オディールはコクピットの座席に座り、辺りを一望する。セントラルや豪華客船のような居住棟群が並ぶ湖はキラキラと日の光に輝き、右手には花畑の向こうにロッソがたたずんでいる。
おぉぉぉぉ……。
素晴らしい見晴らし、巨体がもたらすずっしりとした安定感に嬉しくなったオディールは後ろを見上げた。
そこには兜の中で多角形の目が黄金に光り輝いている。子供の頃、プラモデルを手に持って、空想の世界の中で一緒に遊んだモビル・アーツ。今、自分はそれに搭乗しているのだ。
「くふぅ、やった、やったぞ!」
オディールは何度もガッツポーズを見せ、叫ぶ。異世界に来て一つ夢をかなえたオディールは有頂天だった。
「よーし、フローレスナイト! 前進だ、シュッパーツ!」
グォッ!
ズーン! ズーン! と、派手に地響きを響かせながらフローレスナイトは花畑の中を歩き始める。
一歩で五メートルほど進むフローレスナイトは、綺麗なフォームで愚直にまっすぐに歩いていった。
「おぉ! 卵とは違うのだよ、卵とは!」
興奮したオディールは思わず叫ぶ。
ただ、コクピットの中は結構揺れる。
「乗り心地は……いまいちよね……」
ミラーナは座席のひじ掛けにしがみつきながら渋い顔でオディールを見た。
「ま、まあ、馬に乗ったようなものだよ」
オディールはひきつった笑顔で答える。何しろ乗り心地なんて全く考慮していなかったのだ。
畑の方を見ると、農作業をしていた人たちが集まって大騒ぎになっている。いきなりこんな巨大な機動兵器が現れたのだ。驚くのも無理はない。
オディールはキャノピーを開くと、みんなに手を振った。
するとフローレスナイトも真似して、大きな手をゆっくりと振る。
その様子を見たみんなは一瞬どういうことか戸惑ったものの、すぐに大きな歓声を上げて手を振り返してきた。
うぉぉぉぉ! うわぁぁ!
キラキラと光る湖を背景に花畑を行く近未来的な巨大機動兵器。その圧倒的な存在感は、見ていたみんなには新時代の守護神の降臨に映ったのだ。
喜ぶみんなを見ながら、フローレスナイト作りは正解だったとオディールはグッとこぶしを握り、ニヤッと笑った。新たな世界を提案していく花の都セント・フローレスティーナにはこういうアイコンが必要なのだ。
オディールは立ち上がり、天高くこぶしを突き上げる。
「セント・フローレスティーナに栄光あれ!」
おぉぉぉ!
みんなも真似してこぶしを高くつき上げ、畑には歓声が響き渡った。
ミラーナは嬉しそうにはしゃぐオディールをやさしい目で見つめる。オディールがずっと欲しがっていたものの魅力を少し分かったようだった。
と、その時、湖の方からボーッボーッ! と警笛が響いてきた。振り返ると二艘の船が異常接近している。
どうやら運河から出てきた貨物船とセントラルへ向かう旅客船が、同じ方向に避けあってしまって衝突コースに乗ってしまったようである。
「あっ! 危ない!」
直後、激しい衝撃音が響き渡り、旅客船は貨物船のどてっぱらに突き刺さってしまった。旅客船の方は舳先が壊れ浸水してしまっている。
「あわわわ……。助けに行かなきゃ! フローレスナイト、GO!」
グォッ!
オディールたちは急いで救助に向かった。
◇
時をさかのぼること六時間――――。
往年の剣聖【ケーニッヒ】はセント・フローレスティーナで開始された湯治ツアーのうわさを聞きつけ、ハーグルンドの港から船に乗った。
ケーニッヒは【剣聖】のスキルを持つ凄腕剣士として、多くの上級魔物を斬り裂いて街を守り、武闘会では優勝し、その名を大陸にとどろかせていた。しかし、四十歳を機に現役を引退し、今ではのんびりと余生を送っている。
体力の衰えもあるが、過去の多くの戦闘で負った古傷が加齢と共にうずくようになり、とても戦闘できる状態になかったのだ。
船に乗ること半日、カーキ色のショートマントにハンチング帽をかぶった長い黒髪姿のケーニッヒはついにセント・フローレスティーナの全貌を目にする。
「はぁーー、なんじゃこりゃぁ……!? 造った奴はどえらい阿呆だな、はっはっは」
砂漠のど真ん中に花畑に囲まれた湖があって、豪華客船のようなビル群が林立し、船が多く行きかっている。それはとても現実とは思えない想像を絶する桃源郷に見えた。
と、その時、警笛が鳴り響く。
見ると貨物船がこっちに突っ込んでくるではないか。
「皆さん! うずくまって何かにつかまり、衝撃に備えて下さーい!」
アテンダントは青い顔をして絶叫した。
船長は一生懸命に舵を切るが、もはや手遅れに見える。
キャーー! ひぃぃぃ!
悲痛な叫びが響き渡った直後、激しい衝撃が船を襲い、乗客はあちこちに身体を打ちつけた。
ぐはぁ! ゴフッ!
