脱穀したらふるいにかけ、実だけにする。パンパンに膨らんだ大粒の実は見るからにおいしそうで、見る者全ての表情をほころばせた。
「なんと立派な実じゃ!」「これをパンにしたら美味しくなるよ!」「やったぁ!」
収穫の喜びがみんなを心地よく包み込み、幸せの息吹を運んでくる。
次は男たちの力仕事、石臼挽きだ。ミラーナの作った巨大な岩の石臼を、男たちが総出で回して挽いていく。
「おらぁ! やったるでー!」
トニオも気合十分で石臼についた棒を押し、回していった。
回すたびにゴリゴリと思い音を響かせながら、石臼のヘリからは砕かれた麦がポロポロとこぼれていく。これでようやく食べられる粉となったのだ。
こうして製粉された小麦粉は次々と袋詰めされ、積み上げられていく。大地の恵みがみんなの力で小麦粉の山へと変わっていったのだ。
その輝くような白い粉は、パンになり、麺になり、セント・フローレスティーナの活力へと変わっていくだろう。
次々と積み上がっていく小麦粉の袋を見ながら、住民はみな笑顔で充実感のある汗を流していた。
◇
日も傾いてきたころ、無事、住民総出の収穫も終わり、いよいよ収穫祭が始まる。
セントラルの広場では、レヴィアが真っ赤に熱した石窯を使い、次々とアツアツのピザが焼かれ、テーブルに配られていく。ピザの上にはカラフルな撫子やパンジーの花びらを盛り付け、何ともおしゃれな花のピザになっていた。
エールやリンゴ酒の樽も次々と開けられ、みんな思い思いに好きな飲み物を手にした。
「はーい、みんなー! 注目だよー!!」
赤毛を編み込み、紺色のジャケット姿のファニタがパンパンと手を叩きながらステージで叫ぶ。
「はい! そこ! こっち向くんだよー! ……。これより、収穫祭を始めるよー! それでは我らが領主、オディール・フローレスティーナ様よりご挨拶をいただくよ! みんなちゃんと聞いてよー!」
ザワザワしていた会場も一気に静まり返る。
夕焼けに真っ赤に輝くロッソをバックにオディールはステージに上がり、優雅な身のこなしで頭を下げる。白地に花模様の金の刺繍のついたドレスに身を包んだオディールは、魔法のスポットライトで明るく浮かび上がった。
おぉ……。うわぁ……。
農作業姿とは打って変わって、元公爵令嬢の洗練されたスタイル、身のこなしにみんなどよめいた。
オディールは集まってくれた住民のみんなを見渡し、微笑みを浮かべる。一人一人移住時にあいさつはしているものの、こうして正装でみんなの前に立つのは初めてなのだ。
「みなさん、お疲れさまでした」
ニコッと笑うオディール。
「お疲れさまー!」「オディールさまー!」「素敵ー!」
会場からは熱気がほとばしる。
オディールはそんなみんなの顔を見回し、感慨深そうに微笑む。
数か月前までただの砂漠だったところに花が咲き誇り、街が育ち、今、幸せな笑顔を浮かべるたくさんの人々が集まっている。それはまさに奇跡だった。
オディールは改めて自分のやってきたことは間違っていなかったのだと思いを新たにし、潤んでくる目頭をそっと押さえた。
静まり返る会場。
オディールは大きく息をつき、顔を上げる。
「この砂漠のど真ん中で、作物が大きく実り、食べ物が自給自足できるようになりました! これもみんなのおかげだよ! ありがとーう!」
大きく腕を突き上げるオディール。
うぉぉぉぉ!
