帰りは来た道をそのまま戻る。ディアナは竜の背にも慣れたレイナードに、スピナーの手綱を握らせる。
ディアナ「地竜は使役竜のなかでも
ひときわ賢いから、下手に
手綱を引っ張ったりしないこと」
レイナード「竜はほかにも居るんだろ?」
ディアナ「ウチの竜屋で扱うのは、
どれも地竜ばかりだ。
温厚な性格の子が多いし、
ごはんやおやつの鶏肉目当てに
どの子も真面目に働いてくれる。
竜に乗るなら竜を知るべき。
それに個性もある」
レイナード「たしかにその通りだ。
よその国の竜も見ておきたいな」
ディアナ「王族のレイナードなら、
成人すれば好きなだけ見れるだろ」
レイナード「たしかに…」
将来について考えてうなずく。
ディアナ「南の方には空を飛ぶ竜もいるが、
身体が小さく寒さにめっぽう弱い。
なんせ毛が無いんだとさ」
レイナード「こちらであまり見ないのは
そのせいなのか」
ディアナ「夜は寒くて外出できないらしい」
使役竜とはいえ、どんな竜でも人間の命令通りに動くわけではない。自分の生命が危ぶめば、賢い竜であれば忌避するのも当然だ。
レイナード「ディアナは見たことあるか?」
ディアナ「たまには南へ行ったりもする」
レイナード「ならば案内役もできるのか」
ディアナ「高いぜ?」
レイナード「…考えとく」
ディアナ「さらに南の小さな竜は、
手紙を送るために使役する。
おかげで戦争が耐えないんだと」
レイナード「なぜだ?
手紙など立派な
外交の手段だろう」
ディアナ「手紙を使って相手の悪口を
熱心に送りつけるからだそうだ。
使う人間の頭が悪ければ
竜を使う意味がない」
レイナード「なんだそりゃ。
竜も国民も
たまったもんじゃないな」
ディアナ「だろう?」
ふたりはスピナーの背の上で笑い合った。
するとスピナーが鳴いた。地竜はその太い喉からギャー、ギャーと声を発して、天を仰ぐ。ディアナも聞きなれない声だった。
日は傾き、街から昇るいくつもの炊煙が遠くに見える。
その上空に鳥たちの影があった。しかし鳥ではない。大きな影。飛竜である。
レイナード「街が」
ディアナ「まずい、引き返すぞ」
ディアナがレイナードを押しのけて手綱を奪うと、背を平手で叩いて右旋回させる。しかし手遅れだった。
レイナード「なんで! 戦争が?」
ディアナ「理由なんてどうでもいい。
見つかったんだよ!」
空を舞う使役竜が3体、その街を外れてこちらへ向かってきた。スピナーはすでに気づいて、警戒音を発していた。
ディアナ「ごめん、スピナー!
気づくのが遅れた」
スピナーは走る。しかし、泥と雪の上では地竜は速度はでない。天竜の滝を往復して、疲れている。空腹で一日の労働量を上回っていた。
飛竜の方が速度は上回る。黒い影はより大きくなる。
レイナード「追いつかれるぞ」
ディアナ「伏せろって!」
のん気に状況観察をしていたレイナードに、石弓の矢が降り注ぐ。彼をスピナーの毛の中に埋めるように、ディアナが抑え込んだ。
レイナード「ディアナ!」
彼女の首に、矢が深く突き刺さる。碧色の目を大きく見開いたが、手綱を離すことはなく、スピナーの背を強く蹴った。
ディアナ「ごっぷ…」
ディアナが何かを話そうにも血が気道を埋め尽くし、呼吸のために血を吐き出す。
血をしたたらせるディアナに抑え込まれながらレイナードは忌々しく振り向いたが、飛竜たちはそれ以上追ってはこなかった。
ディアナ「地竜は使役竜のなかでも
ひときわ賢いから、下手に
手綱を引っ張ったりしないこと」
レイナード「竜はほかにも居るんだろ?」
ディアナ「ウチの竜屋で扱うのは、
どれも地竜ばかりだ。
温厚な性格の子が多いし、
ごはんやおやつの鶏肉目当てに
どの子も真面目に働いてくれる。
竜に乗るなら竜を知るべき。
それに個性もある」
レイナード「たしかにその通りだ。
よその国の竜も見ておきたいな」
ディアナ「王族のレイナードなら、
成人すれば好きなだけ見れるだろ」
レイナード「たしかに…」
将来について考えてうなずく。
ディアナ「南の方には空を飛ぶ竜もいるが、
身体が小さく寒さにめっぽう弱い。
なんせ毛が無いんだとさ」
レイナード「こちらであまり見ないのは
そのせいなのか」
ディアナ「夜は寒くて外出できないらしい」
使役竜とはいえ、どんな竜でも人間の命令通りに動くわけではない。自分の生命が危ぶめば、賢い竜であれば忌避するのも当然だ。
レイナード「ディアナは見たことあるか?」
ディアナ「たまには南へ行ったりもする」
レイナード「ならば案内役もできるのか」
ディアナ「高いぜ?」
レイナード「…考えとく」
ディアナ「さらに南の小さな竜は、
手紙を送るために使役する。
おかげで戦争が耐えないんだと」
レイナード「なぜだ?
手紙など立派な
外交の手段だろう」
ディアナ「手紙を使って相手の悪口を
熱心に送りつけるからだそうだ。
使う人間の頭が悪ければ
竜を使う意味がない」
レイナード「なんだそりゃ。
竜も国民も
たまったもんじゃないな」
ディアナ「だろう?」
ふたりはスピナーの背の上で笑い合った。
するとスピナーが鳴いた。地竜はその太い喉からギャー、ギャーと声を発して、天を仰ぐ。ディアナも聞きなれない声だった。
日は傾き、街から昇るいくつもの炊煙が遠くに見える。
その上空に鳥たちの影があった。しかし鳥ではない。大きな影。飛竜である。
レイナード「街が」
ディアナ「まずい、引き返すぞ」
ディアナがレイナードを押しのけて手綱を奪うと、背を平手で叩いて右旋回させる。しかし手遅れだった。
レイナード「なんで! 戦争が?」
ディアナ「理由なんてどうでもいい。
見つかったんだよ!」
空を舞う使役竜が3体、その街を外れてこちらへ向かってきた。スピナーはすでに気づいて、警戒音を発していた。
ディアナ「ごめん、スピナー!
気づくのが遅れた」
スピナーは走る。しかし、泥と雪の上では地竜は速度はでない。天竜の滝を往復して、疲れている。空腹で一日の労働量を上回っていた。
飛竜の方が速度は上回る。黒い影はより大きくなる。
レイナード「追いつかれるぞ」
ディアナ「伏せろって!」
のん気に状況観察をしていたレイナードに、石弓の矢が降り注ぐ。彼をスピナーの毛の中に埋めるように、ディアナが抑え込んだ。
レイナード「ディアナ!」
彼女の首に、矢が深く突き刺さる。碧色の目を大きく見開いたが、手綱を離すことはなく、スピナーの背を強く蹴った。
ディアナ「ごっぷ…」
ディアナが何かを話そうにも血が気道を埋め尽くし、呼吸のために血を吐き出す。
血をしたたらせるディアナに抑え込まれながらレイナードは忌々しく振り向いたが、飛竜たちはそれ以上追ってはこなかった。