茜さんと真子さんと住み始めて1年が経過しました。最初は戸惑いましたが、人?は順応するものです。
 家族たちも、購入できた市内の山の探索範囲を広げています。結界で覆ったら、いろいろと問題が発覚しました。不法投棄をしていた企業が発覚したり、盗んだ物が隠されていたり、高校生がいじめに使っていたり、いろいろ隠されていた物が世間に暴かれました。大変でしたが楽しい日々です。なんどか、行政からの呼出しもありました。高校生だった頃よりも充実しています。
 1年でいろいろと世間が動きました。まずは、日本ギルドが解体したようです。日本ギルドを潰すのに、ギルド日本支部はきっかけを用意しただけで、それ以上は動きませんでした。それでも、崩壊が始まってからは早かったです。日本ギルドの不祥事に合わせて何人かの議員の不正も発覚して、一時はマスコミがギルド日本支部にも押し寄せて大変でした。大変だったのは、主に千明さんと舞さんだったのですが、私も真子さんも茜さんも駆り出されて対応に追われました。

 ギルド日本支部は、研究所を備える世界屈指のギルドに成長しました。研究は、清水さんが中心になって進めています。面白い発見もありました。
 私や家族の検査が進められました。それから、本来なら難しい”野鳥”もギルドが保証して、清水さんが認可を得たことで、正式に私が迎えることが出来ました。喜んだのは、ギブソンやデイジーたちでした。狸種もペットとして飼うのが難しいのですが、ラスカルたちと一緒に、家族として行政に認められました。ドーンや会津やフリップたちも、裏山に住み着いていると認めさせる事ができました。魔物になっているのは、まだ内緒です。
 市内にも大きな拠点が出来ました。
 私の家と茜さんと真子さんだけが住んでいる場所ですが、裏山?との間に三棟のマンションが建築されて、研究員や技術者の寮?として使われています。病院のスタッフも増えました。地域の人からは感謝されています。元々、私や家族の秘密が外に漏れないように作られた病院です。報酬の上乗せがないうえに、無駄なノルマがないのも病院の雰囲気がよくなっている理由なのかもしれません。

 私たちの生活は・・・。”問題ない”とは言い切れないのですが、なんとかなっています。スライムの身体にも慣れて・・・。違いますね。スライムの状態で居る方が落ち着きます。不都合がない事を不都合に感じてしまっています。人の姿で過ごしている分体も不便を感じません。不思議なのですが、スライムの私と人の私は、別の人格?があるようにも思えるのです。それから、人の姿の私なのですが、人です。意味が解りませんよね?私もよくわかりません。でも、人なのです。病院で検査しても”人”として認識されます。不思議な事です。

 現在も、人の私とスライムの私が存在します。
 以前は、意識の入れ替え?が必要だったのですが、同時に存在していても、違和感がありません。

 私の本体(スライムの私)は、実家(由比)に居ます。
 人の私は、”貴子”として静岡市内に住んでいます。学校にも通っています。

 私と真子さんは、静岡工業の定時制に通い始めました。
 全日制への編入も可能だと言われましたが、ギルドで仕事を請け負っている建前があるので、定時制にしました。茜さんも通おうとしましたが、円香さんに止められていました。

 魔石を作る方法は、ギルドを通して発表されました。水見式の方法は、清水さんたちが確立しました。スキルを得ていない人でも、実行できる形に落とし込めています。アイテムボックスはギルド日本支部内で使う事に決まりました。便利なのですが、今のところ私にしか作ることが出来ないので、研究は続けますが、今の段階でギルドの外に出すのは危険だと判断されました。対策がない状態で、外部に公開してしまうといろいろと問題が発生しそうです。密輸の問題が解決できなければ、世間には出さないほうがいいだろうとワインズマンから指摘されました。ギルド本部には、宝箱形態のアイテムボックスを渡してあります。宝飾品を施した豪華バージョンです。