空気が震えるほどの歓声が上がる。
オディールは両手を大きく広げ、歓声を受け止めながら会場の隅から隅までを満面の笑みで眺めていった。
一通り見まわすと、自分は幸せものだと深く感謝しながら深々と頭を下げる。
パチパチと万雷の拍手が会場を包んだ。
タイミングを見計らったミラーナがリンゴ酒のグラスを持ってステージにのぼり、オディールに手渡す。
オディールは笑顔で受け取って会場へと差し向けた。
「では、そろそろ乾杯しましょ? 今、手元に配ってる食べ物、それ、ピザって言うの。うちの畑で獲れたもので作ってるよ。お花が乗っててね、さわやかな苦みが結構癖になるんだ。これ、うちの名産品にするから食べてみて、美味しいよ! それじゃ、いくよ? カンパーイ!」
オディールは満面の笑みでグラスを高々と掲げた。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
みんなエールのジョッキをゴツゴツとぶつけ、ゴクゴクとのどを潤していく。
「クハーーッ!」「美味い!」
あちこちで声があがり、パチパチパチとひときわ元気な拍手がセントラルに響き渡った。
こうして、街で最初のイベント、収穫祭は順調にスタートした。
ただ、千人のイベントの裏方は大変である。
ミラーナを中心としたピザ焼き部隊がフル回転で次から次へと焼いていくが、大好評で焼くそばから飛ぶように消えて行ってしまう。
「トニオ! ピザ生地まだね? 待ってるんだけど?」
綿棒で丸く引き伸ばしているトニオにファニタが怒る。
「だってコイツ、伸ばしてもすぐ元に戻っちゃうんだよぉ」
泣きそうになりながら力いっぱい伸ばすトニオ。
「おい、見なよ。こう回すんだよ」
ガスパルが、指先でクルクルッとピザ生地を回し、空中でどんどん大きく伸ばしていく。
「えっ!? 何それ?」
トニオは目を丸くして、あっという間に出来上がっていくピザ生地に唖然とする。
「お主には無理かな? カッカッカ」
ガスパルは笑いながら二枚目を回し始めた。
「くぅっ! 俺も回してやっからよ!」
真似してクルクルと回してみるトニオだったが、あっという間に失敗して床に落としてしまう。
「ああっ!」
「何やっとるんよ! あんた食べなさいよ!」
ファニタがパシッと頭をはたいた。
「くぅぅぅ、もう一回!」
トニオはもう一度指先でクルクルと回してみるが、やはりうまくいかず、ピョンと飛んで行ってしまう。
運悪く、生地はそのままファニタの顔にぶつかり、辺りに粉が散った。
粉だらけのファニタは怒りに震えながら鬼の形相でトニオをにらむ。
「ひっ!」
危機を察知したトニオは一目散に逃げだそうとしたが、一瞬遅く襟元をファニタにガシッとつかまれる。
あわわわわ……。
「『ごめんなさい』は?」
ファニタはギロリとトニオをにらんだ。
「ピザ生地が勝手に逃げ出したんだって! 俺のせいじゃないってば!」
「生地のせいにしない!」
パシーン!
あひぃ!
二人の掛け合いが広場に響き、笑いが起こった。
「おぉ、やってるやってる」「トニオ、謝れー」「もう一緒になっちゃえ!」
やじ馬の声にファニタは怒る。
「誰がこいつと一緒になるんよ?」
「え? 結構いい物件だと思うけどなぁ」
トニオはにやけて返す。
「いい物件はピザ生地ぶつけないの!」
ファニタは手にした綿棒でトニオのお尻をパシッとはたく。
「いてて、暴力はんたーい! みなさんもちょっと言ってやってくださいよ!」
トニオはおどけながら観衆にアピールする。
ワハハハ!
上がる笑い声。
もはや名物となってしまった仲良くケンカする二人を、みんな笑いながら温かく見守っていた。
結局その日は多くの酒樽が空っぽになって転がり、夜遅くまでにぎやかな声がセントラルにこだましていた。
「なんと立派な実じゃ!」「これをパンにしたら美味しくなるよ!」「やったぁ!」
収穫の喜びがみんなを心地よく包み込み、幸せの息吹を運んでくる。
次は男たちの力仕事、石臼挽きだ。ミラーナの作った巨大な岩の石臼を、男たちが総出で回して挽いていく。
「おらぁ! やったるでー!」
トニオも気合十分で石臼についた棒を押し、回していった。
回すたびにゴリゴリと思い音を響かせながら、石臼のヘリからは砕かれた麦がポロポロとこぼれていく。これでようやく食べられる粉となったのだ。
こうして製粉された小麦粉は次々と袋詰めされ、積み上げられていく。大地の恵みがみんなの力で小麦粉の山へと変わっていったのだ。
その輝くような白い粉は、パンになり、麺になり、セント・フローレスティーナの活力へと変わっていくだろう。
次々と積み上がっていく小麦粉の袋を見ながら、住民はみな笑顔で充実感のある汗を流していた。
◇
日も傾いてきたころ、無事、住民総出の収穫も終わり、いよいよ収穫祭が始まる。
セントラルの広場では、レヴィアが真っ赤に熱した石窯を使い、次々とアツアツのピザが焼かれ、テーブルに配られていく。ピザの上にはカラフルな撫子やパンジーの花びらを盛り付け、何ともおしゃれな花のピザになっていた。
エールやリンゴ酒の樽も次々と開けられ、みんな思い思いに好きな飲み物を手にした。
「はーい、みんなー! 注目だよー!!」
赤毛を編み込み、紺色のジャケット姿のファニタがパンパンと手を叩きながらステージで叫ぶ。
「はい! そこ! こっち向くんだよー! ……。これより、収穫祭を始めるよー! それでは我らが領主、オディール・フローレスティーナ様よりご挨拶をいただくよ! みんなちゃんと聞いてよー!」
ザワザワしていた会場も一気に静まり返る。
夕焼けに真っ赤に輝くロッソをバックにオディールはステージに上がり、優雅な身のこなしで頭を下げる。白地に花模様の金の刺繍のついたドレスに身を包んだオディールは、魔法のスポットライトで明るく浮かび上がった。
おぉ……。うわぁ……。
農作業姿とは打って変わって、元公爵令嬢の洗練されたスタイル、身のこなしにみんなどよめいた。
オディールは集まってくれた住民のみんなを見渡し、微笑みを浮かべる。一人一人移住時にあいさつはしているものの、こうして正装でみんなの前に立つのは初めてなのだ。
「みなさん、お疲れさまでした」
ニコッと笑うオディール。
「お疲れさまー!」「オディールさまー!」「素敵ー!」
会場からは熱気がほとばしる。
オディールはそんなみんなの顔を見回し、感慨深そうに微笑む。
数か月前までただの砂漠だったところに花が咲き誇り、街が育ち、今、幸せな笑顔を浮かべるたくさんの人々が集まっている。それはまさに奇跡だった。
オディールは改めて自分のやってきたことは間違っていなかったのだと思いを新たにし、潤んでくる目頭をそっと押さえた。
静まり返る会場。
オディールは大きく息をつき、顔を上げる。
「この砂漠のど真ん中で、作物が大きく実り、食べ物が自給自足できるようになりました! これもみんなのおかげだよ! ありがとーう!」
大きく腕を突き上げるオディール。
うぉぉぉぉ!
