日が落ちてきてオレンジ色に輝き始めた砂漠の上を、レヴィアは気持ちよさそうに軽やかに飛び、大陸の奥へ奥へと進んでいく。
延々と続く草一つ生えていない砂漠、それは生き物の姿一つ見えない不気味な死の領域だった。大地を引き裂いたような岩の山脈を越え、渓谷を越え、東へ東へと飛んでいく一行。
やがて、オディールは広大な砂漠の大地にポッコリと盛り上がる奇妙な岩山を見つけた。まるでオーストラリアのエアーズロックのような不思議な形をしているその岩山は、夕日に照らされて赤く輝いていた。
「うわぁ……、何あれ……?」
オディールはその奇妙な造形にくぎ付けとなった。まるで誰かが作ったかのように広大な砂漠にそこだけ盛り上がっているのだ。
「ただの岩山じゃろ」
レヴィアは重低音の声を響かせ、通り過ぎようとする。
「ねぇ! 降りて! 降りて!」
オディールはせがんだ。何か岩山に呼ばれたような気がしたのだ。
「へ? 海行くんじゃなかったんか?」
「いいから降りて!」
オディールは漆黒の鱗をバンバン叩く。
「砂漠の岩山に何があるんじゃ……。しょうがないのう……」
レヴィアは面倒くさそうにため息をつくと、首をもたげ、翼を斜め前に出し、急遽着陸態勢に入った。
◇
岩山をゆったりと旋回しながら高度を落とし、ふもとの荒れ地に着陸したレヴィア――――。
オディールはピョンと飛び降りて、岩山を見上げた。
夕日に照らされて赤く輝く岩山の高さは三百メートルくらい、幅は数キロはあるだろうか、断崖絶壁に囲まれて、登るとしたら骨が折れそうである。
「うわぁ、すごい岩山ねぇ……」
ミラーナも降りてきて岩山を見上げた。
「すごいよね。なんて山なんだろう。知ってる?」
オディールは金髪娘に戻ったレヴィアに聞いてみるが、レヴィアは、肩をすくめ首を振った。
「知らん。ここは周囲数百キロ砂漠しかないから、まだ誰も見たことない山かもな。せっかくだから名前を付けてみたらどうじゃ?」
「名前かぁ……赤い岩だからレッドロック……、いや、ダサいな……」
腕を組み、首をひねるオディール。
ヴォルフラムが岩山を不思議そうに見上げながら、つぶやく。
「赤ならロッソ……という言い方もありますねぇ」
「ロッソ……、いい響きね……」
ミラーナはにこやかにうなずいた。
「ロッソかぁ……、うん、いいかも。こいつはロッソだ! ヴォル、ナイス!」
オディールは嬉しそうにヴォルフラムの背中をパンパンと叩く。
えへへへ……。
ヴォルフラムは猫背で照れ笑いをしながら頭をかいた。
◇
砂漠の地平線に大きな真っ赤な夕日が沈み込み、その輝きを受けたロッソはまるで燃え上がるかのように真紅に煌めく。みんなは息をのんで、その揺らぎゆく色彩の美しさに見入っていた。
夕暮れの茜色から群青色へと続くグラデーションを背景に赤い輝きを放つロッソは、大自然の巨大なキャンバス上の繊細で感動的なアートとして心を打つ。
周囲数百キロ、誰もいない砂漠のステージで毎日繰り広げられていたショーは、今、オディールたちを迎えて初めて観客を得たのだった。
うわぁ……。
オディールは思わずため息をつき、ミラーナの手をそっと握る。
くだらない貴族社会でずっと窮屈な思いをして硬直していた心が少しずつほぐれていく感覚にオディールは身をゆだねた。知らないうちに頬を涙が伝っていく。
オディールは流れる涙をぬぐいもせず、ただ静かに刻々と表情が変わっていくロッソを眺めていた。
この先、何があるか分からないが、心揺るがす旅に人生の本質が埋まっているに違いない。
