「よし、いつでもいいぞ」
「はいっ!」

 ガレアスの言葉に、トゥールは自分で選んだ剣を鞘から抜いた。
 そして上段に構え――。
「うおっとっとっと?」
 
 上段に構えたら、剣の重さに身体が引っ張られて後ろへ後退してしまう。これで後ろに下がらなければ、おそらく背中から転んでいただろう。

「……おい、なにしているんだ?」

 呆然としたようなガレアスの声に羞恥を覚えながらも、なんとか剣を引き戻したトゥール。
 今度は走り寄って横薙ぎに振るう。
 しかし――。

「お、重い……」

 走り寄ろうとしたトゥールだが、剣が重たくその速度は歩いてるのとあまり変わらない。ガレアスはもとより、周囲の生徒たちも呆れたような眼を向けているのが分かった。

「はっ! お遊戯会かよ」
 
 ジェイドのそんな失笑に焦りながらも、トゥールは力いっぱい横薙ぎに剣を振るった。
 もちろんガレアスは、トゥールのそんな拙い攻撃など喰らうはずもなく、一歩引いてあっさりと躱す。

「くあっ?」

 剣を振るったトゥールは、その勢いを殺せず地べたに盛大に転がった。それは客観的にどう見ても、剣を振るっているのではなく剣に振り回されていた。

(あたた……これじゃ全然駄目だ。やっぱり魔法で肉体を強化するべきか)

 剣士としての実力を正確に測るのであれば、魔法を使わない方が良いと考えていた。しかし、これではあまりにも不甲斐ないしお話にもならない。
 トゥールは立ち上がり、自分に『身体強化』の魔法を施そうとする。が、

「――もういい。トゥール、お前の実力はよく分かった。これ以上は怪我をする前にやめておけ」
「えっ?」
「『万能無比』がどういう意図を持ってお前を推薦したのか分からんが……トゥール。お前はEクラスだ」
「……『Eクラス』?」

 そんなクラスはなかったはずだ。
 疑問に思い首を傾げたトゥール同様、周囲の生徒たちも不思議そうな顔をする。

「おい! EクラスってあのEクラスか?」

 しかし知っている生徒もいたようで、驚きを含んだような素っ頓狂な声を上げる。

「話に聞いたことあるぞ? なんでもEクラスは例外的なクラスらしい。何かの手違いで入学した見込みのない生徒(・・・・・・・・)を、退学にもできないから放り込んでおくクラス。Eクラスには教師が付かない代わりに、Eクラスの奴はどのクラスの授業にも参加できるらしいぞ」
「――『見込みのない生徒』……」

 教師が付かないという言葉よりも、トゥールにはその言葉が気になった。
 今までさんざんブラバース家でも言われてきたことだ。「見込みのない人間」だと。

(――冒険者学園にまで来てまた言われるのか? 冗談じゃないぞっ!)

「せ、先生っ! 僕はまだ戦えますっ! クラスを決めるのはもう少し待ってくださいっ!」
「いや、無理はするな。下手をしたら本当に怪我をするぞ」
「けど――」
「それに、『Eクラスは見込みのない生徒を放り込むクラス』と言うのは間違いだ。Eクラスの者であっても、後に大成した冒険者はいる」
 
 トゥールに対し、同情するような眼を向けてくるガレアス。
 おそらく彼は、嘘など言っていないのだろう。実際にEクラスに選ばれた後、優れた冒険者になった者もいるに違いない。しかし、それはあくまでも結果論だ。
 Eクラスとは本来、他の生徒と力量に差があり過ぎて、足を引っ張ってしまう生徒を隔離しておく場所なのだろう。

「よし、全員それぞれのクラスに分けられたな。それでは地図を配るからそれぞれのクラスに移動しろ。そこにお前らの担任となる剣士科の教師がいる。授業中だから静かに入れよ」
「……先生、僕はどうすれば?」

 結果にまだ納得はいっていないが、決まってしまったものは仕方ない。ここで駄々を捏ねたところで状況は改善しないだろう。
 ならば様子を窺い、改めてクラスの見直しをしてもらおうと判断したトゥールは、剣を納めてガレアスに問いかけた。

「お前は……そうだな。Aクラスの魔力測定を行っているリンケードに先生に話を聞いてみてくれ。測定器は起動に時間がかかる。まだいるはずだ」
「リンケード先生に? わかりました」

 なぜAクラスの担任に話を聞くのかと問いかけたかったが、生徒は自分だけではないのだ。ガレアスは忙しそうに他の生徒たちの質問に答えているため、トゥールは自分の質問を呑み込む。
 Aクラスの面々がいるであろう『魔力測定器』の場所を教えてもらうと、トゥールは一人そこへ向かった。