それもこれも全てあの娘が原因だ。
アリエス。あの娘がこの西アルグ地方にこなければ、こんなことにはならなかった。
私はあの娘をこの西アルグから追い出したかった。
「ここはあなたのような出自のわからない娘が来るような場所ではないのよ。」
「あれはあなたの物でしたの?ゴミかと思って処分させてしまいましたわ。」
「あら、ごめんなさい。あんまり臭いから汚物かと思ってしまいました。」
「分不相応というものを学びなさい。あなたのような方には難しいかも知れませんが。」
「誰とは申しませんが、邪魔者はいなくなって欲しいものですわ。誰とは申しませんが。」
「人の心のわからない泥棒猫は少し痛い目を見るのも勉強ですわよ。」


私はあの娘に何度も嫌がらせをした。
私と同じように現状に戸惑いを持つ何人かの友達と共に。
数に任せて。立場に頼って。
それはまるで劇の悪役そのものだった。
こんなこと、正しいと思ってやっているわけじゃない。でもこの他に方法が思い浮かばない。昔アウルを子供っぽいと言っていた私はどこに行ってしまったのだろう。自分で自分が情けなくなる。
こんなこと、何の意味もない。
私はわかっているんだ。
私自身、既にアリエスの魔性の魅力の虜だということに。
だけどそれと同じくらい平穏な毎日を壊したあの娘が憎かった。


きっと私は報いを受けるのでしょう。
それはアリエスに心を寄せる男性からかも知れない。
アリエスと友達になりたい女性からかも知れない。
あるいは、アリエスの魅力に負け、仲間が裏切るかも知れない。
きっとアリエスは神にも愛されているだろう。天罰が下るのかも知れない。
ただ一つわかっていることは、アリエスからの復讐は無いと断言できること。
アリエスはそんなことはしない。
アリエスには悪意というものが存在しない。
ただただ純真なのだ。
それがわかってしまう。
それが悔しい。
せめて私を憎んでほしい。嫌いになってほしい。
私のことで頭を悩ませてほしい。
私のことを認知してほしい。


私はもう駄目だ。
もう取り返しがつかない。
魔性のアリエスから早く距離を取らなければいけないとわかっているのに。
それを絶対にしたくない。
私はこのままでいるしかないのだ。
その先に破滅が待っているとわかっていながら、それがアリエスによってもたらされるものだと思うと拒めない。それはアリエスのいない世界で平穏に生きるより甘美なことのように感じられるのだ。
どうせこの西アルグはもう終わりだ。
アリエスの魔性に取り込まれた私たちに未来などあるわけがない。

もしアリエスが誰か一人の相手を選んだらどうなるだろう。
恐らくだけど、血みどろの暗殺劇が待っているだろう。
では誰も選ばなければ?
それはこんな毎日がずっと続くということ。
こんな日々がずっとなんて続くわけがない。たった三年でこれなのだから。
ならもしアリエスが他の地方に移住しようとしたらどうなるだろう。
皆が後を追うだろうことは容易に想像できる。代々続く家を捨ててまで。
アリエスという強すぎる光は私たちの心の小さな影を浮き彫りにしたのだ。
それはまるで私たち自身が影になってしまう程の強さで。


この西アルグの人々の運命はアリエスに握られている。本人にその自覚の全くないまま。
私の愛した世界はもう間もなく崩壊する。私は心のどこかでそれを待ち望んでさえいる。
この地獄から解放され、全てが破滅する時を、私は待ち望んでいる。