襲撃者を撃退したのち、図書館で教会を調べていくと一つわかったことがあった。
教皇になるには神から条件が提示され、クリアした者だけが証を得られることだ。証を生涯保持し、皆の見える位置に掲示していること。持ち主の死して証は無効となり、また新たに獲得が必要になる。
――何を意味しているのか。
証が有効な内は生きている証でもある。また代々証の色が変わるという。此度の証は紅色である。おそらく問題はそこではない。
証の保持者をなんらかの理由で軟禁し、本人になりすましも可能なことだ。
姿格好や顔は常に隠されており、体も重厚なローブに纏い男女の区別さえ難しい。それならばなりすましも容易になる。証の有効性を対外的に示せていればいいだけだからだ。
ただ今回の騒動は、一樹が作るポショの効能とはいえど、当人の努力と才能によるものが大きい。教会産の物と比較して金額の大小の差こそあれど、利用者にとっては死活問題なわけで、より生存率は高く安い方がいいに決まっている。
探索業を生業にしている以上、命あっての物種なら尚更だ。
教会は一樹が狙いのはずなのに、地下ギルドのギルドマスターを捉えた。客観的に見て奇行なわけで、一樹には理由がまったく推測できないでいた。
ただし、先の推察のなりすましが可能ですでに入れ替わっているなら答えは別だ。どのような理由もあり得る状況になる。
ところがあまりにも突拍子もない企てだと、類推するのは困難だろう。今の教皇が偽の教皇で、しかも狙いはセバスならぬセルバスとしての神威をあび続けたコアが必要など、誰に想像できよう。当事者同士にしかわからない事情だ。
今言えるのは、普通に考えたら教会関係者から、一樹に便宜を図ったことで責められていると一樹は推察をしていた。一樹なりに考えるとポショを高価で買取してくれ、隠れ家として適している宿屋の紹介などもしてくれていたから、自身のせいだと思い悩んでしまう。
賞金首となって何度も襲撃を受け撃退しているものの、騒動が多発していけば大きな地下街とはいえ、いずれ町からも追放されてしまう日が来るかもしれないとも思っていた。
幸いなことに今は、魔法のテントで過ごすため、寝床を襲撃されることはまずない。宿屋の空の部屋に襲撃しに来る以外はとくにない。みな諦めて出て行ってしまうからだ。
自分自身のことはともかくとして、困ったことに何度考えても、良い救出方法が見つからない。まるで夜明け前の闇の中にいるようでまったく先も見えないばかりか手元ですら見えない。いたずらに時間が過ぎていく一方だった。
ふらりと一樹はモグーも連れて地下ギルドへ訪れる。残念ながらギャンブルマスターは見かけず代わりに一樹がくることを予想していたのか、サブギルドマスターのセニアが待ち構えていたかのように近寄ってきた。
「やっほ〜。昨日ぶりかな?」
「おっ、おう。随分軽いな」
モグーは気軽にセニアに声をかけていた。
「あっセニアだ。こんにちは」
「モグちゃんも一緒なのね。やっほ〜。一樹はギルマスのこと?」
モグーはさっそく真似て挨拶を返す。
「やっほ〜」
一樹は、どう考えても二人だけの戦力では打開策が見つからず相談をしにきたことを伝える。
「ああそうなんだ。俺とモグーだけじゃ救出がむずかしいからな。相談ってやつだ」
「ふむふむ。そしたら部屋で相談に乗るわ。ついてきて」
そういうと買取窓口の左手側にある扉を開けて中に入っていく。
以前、ギャンブルマスターと話をした場所だ。
どう言うわけか今回も一番手前の部屋になる。
「今回もこの部屋か」
「あら? 違う部屋が良かった?」
「いや、前回ギャンブルマスターと同じ部屋だったからさ」
「ふ〜ん。そうなのね」
中も変わらず白い壁に二人がけのソファーが向かい合って設置され間にローテーブルが置かれている。一樹とモグーは腰掛け、対面のソファーにセニアが腰掛けた。一樹はさっそく、本題に移る。
「率直に意見が聞きたいんだ」
「うんうん。やっぱうちのギルマスと本物の方の救出と両方なんとかしたいというところかしら?」
「大正解。と言っても二人しかいない戦力で何か方法はあるか?」
「モグちゃんと二人ね……。ぶっちゃけ厳しいわ」
