「カンウ様!」

「どうした?」

 前に居る騎士のような男から繰り出される剣を捌きながら、カンウ様は僕を見て不思議そうな声をあげる。

「”どうした”ではありません。偵察ですよ。偵察!」

「ヒア。これは、王国戦力の偵察だ」

 前方の杖を持った者から放たれたスキルを弾きながら、カンウ様に文句をいうが、言ってもしょうがないのは解っている。

「ヒア!左側を任せる!」

 左側?
 スキルを発動して調べると、5人の集団がこちらに向ってきている。
 戦闘音が響いていれば、近くに居る者に異変が伝わるのは当然だろう。

「”任せる”じゃないです」

「無理か?無理なら、変わるぞ?」

「やりますよ!」

「最初からそういえばいい。殺すなよ」

 ”偵察”を念頭に置いているので、情報を搾り取る必要がある。
 そもそも、この戦闘のきっかけは、僕が作ってしまっている。

 狐人族が首輪をされて、歩かされているのを見て、ミアと重なってしまった。

 他にも、兎人族や羊人族が首輪をされて、檻に入れられていた。
 カンウ様から静止の声はなかった。僕が、スキルを放つ瞬間に、カンウ様は檻に近づいて、鍵を破壊していた。

 救い出した者たちを、カンウ様の配下の者たちに任せた。
 僕とカンウ様は、救い出した者たちから聞いた。他に捕えられている者たちを、救い出すために動いた。

 違法奴隷だと判断するのは難しい。
 助け出した者たちは、カミドネ町に移動してもらう。魔王カミドネの眷属には、疑義の判定ができる者が揃っている。借金奴隷は、基本的に解放はするが、町での滞在は認めない。犯罪奴隷は、そのまま奴隷身分の状態だ。それ以外は、解放して町で自由に生活ができるようになる。

 カンウ様の”殺すな”にも意味がある。
 偵察は、忘れていない。情報を搾り取って、次の”偵察場所”を確認するためだ。違法奴隷を扱っている店は、繋がっている。優しく問いただせば、いろいろ教えてくれる。王国中に、獣人族を奴隷にするために襲う組織が存在している。
 僕とカンウ様で、その組織を偵察し(潰して回っ)ている。

「ヒア!」

「はい?」

 戦闘中に、話しかけるのは止めて欲しい。
 殺さずに捕えるのが難しくなってしまう。力量の差があるから、手加減が可能な状況だけど・・・。

 4人から抵抗する力を奪って、最後の一人を捕縛した。
 カンウ様を見ると、余裕で倒している。まだまだ、カンウ様には勝てそうにない。

「ヒア。終わったようだな」

 スキルを展開して、索敵をする。
 仲間たちが確保した、違法奴隷たち以外は、反応が存在しない。

「はい。近くに反応がないので、大丈夫だと思います」

 カンウ様も同じスキルを持っているので、解っているとは思うが、声に出して報告することで、仲間たちにも認識が伝わる。突発的な”遭遇戦”からの”偵察”だ。そろそろ、活動の限界が近づいている。

「タイミングが良かった。魔王様からの指示が来た」

 カンウ様に、魔王様からの指示が届いた。魔王ルブラン様や魔王カミドネ様ではない。

 カンウ様が、僕たちに向けて、指示を出してくれる。
 僕だけではなく、配下が居るために、指示は”魔王ルブラン様”からだと説明をしている。

 僕とカンウ様は王国内で、”威力偵察”を行っていることになっていた。
 結果だけを見れば、”威力偵察”だが・・・。いいのだろうか?

 魔王様からの指示は、ミアが考えた作戦だ。魔王様とルブラン様たちが細部の調整は行ったようだが、大本はミアが考えた作戦のようだ。

 モミジ様とミアが、僕たちと合流する。

 ”威力偵察”を続行して、合流してくるまでに、王国の戦力を把握する。
 同時に、違法奴隷の解放を引き続き実行する。カンウ様が、モミジ様と話をして決めたようだ。王国の力をそぎ落とすのに、奴隷の解放は丁度いいらしい。王国軍の強さが、解ってきた。僕とカンウ様で大丈夫なら、モミジ様とミアなら余裕だろう。4人で揃って、魔王様の本に書かれていたゲリラ作戦で、王国軍を翻弄する。配下の者は、モミジ様とミアが合流してきた段階で、魔王カミドネの領地に移動してもらうことになる。

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「キャロとイドラは、神聖国に合流しようとしている王国軍の牽制」

