セントラルの応接間に通された国王たちは背後に騎士たちを立たせ、席に着いた。
応接間はオディールが外資系金融企業のオフィスを参考にしたインテリアになっている。大きな無垢材を組み合わせたテーブル、高い天井から吊り下げられた丸く大きな魔法のランプ。そして、壁に配された高級な間接照明。その見たこともない洗練された異質なインテリアにみんな居心地の悪さを感じ、互いに困惑した表情を交わした。
ガチャリ。
奥のドアが開かれ、純白の礼服に身を包んだオディールがにこやかに挨拶しながら入ってくる。丁寧に編み上げた金髪にはティアラが光り、彼女の若々しい美しさが、まるで花が咲いたかのように部屋を明るく彩った。
「遠いところをありがとうございます。セント・フローレスティーナへようこそ」
ケーニッヒやレヴィアもオディールに続いた。
騎士の面々はケーニッヒの登場にゴクリと唾をのみ、冷汗を浮かべる。すでに彼の【瞬歩】の間合い内なのだ。次の瞬間、いつ彼に斬られていてもおかしくない。そしてそれを避ける方法がないことは騎士たちに異常な緊張を強いた。
ケーニッヒはそんな騎士たちの緊張を知ってか知らずか、鋭い視線で騎士たちを見回す。
国王は立ち上がり、テーブル越しにオディールと握手を交わした。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりですわ」
オディールはニッコリと笑う。
「少し見ぬ間にお美しくなられましたな。この度は愚息が迷惑をかけた」
国王はこわばった笑顔でオディールに目をやった。
「若いのですからある程度のヤンチャは仕方ないかと思いますけど、度が過ぎてると思いますわ」
「ワシからもキツく言っておく。それで……【廃嫡】の条件は何とかならんだろうか?」
オディールはキュッと口を結んだ。身の安全を考えればこの条件は譲歩できない。
「彼が力を持っている限り、また同じことを繰り返しますわ。メンバーの間では処刑すべきという意見もありますのよ?」
「しょ、処刑!? それは……戦争になっても構わんということか!?」
国王は【覇王】のスキルを放った。ズン! という衝撃音と共に精神を支配する圧倒的な【威圧】をオディールに繰り出し、その凄まじい眼光で睨みつける。全身からは紫色のオーラが立ち上り、騎士たちはガタガタと震えた。
オディールは秘かに自分の手の甲をつねった。その痛みですさまじい威圧にひるむことなく正気を保ち、あえてニコッと笑う。威圧が来ることは織り込み済みであり、レヴィア相手に何度も練習していたのだった。
「戦争になったら王都は火の海になりますわ。それでもやりますの?」
「ひ、火の海……だと……? 貴様ぁ!!」
さらに激しくオーラを放つ国王。
「降りかかる火の粉は払わねばなりませんわ」
オディールは激烈な威圧になんとか耐えながら、キッと鋭い視線で国王をにらむ。
ケーニッヒはいざと言う時に備えてすっと剣に手を伸ばし、それに呼応して騎士たちも臨戦態勢に入る。
応接室の空気は凍りつくほど緊迫し、一触即発の危うさが部屋全体を圧迫する。
「まあまあ、お二方。ここは和解の場、煽るような言葉は慎んでいただけますかな?」
慌ててハーグルンドが間に入った。
二人はしばらくにらみ合ったものの、深刻な事態は避けたいという思いは同じだった。双方とも視線をそらし、大きく息をつくと、席に着く。
その場にいた者たちも緊張から解放され、深く息をついて臨戦態勢を解除する。
また、国王の威圧を感じながらも決してひるまないオディールに、訪問者たちは一様に感服した。それは、彼女は単なる幸運でここにいるわけではなく、本物の領主の資質を持っているのだという証明でもあったのだ。
ここから長く激しい協議が続くことになる。最終的に調印に至ったのは夕方だった。
◇
「それではヴィルフリート・ヘーリング王子を解放しますわ」
オディールが手を上げると、ガチャリとドアが開き、自警団に連れられて王子が入ってくる。王子はビクビクしながら周りを見回すと、バツが悪そうに国王を上目づかいで見た。
「このバカ息子が!」
国王はドタドタッと駆け寄ると、王子のほほを力いっぱい張り倒す。
パァン! という音が部屋に響きわたる。
オディールは渋い顔でその様子を眺め、重いため息をついた。始めからこうやって教育しておいてくれたら、こうした煩わしい事態には陥らなかったはずなのだ。
その後、王子は滔々とお小言を食らい、最後に国王に廃嫡を告げられると、ピクッと頬を動かし、ため息を漏らしながら肩を落とした。
「晩餐の用意ができております。よろしければこちらへ……」
オディールが声をかけた時だった。
「こんの小娘がぁぁぁ!」
王子は急に激昂する。【英雄】スキルのバフを自分にかけ、身体を黄金色に光り輝かせるとオディールに殴りかかった。
その素早い身のこなし、眼にもとまらぬ速さの拳に、その場にいた者は皆悲劇の予感に凍り付く。
キャァッ!