「だよな……。セバスはもちろん救出なんだけど、本物の方も救出したいのは賞金の取り下げをしてほしいからなんだよな」
「まあ、そうなるわね」
「かといってモグーと二手に別れても、それは厳しいし。はあ……。まいったな」
「ギルドじゃ教会に楯突くのはちょっとまずいのよね。そこで一つ案があるんだけど……」
「ん? どんなんだ?」
「あたしと、もう一人心当たりがあるからその子を誘ってみようかなと」
「おっ! マジか! ありがたい。でも今ギルドじゃ楯突くのは難しいとか言わなかったか?」
「ええ、かなりまずいわね。だからギルドとしてでなく、アタシともう一人が正体隠して参戦ね」
「なるほどな。助かる」
「そうすれば、一樹とモグちゃんのチームとあたしともう一人のチームの二手に分かれていけるわ」
「ただそれだと、正体隠すとはいえサブマスの立場上、やばくないか?」
「そこは大丈夫。完全に身元は伏せるわ。あたしも何とかしたいと思っていたし」
「そうか。ならいいんだ。あとは、敵対者の質か……」
「数はそんなにいないはずよ? その代わり手練ればかりで凶悪なぐらいかな?」
「ん〜。そうなったらアレを使うしかないか」
「アレって?」
「ん……」
「?」
「他には伏せてくれ。製作者も不明でなら教える」
「どう言うこと? まあわかったわ。サブマスの名と地下ギルドの名において誓うわ」
「助かる。実はこれだ」
一樹は懐から、蘇生薬を一本取り出した。
「看破の力はあるか?」
「アイテムならあるわ。どれどれ……。え! えー! ちょっとこれ!」
「ああ。すごいだろ?」
「ちょっと、どこで手に入れたのよ? これヤバすぎる品よ?」
「今、それも含めると手元に四本ある。俺とモグーとセニアとそのもう一人の子用だ」
「随分と用意がいいのね」
「まあな」
「これならいけるわ。24時間何度も蘇生できるって破格中の破格よ? 神にでもなったつもり?」
「また随分と大袈裟だな……」
「ほんとのホントよ? 何度もってイカレているわ……」
「そうか、気に入ったなら良かった」
「これは、これ以上聞いちゃダメなやつなのね?」
「そうしてくれると助かる」
「はあ……。こんな物が世の中出回ったら、一樹捕まるわね」
「だろ? その危険を冒してまでして助け出したい気持ちをわかってくれたならありがたい」
「こんな物見せるだけでなく使わせて貰えるなら、まったく問題ないわ」
「疑わないのか? 効果を」
「それは意味がないわ。看破で見える説明は神の言葉よ? 疑えるわけないし、その効果は神が保証しているのよ?」
「なるほどな……」
「そしたらさっそく、声をかけてくるわ。また明日同じ時間に来られる?」
「ああ。大丈夫だ」
「その時、詳細な作戦会議をしましょ」
「助かる」
「いえいえ。こちらこそよ。ギルマスのために一樹は相当危険なことしてくれているし」
「恩があるからな、セバスには」
こうして一樹は一筋の希望を見つけた気がした。
地下ギルドから宿屋へ戻っていく。
「一樹ぃ。なんとかなりそうだね」
「ああ。俺たちだけではキツかったからな。いくら蘇生薬があっても多勢に無勢さ」
「それでも二手に分かれるんだよね?」
「そうだな。ルートは二つどちらに本物の教皇とせバスがいるかわからないからな」
これで完全に迷いなく選択できると一樹は思っていた。今最大の支援がしてもらえるのはセニアともう一人だけだ。
救出するのか、見捨てるのか。この答えは救出以外にない。セバスを助けないという選択肢は、あるわけもない。
そうとなれば、偽教皇相手にことを起こす必要があり、失敗=死だ。あとはどう助けるかだ。単に身柄を救出しても、再び謂れのない内容で拘束されてしまうのを防ぐには、大元を断つ必要がある。
元は冒険ギルドのギルマスから教会への密告からことが深刻になったと予想できる。専売特許を奪われたことで利益減少が今回の拉致の要因なのだろう。だからといって金で解決は難しい。法外な金銭を要求するのは間違いなく、ポショの売買契約は結べない。不利以前に偽物だからだ。それに難癖つけるのは想像に難しくない。
ではどうするか?
――ヤルしかない。偽教皇をだ。
それではどうやるのか?
