少し歩くと狛犬のような狐のような石像がある。
狐ってことは稲荷なのかな?そういえばこの神社の名前も知らない。
そんな風に思っていると、社の奥の方に何かが動いているのが見えた。
もしかして人がいるのかな?用もなくこんなところにいるのを人に見られるのは嫌だな。
そう思いながら窺ってみると、
「あれ?」
思わず小さな声が漏れた。
見えた人影は小学生くらいの子供、それも低学年だろう。
ここで子供が遊んでいること自体は驚くことではないかも知れない。
僕たちが遊んでいたんだから。
でもその子の姿がまるで―――
「ユウ?」


その子は奥社の更に奥、神社の裏手の山を登っていく。
そこは石段こそあれど、昔から苔むしていて日も当たらない程の木々に覆われている。
石段の先には少し開けた場所があり、不自然に削られた山肌と謎の小さな祠があるだけだ。
子供心にも変な場所だとは思っていたが、大人になって考えると不思議な場所。

その子のことが気になってつい後を追いかけ石段の前に立つ。
山に向けて一直線に続くその石段は、各段の端に文字が刻まれた小さな柱がある。だがその石すら朽ち果てていて何が書いてあるかはよくわからない。
石が朽ちて壊れているなんて他ではあまり見たことがない。
こんな場所に今時の子供が遊びになんて来るなんて。
と言うかあの姿はまるで・・・。


石段を見上げると走っている子供の後姿を捉えた。
やっぱり間違いない。
「ユウ・・・。」
勇也だ。
一緒に、ずっと遊んでた勇也だ。
まさか本当にタイムスリップ?
そんなことあるわけない。でもあれは勇也だ。
衝動的に石段を駆け上る。
僕の、たった一人の親友で、あの頃は大人になってもずっと一緒にいると思ってて、僕が下らない遊びを持ち掛けたせいで・・・、学校を何日も休んで、それで疎遠になって、中学が別になってからは全然会わなくなって。
僕、ずっと嫌だった。
本当はそんなことで疎遠になるのが。
だって、僕・・・僕っ!


息が切れる。体が重い。さっき立ち眩み起こしたばかりだっていうのに我ながら何をやっているんだ。
口の中に鉄っぽい味が広がる。
目が、鼻が、少し内側から押されているような感覚。
気を抜いたら涙や鼻血が出てしまいそうだ。
久しぶりに感じる喉が白くなるような苦しさ。
石段もあと少し・・・。