを見つけても近づかないように警告を出す。草案を頼む」
「わかりました。倒さなくてもいいのですか?」
「それは、ギルドの・・・。我々の業務ではない。自衛隊や警察の仕事だ。私たちは、魔物や魔物に関係する情報をまとめるのが仕事だ」
移動速度の問題も解決していない。
解決していないが。考えるだけ無駄なのかもしれない。魔物に関しての研究は始まったばかりで、実際には、ほとんど何も解っていない状況だ。
「それにしても、このスライムは、どこで産まれたのでしょう?」
私の独り言に誰も答えてくれない。
私も誰かの答えを期待したわけではない。ただ、何か、私達が知っている常識外のことがお膝もので発生しているような感じがしてしまった。
夜に寝られるようになった。スライムです。乙女の敵である体重計に乗ったら、体重が測れなくなっていて、少しだけ落ち込んでいます。
眠くならないのですが、寝る方法が解った。感情を切り離す訓練をしていたら、意識を手放す方法が確立できた。
やっぱり、夜に寝られないと、気持ちが悪い。
しかし、ここ数日は起きるのに、スマホのバイブではない。
なぜか、増えている裏庭の動物たちの鳴き声だ。
結界を張っているのに、なぜか動物が増えている。悪意があるわけでも、私を攻撃してくるでもなく、動物同士で喧嘩するわけではない。そもそも、裏山に沢山の動物が居たのに驚愕している。
うーん。結界があるから、安心して居られるのかな?
水場もあるし、でも猛禽類も一緒なのに良いのかな?
ミツバチも飛んでいる。
あっ養蜂箱は、結界の外だ!
うーん。
裏庭の拡張をしよう!
寝ている最中に、また魔石が溜まった。なんとなく、私の役に立ちたいと思ってくれているように思える。
この魔石は、あの感情の素だと思う。だからこそ、しっかりと使ってあげたい。
裏庭だけでは狭くなってしまっている、動物たちの住処を作ろう。
私には、時間がある。
学校には、パソコンから休学届けを提出した。電話は出来なかったから、メールだ。担任からは、考え直して欲しいと言われたけど、生活と学業の両立が難しいという理由にした。遠くに居る親戚を頼るという理由を付けた。そして、親戚の所に行くことが決まったために、休学したいと告げた。親戚の家までは聞かれなかった。
親戚が受け入れてくれたら、退学届けに切り替えるつもりだと、説明した。何度か、メールのやり取りをした。電話で説得したいとか、家で会えないかと言われたが、断った。会えるわけがない。私だって、会って・・・。学校は、卒業したい。でも、無理だ。スライムが学校に行けるわけがない。
担任とメールのやり取りをしていると、なんで私が・・・。そんな感情が芽生えてしまう。私は、好きでスライムになったわけではない。学校にも行きたい。もっと、いろいろ勉強をしたかった。もっと、知らないことを知りたかった。全部が”出来なくなった”とは、考えたくないけど・・・。私の些細な幸せは奪われた。理不尽に、魔物にされた。
誰が?
なんの為に?
でも、切り替えるしか無い。
時間は戻らないし、私は私だ。私が、ここで落ち込んで、スライム生を閉じたら、私をスライムにした奴に負けたことになる。勝ちたいわけではないが、負けるのはイヤだ。だから、私は、スライムとして好きに生きる。そして、私の感情を満たすための行動を優先する。
裏庭の拡張は、出来たこぶし大の魔石の数で決めようと思う。
あれからも魔石が送り込まれる。
錬金でまとめた魔石は、全部で7個にもなっている。
一つは、養蜂箱の近くに置いて結界を展開する。手慣れた物だ。
裏庭の拡張の副産物で、自分自身に結界を発動する方法が解った。
正しいかわからないが、魔石を使う方法だ。こぶし大に大きくした魔石ではなく、5個程度をまとめた魔石に結界を付与して、自分で持つと自分自身に結界が発動したようになる。結界を発動した時の感じだと、私が魔石を吸収しているようになるが、よくわからない。食べるとも違うし、持っているが一番しっくりくる言い方だ。自分の周りをうっすらとした光の膜がある感じだ。これが結界なのだと思う。試しに、触手を伸ばして、触手の上に岩を落としてみた。結界に触れた所で、岩が横にずれたので、結界が有効になっているのだろう。
これで、私はさらに最強のスライムになった!スライムの最強に上り詰める!
自分で考えておいて、最強のスライムは、リ○ル様だよね。なんて言っても、覚醒魔王だし、一回では覚えきれない種族だよ。
いいかな。死ににくくなっているのは間違い無いのだし、私がやりたいことの為にも、今後もスキルの検証は必要だよ。
養蜂箱の近くに、結界の魔石を設置する。
この辺りは、クヌギもあるし、楓もある。裏庭と同じで、他の昆虫が集まってきそうだけど・・・。大丈夫だよね。うん。きっと。大丈夫。もう設置しちゃったし、養蜂箱を守るためにも必要なことだよね。東側には、オークがいたし、他に魔物が居る可能性だってある。
そう言えば、オークを倒した時には、スキルを得なかったな。
必ず芽生えるわけじゃないってギルドにも書かれていたから、気にしないけど、あの肉って食べられるのかな?アイテムボックスに入れっぱなしだ。なんとなく、オークの魔石は、送られてくる魔石と分けている。一緒にしちゃぁダメな気がしている。
調べてもわからない。わからないから、自分の”感”を信じる。
オークの魔石と、送られてくる魔石は別物!決定事項。
裏庭の拡張計画を実行しよう。次は、排水の為に配管した場所だ。水場があれば、わざわざ裏庭に来なくても、大丈夫になるだろう。
裏庭は、安全な結界があり、水場があるから、動物が集まっているのだろう。
水場に結界を設置する。
今の状態だと、結界を設置した場所のそれぞれが独立してしまっている。
やはり、繋がっていたほうがいいよね。
幸いな事に、魔石はまだ残っている。
結界が重なるように配置していく、裏庭が何倍に広がった。
今日は、ここまでにしよう。
帰って、オークの肉や魔石を調べよう。
結界の魔石が一つだけ残ったから、家の門が入らないように設置しよう。そう言えば、通販もまだ調べていなかった。
やることが増えた!
