目が覚めると、青い空が視界に映る。

 起き上がって周囲を見渡してみると、異世界転生先はまさかの屋外だった。

 それも、地平線が見えるくらいに広い草原というか、一本だけポツンと立っている高い木があるんだけど……こういう場所をサバンナって言うんだっけ?

「確かあの女神様は、異世界に転生して零歳から人生を送るって言っていたよね? 俺、いきなり立ち上がっているし、歩けるんだけど」

 自分の身体や手足を見てみたけど、どう考えても零歳の赤ちゃんではない。

 幼稚園ってことはなさそうだが、小学生くらいだろうか。

 自分の頭に触れ、前髪を降ろしてみると黒髪が見えたから、日本人っぽい容姿なのかな?

 持ち物は、変な服――おそらく、この世界の服なのか、ゴワゴワした布で出来た、ダボダボのロンTみたいな服とズボンに、革で出来たサンダルみたいな靴……だけ!?

 実はポケットとかに何か……って、ズボンにポケット自体が無いのかぁぁぁっ!

「マジかー。確かに田舎でのんびりスローライフとは言ったけど、ちょっと厳し過ぎじゃない?」

 おそらく、女神様が最後に言った「あっ!」で、何か失敗したんだろうけど、とりあえず思っていた異世界転生スローライフとは違うみたいだ。

 俺のイメージでは、辺境の農家の次男辺りに転生して、かわいい幼馴染の女の子と一緒にのんびりと畑を耕していくと思っていたんだけどな。

 理想と現実のギャップを悲しく思いながらも、雲の位置が変わって日差しが厳しくなってきたので、この辺りで唯一生えている木の下へ移動することにした。だけど、このサンダルが中々に歩き難い。

「そうだ! 確か、魔法が使える世界だって言っていたよね! 魔法って、どうやって使うんだろ? 十歳になっていないと、まだスキルを貰えていないから使えないかもしれないけど……とりあえず、ゲームによくある魔法の言葉で発動するかな?」

 ゲームならコントローラーで選んでボタンを押すだけなんだけど、とりあえず、あの木の許へ行くイメージしながら、思いっきり叫んでみることにした。

「テレポート!」

 ……どうしよう。めちゃくちゃ恥ずかしい。

 いや、誰に聞かれた訳でもないんだけど、思いっきり瞬間移動する自分をイメージして叫んだのに、一ミリも動いていないからね。

 何度か、俺の思う魔法の使い方を試し……うん。歩いて行くことにした。

 やっぱり普通は魔法って、誰かに教わるとか本を読むとかっていう、学習が必要だろうしね。

 ただ日本でシステムエンジニアとして働いていた時は、まったく知らないプログラム言語のソースコードをいきなり渡されて、仕様書も設計書も何も無いまま、これを動くようにしろ言われて……って、今考えるとおかしいよな。

 今更ながらに、前世の職場のブラック企業っぷりについて考えていると、段々と目的地である木が近くなってきて……おぉっ! 人がいるっ!