「……あ、ちょっと待ってください。今、結衣からメッセージが届きました。──え?」
黒瀬さんはスマホを確認すると、困惑したような表情を浮かべた。
彼女は暫くスマホを弄っていたが、不意に「そ、そんな……」と呟くと顔を上げた。
「ど、どうしたんですか?」
嫌な予感がして尋ねてみると、黒瀬さんは青ざめた顔で答えた。
「それが、その……結衣が、SNSで諸麦さんとの関係を暴露しているみたいなんです」
「え? どういうことです?」
「結衣が、自分のアカウントで諸麦さんとのツーショット写真をアップしたんです。しかも、二人の関係がわかるような文を添えて」
「えぇっ! ちょ、ちょっと見せてください!」
私は慌てて黒瀬さんのスマホを覗き込む。そこには、確かに二人がキスをしている写真が載っていた。
『これってガチ?』
『ショックすぎて死にそう……』
『私の推しが……』
『でも、この女めっちゃ可愛いじゃん』
『マジか……ファンやめるわ』
『そもそも高校生と付き合ってること自体ヤバいだろ、むぎはる』
『通報しました』
ツイートは投稿されたばかりだが、既に沢山のリプライがついている。
「こ、これは……」
「完全に炎上していますね……」
予想だにしなかった事態に唖然とする。まさか、こんなことになるなんて……。
しかし、宮野さんの暴走はそれだけに留まらなかった。
『むぎはるさんの本命は、鈴音りりさんです。鈴音りりさんと結婚を前提に付き合っているにもかかわらず、私を騙していたんです』
さらに、宮野さんのツイートは続く。
『それに、被害者は私だけではありません。私のフォロワーもその一人です。しかも、その子は自ら命を絶ちました。私たちはリアルでも仲が良かったので、ご両親が私に彼女の訃報を知らせてくれたんです』
そこで、黒瀬さんがハッとしたように口を開く。
「ひょっとしたら、結衣が言っているフォロワーっていうのは……」
私と黒瀬さんは顔を見合わせる。
「まさか、Mirai……?」
私は思わず戦慄した。宮野さん曰く、そのフォロワーが自宅マンションの屋上から飛び降りたのは六月七日午前四時頃。
しかし、もしそれが事実なら私がリアルタイムで目撃したあのツイートは何だったのか。その頃、Miraiは既に亡くなっていたのなら、あれは一体誰が書いたのだろうか。
黒瀬さんは、震える指で画面をタップすると宮野さんのフォロワーを確認する。すると案の定、その中にはMiraiのアカウントも含まれていた。
私たちが呆然としていると、突然宮野さんのツイートのリプ欄にこんな言葉が書き込まれた。
『もしかして、この事件と何か関係ある……?』
そのユーザーは、あるニュースサイトのURLを貼り付けてコメントしてきた。私と黒瀬さんは恐る恐るそのリンク先を開いてみる。
そこに書かれた内容に目を通した瞬間、私と黒瀬さんは愕然として息を呑んだ。
『若い女性がマンションから転落 自殺を図ったか』
記事のタイトルには、そう書かれていた。その女性は事前に精神安定剤を大量に服用しており、そのうえ自身が飛び降りる様子をライブ配信していたらしい。
「この事件、以前SNSで話題になっていました。……私、覚えています」
「そ、そうなんですか……? 私は初耳でした」
その頃、ちょうど私は仕事が忙しい時期で、テレビはおろかネットニュースを見る暇すらなかった。だから、当然と言えば当然なのだが……。
「ひょっとすると、諸麦さんに取り憑いていた霊はMiraiだったのかも……」
黒瀬さんはポツリと言った。
「で、でも……一応、お祓いにも行ったし、あれ以来何も起こっていないじゃないですか。だから、大丈夫ですよ。きっと」
「そう、ですね……」
黒瀬さんはどこか浮かない顔をしている。いずれにせよ、これ以上憶測で話していても仕方がない。
今はとにかく、諸麦さんに会いに行くのが先決だ。
三十分後。
私たちは、ようやくマンションに着いた。エレベーターに乗り込み、すぐさま六階を押す。
「この三十分間で、さらに炎上していますね……。諸麦さんのアカウントの固定ツイートにも、かなりの数の非難が書き込まれています」
黒瀬さんが画面をスクロールしながら言う。
「ええ……とりあえず、諸麦さんからの謝罪がない限りさらに炎上しますよ。急ぎましょう」
やがてエレベーターが止まると、私たちは早足で601号室に向かう。
インターフォンを鳴らすと、中からバタバタと音がしてドアが開いた。
そこには、スウェット姿の諸麦さんが目を丸くして立っていた。
「あれ? 柊木さんと黒瀬さんじゃないですか。今日、会う約束してましたっけ?」
恐らく、まだ事態に気づいていないのだろう。諸麦さんは不思議そうに首を傾げている。
「と、とにかく……これを見て下さい!」
そう言って、私は鞄からスマホを取り出し、彼の目の前に宮野さんの暴露ツイートを突きつける。
「え……? こ、これって……」
諸麦さんは、暫く黙ってツイートを読んでいたが、徐々に青ざめていく。どうやら事の重大さを理解したようだ。
「ど、どうしよう……」
否定しないところを見ると、やはり宮野さんが言っていることは事実なのだろうか。
もしそうなら、彼は協力者である私たちにすら「Miraiに一方的に好かれて困っていた」と嘘をついていたことになる。それは、あまりにも不誠実だ。
「しかも、彼女のフォロワーが自殺したという話には信憑性があるんです」
そう言って、私は六月七日に起こった女子高生飛び降り事件のURLを見せる。