今日は、帰って、お風呂に入って、パパのパソコンで調べ物の日にしよう。
へぇオークの肉って食べられるの?美味しいって書かれている。
え?なんで?
私、英語が読めているの?スライムだから?英語が読めるようになったの?すごい!学校に行けたら、英語の授業で困らなかった。ちょっとまって、英語だけじゃない。ドイツ語もフランス語もハングルも読める。
待って、待って、スライムボディ。すごく優秀。
言語で困らないなんて、素敵な状況だ。あとは、人化があれば・・・。
さすがに、人化のスキルなんてないよね?
ギルドには登録されていない。そう言えば、ギルドのデータは全世界で統一されていると書かれていたな。自動翻訳されて表示されるとか書かれていた。アイテムボックスは、日本で見つかった物ではなくて、海外で見つかったので、登録は現地の言葉だ。でも、自動翻訳でページが翻訳されるので、日本語で読める。ニュアンスがおかしい場合があるから、日本のギルド職員が日本語に直しているらしい。
スライムの真実は、スライムが居て、意思の疎通ができれば、簡単なのにね。
お金に困ったら、ギルドで雇ってくれないかな?翻訳が得意なスライムです!とか、貴重じゃない?
そうだ!
アイテムボックスを登録したギルドで読んでみて・・・。ダメだ。自動翻訳って優秀だね。ほとんど、同じだった。
オークの肉が食べられるのは、大きな発見だ。
大きな肉の塊だ。私のアイテムボックスなら時間が止まっているから、肉も悪くならない。熟成はしないけど、腐るよりはいい。多分、4-50キロはある。しばらくは肉には困らない。
あっ!裏庭に来ている肉食の動物に振る舞ってもいいかもしれないな。
海外のサイトでは、魔物が魔石を吸収するとか書かれていたけど、私はスライムで魔物だ。魔石を吸収出来るのかな?
オークの魔石と、どこから来ているかわからない魔石だけど、どこから来ているかわからない魔石は、吸収したくない。なんか違う感じがする。オークの魔石は吸収してみても良いかもしれない。
吸収って食べれば良いのかな?
やり方が書いているサイトは見つからなかった。
食べるようにすれば良いのかな?
そんなに大きくないし1cmくらいかな?大きな飴玉だと思えばいいのかな?赤と青と緑と黄が、綺麗に混ざり合っているすごく綺麗な飴玉に見える。
ギルドでも魔石の大きさは書かれていなかった。1cmやこぶし大の魔石の値段を知りたかった。買い取り値段だから、時価で秘密なのかな?
スライムになってしまった彼女の犠牲者が居るとしたら、ギルド日本支部の”情報管理課”兼”スキル管理課準備室”兼”登録者管理課準備室”の職員だろう。その中でも、ほぼ彼女の担当と言っても良いようになってしまっている、里見茜だろう。
彼女は、父親が趣味で作った環境が”異常”だとは知らない。今後も気がつくことは無いだろう。そして、スライムになってしまった自分が、外でスマホを持っているのは、おかしいのではないかと考えて、スマホを部屋に置きっぱなしにしている。
彼女が、ここ数日でギルドに与えた衝撃は、徹夜作業に慣れている職員を絶望の表情にさせる程度の事だ。
まずは、”結界と魔石”を調べて、その後で、効果や範囲などの具体的な言葉が検索されている。ログを調べていた職員から、言葉が消えた瞬間だった。
世界的な規模で展開しているギルドには、それだけの情報が集まっている。予算も、潤沢とは言えないが、小規模な国家の年間予算に匹敵する予算が割り当てられている。予算を使って、汎用機を用意して、大規模な機械学習を行っている。検索されているワードを使った、行動解析が行われている。その中から、新しいスキルを得た者の行動が判明してきている。
情報を扱う部署に渡されているツールで、ファントムの行動を分析する。
「茜。この結果は・・・。そうだよな。”賢者”が弾き出したのなら・・・」
「残念ながら、ファントムは、84%の可能性で、”スキル結界”を取得しています。それから・・・」
「なんだ?ファントムの所在が解ったのなら歓迎するぞ?」
「いえ、ファントムが多数の魔石を持っている可能性があります」
「は?」
「これも、”賢者”の分析ですが、ファントムは魔石の使い方を実験している可能性があり、その結果、ファントムは”魔石を大量に持っている”と、”賢者”は結論を出しています」
「・・・。里見。他のギルドから、ファントムに関しての問い合わせはあるのか?」
「現在まで、他国からの問い合わせはありません。こちらからも、他国に問い合わせをしていません。それに、”賢者”の問い合わせ履歴は、秘匿されている建前があります。私たちが、ファントムを他国に紹介しないかぎりは大丈夫だと考えます」
「そうか、それだけは救いだな。部内と部外の情報は?」
「”賢者”の結果は、部内にも出ていません。しかし、ファントムの存在は部外にも出ています。しかし、ログに触れるのが、私たちだけですし、箝口令を発布していますので、情報の漏洩は心配しなくて大丈夫だと思います。しかし・・・」
「解っている。ファントムの異常な行動が発生するまえの情報は流れてしまっている。だろ?」
「はい。異常・・・。そうですね。蠱毒が絡みそうな辺りからは、秘匿に設定を変更してあります」
「助かる。さすがに、爆弾だな。たしか、特定のアクセスに、タグ付して情報を秘匿設定にできたよな?」
