「おとーさーん。」
目前から聞こえた勇也の声。
石段を登り切り見えたのは勇也と、大人。親、か?
すると親らしき人が石段を駆け上ってきた僕を見て
「あれ?もしかして・・・ヨウちゃん?」
懐かしい呼び名で僕を呼ぶ。もう僕のことをそう呼ぶ人なんていない。
そうだ。勇也と親なんじゃない。勇也と、子供なんだ。
「ユウ・・・なのか?」
「やっぱヨウちゃんか、久しぶりだな。何年振りだろ。」
そう言って笑顔でこちらに歩いてくる。
顔こそ大人になってはいるが思い出の勇也と全く同じ笑顔だ。
「ユウ・・・。そう、だな。久しぶり。」
「珍しいな、最近帰ってきてないって聞いたぞ。どうだ?元気にやってるか?」
「ああ、まあ、普通かな。ところでその子、」
「ああ、息子の恭也。ほら、挨拶。」
「初めまして・・・。」
思い出の勇也にそっくりな子が小さく頭を下げる。
その他人行儀な仕草、当たり前のことなのに胸がザワつく。
「昔の俺に似てるだろ?性格も似ててさ、親の苦労がわかったよ。」
「ああ、似てる。しかしそれは大変だな。ユウのヤンチャっぷりはわかってるだけに同情するよ。」
「ははは。ところでヨウちゃんは最近どうなんだ?」
「俺?俺は、まあ、普通だよ。」
俺が歯切れ悪くしていると、
「ねえ、あっちで遊んできていい?」
恭也君は退屈な空気を感じたらしい。
「ああ、いいぞ。ただし三十分くらいで戻ってきて水を飲みなさい。後、お父さんの目の届かないところにはいかないようにな。」
「わかった。」
そう言って恭也君は道なき場所を下りていく。
「あれ、危なくないのか?」
「いいんだよ。俺が見てる時はいいって言ってあるんだ。」
「怪我したらどうするんだよ。」
言ってついチラと勇也を見る。
あの頃に負ってしまった傷を。
「子供は怪我くらいするもんだよ。それに、ダメって言ったってどうせ止められない。俺らがそうだったろ?」
「まあ、・・・確かに、な。」
「ここには友達と来たことがあるらしいからさ、だからまず遊び方を教えてやるんだ。なにが危ないのかってことを。」
「・・・そうか。・・・そうだな。俺も年を取って子供に対して過保護になってたのかも。どうにも危なっかしく思えちゃうんだ。・・・信用、してないんだろうな。やっぱり親になると違うな。」
「そんな大層なもんじゃないよ、俺が子供なだけだって。」
そう言って笑う勇也。
違うよ。
本当に子供のままなのは、僕だ。
あの頃を悔やんだまま、子供のまま、大人になろうとしない。
勇也の傷跡はもう随分と薄くなっているようだ。
勇也はもう気にしていない。
乗り越えたんだ。
それを見るとまるであの頃の日々が、僕たちの思い出までもが薄まっていくようで。
・・・でも、それはきっと、普通のことなんだ。
僕が勝手に、僕の心に僕自身で傷をつけた。
その傷口が十年経ってなお未だに。いや、更に深く膿んでしまった。
それはもしかしたら僕自身が願ったことなのかも知れない。
「どうかしたか?」
「あ、ああ、いや、ちょっと感傷に浸ってたって言うか。」
「そっか、そうだよな。俺にとっては昔からただの近所ってだけだけど、ヨウちゃんにとってはここは思い出の場所になったんだな。」
言われて気づく。
俺は何をまるで被害者のように、弱者のような気持ちでいたんだろう。
ここから、離れていったのは俺の方だった。
気まずくなってユウから距離をとっていたのは僕の方だったのに。
目前から聞こえた勇也の声。
石段を登り切り見えたのは勇也と、大人。親、か?
すると親らしき人が石段を駆け上ってきた僕を見て
「あれ?もしかして・・・ヨウちゃん?」
懐かしい呼び名で僕を呼ぶ。もう僕のことをそう呼ぶ人なんていない。
そうだ。勇也と親なんじゃない。勇也と、子供なんだ。
「ユウ・・・なのか?」
「やっぱヨウちゃんか、久しぶりだな。何年振りだろ。」
そう言って笑顔でこちらに歩いてくる。
顔こそ大人になってはいるが思い出の勇也と全く同じ笑顔だ。
「ユウ・・・。そう、だな。久しぶり。」
「珍しいな、最近帰ってきてないって聞いたぞ。どうだ?元気にやってるか?」
「ああ、まあ、普通かな。ところでその子、」
「ああ、息子の恭也。ほら、挨拶。」
「初めまして・・・。」
思い出の勇也にそっくりな子が小さく頭を下げる。
その他人行儀な仕草、当たり前のことなのに胸がザワつく。
「昔の俺に似てるだろ?性格も似ててさ、親の苦労がわかったよ。」
「ああ、似てる。しかしそれは大変だな。ユウのヤンチャっぷりはわかってるだけに同情するよ。」
「ははは。ところでヨウちゃんは最近どうなんだ?」
「俺?俺は、まあ、普通だよ。」
俺が歯切れ悪くしていると、
「ねえ、あっちで遊んできていい?」
恭也君は退屈な空気を感じたらしい。
「ああ、いいぞ。ただし三十分くらいで戻ってきて水を飲みなさい。後、お父さんの目の届かないところにはいかないようにな。」
「わかった。」
そう言って恭也君は道なき場所を下りていく。
「あれ、危なくないのか?」
「いいんだよ。俺が見てる時はいいって言ってあるんだ。」
「怪我したらどうするんだよ。」
言ってついチラと勇也を見る。
あの頃に負ってしまった傷を。
「子供は怪我くらいするもんだよ。それに、ダメって言ったってどうせ止められない。俺らがそうだったろ?」
「まあ、・・・確かに、な。」
「ここには友達と来たことがあるらしいからさ、だからまず遊び方を教えてやるんだ。なにが危ないのかってことを。」
「・・・そうか。・・・そうだな。俺も年を取って子供に対して過保護になってたのかも。どうにも危なっかしく思えちゃうんだ。・・・信用、してないんだろうな。やっぱり親になると違うな。」
「そんな大層なもんじゃないよ、俺が子供なだけだって。」
そう言って笑う勇也。
違うよ。
本当に子供のままなのは、僕だ。
あの頃を悔やんだまま、子供のまま、大人になろうとしない。
勇也の傷跡はもう随分と薄くなっているようだ。
勇也はもう気にしていない。
乗り越えたんだ。
それを見るとまるであの頃の日々が、僕たちの思い出までもが薄まっていくようで。
・・・でも、それはきっと、普通のことなんだ。
僕が勝手に、僕の心に僕自身で傷をつけた。
その傷口が十年経ってなお未だに。いや、更に深く膿んでしまった。
それはもしかしたら僕自身が願ったことなのかも知れない。
「どうかしたか?」
「あ、ああ、いや、ちょっと感傷に浸ってたって言うか。」
「そっか、そうだよな。俺にとっては昔からただの近所ってだけだけど、ヨウちゃんにとってはここは思い出の場所になったんだな。」
言われて気づく。
俺は何をまるで被害者のように、弱者のような気持ちでいたんだろう。
ここから、離れていったのは俺の方だった。
気まずくなってユウから距離をとっていたのは僕の方だったのに。