「ただいまー」

10時になる5分前に家に帰ってきたわたしは、ローファーを脱ぐと自室へと足を向かわせた。

バタン…

自室のドアを閉めると、ブレザーのポケットから先ほど盗んだ口紅を取り出した。

「ーーやっちゃった…」

心臓がドキドキと、思い出したように早鐘を打ち始めた。

どうしよう、盗んじゃったよ…。

今から店に戻って謝れば間にあうかな…?

いや、まずは両親にこのことを説明して…。

頭の中ではいろいろと浮かんでいるが、胸の中は達成感でいっぱいだった。

それどころか、スッキリとしていて気持ちがいいくらいだ。

「ーーやったんだ…」

そう呟いたら、爽快な気持ちに包まれた。

こんなにも晴れやかな気分になったのは、いつ以来だろうか?

「ーーフフフッ…」

おもしろい、楽しい、最高…!

学校にも家にも居場所がない、鬱屈としていた日々を送っていたのが嘘みたいだ。

どうしよう、笑いが止まらない…!

簡単にできるじゃん、これ…!

盗んでやったと言う達成感と胸の中がスカッとする爽快感が最高で、気持ちがいい。

「ーーこれ、おもしろい…」

手元にある口紅を見ながら、わたしは呟いた。

その瞬間、わたしの中で“何か”が音を立てて崩壊したのがわかった。