うめき声が響き、嫌な静けさが船内に流れる。
顔を上げると、舳先が壊れ、水が船内に入り込み始めている。
「これはマズい……」
ケーニッヒは顔をしかめた。乗客には高齢者も多い。このままでは多くの人が水に沈んでしまう。残念ながら【剣聖】スキルは人助けには向いていない。自分が助けられるとしても一人二人が限界だろう。
その時だった。
ズシーン! ズシーン! と、地響きが聞こえてくる。何かと思って振り返ったケーニッヒは目を疑った。そこには見たことも聞いたこともない超巨大なナニカが土手を走っていたのだ。
おぉぉぉぉ……。
素晴らしい見晴らし、巨体がもたらすずっしりとした安定感に嬉しくなったオディールは後ろを見上げた。
そこには兜の中で多角形の目が黄金に光り輝いている。子供の頃、プラモデルを手に持って、空想の世界の中で一緒に遊んだモビル・アーツ。今、自分はそれに搭乗しているのだ。
「くふぅ、やった、やったぞ!」
オディールは何度もガッツポーズを見せ、叫ぶ。異世界に来て一つ夢をかなえたオディールは有頂天だった。
「よーし、フローレスナイト! 前進だ、シュッパーツ!」
グォッ!
ズーン! ズーン! と、派手に地響きを響かせながらフローレスナイトは花畑の中を歩き始める。
一歩で五メートルほど進むフローレスナイトは、綺麗なフォームで愚直にまっすぐに歩いていった。
「おぉ! 卵とは違うのだよ、卵とは!」
興奮したオディールは思わず叫ぶ。
ただ、コクピットの中は結構揺れる。
「乗り心地は……いまいちよね……」
ミラーナは座席のひじ掛けにしがみつきながら渋い顔でオディールを見た。
「ま、まあ、馬に乗ったようなものだよ」
オディールはひきつった笑顔で答える。何しろ乗り心地なんて全く考慮していなかったのだ。
畑の方を見ると、農作業をしていた人たちが集まって大騒ぎになっている。いきなりこんな巨大な機動兵器が現れたのだ。驚くのも無理はない。
オディールはキャノピーを開くと、みんなに手を振った。
するとフローレスナイトも真似して、大きな手をゆっくりと振る。
その様子を見たみんなは一瞬どういうことか戸惑ったものの、すぐに大きな歓声を上げて手を振り返してきた。
うぉぉぉぉ! うわぁぁ!
キラキラと光る湖を背景に花畑を行く近未来的な巨大機動兵器。その圧倒的な存在感は、見ていたみんなには新時代の守護神の降臨に映ったのだ。
喜ぶみんなを見ながら、フローレスナイト作りは正解だったとオディールはグッとこぶしを握り、ニヤッと笑った。新たな世界を提案していく花の都セント・フローレスティーナにはこういうアイコンが必要なのだ。
オディールは立ち上がり、天高くこぶしを突き上げる。
「セント・フローレスティーナに栄光あれ!」
おぉぉぉ!
みんなも真似してこぶしを高くつき上げ、畑には歓声が響き渡った。
ミラーナは嬉しそうにはしゃぐオディールをやさしい目で見つめる。オディールがずっと欲しがっていたものの魅力を少し分かったようだった。
と、その時、湖の方からボーッボーッ! と警笛が響いてきた。振り返ると二艘の船が異常接近している。
どうやら運河から出てきた貨物船とセントラルへ向かう旅客船が、同じ方向に避けあってしまって衝突コースに乗ってしまったようである。
「あっ! 危ない!」
直後、激しい衝撃音が響き渡り、旅客船は貨物船のどてっぱらに突き刺さってしまった。旅客船の方は舳先が壊れ浸水してしまっている。
「あわわわ……。助けに行かなきゃ! フローレスナイト、GO!」
グォッ!
オディールたちは急いで救助に向かった。
◇
時をさかのぼること六時間――――。
往年の剣聖【ケーニッヒ】はセント・フローレスティーナで開始された湯治ツアーのうわさを聞きつけ、ハーグルンドの港から船に乗った。
ケーニッヒは【剣聖】のスキルを持つ凄腕剣士として、多くの上級魔物を斬り裂いて街を守り、武闘会では優勝し、その名を大陸にとどろかせていた。しかし、四十歳を機に現役を引退し、今ではのんびりと余生を送っている。
体力の衰えもあるが、過去の多くの戦闘で負った古傷が加齢と共にうずくようになり、とても戦闘できる状態になかったのだ。
船に乗ること半日、カーキ色のショートマントにハンチング帽をかぶった長い黒髪姿のケーニッヒはついにセント・フローレスティーナの全貌を目にする。
「はぁーー、なんじゃこりゃぁ……!? 造った奴はどえらい阿呆だな、はっはっは」
砂漠のど真ん中に花畑に囲まれた湖があって、豪華客船のようなビル群が林立し、船が多く行きかっている。それはとても現実とは思えない想像を絶する桃源郷に見えた。
と、その時、警笛が鳴り響く。
見ると貨物船がこっちに突っ込んでくるではないか。
「皆さん! うずくまって何かにつかまり、衝撃に備えて下さーい!」
アテンダントは青い顔をして絶叫した。
船長は一生懸命に舵を切るが、もはや手遅れに見える。
キャーー! ひぃぃぃ!
悲痛な叫びが響き渡った直後、激しい衝撃が船を襲い、乗客はあちこちに身体を打ちつけた。
ぐはぁ! ゴフッ!
うめき声が響き、嫌な静けさが船内に流れる。
顔を上げると、舳先が壊れ、水が船内に入り込み始めている。
「これはマズい……」
ケーニッヒは顔をしかめた。乗客には高齢者も多い。このままでは多くの人が水に沈んでしまう。残念ながら【剣聖】スキルは人助けには向いていない。自分が助けられるとしても一人二人が限界だろう。
その時だった。
ズシーン! ズシーン! と、地響きが聞こえてくる。何かと思って振り返ったケーニッヒは目を疑った。そこには見たことも聞いたこともない超巨大なナニカが土手を走っていたのだ。