心臓がドキドキと早鐘を打っている…。

気持ちを落ち着かせるために深呼吸をすると、店内を見回した。

防犯カメラからは死角になっているからわからない。

この時間にいる店員は2人だ。

1人はレジの対応をしていて、もう1人は裏で仕事をしているのか先に帰ったのかはわからないが、そこにいなかった。

店員も見ていないし、私の周りには誰もいない。

…よし、今だ!

私はカバンで手元を隠すと、ブレザーのポケットに口紅を入れた。

何事もなかったような顔でレジへと向かうと、
「お願いします」
と、ノートを店員に渡した。

もし本当は見ていて、口紅を盗んだことがバレたらどうしよう…。

「2冊で220円です」

店員に言われて、わたしは300円を出した。

「80円のおつりです、レシートはご利用なさいますか?」

「…ください」

店員からおつりとレシートを受け取ると、ノートをカバンの中に入れた。

「ありがとうございましたー」

店員の声を聞きながら、わたしは店を後にした。

店を出たとたんに、万引きGメンに「ちょっといいですか?」とか「今、盗みましたよね?」って声をかけられるかと思ったけれど…それらしき人はいなかったし、声をかけられることもなかった。

わたしは走って、家路へと急いだ。