翌日の事、マナがやってきた。それだけならよかったのだが、マナの声はありえない場所から聞こえたので僕はかなりガチめに驚いてしまった。
「おはよう、月宮。」
「…マナ、君は不法侵入という言葉を知っているか?」
「だって、鍵が外に置いてあったから」
「なんで、マナが鍵の場所なんて知ってるんだよ、隠してあっただろ?」
「勘」
「勘か〜じゃあしょうがないな…とはならんからな?」
そう言った後、本当に小さな舌打ちのようなものが聞こえたが…気のせいだよな?
「それはそうと、月宮は手紙は読んだの?」
「…はっ」
「読んでないんかい、親友という肩書き消えるぞー?」
「うっ、うるさいなぁ昨日の出来事がインパクトがありすぎたんだよ!マナがどこにいるかとか分かるようになったんだぞ?まぁ声でも分かるが」
「それならあれ意味なくない…?」
「いや、あの後少し確認してみたんだけど、どうやら範囲が結構広いらしい」
そう、耳で聞こえる範囲だけでは弓は射つことが出来なかった
「良かった…ちなみにどれくらい?」
「うーん、分からないけど僕が射てる範囲の限界近くまで?だからおよそ、150メートル近く」
「広すぎじゃない、というかそれほど遠くまで狙えるのね」
……打てる範囲がそれほどということで、確実に狙えるというほどではないのだが、一度行ってしまったが故に取り消せなかった
「まぁ、流石はアルティメットスキル…いや魔道具か」
「これってギルドに報告した方がいいのかしらね」
マナが言いたい事はよく分かる。
アルティメットスキル…もとい魔道具は、世界にも10人程しか会得していない。その為ギルドに報告する方がいいとは思われるが、そう考えていると
「そういえば話が逸れたけど手紙はどうするのよ」
「同時に2つの事を考えさせようとするなよ…まぁギルド報告はまた今度にするという事で今は手紙を読もうか」
「分かったわ」
「それはそうと、マナはこの手紙を読んだ?」
「いえ、読んでいないわね」
…それなのに、前はあなたの好きにしろなんて言ったのか…?いいのか、こんな目の見えない男が惚れるぞ?
「…じゃあ一緒に読もうか」
気持ちを落ち着かせ、そう言った後、僕は手紙についているボタンを押した。
…本当に便利な機能だ
「この手紙を読んでいるという事は、もうこの世に俺はいないだろう……フッ俺もこんな事を言えるように成長したか。」
僕はこの瞬間吹き出してしまった。
「おっ…お前、こんな手紙に余韻残すなよっ」
「私たちのリーダーってこんなくさいセリフを言う人だったかしら」
「うんうん、月宮は笑ってくれてありがとう。マナは辛辣だな…あ、いつもか」
「ぶっ飛ばすわよ」
僕はこの時思ったことを正直に言うと…恐怖だった!なんでそんなリアルタイムで話してるみたいに予測出来るんだ…
「フッ悪いな月宮、こんな所で俺の才能を開花させて。」
……もう何も言うまい
「ごめんってー、まぁ冗談は置いといてここからは真面目な話だ。ひとまず、無断であのダンジョンに入ったことは悪いと思っている。しかし、そんな事を言うためにこんな手紙を書いた訳では無い。」
…おい、それが重要だろ。ともあれ、こんな謝罪よりも大事なこととは一体…
マナも同じく困惑した表情をしていただろう、しかしそれなら他に何が…
「月宮のところには…」
僕が考えを出す前に話始めてしまったが、とりあえず聞く体勢に入った
「俺とマナは死んだという報告が言ってるんじゃないか?」
「……!確かにそうだ、あの時はマナに謝られてそこまで気にしてなかったが………どういうことだ?」
「お前が脱退した直後、俺の所にメンバー加入希望の用紙があったんだ。まぁ、お前がいなくなった事もあってとりあえずダンジョンに行くことにはなってたんだ。けどギルドには報告してなかった…というか忘れてたんだけど。」
「おい、重要なこと忘れんな。というかマナから一言もそんな事聞いていないんだが?」
「……そんな人いたかしら」
「えっ?」
「この手紙が送られているのなら、多分マナはその人物の記憶がないのはずだ。これを書いたのは幻想級ダンジョンに入る前の事なので確かな事は分からないが、その加入してきた人物の気配はモンスター…そのものだった、多分そこに行ったら俺とマナは襲われるだろう」
モンスターとは、ダンジョンの中でしか凶暴化することが出来ない、その為ユウトは安心していたがダンジョンに入るということで警戒をしたのだろう、しかし
「は!?というか分かっていたならどうして!」
「事実を提示すると、あの人、いやモンスターのステータスが俺より下だったんだ。だから俺は負けないと思って、まぁ万が一モンスターじゃなければ良かったで終わるんだけどな。まぁこの手紙がマナからお前に送られているなら俺は負けたんだな…」
「……っ」
「1つ忠告しておく、万が一俺があいつに負けたとしても、外でアレと戦おうとはするな。」
僕は言われている意味がわからなかった。
「あのモンスター…ダンジョンの中ではモンスターとして見なされるが、外だとどうしても人間となってしまう。まぁ、だから加入してきたときに倒せなかった、そして、ダンジョン内で倒そうとした。」
「最強のモンスターじゃない」
しかし、たとえ人間になるとしてもモンスターには変わりがなかった
「月宮は今何故モンスターなのに…と思っているとは思うが、人間には変わりがない…だから法律的に人間を殺める、つまり殺人罪になってしまう。」
「なんだと…?」
「話は変わるが、月宮がパーティーを抜けたあと…そのモンスターについて調べたんだ。すると、月宮の目に傷をつけたあのモンスターと特徴が似ている事に気がついた。そして、あいつの能力…それは〈記憶操作〉(フラッシュメモリー)。記憶を上書き、または消す事が出来る。」
まさか、マナはもう記憶が!?