オディールは涙をぬぐうとミラーナの手をギュッと握って、嬉しそうにミラーナを見た。
ミラーナは一瞬キョトンとしたが、優しい笑顔でほほ笑み、ゆっくりとうなずいた。
◇
「よーし! 今日はここでキャンプだゾ!」
太陽が沈み、宵の明星が輝き始める中、オディールが腕を突き上げる。
「え? ど、どこで寝るの?」
ミラーナは、不安そうに聞く。
「これから簡単な小屋を建てよう。岩壁でね」
そう言うと、オディールはマジックバッグからひもを出し、コンパスの要領でガリガリガリっと地面に十畳くらいの広さの円を描いた。
「ミラーナ、この円に沿って岩壁を生やしてみて」
いきなりミラーナに無茶振りするオディール。
「えっ? 岩壁で小屋作るの!? そんなのやったことなんてないわよ」
しり込みするミラーナだったが、オディールはいたずらっ子の笑みを浮かべながら言う。
「野宿より小屋があった方がいいと……思うよ?」
えぇ……?。
ミラーナは眉をひそめるとため息をつき、渋々地面に描かれた線をたどってみる。
「えーっと……、これ、どうやって……ええーー……」
どうやって円弧の岩壁を出したらいいのかピンとこないミラーナは両手で口を覆い、うつむいた。
「失敗したっていいんだよ。ほら、やるよ!」
オディールは無責任にミラーナの背中を叩く。
ミラーナはジト目でオディールをにらんだが、確かに野宿よりは小屋が欲しいのはその通りだった。
大きく息をつき、精神を集中して岩壁のイメージを固めていくミラーナ。
夜の風がそよぎ始め、ミラーナの黒髪をさらさらと乱した。
「分かったわよ。じゃ、練習だと思って一気に行くわよ!」
ミラーナは円の中心に立つと、手をのばして呪文をぶつぶつと唱え始める。
直後、ぼうっと黄色い光がミラーナを包み、地面も円形に光り始めた。
延々と続く草一つ生えていない砂漠、それは生き物の姿一つ見えない不気味な死の領域だった。大地を引き裂いたような岩の山脈を越え、渓谷を越え、東へ東へと飛んでいく一行。
やがて、オディールは広大な砂漠の大地にポッコリと盛り上がる奇妙な岩山を見つけた。まるでオーストラリアのエアーズロックのような不思議な形をしているその岩山は、夕日に照らされて赤く輝いていた。
「うわぁ……、何あれ……?」
オディールはその奇妙な造形にくぎ付けとなった。まるで誰かが作ったかのように広大な砂漠にそこだけ盛り上がっているのだ。
「ただの岩山じゃろ」
レヴィアは重低音の声を響かせ、通り過ぎようとする。
「ねぇ! 降りて! 降りて!」
オディールはせがんだ。何か岩山に呼ばれたような気がしたのだ。
「へ? 海行くんじゃなかったんか?」
「いいから降りて!」
オディールは漆黒の鱗をバンバン叩く。
「砂漠の岩山に何があるんじゃ……。しょうがないのう……」
レヴィアは面倒くさそうにため息をつくと、首をもたげ、翼を斜め前に出し、急遽着陸態勢に入った。
◇
岩山をゆったりと旋回しながら高度を落とし、ふもとの荒れ地に着陸したレヴィア――――。
オディールはピョンと飛び降りて、岩山を見上げた。
夕日に照らされて赤く輝く岩山の高さは三百メートルくらい、幅は数キロはあるだろうか、断崖絶壁に囲まれて、登るとしたら骨が折れそうである。
「うわぁ、すごい岩山ねぇ……」
ミラーナも降りてきて岩山を見上げた。
「すごいよね。なんて山なんだろう。知ってる?」
オディールは金髪娘に戻ったレヴィアに聞いてみるが、レヴィアは、肩をすくめ首を振った。