「はい」「はっ」

 魔王カミドネは、キャロ(角兎)イドラ(森狼)に指示を出す。
 撃退する必要はない。王国軍との合流を遅らせればいい。

「トレスマリアスは、三方向から、神聖国に攻め込む」

 トレスマリアスのマリアとマルタとマルゴットが頷く。
 使役できるアンデッドは種類も増えている。今では、かなり上位のアンデッドも使役が可能だ。

 1体だけだが、スケイルドラゴンも召喚が可能になっている。

 スケイルドラゴンは、正面を担当する、マリアが使役して、連れて行くことになっている。

 正面は囮だ。
 囮に喰らい付いたら、側面からマルタとマルゴットが隊列を分断する。

 マリアとマルゴットで分断された前方部隊の殲滅を行う。マルタは分断された後方の部隊を翻弄する。守るに適したアンデッドを多く使役して、マリアとマルゴットが前方部隊を殲滅するまで持ちこたえる作戦だ。
 マルタとマルゴットが、前方部隊を殲滅したら、後方部隊に3人で襲い掛かることになる。

 三姉妹で、連携が得意な3人だから可能になる作戦だ。

「カミドネ様。魔王ルブラン配下のカンウ殿とヒア殿から違法奴隷の受け入れ申請が来ています」

 カンウとヒアが王国で行っている”威力偵察”の結果だ。

「フォリ。対応を頼める?」

 フォリなら、”違法奴隷”なのか、犯罪奴隷なのか判断ができる。
 負担は掛かるが、スキルを持っている者には頑張ってもらうしかない。

「はい。チェックを行って、いつもと同じ対応で大丈夫ですか?」

「うん。同じで大丈夫。森にも、町にも、余裕はあるよね?」

「はい。10倍になっても大丈夫です。あっ食料の問題はあります」

 フォリが思い出したのは、食料問題だ。
 現状では、まだ余裕があるが、手持ちの食料が減っている状況から、さらに避難してくる者や違法奴隷が増えれば、倉庫の食料が底をついてしまう。そうなる前に、支援を求めておいた方が良いだろうと判断をした。

「わかった。食料は、魔王様に援助を頼むことにする」

 魔王カミドネは、支援を求めることを即座に決めた。
 魔王ルブランとは言わないが、フォリ以外は、”魔王”=”魔王ルブラン”だと考えているので、問題にはならない。

 食料の援助は、即座に認められるだろうと考えていた。
 実際に、魔王領には人口以上の食料生産能力がある。

「わかりました」

「キャロ。イドラ。マリア。マルタ。マルゴット」

 呼ばれた者が、魔王カミドネの前で跪いて、頭を下げる。

「神聖国も王国も、獣人族だけではなく、違法奴隷を前線に立たせる可能性が高い。その場合には、奴隷たちの確保を優先する。もちろん、お前たちや配下が戻ってくるのが前提だが、敵は取り逃がしてもいい。違法奴隷たちを優先してくれ」

「「「「「御意」」」」」

 綺麗に揃って皆が答える。

「準備が揃った者から作戦を開始!」

 5人が揃って姿勢を戻す。その後に、魔王カミドネに頭を深々と下げてから退室する。
 自分たちに割り振られた部屋に移動して、準備を始める。

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 相手は、同時に三ケ所から魔王ルブラン&魔王カミドネの領地に攻め込んだつもりになっている。

 実際には、各個撃破の様になってしまっている。
 神聖国と王億の連携も取れていない状況で、連合国が参戦している。足並みが揃うはずがなかった。

 相手が、魔王ルブラン&魔王カミドネでなければ、作戦は成功していたかもしれない。
 大規模な侵攻が行われる前に、各個撃破され、行動のタイミングが狂ってしまった。
 もうすでに、連合軍としての体裁が取れていない。

 情報が錯綜する。

 カプレカ島の入口用になるように作った、ギミックハウスの設置が終わった.魔王とセバスの二人が情報戦を仕掛けた。
 連合国を弄ぶような情報戦を仕掛けた。少しでも混乱してくれたら”ラッキー”程度の軽い気持ちで始めた情報戦だ。
 しかし、もともと”利”で繋がった関係だ。お互いに信じていない者が欺瞞情報を見抜けなくなるのには時間が掛からなかった。

 それぞれが、最善の解を求めて行動するために、連携が崩れて、魔王ルブラン&魔王カミドネに対処されてしまう。

 もう、連合軍という名前だけが残っている状況だ。
 王国と神聖国と連合国が別々の戦場を抱えるだけになっている。