空気が震えるほどの歓声が上がる。
オディールは両手を大きく広げ、歓声を受け止めながら会場の隅から隅までを満面の笑みで眺めていった。
一通り見まわすと、自分は幸せものだと深く感謝しながら深々と頭を下げる。
パチパチと万雷の拍手が会場を包んだ。
タイミングを見計らったミラーナがリンゴ酒のグラスを持ってステージにのぼり、オディールに手渡す。
オディールは笑顔で受け取って会場へと差し向けた。
「では、そろそろ乾杯しましょ? 今、手元に配ってる食べ物、それ、ピザって言うの。うちの畑で獲れたもので作ってるよ。お花が乗っててね、さわやかな苦みが結構癖になるんだ。これ、うちの名産品にするから食べてみて、美味しいよ! それじゃ、いくよ? カンパーイ!」
オディールは満面の笑みでグラスを高々と掲げた。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
みんなエールのジョッキをゴツゴツとぶつけ、ゴクゴクとのどを潤していく。
「クハーーッ!」「美味い!」
あちこちで声があがり、パチパチパチとひときわ元気な拍手がセントラルに響き渡った。
こうして、街で最初のイベント、収穫祭は順調にスタートした。
ただ、千人のイベントの裏方は大変である。
ミラーナを中心としたピザ焼き部隊がフル回転で次から次へと焼いていくが、大好評で焼くそばから飛ぶように消えて行ってしまう。
「トニオ! ピザ生地まだね? 待ってるんだけど?」
綿棒で丸く引き伸ばしているトニオにファニタが怒る。
「だってコイツ、伸ばしてもすぐ元に戻っちゃうんだよぉ」
泣きそうになりながら力いっぱい伸ばすトニオ。
「おい、見なよ。こう回すんだよ」
ガスパルが、指先でクルクルッとピザ生地を回し、空中でどんどん大きく伸ばしていく。
「えっ!? 何それ?」
トニオは目を丸くして、あっという間に出来上がっていくピザ生地に唖然とする。
「お主には無理かな? カッカッカ」
ガスパルは笑いながら二枚目を回し始めた。
「くぅっ! 俺も回してやっからよ!」
真似してクルクルと回してみるトニオだったが、あっという間に失敗して床に落としてしまう。
「ああっ!」
「何やっとるんよ! あんた食べなさいよ!」
ファニタがパシッと頭をはたいた。
「くぅぅぅ、もう一回!」
トニオはもう一度指先でクルクルと回してみるが、やはりうまくいかず、ピョンと飛んで行ってしまう。
運悪く、生地はそのままファニタの顔にぶつかり、辺りに粉が散った。
粉だらけのファニタは怒りに震えながら鬼の形相でトニオをにらむ。
「ひっ!」
危機を察知したトニオは一目散に逃げだそうとしたが、一瞬遅く襟元をファニタにガシッとつかまれる。
あわわわわ……。
「『ごめんなさい』は?」
ファニタはギロリとトニオをにらんだ。
「ピザ生地が勝手に逃げ出したんだって! 俺のせいじゃないってば!」
「生地のせいにしない!」
パシーン!
あひぃ!
二人の掛け合いが広場に響き、笑いが起こった。
「おぉ、やってるやってる」「トニオ、謝れー」「もう一緒になっちゃえ!」
やじ馬の声にファニタは怒る。
「誰がこいつと一緒になるんよ?」
「え? 結構いい物件だと思うけどなぁ」
トニオはにやけて返す。
「いい物件はピザ生地ぶつけないの!」
ファニタは手にした綿棒でトニオのお尻をパシッとはたく。
「いてて、暴力はんたーい! みなさんもちょっと言ってやってくださいよ!」
トニオはおどけながら観衆にアピールする。
ワハハハ!
上がる笑い声。
もはや名物となってしまった仲良くケンカする二人を、みんな笑いながら温かく見守っていた。
結局その日は多くの酒樽が空っぽになって転がり、夜遅くまでにぎやかな声がセントラルにこだましていた。