 魔石にスキルを付与する方法も、ギルドから発表されました。円香さんや孔明さんは、危険性を論じていました。ギルド内での公開制限を付けて、情報を流しました。ワイズマンが各国に追試を依頼しました。追試結果は、円香さんや孔明さんが懸念していた状況にはなりませんでした。
 どうやら、私やライが作るような魔石の生成は出来ないようです。スキルの付与も成功した人も少ない状況らしいです。そして、付与されたスキルも通常の利用に比べると、1割くらいの威力に抑えられてしまうようです。9割減では攻撃にはほぼ使えません。
 武器として考えても、スタンガン程度なので、現在の危険性と比べても・・・。安全だとは言えませんが、既にある危険を越えない程度だと判断されたようです。日本では、政府の対応が間に合っていないので、ギルドが自主的に禁止としています。拘束力はありません。既に、日本では事故が発生しています。

 あっ!
 私を、スライムにした人は特定されました。スキルを付与した魔石を使った事件が発生して、その加害者が私をスライムにした人でした。鑑定を用いて確認をしました。
 今、ギルドの・・・。正確には、私の家族が監視しています。復讐は、先送りにしました。彼からは、スキルを奪う予定です。

 スキルを奪えないかと考えたのが、彼はスキルの能力を、正確に把握が出来ていないことや、これ以上の犠牲者を出さないためです。
 どうやら彼は一線を越えてしまっているようです。状況証拠だけなのですが、母親とお兄さんを殺しているようです。どうやら、スライムにしてから殺しているので、死体が残っていないようなのです。元々、父親は家にも寄り付かないので、彼が言い訳として使った、”母親とお兄さんは家を出て行った”を信じているようです。円香さんが言うには、『”信じているというよりもどうでもいい”と思っている』らしいです。私には、どちらの気持ちも解らないです。

 ライは、ギルドに居る時間が増えています。
 私の所には、ライの分体が常に居るのですが、人のライは、ギルドで”いろいろ”な警戒に当たっています。

 1年間で、ギルドに侵入を試みた人の数は、私が知っているだけで60名を越えています。毎週の様に、不法侵入がありました。最近は落ち着いていますが、それでもライがギルドに常駐していた方が安全だと判断しています。皆の眷属が、ライを補佐しています。最初は、眷属たちにも戸惑いがあったのですが、1年が過ぎて、安定しました。ライが居なくても大丈夫だと判断されれば、眷属だけでギルドを守ります。
 大陸からやってきた人たちや、魔物が発生している国からも、日本の同盟国だと思われている国の人たちも居ます。もちろん、日本の企業に雇われた人や、政治業者や官僚に雇われた者たちも居ました。
 目的は、単純に”金銭”の場合もありますが、殆どがスキルの情報や、ギルドに何かがあると思って侵入してきているようです。円香さんは呆れていました。特に酷いのが、日本の官僚たちの様です。権力を握った者たちが考えることは、愚かな事と決まっています。
 スキルを得て不老不死になりたいようです。
 不老は別にして、不死になって何がしたいのでしょうか?

 この”不老不死”に関係して、私をスライムにした彼から、スキルを奪うことが検討されています。
 家族の協力と、清水さんたちの研究から、スキルのランクと言うものが徐々に解ってきました。その中で、ユニークと呼んでもいいようなスキルは、同時期に、二人以上には”芽生えない”と予測されました。
 円香さんの”破眼”が、家族の誰も持っていないことや、同じようなスキルである、真子さんが持つ”災眼”も誰も持っていません。
 まだこれからの研究が必要だとは思いますが、彼を殺して私にスキルが移動すればいいのですが、そうならない場合に、別の人にスキルが芽生えてしまうと、問題になりそうなのです。
 彼によって、私はスライムになってしまいました。
 スライムになった事で、寿命から解き放たれた可能性があります。清水さんの研究でも、私は細胞分裂を意図しなければ行っていないようなのです。簡単に言えば、老化していないのです。まだ検証が始まったばかりなので、解らないことだらけですが、魔物になってしまうと、”老化”は発生しないと考えてよさそうです。家族たちも調べていますが、成長は”魔物としての成長”とリンクしていると考えられます。

 権力欲が強く、不老不死を望むような人たちが、彼のスキルを知れば・・・。
 そんなことにならないように、彼を監視しているのです。彼は、私のターゲットですが、私は彼を権力者や愚か者たちから守っているのです。