――何かおかしなことを言っているような……。
【名前】左衛ノ門 一希
【性別】男
【年齢】16
【状態】正常、負傷なし
【種族】ニンベン師
【種族レベル】20(new! 作成種類増加)
【職業】クラフター
【JOBレベル】10(new! 作成品質増加)
【製作スキル】
コントロールパネル:MAX
言語理解:MAX
魔道具
マジックバック(偽)(1)
ポショ(偽)(1)
蘇生薬(偽)new! (まだ解放されていません)
特殊剣 new! 永続効果の武器をランダムで入手(JOBレベル50分につき、一回挑戦可能)
魔導書
…(偽)new! (まだ解放されていません)
【レアスキル】
『経験の書』創造
【獲得スキル】
・短剣術:MAX
・暗殺術:MAX
・紅彩術:MAX
詳細が出てきているけど、種族レベルが上がれば種類が増えるのはなんとなく理解できた。JOBレベルが少ないのはなんだろうか。上がりずらいのかもしれない。
他にはMAXが上限を示し、最大値だとは理解できる。おもしろいことに、JOBレベル50分をつぎ込むと何やらランダムで得られる物がある。
――俺はとうとうガチャになったのだろうか。
他には、魔導書を作れるようになるので楽しみだ。
今後の期待の星はレアスキルの『経験の書』創造だ。脳から取り出すエグイ方法にはなるものの、他者の努力を最も簡単に得られるのはよい。
作る努力はしても使う努力は他者に任せたいし、ある意味使い込んんだ成果物を拝借できるのは非常にありがたい。
「どうやら見えたようね。いろいろ聞きたそうな目をしているけど、今から簡単に説明するわ」
「ああ、頼む」
「どうやら見えたようね。いろいろ聞きたそうな目をしているけど、今から簡単に説明するわ」
「ああ、頼む」
――どうやらお見通しのようだ……。
「多分スキルの横にある数値が気になったはずよ? それ、一樹の場合は品質を表すわ。最大10までいくとMAXよ。数値で出るのは1から9までね」
「なるほど……」
「種族レベルは、今までの累計獲得レベルを意味するわ。横に説明が書いてあるのは、種族ごとに異なるから自分の目で確かめてね」
「これJOBの方が少ないのは、正しいのか?」
「初めてなら正しいわ。それはね、JOBのレベルを使いスキルの品質を高めるの」
「ああなるほどな。好きに振り分けられるんかー」
「そうそう、正解よ。たとえば、JOBレベル9分を使って、スキルレベル1をMAXにしたら、その分JOBレベルは引かれるわ。見え方としてはポイントに近いかもね」
「なるほどな。一度付与したら減らすことはできるん?」
「それはできないわ。だから付与する時は、今のこのタイミングでいいのか優先順位をよく考えてね」
「了解」
「それとねJOBレベルは、種族レベルより速度は劣るけど同じく上がるわ。だから、気になるものは積極的に品質向上へ使うことをお勧めするわ」
「何もしていないのにMAXがあるんだけど、なんでかわるか?」
「それはね、スキルによっては獲得した時点ですでに最大になっている場合よ。それがあるならレアスキルを持っているのね? さすがだわ」
「そうなのか、なるほどな……」
――なんだか面白くなってきたぞ。
こうして俺自身の情報が常に、確認できるのはありがたい。状態まで出るとなると、病気や怪我をした時には何か変化するのだろうか。
もしそうだとしたら、ポショの効き具合がわかるしありがたい。まあポショがある時点で医者いらずだけどな。こいつは意外となんにでも効く。
しばらく白い燕尾服の女は、一樹にコントロールパネルを教えていた。自分の名前から種族や職業スキル名だけでなく体やスキルの状態が見られるのは、ある意味常時確認している健康診断に近い。
便利なものではあるものの、誰もが知っていて、誰からも教えてはもらえなかったものだ。
そこで、気になったことを尋ねてみた。
「ちなみにさ、皆、自分自身のことは見られるのか?」
「そうね……。できる人とできない人がいるわ。できない人は、気がつかないことの方が多いかもね。あなたのように」
「それなら、こうして教えるというか目覚めさせることを他の奴でもするのか?」
「誰でもできるわけじゃないわ。なんとなく、できてしまうことの方が多いもの」
「え? そうなのか?」
「そうでない人ももちろんいるわ」
「俺がそうだな……」
「それに繊細な内容だから、気をつけなければならないのよ」
「ああ、あれか。看破師に頼んで見てもらう時ぐらいのデリケートさか?」
「もちろんそれもあるわ。それ以上に、目覚めさせた側は知ってしまうのよ」
「ん? 相手の能力を知ってしまうことか?」
「ええ。そうよ。それが引き金となって起きた悲劇なんて、腐るほどあるわ」
「見られただけなら、そこまで悲惨な物じゃないだろ? 減るもんでもないだろうし」