それを見た途端、諸麦さんの表情が強張ったのがわかった。
黒瀬さんはスマホを確認すると、困惑したような表情を浮かべた。
彼女は暫くスマホを弄っていたが、不意に「そ、そんな……」と呟くと顔を上げた。
「ど、どうしたんですか?」
嫌な予感がして尋ねてみると、黒瀬さんは青ざめた顔で答えた。
「それが、その……結衣が、SNSで諸麦さんとの関係を暴露しているみたいなんです」
「え? どういうことです?」
「結衣が、自分のアカウントで諸麦さんとのツーショット写真をアップしたんです。しかも、二人の関係がわかるような文を添えて」
「えぇっ! ちょ、ちょっと見せてください!」
私は慌てて黒瀬さんのスマホを覗き込む。そこには、確かに二人がキスをしている写真が載っていた。
『これってガチ?』
『ショックすぎて死にそう……』
『私の推しが……』
『でも、この女めっちゃ可愛いじゃん』
『マジか……ファンやめるわ』
『そもそも高校生と付き合ってること自体ヤバいだろ、むぎはる』
『通報しました』
ツイートは投稿されたばかりだが、既に沢山のリプライがついている。
「こ、これは……」
「完全に炎上していますね……」
予想だにしなかった事態に唖然とする。まさか、こんなことになるなんて……。
しかし、宮野さんの暴走はそれだけに留まらなかった。
『むぎはるさんの本命は、鈴音りりさんです。鈴音りりさんと結婚を前提に付き合っているにもかかわらず、私を騙していたんです』
さらに、宮野さんのツイートは続く。
『それに、被害者は私だけではありません。私のフォロワーもその一人です。しかも、その子は自ら命を絶ちました。私たちはリアルでも仲が良かったので、ご両親が私に彼女の訃報を知らせてくれたんです』
そこで、黒瀬さんがハッとしたように口を開く。
「ひょっとしたら、結衣が言っているフォロワーっていうのは……」
私と黒瀬さんは顔を見合わせる。
「まさか、Mirai……?」
私は思わず戦慄した。宮野さん曰く、そのフォロワーが自宅マンションの屋上から飛び降りたのは六月七日午前四時頃。
しかし、もしそれが事実なら私がリアルタイムで目撃したあのツイートは何だったのか。その頃、Miraiは既に亡くなっていたのなら、あれは一体誰が書いたのだろうか。
黒瀬さんは、震える指で画面をタップすると宮野さんのフォロワーを確認する。すると案の定、その中にはMiraiのアカウントも含まれていた。
私たちが呆然としていると、突然宮野さんのツイートのリプ欄にこんな言葉が書き込まれた。
『もしかして、この事件と何か関係ある……?』
そのユーザーは、あるニュースサイトのURLを貼り付けてコメントしてきた。私と黒瀬さんは恐る恐るそのリンク先を開いてみる。
そこに書かれた内容に目を通した瞬間、私と黒瀬さんは愕然として息を呑んだ。
『若い女性がマンションから転落 自殺を図ったか』
記事のタイトルには、そう書かれていた。その女性は事前に精神安定剤を大量に服用しており、そのうえ自身が飛び降りる様子をライブ配信していたらしい。
「この事件、以前SNSで話題になっていました。……私、覚えています」
「そ、そうなんですか……? 私は初耳でした」
その頃、ちょうど私は仕事が忙しい時期で、テレビはおろかネットニュースを見る暇すらなかった。だから、当然と言えば当然なのだが……。
「ひょっとすると、諸麦さんに取り憑いていた霊はMiraiだったのかも……」
黒瀬さんはポツリと言った。
「で、でも……一応、お祓いにも行ったし、あれ以来何も起こっていないじゃないですか。だから、大丈夫ですよ。きっと」
「そう、ですね……」
黒瀬さんはどこか浮かない顔をしている。いずれにせよ、これ以上憶測で話していても仕方がない。
今はとにかく、諸麦さんに会いに行くのが先決だ。
三十分後。
私たちは、ようやくマンションに着いた。エレベーターに乗り込み、すぐさま六階を押す。
「この三十分間で、さらに炎上していますね……。諸麦さんのアカウントの固定ツイートにも、かなりの数の非難が書き込まれています」
黒瀬さんが画面をスクロールしながら言う。
「ええ……とりあえず、諸麦さんからの謝罪がない限りさらに炎上しますよ。急ぎましょう」
やがてエレベーターが止まると、私たちは早足で601号室に向かう。
インターフォンを鳴らすと、中からバタバタと音がしてドアが開いた。
そこには、スウェット姿の諸麦さんが目を丸くして立っていた。
「あれ? 柊木さんと黒瀬さんじゃないですか。今日、会う約束してましたっけ?」
恐らく、まだ事態に気づいていないのだろう。諸麦さんは不思議そうに首を傾げている。
「と、とにかく……これを見て下さい!」
そう言って、私は鞄からスマホを取り出し、彼の目の前に宮野さんの暴露ツイートを突きつける。
「え……? こ、これって……」
諸麦さんは、暫く黙ってツイートを読んでいたが、徐々に青ざめていく。どうやら事の重大さを理解したようだ。
「ど、どうしよう……」
否定しないところを見ると、やはり宮野さんが言っていることは事実なのだろうか。
もしそうなら、彼は協力者である私たちにすら「Miraiに一方的に好かれて困っていた」と嘘をついていたことになる。それは、あまりにも不誠実だ。
「しかも、彼女のフォロワーが自殺したという話には信憑性があるんです」
そう言って、私は六月七日に起こった女子高生飛び降り事件のURLを見せる。
それを見た途端、諸麦さんの表情が強張ったのがわかった。