ロスター様がどこからか連れてきたその女の子は私と同じ年齢だけど、何か特別な事情があって家族はいないらしい。気が弱く、人と話す時はいつもオドオドしていて、馴染みのない土地に来て困惑しているのだろうと思うと気の毒だった。
私達が話しかけるとアリエスは可哀想な程恐縮してしまう。
「仲良くなりたいけど、私もお話をするの上手くないから・・・。」
「あんなにビクビクされると私がいじめてるみたいで、悪いなって思っちゃうんだよ。」
「彼女にその気があれば自分から行動をするでしょう?哀れみで手を差し伸べるのは失礼だわ。」
ライザ達の言い分も理解できる。
次第に私達も気を使ってしまい、あまり話しかけることがなくなっていった。


いつも一人で居るアリエス。
それを見かねたのだろう、アウルはアリエスをからかうようになった。
恐らくアリエスが一人にならないようにと思っての事なのでしょうけど、気弱なアリエスにその接し方はどうかと思ったので、程々にするようたしなめたりした。
でもその時、私はライザの言っていた事の意味がやっとわかった気がした。
私がアリエスの事に気をもんでいることを知ったお兄様もアリエスに関心を持って下さって、今後気にかけてくれると仰った。

アリエスはどんな事情があってここに来たのだろう。
想像することしかできないけれど、今のアリエスを見ているときっと辛いことがあったのだろうと思う。
このままではアリエスが可哀想。
私に何かできることがあればいいのだけど・・・。


私がアリエスのことを心配しながらも何もできず、自分の無力さを感じながら三年の月日が流れた。
私達はまだアリエスと友達になれていない。
だけど私達のアリエスを見る目は以前と大きく変わっていた。
それはアリエスを取り巻く環境が大きく変わっていたからだ。
初めは誰に対してもビクビクとしていたアリエスも、慣れてきたのか少し態度が堂々としてきた。そしていつのまにか多くの人に愛され、その中心にいるようになった。

アリエスは決して醜くはないが取り立てて美人というわけではない。
何もできないということはないが、それほど有能というわけでもない。
少し気が回るところはあるが、それほど行動的というわけでもない。
要するにいたって普通。
それでも皆に愛される理由は明白だった。
彼女には言葉にはできない魅力の様なものがあったのだ。
それは皆を率いるような力強さではないけれど「カリスマ」と言うものなのだろうと思う。
アリエスが笑顔になると私も嬉しい。
あの笑顔を見るためなら私は何でもしたい。そう思えてしまう。
アリエスが涙を流すと胸が苦しくなる。それは自分が涙するよりも余程苦しいことだった。
いつの間にか、私はアリエスに気に入られたい。アリエスに名前を呼ばれたい。そう思うようにさえなっていた。それを全く意識することなく。

アリエスの魅力は「魔性」と呼ぶに相応しいものだったのだ。