「いえ、減るのよ」
「え! マジか!」
「中には能力として、他者のスキルを奪う者がいるから、恐ろしいことになるわ」
「そうなることもあるから、あまり広まらないわけか……」
「ええ、その通りよ」
「俺はラッキーだったな」
「でしょ? 私に感謝してほしいぐらいよ? 私の場合は、他の人とは異なる特別な力があるからね。だから触れる前に、一樹は未解放であることを知ったのよ」
「ちなみに、どのタイミングでなんだ?」
「追いかけられている時に、ふと見えたからよ。未解放より、解放できた方がいいでしょ? それに……」
「どうした?」
「なんでもないわ。これで一通り理解できたはずよ」
「そうだな! 感謝してもしきれないぐらいだよ」
ひと段落すると、おもむろにギャンブルマスターは立ち上がり、軽くどこかに行くかのように声をかけてきた。
「それじゃ、一樹に会いたいという人がいるから、あなたを連れていくわ。一応聞くわ。返事は『YES』か『はい』か『了解』の三択ね」
まるで拒否は認めないといわんばかりで『YES』と『はい』と『了解』の三択しかないようだ。あまりにも強引すぎて、一樹は思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。
「へ?」
「今からいく? さあ選んで、繰り返すけど返事は『YES』か『はい』か『了解』の三択ね」
「了解……」
「うん。良い選択ね!」
ギャンブルマスターは、黒いモヤでできた部屋を埋めるほどの扉を突如目の前に召喚すると、一樹の手を引いていく。
そのまま連れられて、真っ黒闇の空間の前に立つ。
「え? 何だ? 黒い?」
「いきましょ、つべこべ言わずに入る」
背中を押されて、強引に中へ入れられた。
すると、またしても豪奢な椅子に座り黒い燕尾服姿の老齢な白髪の老人は、一樹に座るよう鷹揚に促す。振り返ると背後に同じ椅子が現れそのまま腰掛けた。隣にはギャンブルマスターがたったままでいる。
再び目線を合わせると一樹に問いかけてきた。
「君は異世界を信じるかい? 一樹?」
いつもどこかにあった違和感の正体なような気がした。
今言われた「異世界」の話ではなく、こいつのことだ。支援している風を装うだけで、人を別の場所に呼び出し講釈をたれているだけだ。何を目的としているのわからない。
今はただ、別にデメリットはないため、目の前の回答にだけには付き合うことした。一樹はあらためて答える。
「信じるというよりは、その世界にいて今はこの世界にいるという認識の方が正解だな。元の世界については俺の記憶にもあるし、別の世界に来たことも認識している」
柔和な笑顔のままで頷く老齢の紳士。
「ならば早い。最も大事な記憶と引き換えに能力を得て、歪みが生じて種族も変わってしまったんじゃ」
「その引き換えは俺があんた、つまり世界樹に対して持ちかけたのか?」
「そうじゃよ」
世界樹の語る事実を一樹は知る。
異世界から転移してきたこと。
その時に最も大事な自身に関する記憶と引き換えに物作りの力を得た事実。
そして歪みが生じて職業でなく種族としてニンベン師になったこと。
そこでなぜ一樹が選ばれたのか? 残念ながら世界樹もわからないという。転生と違い転移でやって来た者は、次に向かう世界に合うように肉体の調整が緊急措置として、最優先で行われるという。また、言語については「すべて理解できる」ようにされているようだ。
力を得てから才能がある者や努力した者は、さらなる高みに登れる機会がある。決して悪くない内容だ。ところが一樹の場合は、どういうわけか「自分自身に関すること」だけの記憶と引き換えに、控えめに言ってもうまくいけば、万能と言える能力を開花させた。
授かるのとはまたわけが異なる、借り物ではなく本質的なスキルで永続的な物だ。引き換えにしただけあってかなりの物だ。強奪スキルをもつ者がいたとしても、当人の固有の能力なので奪えないらしい。
一樹のような存在は世界にとって、バランスブレイカーになるかと思いきや、実は想像したほどでもない。
理由は単純で、魔法やポーションによる病気や怪我は完治できるものの、得る機会に巡り会えない者の方が多い。さらに命が軽いこともあり、生存率が低い。
現地の文化や風習も多少は影響するだろう。現代人が生き抜くには少々厳しいといわざるを得ない環境であるのは間違いない。
一樹については、運よく生きながらえたのであろう。単純に生きる術を持っていたことは大きい。ただし現状は残念ながら、才能をまだまだ生かしきれていない。本来知るはずのことを知らずに来てしまったからだ。
世界樹と呼ばれる神が急ぐあまりに、コントロールパネルのことを失念していたのが今回の要因だった。
果たして一樹は今後どのようにしていくのか……。