竜を撫でる

レイナード「…天竜だって?」

ディアナ「言っただろ?
     信じなくていい」

レイナード「首は? 矢傷はどうなった?」

ディアナ「もうふさがった。
     確かめてみるか?
     この暗闇の中で。
     穴に指を突っ込むんだ」

レイナード「…下品な言葉は(つつし)め」

ディアナ「竜はきょうが初めてで
     女にまたがるのはまだか?」

 ディアナの口から出る品のない冗談に付き合わず、レイナードはこの状況を考える。

レイナード「国が心配だ…」

ディアナ「それならそのまま
     祈って夜でも明かせ」

レイナード「父母は無事だろうか…」

ディアナ「王の愚息(ぐそく)はやはり矮小(わいしょう)だ」

 こんな状況でもディアナはレイナードをバカにする。

レイナード「なんなんだ! さっきから」

ディアナ「いいか、王子さま。
     お前が心配しようが祈ろうが、
     状況が変わるわけじゃない。
     スピナーの腹から出て
     国へ走ったところで、
     お前はこのまま凍死(とうし)する」

レイナード「じゃあどうしろって言うんだ!」

 隣に居ると思しきディアナに触れて倒した。倒してしまってから気づいた。

レイナード「いや待て、ディアナ、お前…。
      なんで服を脱いでるんだ?」

ディアナ「は? 血で()れた服が
     冷たいからに決まってるだろ。
     わかったら乳房(ちぶさ)から手を離せ」

レイナード「わっ! すまん…」

 暗闇で見えない分、感触で気づくべきだった。改めて自分が直に触れたものの手触りを思い出す。血と臓腑(ぞうふ)の残り香の中に、ディアナの放つ女の匂いがあった。

ディアナ「レイナード、お前も服を脱げ。
     隣がびしょ濡れでは
     こっちまで風邪を引く」

レイナード「天竜が風邪を引くのか」

ディアナ「ひとの言葉を操るのが天竜だ。
     いいからつべこべ言わずに
     さっさと脱げ!」

レイナード「待て! 触るな!」

ディアナ「愚息(ぐそく)愚息(ぐそく)の心配を
     している場合か!」

レイナード「待ってくれ! ちょっと!
      やめてっ! あっ!」