セバスの救出と同時に偽教皇を暗殺する。二つのミッションが一樹の目の前に立ちはだかる。
再び思考の闇に飲み込まれてしまう。
教皇になるには神から条件が提示され、クリアした者だけが証を得られることだ。証を生涯保持し、皆の見える位置に掲示していること。持ち主の死して証は無効となり、また新たに獲得が必要になる。
――何を意味しているのか。
証が有効な内は生きている証でもある。また代々証の色が変わるという。此度の証は紅色である。おそらく問題はそこではない。
証の保持者をなんらかの理由で軟禁し、本人になりすましも可能なことだ。
姿格好や顔は常に隠されており、体も重厚なローブに纏い男女の区別さえ難しい。それならばなりすましも容易になる。証の有効性を対外的に示せていればいいだけだからだ。
ただ今回の騒動は、一樹が作るポショの効能とはいえど、当人の努力と才能によるものが大きい。教会産の物と比較して金額の大小の差こそあれど、利用者にとっては死活問題なわけで、より生存率は高く安い方がいいに決まっている。
探索業を生業にしている以上、命あっての物種なら尚更だ。
教会は一樹が狙いのはずなのに、地下ギルドのギルドマスターを捉えた。客観的に見て奇行なわけで、一樹には理由がまったく推測できないでいた。
ただし、先の推察のなりすましが可能ですでに入れ替わっているなら答えは別だ。どのような理由もあり得る状況になる。
ところがあまりにも突拍子もない企てだと、類推するのは困難だろう。今の教皇が偽の教皇で、しかも狙いはセバスならぬセルバスとしての神威をあび続けたコアが必要など、誰に想像できよう。当事者同士にしかわからない事情だ。
今言えるのは、普通に考えたら教会関係者から、一樹に便宜を図ったことで責められていると一樹は推察をしていた。一樹なりに考えるとポショを高価で買取してくれ、隠れ家として適している宿屋の紹介などもしてくれていたから、自身のせいだと思い悩んでしまう。
賞金首となって何度も襲撃を受け撃退しているものの、騒動が多発していけば大きな地下街とはいえ、いずれ町からも追放されてしまう日が来るかもしれないとも思っていた。
幸いなことに今は、魔法のテントで過ごすため、寝床を襲撃されることはまずない。宿屋の空の部屋に襲撃しに来る以外はとくにない。みな諦めて出て行ってしまうからだ。
自分自身のことはともかくとして、困ったことに何度考えても、良い救出方法が見つからない。まるで夜明け前の闇の中にいるようでまったく先も見えないばかりか手元ですら見えない。いたずらに時間が過ぎていく一方だった。
ふらりと一樹はモグーも連れて地下ギルドへ訪れる。残念ながらギャンブルマスターは見かけず代わりに一樹がくることを予想していたのか、サブギルドマスターのセニアが待ち構えていたかのように近寄ってきた。
「やっほ〜。昨日ぶりかな?」
「おっ、おう。随分軽いな」
モグーは気軽にセニアに声をかけていた。
「あっセニアだ。こんにちは」
「モグちゃんも一緒なのね。やっほ〜。一樹はギルマスのこと?」
モグーはさっそく真似て挨拶を返す。
「やっほ〜」
一樹は、どう考えても二人だけの戦力では打開策が見つからず相談をしにきたことを伝える。
「ああそうなんだ。俺とモグーだけじゃ救出がむずかしいからな。相談ってやつだ」
「ふむふむ。そしたら部屋で相談に乗るわ。ついてきて」
そういうと買取窓口の左手側にある扉を開けて中に入っていく。
以前、ギャンブルマスターと話をした場所だ。
どう言うわけか今回も一番手前の部屋になる。
「今回もこの部屋か」
「あら? 違う部屋が良かった?」
「いや、前回ギャンブルマスターと同じ部屋だったからさ」
「ふ〜ん。そうなのね」
中も変わらず白い壁に二人がけのソファーが向かい合って設置され間にローテーブルが置かれている。一樹とモグーは腰掛け、対面のソファーにセニアが腰掛けた。一樹はさっそく、本題に移る。
「率直に意見が聞きたいんだ」
「うんうん。やっぱうちのギルマスと本物の方の救出と両方なんとかしたいというところかしら?」
「大正解。と言っても二人しかいない戦力で何か方法はあるか?」
「モグちゃんと二人ね……。ぶっちゃけ厳しいわ」
