「ゴホッ‼……お母様、一体何を⁉」
「ゴフッ‼……アンナ様‼何を仰ってるんですか⁉」
「え~と………」

 パニック状態になっているイザベラ嬢とクララ嬢。
 俺は俺で、アンナ公爵夫人に対してどう答えれば正解なのか分からず、言葉が出てこなくなる。

「もしかして、どっちじゃなくて、どっちともなの?」
「お母様‼」
「アンナ様‼」

 さらにとんでもない事を言うアンナ公爵夫人に、イザベラ嬢やクララ嬢が顔を赤くしながら怒る。
 アンナ公爵夫人はというと、顔を赤らめながら怒る二人を、微笑ましい笑顔のまま見ている。イザベラ嬢とクララ嬢の二人は、アンナ公爵夫人にいいように遊ばれてしまっている。
 二人とも転生者で二度目の人生、俺と違って男性との交際経験もあっただろう。思春期の子供みたいに動揺しなくてもいいのに。
 それに、二人とも今世で美少女なのだから、直ぐにでも良縁に恵まれる。二人とも貴族の娘として生まれたのだから、婚約者候補の一人や二人くらい幼い頃からいるだろうしな。

「だって、イザベラは昔から男の子にあまり関心がなかったし、男の子に恐れられていたでしょ?まあ、それは今もだけど」
「ぐっ……‼」

 イザベラ嬢が苦しそうに胸を抑える。彼女の心にクリティカルヒットしたようだ。

「クララも一年という短い付き合いだけど、男性に関心が薄いっていうのが見ていて分かるわ。それに、イザベラの友達ってことで男性に遠巻きにされてる」
「うっ……‼」

 クララ嬢が苦しそうに胸を抑える。彼女の心にもクリティカルヒットしたようだ。

「安心しなさい。社交界でも注目度の高い貴女たち二人が、男性にあまり関心がないのだろうと勘づいているのは、私を含めたごく一部だけよ。その一部の人たちも特に何かをする訳でもなさそうだし、今は放置しているわ」

 アンナ公爵夫人が最後に言った言葉に、少し背筋が寒くなる。
 最後のあの言葉には、社交界に強い影響力のある公爵夫人として、イザベラ嬢の母親として、我が子を思う気持ちが十二分(じゅうにぶん)に込められていた。
 もしも本当にその一部の人たちが、二人が男性に関心が薄いという情報を悪用してよからぬ噂を流すなどの工作をし、イザベラ嬢やクララ嬢のイメージを下げようと考えようものなら、公爵家の力を揮われて一気に潰される事は間違いない。
 カノッサ公爵家の力に対抗出来るのは、同じ地位と権力のある他の公爵家か、アイオリス王家ぐらいだろう。

「そんな男性に関心のないイザベラが、知り合って間もない男性を屋敷に招待して、自分の部屋で談笑するっていうのよ?それも、同じく男性に関心のないクララも一緒になって。だから、私たち心底驚いたのよ?」

 アンナ公爵夫人の言うように、男に関心がないはずの二人が知り合って一週間程度の男をいきなり自宅に呼び、しかも自分の部屋に招き入れるなんて事を知ったら、家族からしたら驚くどころの話ではないだろう。

「全員で押しかけても迷惑になるから、私が家族を代表して、付き合っているのかを確かめに来たのよ。でも二人の様子から見るに、今はまだ友達って所かしら?」
「そ、そうです。ウォルターさんとは友達なの」
「……アンナ様、そうなったらそうなったで、ちゃんと報告はしますから」
「クララ⁉」

 クララ嬢の発言に、イザベラ嬢は何を言っているのと驚く。
 そんなイザベラ嬢に、クララ嬢は真剣な表情と雰囲気で言う。

「イザベラ、貴女も分かってるでしょ?」
「…………そうね」

 イザベラ嬢とクララ嬢の真剣なやり取りを見ていたアンナ公爵夫人が、真剣な表情と雰囲気で二人に問いかける。

「じゃあ、二人はそういうつもりって事で進めていいのね?」
「「はい」」

 イザベラ嬢とクララ嬢が、アンナ公爵夫人の問いかけにハッキリと答えた。
 俺はそういうつもりというのがどういう意味なのか分からず、三人の会話に入っていけないまま置いてけぼりになっている。
 そして、色々と俺だけが分かっていないままに、今の会話で二人の何かが決定したようだ。