「既に設定は行ってあります。なので、部署でも数名で”賢者”と格闘しました」
「すまない」
「謝罪は、言葉でなくて、態度で示してください」
「わかった。わかった。賞与は・・・。ダメだな。成果を公表できない」
「・・・」
「睨むな。わかった。キルフェボンで好きなタルトを買ってやる」
「・・・」
「ワンピース。じゃなくて、3・・・。4ピースだ。これ以上は無理だ」
榑谷は、関係者の頭数を数えて、財布の中身を思い浮かべる。
キルフェボンと言い出したことを少しだけ後悔するが、これで、部下たちの気持ちが前向きになるのなら、安い出費だと覚悟を決めた。
「はぁまぁ妥協しましょう。ルピシアで紅茶もお願いします。季節のフレーバーを付けてください」
「わかった。経費は無理だな・・・。はぁ高く付く・・・。(ファントムが見つかったら、魔石を融通させてやる)」
紅茶は、皆で飲むように買っているが、経費ではない。有志が出しているお茶代から買われている。主任である、榑谷は皆よりも多くの金額を出している。そこに追加で出す必要がある。
平和的に、ファントムの評価が上がっていく。
「主任。他の報告も必要ですか?」
「他?ファントム以外の報告は、もう貰っているぞ?」
榑谷は、机の上に置かれている書類を指差しながら、里見に告げる。既に読んでいて、問題の把握は終わっている。
「いえ、ファントムに関する。”他の”報告です」
「茜。もう一度・・・。いや、言わなくてもいい。私の耳がおかしいのだろう。ファントムに関する”他の”報告と言ったのか?まだ、あるのか?」
「そうですね。いや、違いますね」
「そうだろう。そうだろう。お前は、疲れているのだろう」
「はぁ・・・。主任。正確に言います。これからが本題です。ファントムに関する”本当に聞いて欲しい”報告です」
「マジ?」
「”マジ”です。残念なことに・・・」
「・・・」
「これです。書類にはしていません。データです。見たら、削除してください」
里見から渡されたUSBメモリを受け取って、端末につなぐ。ウィルス対策が施されているUSBメモリは、端末に繋がれると、認証が必要になる。USBメモリに付いた指紋認証を通して、暗号で書かれた文章を復号する。
「茜。ここまで・・・。ん?あ・・・」
榑谷は、ここまで厳重にする必要があるのかと、里見に文句を言いかけた。
しかし、復号された文章を読み込んでいくと、里見が厳重な方法で、報告してきた理由がわかった。
「主任?」
「これも、”賢者”に問い合わせたのか?」
「いえ、必要が無いと判断しました。ログは、既に分離して、認証コードがないと閲覧が不可能なように設定をしました」
「助かる。さすがに、”これ”は、まずいな」
「はい」
里見が榑谷に爆弾として投げたのは、ファントムが”オークの進化(推定1段階)種の撃破。ドロップアイテムを得ている”という、無視するには大きすぎて、公表するには問題が有りすぎる情報だ。
「ドロップアイテムからの推測か?」
「はい。アメリカ支部のデータベースに情報がありました。オークが肉を落とすのは、『最低で1段階の進化が終わっている個体』『1cmの魔石は、特殊個体でしか確認されていない』でした」
「そうか、魔石の色は、検索されていないのだな?」
「はい。残念ながら・・・。4色とか言われなくてよかったです。それから、ファントムは”こぶし大の魔石”の値段も調べています」
「ん?茜。1cmの魔石の値段ではないのか?」
「言い間違いではありません。こぶし大の魔石の値段です」
「そうか・・・。聞き間違いじゃないのか・・・。値段を調べるのは、持っている可能性が高い物か・・・。もちろん、ギルドの買い取り金額だよな?売値じゃないよな?」
「はい。残念ながら、買い取り金額です。ちなみに、”賢者”に”こぶし大の魔石”があったらいくらで買い取るか聞きました」
「おい。まぁ気になるな。結果は?」
「聞きたいですか?後悔しますよ?」
「後学のために、聞きたいな」
「1,500億以上4,500億以下だと出ました。あくまで、現在の状況で・・・。です。もし、魔石からエネルギーを取り出せるとしたら、どこまで金額が上がるか・・・」
「おぉファントムは一気に金持ちだな。魔物関連だから、税金も免除だろう?大儲けだな」
「主任!」
「すまん。しかし・・・」
「はい。ファントムは、オークを倒しています。こぶし大の魔石は、無視したとしても・・・。オーク種の進化体を撃破です。それも単独での撃破報告はまだ世界中のギルドに上がっていません」
「肉がドロップするのは、里見なら食べるか?」
「食べます。私たちは、情報に触れられます」
「ファントムは食べたと思うか?」
榑谷の問に、里見は答えられなかった。
オークの肉だけではなく、ドロップアイテムになっている肉は”隠れスキル”を得られる可能性が高い。鑑定で見なければわからない上に、使い方の説明がない場合が多い。そのために、ギルドでは公表はしていない。安全性の確認も出来ていない。しかし、オークの肉を食べるチャレンジャーは世界に多い。オーク肉を調理して食べる動画をアップする者も居る。
榑谷と里見は、お互いの顔を見て、大きく息を吐き出すだけに止めた。
久しぶりに連絡が来たと思ったら・・・。
奴は、どこから自衛隊の秘匿情報を得ている?