「だよな……。セバスはもちろん救出なんだけど、本物の方も救出したいのは賞金の取り下げをしてほしいからなんだよな」
「まあ、そうなるわね」
「かといってモグーと二手に別れても、それは厳しいし。はあ……。まいったな」
「ギルドじゃ教会に楯突くのはちょっとまずいのよね。そこで一つ案があるんだけど……」
「ん? どんなんだ?」
「あたしと、もう一人心当たりがあるからその子を誘ってみようかなと」
「おっ! マジか! ありがたい。でも今ギルドじゃ楯突くのは難しいとか言わなかったか?」
「ええ、かなりまずいわね。だからギルドとしてでなく、アタシともう一人が正体隠して参戦ね」
「なるほどな。助かる」
「そうすれば、一樹とモグちゃんのチームとあたしともう一人のチームの二手に分かれていけるわ」
「ただそれだと、正体隠すとはいえサブマスの立場上、やばくないか?」
「そこは大丈夫。完全に身元は伏せるわ。あたしも何とかしたいと思っていたし」
「そうか。ならいいんだ。あとは、敵対者の質か……」
「数はそんなにいないはずよ? その代わり手練ればかりで凶悪なぐらいかな?」
「ん〜。そうなったらアレを使うしかないか」
「アレって?」
「ん……」
「?」
「他には伏せてくれ。製作者も不明でなら教える」
「どう言うこと? まあわかったわ。サブマスの名と地下ギルドの名において誓うわ」
「助かる。実はこれだ」
一樹は懐から、蘇生薬を一本取り出した。
「看破の力はあるか?」
「アイテムならあるわ。どれどれ……。え! えー! ちょっとこれ!」
「ああ。すごいだろ?」
「ちょっと、どこで手に入れたのよ? これヤバすぎる品よ?」
「今、それも含めると手元に四本ある。俺とモグーとセニアとそのもう一人の子用だ」
「随分と用意がいいのね」
「まあな」
「これならいけるわ。24時間何度も蘇生できるって破格中の破格よ? 神にでもなったつもり?」
「また随分と大袈裟だな……」
「ほんとのホントよ? 何度もってイカレているわ……」
「そうか、気に入ったなら良かった」
「これは、これ以上聞いちゃダメなやつなのね?」
「そうしてくれると助かる」
「はあ……。こんな物が世の中出回ったら、一樹捕まるわね」
「だろ? その危険を冒してまでして助け出したい気持ちをわかってくれたならありがたい」
「こんな物見せるだけでなく使わせて貰えるなら、まったく問題ないわ」
「疑わないのか? 効果を」
「それは意味がないわ。看破で見える説明は神の言葉よ? 疑えるわけないし、その効果は神が保証しているのよ?」
「なるほどな……」
「そしたらさっそく、声をかけてくるわ。また明日同じ時間に来られる?」
「ああ。大丈夫だ」
「その時、詳細な作戦会議をしましょ」
「助かる」
「いえいえ。こちらこそよ。ギルマスのために一樹は相当危険なことしてくれているし」
「恩があるからな、セバスには」
こうして一樹は一筋の希望を見つけた気がした。
地下ギルドから宿屋へ戻っていく。
「一樹ぃ。なんとかなりそうだね」
「ああ。俺たちだけではキツかったからな。いくら蘇生薬があっても多勢に無勢さ」
「それでも二手に分かれるんだよね?」
「そうだな。ルートは二つどちらに本物の教皇とせバスがいるかわからないからな」
これで完全に迷いなく選択できると一樹は思っていた。今最大の支援がしてもらえるのはセニアともう一人だけだ。
救出するのか、見捨てるのか。この答えは救出以外にない。セバスを助けないという選択肢は、あるわけもない。
そうとなれば、偽教皇相手にことを起こす必要があり、失敗=死だ。あとはどう助けるかだ。単に身柄を救出しても、再び謂れのない内容で拘束されてしまうのを防ぐには、大元を断つ必要がある。
元は冒険ギルドのギルマスから教会への密告からことが深刻になったと予想できる。専売特許を奪われたことで利益減少が今回の拉致の要因なのだろう。だからといって金で解決は難しい。法外な金銭を要求するのは間違いなく、ポショの売買契約は結べない。不利以前に偽物だからだ。それに難癖つけるのは想像に難しくない。
ではどうするか?
――ヤルしかない。偽教皇をだ。
それではどうやるのか?
セバスの救出と同時に偽教皇を暗殺する。二つのミッションが一樹の目の前に立ちはだかる。
再び思考の闇に飲み込まれてしまう。