あの旅から一年くらいの月日が流れた。あの後、俺たちは“町”に戻って何気ない日々を生きている。その中で俺は誰もいなくなった家で一人で暮らしている。父はあの後どこかへ行ってしまったきり帰ってこなかった。母については父と大喧嘩した時、事故に巻き込まれて死んでいる。結局、俺の家族はもう元には戻らなかった。だけど、俺には二人がいた。だから、俺はこれかもきっと大丈夫だと思う。そう思いながら、俺はいつも通り首にメリーとの思い出であるネックレスを身につけるのだ。

「ねえ、ワタル。何してるの?」
 ユイが聞いてきた。あれからユイの家族は仲直りしたようだった。それだからなのか、前よりも彼女の表情は穏やかだった。
「ああ、エドにメッセージを送ろと文を考えてた」
「エドって、前にお世話になった?」
「そうそう」
 あれから、俺たちとエドの関係は続いていた。次の秋にでもまた会いに行きたいと思っていたので、そのことを話そうとメッセージを考えていた。
 エドやアリスによれば、アマゾネスのみんなはあれ以来何事もなく平穏な日々を取り戻したという。俺はそれが嬉しかった。だからいつか、またアマゾネスに行こうと思っている。今度は平和に滞在できるといいなと思う。だが、そのためには、アレが必要だった。


 学校に通いながら俺はバイトをしている。お金を貯めて、ある物を買う。そのためだった。学校終わりに俺はレイとセイジに会うことにした。二人に連絡を取る。もちろん二人は快く引き受けてくれた。いつもの公園まで道を急ぐ。やっとお金が貯まった。これでようやくあれが買える。公園に着くと、レイとセイジが待ちくたびれた様子で俺を待っていた。
「ワタル、遅いよ」
「ああ、おせーぞ」
「ごめん。ごめん」
 俺たちは一つのウッドテーブルを囲うように座る。レイの手元にはデバイスがあって、画面には様々な船の画像が映し出されている。
「で、お金は? 」
 レイが俺とセイジに尋ねてきた。俺はすぐにデバイスを開いて、銀行の帳簿をレイに見せた。セイジもそれに続く。

「目的の額まで行ったな」
「ああ、そうだな」
「だね。じゃあ、話を始めるか」
 そう言って、俺たちはレイのデバイスに目を合わせた。
「どれが良いか…… 」
「だな」
「これとかいいんじゃない」

 俺たちは懲りていなかった。三人でお金を持ち寄って船を買おうとしている。今、どんな船が良いかで俺たちは悩んでいた。それを考えている俺は楽しいし、レイとセイジも楽しそうだった。ああでもない、こうでもないと考えている俺たちはどうしようもない旅好きなのだ。じっくり考えていると日が暮れはじめた。夕日が綺麗に見える。
「これにしようよ」
「お、良いな」
「オッケー」
 ついに船が決まった。今度は隼のような形をした船にすることにして、レイが船の購入手続きを始める。

「よし、また旅に出るとしますか!」
 セイジが次の話を始めた。そう言われて、俺は考えを巡らせた。どこへいこうか。何をしようか。それ考えていると、俺はまた楽しい気持ちになった。
「…… 俺たち、なんでもできるな。これから」
 ふと俺は言葉を放った。それを聞いたレイとセイジはすぐに返しの言葉をかけてくれた。
「だな」
「…… そうだね」

 夜も遅くなってしまったので、俺たちは家に帰ることにした。
「じゃあ、また明日」
「また明日!」
「またな」

 そう言って俺たちはそれぞれの帰路に着いた。歩きながら俺は今度の旅の行き先のことを考える。どこにしようか。その話は結局、今日は結論が出なかった。明日考えよう。人生の旅はずっと続いていく。その中で俺は、俺たちは何をなすのか。これからも人生の意味を探す旅は続く。そう思った時にふと空を見上げると、綺麗な星空が見えた。この星々に思いを馳せながら、俺は帰り道を歩いた。 

(Fin)