それを脅し文句にして・・・。まぁいい。久しぶりに、会うのも一興だ。たしか、奴はギルドの職員だし、情報交換と言えば問題は無いだろう。
指示された場所は、市内にあるカラオケ店だ。カラオケ店の近くで、奴にメッセージを送ると、部屋番号が送られてきた。
「おい!」
部屋では、奴・・・。桐元がマイクを持って熱唱していた。同世代なら誰でも歌える曲だ。
「お!桐元・・・。今は、少佐だったよね。昇進おめでとう」
マイクを持ったまま名前を呼びやがった。
「榑谷。そんなことを言うために、呼び出したのか?それも、こんな回りくどい言い回しをしやがって!」
大学の卒業以来、季節の挨拶をする程度だった奴が、急に自衛隊が使う秘匿暗号を使ったメッセージを送ってきた。最新の暗号ではなく、公開キーでの暗号だが、そんな回りくどいことをしてきたのには理由があるはずだ。
奴からは、”その理由を知りたかったら”、”呼び出しに応じて欲しい”と返されて、呼び出しに応じることにした。
”オークの進化種を単独で撃破できる人材は、最前線に居るのか?”
”蠱毒に寄って産まれた魔物は進化種でしたか?”
このメッセージを送ったのが、奴でなければ無視している。
「なんだ。昔みたいに、円香と呼んで欲しいな」
「ふざけるな。俺も、暇じゃない。さっさと要件を言え!」
「そんなに怒ると、血管が切れるよ。まずは、ドアを閉めてよ。歌声が外に聞こえて恥ずかしいよ」
円香の言っているのは、間違ってはいない。
ひとまず、部屋に入って、ドアを閉める。
「桐元。来てくれて嬉しいよ。7年。いや、先生の葬式以来だから、5年か・・・・。君は、歳を取ったね」
「俺とお前は、同い年だと思うが?」
「ダメだよ。女性は、17歳から歳を数えない生き物だよ」
「そりゃぁ知らなかったな。俺の知り合いに、魔物は居ないから、目の前に居る円香もどきは魔物が化けているな。殺しても大丈夫だな」
「悪かったよ。自衛官になって、昔、以上に冗談が通じなくなっているのか?」
「・・・。この場所は?」
円香は、高校卒業時点と変わっていない。
17は無理でも、20代の前半だと言われても、信じる者は居るだろう。
「カラオケだよ。音が外に漏れないし、飲み物も食べ物も注文できる。バラバラに来ても疑われない。最高の密談場所だと思わないか?」
「・・・。わかった。それで?」
円香が言った通りに考えれば、カラオケというのはいい選択かもしれない。俺がギルドを訪れるには問題がある。円香が自衛隊に来るのも問題だと言い出す輩が居るだろう。喫茶店では、傍聴の心配がある。カラオケも完全ではないだろうが、それでも”まし”な部類だろう。
「本題だけど、メッセージの通りだよ。私が聞きたいことは・・・。現役の自衛官で、魔物対策の最前線を取り仕切る部隊の隊長さん?」
「正式に、自衛隊に問い合わせをしろ」
「出来ないから、君に聞こうと思っている。ダメかい?渡せるデータは持ってきているけど?」
円香を見ると、言動はふざけているが、真剣な表情をしている。
「話せることは少ないぞ?」
「大丈夫。それでも、自衛官の意見は参考になるよ」
円香は、ギルド日本支部の”情報管理課”の主任だったはずだ。それが、参考にしたい情報があるのか?魔物に関しては、自衛隊も独自の情報を持っている。ギルドにない情報もあるかもしれないが、魔物や関連するスキルの情報は、ギルドのほうが多いと思える。
「それで、豚の進化種を単独撃破できるか?ってことだったな」
「そうそう!君は、無理でも君の部下とか、最前線のトリプルとかフォースとかなら可能?」
トリプルやフォースといい方は、米軍での呼び名だが、今では自衛隊も使っている。取得しているスキルの数だ。
「・・・。無理だ。進化前なら・・・。それでも、単独撃破は無理だな。オークに気配を探知されない位置から狙撃できれば、可能性はあるが、進化種は不可能だ」
「なぜ?」
「進化した種族は、単純な物理攻撃ではダメージを与えられない。正確には、ダメージは通るが、物理攻撃では倒し切るのは不可能だ。銃でも難しいだろう。1,000発をその距離から打ち込めて、且つ逃げ切れるだけの人物だな」
「え?」
「スキルを絡めた攻撃でないとダメージが与えられない」
「それは・・・」
「最新情報だ。ギルドにも、米軍から情報が入ると思う」
「わかった。蠱毒は?」
「蠱毒だけど、正直に言えば、”わからない”が答えだ」
「わからない?蠱毒で生き残った魔物は鑑定をしたのだろう?」
「そうだな。スキル鑑定を発動した。発動したが、”見えなかった”と報告が来ている」
「スキルが見えたのに?」
「なぜ、円香が、スキルのことを知っているのかは聞かないが・・・。答えは、”そうだ”だ」
「そうか・・・」
「どうした、心配事か?」
「心配・・・。そうだな。心配には違いはないが・・・。孔明。解っていると思うが」
「あぁ他言はしないと約束しよう」
「ありがとう。でも、他言しても、きっと信じてもらえない可能性が高い。いいか、孔明。私が、今から言うのは、間違いなく事実だけだ。予測も含まれるが、かなり確度が高い予測だ」
円香の真剣な表情に、俺は頷いて了承を伝える。ギルドには、未来予測に近い機械学習のプログラムがあるらしい。それを使ったのだろう。
