三日前までは蕾だった桜の花もあっという間に咲き乱れ、まさに卒業式日和だった。
いつもと違う装いをして、いつもよりメイクも気合を入れて迎えたこの日、私は一人、ある一本の桜の木の下へ向かっていた。誰も来ないと分かっていても、行く以外の選択肢は既に私の中にはなかった。お父さん、お母さん、お姉ちゃんには写真を撮ってくると伝えている。目的地に着いたとき、分かってはいたけれどその場に誰も居なかったことに寂しさを感じてしまった。
はらりと一枚の花びらが目の前を舞い落ちる。
時刻は8:20。
9:00から式典があるのにこうもゆっくりはしていられない。もう一度桜の木を見上げてから、編み込みにお団子という凝った髪型に、シャラリと鈴の音のする(かんざし)(ゆい)という意味のこもった水引、そして桜の飾りを身に纏ったまま本来いるべき場所へと向かった。
ある出来事を思い出しながら——

「ねぇおばあちゃん、一緒あそぼーよ」
「璃奈、ちょっと待っててね」
「うん!」

おばあちゃんの家にお泊りをしていた日のこと、当時7歳だった私は誰かと遊びたくておばあちゃんにずっと遊んで遊んでとおねだりをしていた、そんな時だった。

「璃奈はこれ、何か知ってる?」
「えー何それ。何かのひも?」
「違うわよ。これはね、水引っていうの」

私が水引と初めて出会ったのは。

「みずひき?」
「うん。これはね、こう曲げてこうこう結んだら、ほら」

おばあちゃんが実際に作って見せてくれた。

「あ!つるさんだ!!」
「見たことあるでしょう?ご祝儀とかによく使われているね」
「ごしゅくぎー?」
「えぇ、そうよ。ご結婚おめでとうございますの時に渡すものだよ」
「?」
「まぁまぁ、こんな風によく昔から使われているんだよ」
「へー!!」
「他にも色んなの作れるけど興味あるかい?」
「うん!」
「好奇心旺盛なのは良いことだよ。さ、今からやろっか?」
「うん!やった!!」

それから、おばあちゃんから水引について色々なことを学んだ。人に何かを渡す時だけではなく、インテリアやアクセサリーなど使える用途は多岐にわたるということや水引には結、人と人を結び付けるという意味があって、水引の形によっても、込められた願いが様々であるということ。学べば学ぶほど奥が深くて面白く、気付いた頃には既に水引の虜となっていた。——今日はそんな水引を髪飾りとして使って、オシャ可愛く仕上げてきた。作るときに、その水引には今までお世話になってきた人達への感謝や私と誰かを、仲間たちを結んでくれてありがとうという想いを込めながら。少しでも想いが届きますように……。
こう想い出に浸っている間にいつの間にか式典が行われる会場が見えてきた。入り口には沢山の人で溢れかえっている。

「璃奈ー!!」

お姉ちゃんから呼ばれている声が聞こえてくる。

「はーい!」

少しだけ、ほんの少しだけ小走りで……だって着崩れしちゃったら困るもんね。とにかく、こけたりぶつかったりとヘマをしないように気を付けながら近づいていく。

「写真撮ろ!」
「うん!」
「あ、お母さんたちも入れてー!!」

お母さんが家族写真を撮ろうとし始めたことに気付き、二人で顔を見合わせながら肩をすくめる。

「えー後からで良くない?」
「だーめ!今撮るよ!!取り終わってから存分に二人で撮っていいから」
「そういうことじゃないんだけど……」

今度はお姉ちゃんと目で意思疎通する。

“こうなったらもう、家族写真撮らないと色々言われるよね”
“だね”
“しょうがないから後で撮るか”
“ん、そうしよう”

「撮るなら早く撮ってよー?」
「それは璃奈が今みたいにブスッとしてなかったらね」
「はーい……」
「あ、すみませーん!」

お母さんと話している間に、お父さんが近くの人に撮って欲しいとお願いをしていた。OKが出たようで

「ありがとうございます!」

と思いきり喜びながらお礼を言っていた。

「では撮りますよー。……はいっ、チーズ!」

縦と横、それぞれ二枚ずつくらい撮ってもらって家族写真の撮影は終わった。その後も、お姉ちゃんと自撮りをしてから私の後ろ姿や横向きの姿など、さらに何十パターンにもなる数の写真を撮られてやっと萌たちの所に行くことが出来た。

「萌ー!!」
「!?璃奈?」
「一緒撮ろ!!」
「うん!」

まずは萌との写真を撮り、次は鳴海、そしてその次は恵美、悠真、小林くん、芽衣……ゼミの仲間たちや、仲の良い友達たちと順番に撮っていった。卒業式まで残り5分となったため、全員で入り口に集合する。
……ちょうど9:00。

「卒業生、入場」

沢山の拍手に包まれながら指定されていた席に着いた。それからは、学園長の挨拶から始まり、お祝いの言葉、卒業証書……とスムーズに式は進んでいく。

「——以上、これで閉会とします。卒業生の皆様は起立し、退場してください」

再び、大勢の人による拍手に包まれながら出口を通過する。

「倉本ゼミの皆はこっちに集まれー!!」

ふいに教授から私達に出口から少し離れたところにある、少し小柄な桜の木の下に集まるよう指示があった。
全員が集合すると、教授が口を開いて

「卒業おめでとう」

と言った。
今、おめでとうと言われてやっと、卒業したという自覚が出てきた。周りの皆もそうだったようで、今頃、涙ぐみそうになっている人も何人かいる。

「——これからきっと沢山の壁にぶち当たったり、痛い思いや苦しい思い、悔しい思いをすることが出てくると思う。でも、皆なら時間をかけてでもきっと、どんなことも乗り越えられると思ってるし、信じてるから就職先でも頑張ってね。時々、メールで近況を話してくれたりしたらめっちゃ嬉しい!頑張れ!!皆なら出来るよ!」

前半は、研究についてとか今までしてきたことについてだったけど、後半は教授から私達へのエールが贈られた。ちょっと話を聞きながら、駄目っては分かってるけど……まだ教授になって3年目くらいで25歳と若いからか、そんな感じが話しながら少し滲み出てて少し笑いそうになっちゃった。でも、教授から受け取った言葉に少し感動もした。