トゥールを含めた生徒たちが、それぞれ好きなように剣を選び終える。
 彼らは手にした剣を嬉しそうに鞘から抜いたり眺めたり忙しそうだ。トゥールも初めて手にする剣の重さに驚きながら、銀色に輝く刀身にうっとりとする。

(すごい……これが、剣――)

『剣を生涯握るな』と言った父の言い付けを破ってしまったにも拘らず、トゥールの心に罪悪感が浮かぶことはない。
 むしろ、奇妙な達成感に包まれていた。
 これは父やブラバース家への復讐へ向けた第一歩なのである。小さなことではあるが、間違いなくトゥールが自分の意志で掴み取った(モノ)なのだ。

「よし、全員選んだな?」

 ガレアスが両掌を盛大に打ち鳴らし、生徒たちの注意を剣から自分へと変える。

「それじゃあリンケード先生。Aクラスの奴らを『魔力測定器』に案内してやってもらえるか?」
「了解。Aクラスは俺についてこっちへ来い。今からお前たちの魔力量を測定する」
「魔力の測定……おお、楽しみだっ!」

 リンケードの言葉に、Aクラスの面々が嬉しそうな顔になった。

 潜在魔力を測定できる『魔力測定器』というものは、大変貴重なものだ。どれだけ財力のある貴族だとしても、測定器をつくれる技術者自体が希少なため、手に入れるのは困難なのである。
 冒険者学園や魔法学園には置いてあるため、自分の魔力を測るためだけを目的に、それらの学園へ入学する者もいるほどだ。

(……そうか。僕は測ってもらえないのか)

 Aクラスに選ばれなかったトゥールは、ワイワイ騒ぎながらリンケードについて行く五人の生徒たちを見送る。
 トゥールも小さな頃に、ブラバース家にある簡易的な測定器で一度測ってもらったことがある。だが、その時は測定器の許容上限を超えてエラーが出てしまい、正確に測れなかったのだ。
 学園にある本格的な測定器であればしっかりと測れるのだろうが、どうやら無彩色は最初から測定を除外されるらしい。

「さて。それでは残っているお前たちを、これからB~Dのクラスへ振り分ける。じゃあ、一人ずつ剣を抜いて私の前に立て。誰からでもいいぞ」

 腕を組んで仁王立ちするガレアスの言葉に、固まって誰も動こうとしない。
 今から何をさせられるのか、何もわからず不安がっているのだろう。

「どうした? 別に取って食いやしない。お前たちの現時点での実力を見たいだけだ」

 しばらく待って、焦れたように両腕を広げて見せるガレアスに、
「――ちっ! どいつもこいつもだらしねぇーな。俺が先陣切ってやるよ」
 
 長髪の男が剣を抜いてずかずかと前に進み出た。
 
 仲間にジェイドと呼ばれていた、トゥールに絡んできた男だ。

「なかなか威勢がいいな。名前は?」
「ジェイドだ。それで? 今からあんたと模擬戦でもやりゃいいのか?」
「いやいや。私は一切剣を抜かない。ジェイドは俺を殺すつもりで切り掛かってくれ」
「――なに?」
「見事に私を殺すか、かすり傷でも付けられたなら、その時点でお前は卒業だ。冒険者資格を発行してやる。むろん、他の奴らもな」
「なぁっ!?」
 
 ガレアスのその意外な言葉に、周囲にいた生徒たちはもちろん、彼と対峙していたジェイドも絶句したようだった。
 そして柄を握る手に力を籠め、忌々しそうにガレアスを睨み付けた。

「なめやがってっ! 吐いた唾を呑むんじゃねーぞっ!」

 殺意満々なジェイドによる上段からの振り下ろしに対し、ガレアスは身を半歩ずらしただけで回避した。

「せやぁっ!」

 さらに首元目掛けて横薙ぎに振るわれた剣を、状態を仰け反らして容易く避ける。
 突き入れられた剣先は、剣の腹に掌を当てて軌道を変える。
 やけになってやたらめったら振り回される剣の尽くを、すべて危なげなく回避する。

 傍目から見ても、ガレアスが本気を出していないのは明らかだ。しかしそれでも、ジェイドの剣が彼を捉える気配はなかった。

「……はぁ、はぁ。な、なんで当たらねぇーんだ? くっそ……」

 やがて力尽き、息も絶え絶えとなったジェイドが剣を杖代わりにして身を預けた。どうやら降参のようだ。

「よし、いいだろう。これまでだ」

 そんなジェイドとは対照的に息も切らさず、汗さえ浮かべずにガレアスが一つ頷いた。

「やや力任せなところはあるが、技術が伴えば一端の剣士になれるだろう。先陣を切った度胸も評価できる――ジェイドはBクラスだ」
「はぁ、はぁ……ま、Bクラスなら、文句ねぇーよ」

 呼吸を整えたジェイドが、剣を鞘に仕舞いながら生徒たちの元へと戻る。
 その頬が緩んでいるのは、Aクラスを抜きにしたらトップクラスの実力に値すると認められたからだろう。
 
「よ、よしっ! じゃあ次は俺だっ!」

 ジェイドの次に前に出たのは、彼とつるんでいる短髪の男だった。

「名前は?」
「俺はグラパだ。お願いします――たぁっ!」

 さっそく剣を抜いて、ガレアスに躍りかかるグラパ。しかし、結果はジェイドと同じように散々に剣を振らされ消耗しただけに終わった。

「ふむ、グラパもBクラスだな。よし、次っ!」

 その後も生徒たちが次々にガレアスへと挑み、B~Dのクラスに振り分けられていく。

 やはりBクラスに選ばれた者は、トゥールの眼から見てもそれなりに剣の扱いが様になっている。以前から剣術の修行をしていたに違いない。
 反対にC、Dクラスの者は、動きがどこか拙いように思える。中にはトゥールと同じように、今回初めて剣を握った者も少なくなさそうだ。
 ガレアスは直接実力を測ることで、そうした生徒たちに適したクラスをしっかりと導き出したのだろう。

「よし……それじゃあ最後はトゥールだな。さぁ、来い」

 気付けば、トゥール以外の生徒たちはすべてクラスを選んでもらったらしい。様子を窺っていたトゥールだけが最後まで残されていた。

(――どこまでできるか分からないが、僕は僕なりに頑張るとしよう)

 一つ深呼吸し、トゥールは腕を組むガレアスの前に立った。