円香は資料を取り出して話し始めた。何度、途中で殴って止めようかと思ったか・・・。
話を聞き終わったあとで、聞かなければよかったと後悔した。
「円香。お前・・・」
「信じられないだろう?」
「お前の話でなければ、与太話として、酒の肴にする所だ」
「そうだな」
「それで、お前は、その情報をどうするつもりだ?」
「墓場まで持っていくには大きすぎる。公表するには、重すぎる」
「どれか一つなら・・・。でも、ダメだな」
「なぁ孔明。重いのはどれだと思う?」
「おれは、魔石を大量に持っている可能性だな」
「そうだよな・・・。この情報は絶対に秘匿だな。アイテムボックスやオークの進化種は、公表しても・・・。問題にはなるが、いずれ誰かが達成する可能性が高い情報だ」
円香の考察は、俺も同じだ。
大量の魔石を持っている。円香たちが使うコード名(センスの是非は別にして)ファントムが、スキルで魔石を作り出せるので無かったら、ファントムが居る場所に大量の魔物が発生していることになる。10や20ではないだろう。魔石のドロップ率は、2-3%だ。上村たちが最前線で戦っている時でも、1体の魔物を見つけるのに、1時間は必要だ。それから、魔石を得るのだ。一日、戦い続けて、1個の魔石が得られたら大成功だろう。
「円香。素晴らしい爆弾をありがとう」
「いや。いや。そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。孔明。所で・・・」
「なんだ?」
「君は、錬金というスキルを知っているか?」
「錬金?」
「あぁそれと、魔物化というスキルだ」
「両方とも知らない。錬金は、あの等価交換とかの錬金術か?」
「わからないから、聞いたのだが?」
「そうだな。自衛隊では認識していないスキルだ。それもファントムか?」
「錬金は、ファントムだな」
「?そうなると、魔物化は別の人物なのか?」
「そちらは、もう少しだけ時間が必要だが、人定ができる」
「お前・・・。まぁいい。警察用語は他で使うなよ?目立つぞ」
「オヤジ殿の教育が行き届いていたからな」
「そうか、魔物化か・・・。ファントムが実は、魔物だったって落ちは無いのか?」
「え?」
「検索履歴に身元が不明なのも、そこまで隠さなければならないことがあるってことだろう?」
「うむ」
「魔石が手元に大量にあって、値段を調べたら売りに来るのが当然の流れだよな。来ていないのか?」
「少なくても、ギルドでは該当しそうな人物はいない。そもそも、窓口は開店休業中だぞ?」
「そうだったな。近々、上の方から連絡が行くと思うが」「あぁぁ聞こえない。聞こえない。狩場の解放なんて必要ない!」
「円香。諦めろ。国際的な流れでは、解放が規定路線だ」
「くっ。解ってはいるが、早すぎないか?」
「そうだな。でも、実際には一日の参加者も10人以下になるはずだ。国籍確認と、出国禁止が付帯される。マイナンバーが必須だ。それに、親や親族までの思想チェックが入る。思想チェックは、公にはしない」
「え?マイカードの提出を求めるのか?思想チェックか・・・。私も、蒼もダメだな」
「当然だな」
「ふぅ・・・。よかったよ。それが先に聞けて、ギルドもマイナンバーに対応すれば良いのだな」
「それは、ギルドの判断に任せるが、ギルドカードとの紐付けができていると、こちら側としても助かる。他国でもやっているから大丈夫だろう?」
「あぁオプションになる可能性もあるが・・・」
この瞬間に、爽やかな映像が流れていた画面に、時間を告げる表示がされた。
「孔明。一曲、歌うか?」
「遠慮する。俺は、先に出る」
財布から、1万を取り出してテーブルに置いた。円香は、何も言わずに1万円札を受け取った。
「孔明のくせに、カッコつけやがって」
円香が何か言っているが、片手を上げて部屋を出た。情報料としては安いが、円香が納得してくれただけでよかった。
うーん。
なんか、裏庭に住み着いた動物たちの様子がおかしい。
私に襲いかかるようなことは無いのだけど、なんだか見られているように感じる。最初は気のせいかと思ったけど、裏山に魔石で作った結界を設置しているときに、フクロウが一定の距離で付いてきた。ハクビシンも、付かず離れずの距離を保っていた。東側に行ったときのような、立体機動はしなかったが、それでも、かなりの速度で移動したけど、二匹とも私を監視するようにしていた。
スライムは珍しいだろうから、不思議な生物だと思って、見ていたのかな?
気にしてもしょうがないよね。
私は、スライムだし、希少種だ(多分)!人類から、スライムに進化したのだ。これは、進化だ。暑さを感じない。去年までなら、この時期は残暑に苦しんでいた。エアコンがある部屋から出たくなかったが、今年はエアコンも必要としない。寒さはわからないけど、多分大丈夫だ。学校から、家まで歩いても疲れなかった。裏山の東側を散策しても、疲れなかった。うん。やっぱり、進化だ。
別に良いけど、前も上がってきたから気にしないけど・・・。
裏庭に来ていたネコが、私が裏山から帰ってきたら、一緒に家に上がってきた。
(ネコさん。足を綺麗にしてから!)
なんとなく、ネコを見ながら告げるようにしたら、ネコが動きを止めてくれた。意識が伝わったのかな?