オディールの悲鳴が部屋に響いた直後、
ドスッ……。と、何かが床を転がった。
それは長細い肉の塊……、王子の右腕だった。
応接間はオディールが外資系金融企業のオフィスを参考にしたインテリアになっている。大きな無垢材を組み合わせたテーブル、高い天井から吊り下げられた丸く大きな魔法のランプ。そして、壁に配された高級な間接照明。その見たこともない洗練された異質なインテリアにみんな居心地の悪さを感じ、互いに困惑した表情を交わした。
ガチャリ。
奥のドアが開かれ、純白の礼服に身を包んだオディールがにこやかに挨拶しながら入ってくる。丁寧に編み上げた金髪にはティアラが光り、彼女の若々しい美しさが、まるで花が咲いたかのように部屋を明るく彩った。
「遠いところをありがとうございます。セント・フローレスティーナへようこそ」
ケーニッヒやレヴィアもオディールに続いた。
騎士の面々はケーニッヒの登場にゴクリと唾をのみ、冷汗を浮かべる。すでに彼の【瞬歩】の間合い内なのだ。次の瞬間、いつ彼に斬られていてもおかしくない。そしてそれを避ける方法がないことは騎士たちに異常な緊張を強いた。
ケーニッヒはそんな騎士たちの緊張を知ってか知らずか、鋭い視線で騎士たちを見回す。
国王は立ち上がり、テーブル越しにオディールと握手を交わした。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりですわ」
オディールはニッコリと笑う。
「少し見ぬ間にお美しくなられましたな。この度は愚息が迷惑をかけた」
国王はこわばった笑顔でオディールに目をやった。
「若いのですからある程度のヤンチャは仕方ないかと思いますけど、度が過ぎてると思いますわ」
「ワシからもキツく言っておく。それで……【廃嫡】の条件は何とかならんだろうか?」
オディールはキュッと口を結んだ。身の安全を考えればこの条件は譲歩できない。
「彼が力を持っている限り、また同じことを繰り返しますわ。メンバーの間では処刑すべきという意見もありますのよ?」
「しょ、処刑!? それは……戦争になっても構わんということか!?」
国王は【覇王】のスキルを放った。ズン! という衝撃音と共に精神を支配する圧倒的な【威圧】をオディールに繰り出し、その凄まじい眼光で睨みつける。全身からは紫色のオーラが立ち上り、騎士たちはガタガタと震えた。
オディールは秘かに自分の手の甲をつねった。その痛みですさまじい威圧にひるむことなく正気を保ち、あえてニコッと笑う。威圧が来ることは織り込み済みであり、レヴィア相手に何度も練習していたのだった。
「戦争になったら王都は火の海になりますわ。それでもやりますの?」
「ひ、火の海……だと……? 貴様ぁ!!」
さらに激しくオーラを放つ国王。
「降りかかる火の粉は払わねばなりませんわ」
オディールは激烈な威圧になんとか耐えながら、キッと鋭い視線で国王をにらむ。
ケーニッヒはいざと言う時に備えてすっと剣に手を伸ばし、それに呼応して騎士たちも臨戦態勢に入る。
応接室の空気は凍りつくほど緊迫し、一触即発の危うさが部屋全体を圧迫する。
「まあまあ、お二方。ここは和解の場、煽るような言葉は慎んでいただけますかな?」
慌ててハーグルンドが間に入った。
二人はしばらくにらみ合ったものの、深刻な事態は避けたいという思いは同じだった。双方とも視線をそらし、大きく息をつくと、席に着く。
その場にいた者たちも緊張から解放され、深く息をついて臨戦態勢を解除する。
また、国王の威圧を感じながらも決してひるまないオディールに、訪問者たちは一様に感服した。それは、彼女は単なる幸運でここにいるわけではなく、本物の領主の資質を持っているのだという証明でもあったのだ。
ここから長く激しい協議が続くことになる。最終的に調印に至ったのは夕方だった。
◇
「それではヴィルフリート・ヘーリング王子を解放しますわ」
オディールが手を上げると、ガチャリとドアが開き、自警団に連れられて王子が入ってくる。王子はビクビクしながら周りを見回すと、バツが悪そうに国王を上目づかいで見た。
「このバカ息子が!」
国王はドタドタッと駆け寄ると、王子のほほを力いっぱい張り倒す。
パァン! という音が部屋に響きわたる。
オディールは渋い顔でその様子を眺め、重いため息をついた。始めからこうやって教育しておいてくれたら、こうした煩わしい事態には陥らなかったはずなのだ。
その後、王子は滔々とお小言を食らい、最後に国王に廃嫡を告げられると、ピクッと頬を動かし、ため息を漏らしながら肩を落とした。
「晩餐の用意ができております。よろしければこちらへ……」
オディールが声をかけた時だった。
「こんの小娘がぁぁぁ!」
王子は急に激昂する。【英雄】スキルのバフを自分にかけ、身体を黄金色に光り輝かせるとオディールに殴りかかった。
その素早い身のこなし、眼にもとまらぬ速さの拳に、その場にいた者は皆悲劇の予感に凍り付く。
キャァッ!
オディールの悲鳴が部屋に響いた直後、
ドスッ……。と、何かが床を転がった。
それは長細い肉の塊……、王子の右腕だった。