と思ったが、昨日は普通に話していた…待てよ、僕が2人が死んだ事を話した時、マナは不思議がってた…。
「もしかして、マナはその人物…いや、モンスターとの対面していた時の記憶だけ消されていた…?」
「で、でもなんの意味があるのよ!」
「まぁ、俺はこれ以上の未来を読むことは出来ない。運良く空間把握を手に入れたいな、なんてそんな上手くいかないか…まぁ手に入ってるかどうかなんて今のお前たちがよく分かってるか。それじゃあ、楽しかったぜ」
手紙はここで終わった。
マナが裏に何が書いていないかと確認すると一言だけ残されていたという。
最後はマナが読んでくれた
「表に書ききれなかったことここに書くけど、って言っても大したことでは無いが……」
なんだろうと思ったその時
「……月宮、後は任せた」
「…」
いいの?泣くよ?
「泣いていいわよ」
「マナまで僕の心を読むのやめてくれないっ…か」
僕は泣いてしまった、マナの前で
今まで僕は泣いたことがなかった
「僕はこんな簡単に泣いてしまうやつだっけ」
「親友が死んで悲しまない人がこの世にいないとでも?」
「……そうだね」
「とりあえず…今ある疑問点、そして謎について整理しましょう。」
「うん」
余韻に浸っていたかったが、今僕達の前にある課題は多かった。
「まず1つ目に、マナの記憶について、何故あのモンスターは、マナの全ての記憶を消さなかったのか。」
「そうよね、全て消されていたなら、もしかしたらここに私はいなかったもの」
「あぁ、そして2つ目がギルド、もとい僕のポストに入っていた2人の偽情報。誰が何のためにしたのか」
「でも、これはあのモンスターが月宮を狙っておびき寄せるためって言う説もあるわよね?」
「それはあるけど、なぜ僕を狙うのかが分からない。」
「それを含めて謎ね」
「そして、最後に僕のじいさん、いや月宮カナトが、所持していた弓になぜ空間把握の魔道具を取り付けられたのか」
「それは、あなたのおじさんが空間把握を使っていたからじゃない?」
「だとしても、弓にその道具がついていないのは不自然だと思う…」
「…もしかして、あなたのポスターに手紙を入れたあのモンスターが関係していないかしら」
「…一理ある」
「でも、なんで僕がその弓を持っていることを知っているんだ?そんなに有名なら、空間把握の保持者が1人もいないという記録はおかしいと思うんだけど…」
「その弓にやられた、もしくは戦っている所を見てその能力を手に入れたかったんじゃない」
「…なるほど」
確かにモンスターの中には強力な武器を使ったり、知力の高い能力を持つのがいたりする。
ましてや、そいつが幻想級ダンジョンにいた事から知力が高いのは間違いないだろう。
「とりあえずこの3つを解決していきましょうか!」
「え、マナも一緒に来てくれるのか?」
「なんで、来ない前提なのよ、それとも私はパーティーメンバーではなくて?」
「いやいや!マナがいてくれたら嬉しいんだけど…」
「じゃあいいじゃない」
「……ありがとう」
「はいはい…というわけでダンジョンに行きましょうか」
僕は耳を疑った
「なんでやねん、僕、目重症よ?」
「そしたら、どうやってあのモンスターを倒すのよ。」
「確かに…でも外にモンスターいるんだろ?」
「さっきの話聞いてた?あのモンスター外で倒しちゃダメなんでしょ。というか、どうやって生活していくの?その為にも予行練習として行きましょう」
言われてみればそうだ。僕は昔の貯金があったから1ヶ月も住ごす事が出来たがそろそろ心元なくなっていた。
「…あぁそうだな、でもいきなりだと僕すぐに死にそうなんですけど?」
「その為に私がいるんじゃない」
「…分かった、行こう!」