「知らん。ここは周囲数百キロ砂漠しかないから、まだ誰も見たことない山かもな。せっかくだから名前を付けてみたらどうじゃ?」
「名前かぁ……赤い岩だからレッドロック……、いや、ダサいな……」
腕を組み、首をひねるオディール。
ヴォルフラムが岩山を不思議そうに見上げながら、つぶやく。
「赤ならロッソ……という言い方もありますねぇ」
「ロッソ……、いい響きね……」
ミラーナはにこやかにうなずいた。
「ロッソかぁ……、うん、いいかも。こいつはロッソだ! ヴォル、ナイス!」
オディールは嬉しそうにヴォルフラムの背中をパンパンと叩く。
えへへへ……。
ヴォルフラムは猫背で照れ笑いをしながら頭をかいた。
◇
砂漠の地平線に大きな真っ赤な夕日が沈み込み、その輝きを受けたロッソはまるで燃え上がるかのように真紅に煌めく。みんなは息をのんで、その揺らぎゆく色彩の美しさに見入っていた。
夕暮れの茜色から群青色へと続くグラデーションを背景に赤い輝きを放つロッソは、大自然の巨大なキャンバス上の繊細で感動的なアートとして心を打つ。
周囲数百キロ、誰もいない砂漠のステージで毎日繰り広げられていたショーは、今、オディールたちを迎えて初めて観客を得たのだった。
うわぁ……。
オディールは思わずため息をつき、ミラーナの手をそっと握る。
くだらない貴族社会でずっと窮屈な思いをして硬直していた心が少しずつほぐれていく感覚にオディールは身をゆだねた。知らないうちに頬を涙が伝っていく。
オディールは流れる涙をぬぐいもせず、ただ静かに刻々と表情が変わっていくロッソを眺めていた。
この先、何があるか分からないが、心揺るがす旅に人生の本質が埋まっているに違いない。
オディールは涙をぬぐうとミラーナの手をギュッと握って、嬉しそうにミラーナを見た。
ミラーナは一瞬キョトンとしたが、優しい笑顔でほほ笑み、ゆっくりとうなずいた。
◇
「よーし! 今日はここでキャンプだゾ!」
太陽が沈み、宵の明星が輝き始める中、オディールが腕を突き上げる。
「え? ど、どこで寝るの?」
ミラーナは、不安そうに聞く。
「これから簡単な小屋を建てよう。岩壁でね」
そう言うと、オディールはマジックバッグからひもを出し、コンパスの要領でガリガリガリっと地面に十畳くらいの広さの円を描いた。
「ミラーナ、この円に沿って岩壁を生やしてみて」
いきなりミラーナに無茶振りするオディール。
「えっ? 岩壁で小屋作るの!? そんなのやったことなんてないわよ」
しり込みするミラーナだったが、オディールはいたずらっ子の笑みを浮かべながら言う。
「野宿より小屋があった方がいいと……思うよ?」
えぇ……?。
ミラーナは眉をひそめるとため息をつき、渋々地面に描かれた線をたどってみる。
「えーっと……、これ、どうやって……ええーー……」
どうやって円弧の岩壁を出したらいいのかピンとこないミラーナは両手で口を覆い、うつむいた。
「失敗したっていいんだよ。ほら、やるよ!」
オディールは無責任にミラーナの背中を叩く。
ミラーナはジト目でオディールをにらんだが、確かに野宿よりは小屋が欲しいのはその通りだった。
大きく息をつき、精神を集中して岩壁のイメージを固めていくミラーナ。
夜の風がそよぎ始め、ミラーナの黒髪をさらさらと乱した。
「分かったわよ。じゃ、練習だと思って一気に行くわよ!」
ミラーナは円の中心に立つと、手をのばして呪文をぶつぶつと唱え始める。
直後、ぼうっと黄色い光がミラーナを包み、地面も円形に光り始めた。