わからないけど、濡れた雑巾を持ってくるまで、待ってくれていた。あれ?前は、足だけじゃなくて、身体も汚れていたのに、身体は綺麗だ。抜け毛もなさそうだし、気持ちふっくらとしているし、顔も綺麗になっている。よくわからない。
裏庭を見ると、ハクビシンや狸?も居る。よく知らないけど、寄生虫や病原体が怖いけど、スライムには関係がないよね?それに、なんとなく大丈夫な感じがする。かっこよく言えば、『目に知性を感じる』だ。自分で言っていて恥ずかしい。
うーん。
裏庭に来ている子たちは、逃げる様子がない。
理解できるとは思えないけど、聞いてみようかな・・・。
(ねぇネコさん。君たちに名前を付けていい?私と一緒に居てくれる?)
『にゃ!にゃぁぁぁ!にゃ!』
ん?大興奮?
私の言っている内容が理解できるの?話が出来るの?偶然だよね?
(ネコさん。私の言っていることが解るの?)
『にゃ!』
あっわかるの?スライムボディはすごいな。ネコさんの言っていることはわからないけど、私が言っている内容を理解してもらえるのね。
そうだ、せっかくだから聞いてみよう。
(ねぇネコさん。庭に居る子たちは、ネコさんの仲間なの?)
『ふにゃ?にゃぁにゃ!』
うーん。
仲間じゃないけど、一緒に居ても大丈夫って感じかな。
(庭の子にも、名前を付けて良いのかな?)
『にゃ!』
聞いてくるって感じかな?
言葉ってよりも態度で示してくれた。いきなり、裏庭に戻って、何かを訴えている。ワシやフクロウも鳥小屋から出てきて(サイズ感がおかしい?どうやって入っているの?)ネコさんと話をしている。
すごいな。
十二支の会議みたい。裏庭が見える場所まで移動して、動物たちの声を聞いている。言葉はわからないけど、なんとなく言っていることが解る。
別に、私の負担なんて、名前を考えるだけだから、気にしなくていいのに・・・。ワシさんは真面目だな。
なんとなく、フクロウさんが議長なのかな?皆の意見をまとめている。
ハクビシンさんは、ちょっとやんちゃな弟なのかな?ワシさんとフクロウさんに窘められている。
鮎さんや鮠さんは、集団で名前が欲しいみたいな感じがしている。ファミリー名みたいな感じなか?
え?蛇さんは、皆に合わせるような感じかな?
そもそも、なんで、魚や爬虫類の言っていることが解るの?きっと、スライムになったからだよね?人の時に、この能力があれば、優秀な獣医になるという選択肢があったのに・・・。しょうがないけど、今は寂しくならないだけで良かったと考えよう。
会議が終わった?
ワシさんが、私の前に降り立った。
頭を下げる?器用だな・・・。
ふむ。
(名前は、欲しいけど、私の負担になるのがイヤ?気にしなくていいよ。その代わりに、この場所に居てくれる?)
ばさばさと翼をはためかせている。喜んでいるのかな?
『にゃ』
ネコさんが、ワシさんの隣に来て、”興奮するな”って感じかな?
『にゃにゃにゃ』
(代表の者に名前を付けて欲しい?鮎さんなら、鮎さんで使う名前って感じ?)
『にゃ!ふにゃなぉぉにゃ』
(わかった。わかった。興奮しなくていいよ。ん?皆と相談する?わかった。待っているよ。ゆっくり相談して)
『にゃ』
ネコさんとワシさんは、また皆の所に戻って、会議を再開した。
代表を決めるのかな?大変じゃないから、皆に名前を付けてもいいのだけど、問題は私が見分けられるかだよね?でも、なんとなく皆に個性があり、見ていると解ってくる。
え?どこから?
会議に、蜂さんが混じっている。それも、サイズが少しだけおかしい?ミツバチだよね?なんで、体長が5cmくらいなの?興味があって調べたときに、世界最大の蜂は、”メガララ・ガルーダ”とか言って、インドネシアで見つかった蜂だったと思うけど、それでも、4cm程度だと記憶している。確実に、4cmを越えているよね?お腹部分が大きいから、女王蜂?巣箱から出てきて大丈夫なの?
トカゲさんも居る。可愛い。議長のフクロウさんに手を上げて質問をしている。イモリ?ヤモリさんも居る。水中に居る他の生物たちは名前を辞退って感じかな?
昆虫からは、女王蜂だけでいいのかな?あれ?クモさんも居るね。足?を上げている。何か、意見を言っているのかな?
え?裏山からも来ているの?
栗鼠さん?百舌鳥さん?蝙蝠さん?以外と、裏山には動物が生息していたのですね。お祖父ちゃんが大事にするわけだね。
そうなると、この前みたいな”オーク”が居ると、生態系?がおかしくなっちゃうから、私以外の魔物は駆除決定だね。庭に居る子みたいに、みんなで仲良くしてくれるのなら問題はないのかな?
『ふにゃぁ』
(うん。いいよ)
ネコさんがまとめてくれた。
ワシさんとフクロウさんも来て、皆でまとめた意見を説明してくれた。
名前は、種族で付けて欲しいらしい。種族は、認識できているらしい。鳥が増えているのは、裏山に居たのかな?椋鳥さんとか、雀さんとか、サギさんとか、カワセミさんが増えている。サギさんとか、近くで見ると大きいよね。なんか、鳥類が多いのは、空を飛んで来たからなのかな?
個で名前が欲しい子も居るらしいから、その子たちには個別に名前をつける。
ワシさんとネコさんとサギさんは一人らしい。フクロウさんとタヌキさんとハクビシンさんは、家族で来ているから、家族での名前を付けてから、個別の名前にしよう。
どうやら、これから皆で、裏山と近くの山を周ってくる。仲間になりたい者を連れてきていいかと聞いてきたので、許可を出した。住む場所は、私が拡張した裏山の結界の中になるのだと説明された。お祖父ちゃんが、東側にはクマさんとか、イノシシさんが居るって言っていたから、来てくれるのかな?
魔石が増えたら、裏山全部を覆うくらいの結界を作りたいな。モグラさんとかも来てくれないかな。あのフォルムがすごく好き。飼いたいと思ったけど、前は難しかった。
ワシさんが、”もうしわけない”とでも思っているように見えるから、触手を伸ばして頭をなでたら嬉しそうに鳴いてくれたから、よかったのだと思う。
今、居る子たちに名前を付けた。
シリーズにしたほうが解りやすいと思ったけど、いいアイディアが浮かばなかった。
手近にあったのが、お父さんが好きだったカクテルの本だ。カクテルの名前から拝借した。かっこいいし、覚えやすい。
---
ワシさんには、カーディナル
ネコさんには、パロット
アオサギさんには、フリップ
フクロウさんには、アドニス
タヌキさんには、ギブソン
ハクビシンさんには、ノック
女王蜂さんには、パル
アユさんたちには、カラント
ハヤさんたちには、キャロル
トカゲさんたちには、キール
ヘビさんたちには、キルシュ
百舌鳥さんたちには、フィズ
栗鼠さんたちには、ディック
蝙蝠さんたちには、ダーク
イモリさんたちには、グラッド
ヤモリさんたちには、コペン
ムクドリさんたちには、アイズ
スズメさんたちには、ドーン
カワセミさんたちには、ジャック
クモさんたちには、ナップ
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私は頑張った。
頭は使わなかったけど、精神が疲れた。名前を付けたあとで、頭を撫でてあげないとダメな感じがして、皆の頭を撫でた。
ヘビさんとか、トカゲさんは、同族以外にも同じ名前を使うと決めたらしい。
皆から温かい気持ちが流れてくる感じがする。名前を付けたから、親密度が増したのかな?
我は、この場所に住み着いた者たちの長をしている。
我らには、主様が居る。丸くて、柔らかそうで、”ぷよぷよ”としているが、ものすごく強いことは、我らの本能が訴えている。
逆らってはダメだ。敵対してはダメだ。
それだけではない。この楽園のような場所を作ったのも主様だ。主様の想いの一部は我らに伝わってくる。山では最上位である我だが、飢餓との戦いだ。しかし、この場所では飢餓を感じない。
『ワシ殿』
”ワシ”と言うのが、我の仮の名だ。主様は、我の種族だと言っていた。他の者も、種族名を仮の名にしている。
『フクロウ殿。どうかしたのか?』
『主様が帰ってこられた』
『わかった。ネコ殿に護衛をお願いしよう』
『ネコ殿は、主様に付いていった。主様のお住まいに上がるようだ』
羨ましい限りだ。
我やフクロウ殿も力を得た。主様の所に来る前では考えられないような感覚だ。
我は、身体の大きさが変えられる。どういう理由なのかわからないが、以前の2倍くらいから1/3程度の小ささになることが出来る。感覚が研ぎ澄まされている。遠くで戦っている音までも拾える。上空から草が揺れるのがはっきりと認識できた。身体能力もかなり向上している。
フクロウ殿も、ネコ殿も、力を得ている。
我たちは、主様から力を貰ったのだ。今までのような飢餓を感じることがなくなり、考える事が出来るようになった。
『ネコ殿、どうした?そんなに慌てて、主様に何かあったのか?』
主様に付いていったネコ殿が慌てている。
我も、フクロウ殿も気になって、ネコ殿の側に移動する。
『ワシ殿。フクロウ殿。皆も聞いて欲しい。主様が、名前を、名前を付けてくれる・・・。皆に、名前を・・・』
ネコ殿が泣き出してしまった。
”名持ち”我たちの本能で望んでいることだ。主様との繋がりを確かな物にする。それが、”名前”だ。
『ネコ殿。それは、我たちに名前をくれると言うのか?』
『うん!主様が・・・』
ネコ殿の説明では、我たちに名前を付けてくれるようだ。
『皆。落ち着け、名前は欲しいが、主様のご負担も考えなければならない』
フクロウ殿が、皆の意見をまとめるようだ。
確かに、我がまとめてしまうと強要になってしまう。一歩引いて話を聞こう。我の住処の上に移動する。代わりに、フクロウ殿が、水場に降りる。
アユ殿やハヤ殿は、代表の名前がほしいと言うのか?
種族名を、”名”として代表から、全体に繋がりを広げる。そんなことが出来るのか?出来るようになった?
ハチ殿、クモ殿、モズ殿、リス殿、コウモリ殿、トカゲ殿、ヘビ殿、イモリ殿、ヤモリ殿、ムクドリ殿、スズメ殿、カワセミ殿が、代表者で大丈夫なのだと言っている、名前の恩恵を同族だけではなく、種を越えて広がらせられる。
名前は、代表がつけてもらって、主様との繋がりを自分が繋がる者たちに浸透させることに決まった。
主様には申し訳ないが、我とフクロウ殿とネコ殿とタヌキ殿とハクビシン殿とサギ殿は、個の名前にしてもらう。
まとまった話を主様にネコ殿が説明している。
我とフクロウ殿も一緒にお願いする。主殿の負担になってしまうことだ。しっかりと頭を下げなければならない。
え?あっ!
主様が我の頭を撫でてくれた。なんて、至福。主様の波動を感じて、身体が震えてしまう。優しく撫でられ場所が、熱くなる。主様が離れてしまった時には、残念で声が出てしまいそうになった。皆の視線が痛いが、主様が撫でてくれたのだ。
フクロウ殿が、以前から議題に上がっていた。”山に住まう者たちを勧誘してよいか?”と聞いた。主様は、少しだけ考えてから、了承してくれた。主様を守るためにも、仲間を増やしたい。この場所は、我たちの住まう場所だ。新しく来る者たちは、主様が拡張してくれた場所にすれば問題は少ない。ハチ殿だけが特別な感じになるが、主殿が望んでいる。ハチ殿の配下が集める蜜は主様に献上できる。
山に住まう者たちも、我たちの話を聞けば、主様の偉大さは伝わるだろう。力の波動を感じれば、本能で従ってしまうだろう。
ネコ殿が言っていたが、主様の近くに来てから、身体が痒くなる者たちが居なくなったと言っていた。ハクビシン殿やタヌキ殿も似たようなことを言っている。他の者たちも、我と同じで常に襲われていた飢餓感がなくなり、他者を襲わなければならない衝動がなくなった。
我らが持つのは、主様への敬愛の気持ちと、仲間たちとの繋がりを喜ぶ気持ちだ。
名付けの儀式が始まった。
最初は、水の者たちや種族名を貰う者たちからのようだ。
アユ殿の代表が、水から頭を出した。主殿は心配した表情をしてから、”カラント”という名をアユ殿に付けた。それから、アユ殿たちを順番で撫でていく、不思議なことに、アユ・・・。いや、カラント殿の存在感が数倍に膨れ上がった。これが、”名”を持つということなのか?
『カラント殿?』
『ワシ殿。主様から、名を貰ったら、新たな力が主様から注がれた』
『え?どのような力だ?』
『我たちは、水を操る力が芽生えた』
『?』
『説明が難しい。主様を巻き込む可能性がある。ワシ殿も名を貰えば解ると思う』
『わかった』
他の者たちも、それぞれが新しい力が芽生えている。
(ワシさん。あなたの名前は、”カーディナル”。これからもよろしく!)
これか、皆が言っていた。力が漲る。
主様との繋がりを強く感じる。力が、主様から、主様の力が、我に、我の中を駆け巡る。これが、歓喜。これが、繋がり。これが・・・。
(スキル雷を得ました)
主様。
主様の力が我にも・・・。
そうか、主様。この力を使って、皆を守れと、敵を討てと、我は主様の剣となる。
『カーディナル殿』
『すまん。アドニス殿。そうだ。皆が主様を頂点とする身内だ。殿は必要ない。そうは、思わないか?』
『そうだな。カーディナル。押し付けるようで申し訳ないが、戦闘力や移動方法で、カーディナルが優れている。そこで』
『わかった。我は主様の住処である。この場所を守る』
『頼めるか?』
『もちろん。アドニスは、皆を指揮して欲しい。山を熟知しているのは、アドニスだろう。皆も良いか?』
皆が、我の言葉に賛同してくれる。
主様の願いは、皆が仲良く暮らすことだ。主様の願いを妨げる者は許さない。我たちの力で排除を行う。
『パロットは、主様の住処に入って、主様を守ってくれ、主様が外出なさるときには、住処に侵入がないか警戒』
『わかった』
皆がパロットを見る。確かに、主様の住処に上がれるのはパロットが適任だろう。
『ギブソン。ノック。フィズは、順番で、主様の領地を巡回してくれ、弱き者の救助を頼む』
『承知』『わかった』『承諾』
『ナップ。コペンは、主様の住処の周りの警戒を頼む。侵入者は攻撃せずに所在を確認してくれ。もし、移動する場合には、フェズかダークかアイズかドーンかジャックに協力を求めてくれ』
『うむ』『了解』
『カラントとキャロルは、しばらくはその水場で過ごしてくれ、力をつけた後に、沢の把握を頼む』
水の中に居る2族は承知の意思を伝えてくる。
『ディック。キール。キルシュ。グラッドは、山の探索を行って欲しい。連絡に、フェズかダークかアイズかドーンかジャックを連れて行って欲しい』
皆が、山の探索と聞いて意識を引き締める。
危険があるからだ。
『皆も解っていると思うが、無理はしないでくれ、主様が悲しむようなことは絶対にしてはならない。東側の探索は必要ない』
アドニスの言っているのは間違いではないが、東側は問題が多い場所だ。
『アドニス!お前』
『東側は、私が担当する。フリップにも同行して欲しい』
『わかった。しかし、私に出来る攻撃手段は少ないぞ?』
『わかっている。フリップには、東側で問題があったときに、カーディナルに連絡をして、救援に来て欲しい』
『アドニス!』
『わかっている。カーディナル。死ぬ気はない。私が得た主様のお力は、”結界”だ。主様ほどの強固な結界は無理でも、カーディナルが救援に来る時間くらいは防いで見せる』
『・・・。わかった』
『最後に、パル』
『なんじゃ』
『パルには、ある意味、危険なお願いをする。断ってくれてもよい』
『言ってみよ。妾に出来ないことなのか?』
『いや、パルでなければ難しいことだ。パルの眷属に、人間たちが居る場所の調査を頼みたい』
『たしかに、それは妾たちが一番の適任だな。必ず、話が聞けるとは言わないが、その役目、引き受けた』
『助かる。できれば、主様の住処の場所や周りの状況を調べて欲しい。害する可能性がある者を調べて、排除が可能なのか検討したい』
皆の役割が決まった。
主様のために、皆が出来ることを分担する。
『主様のために!』