「ちょっと、カバンの中を見せてもらえるかな?」

店員が声をかけてカバンに手を伸ばそうとしたのと同時に、わたしは持っていたカバンを店員に向かって投げつけると店の外へと逃げ出した。

「あっ、ちょっと!

相田さん、警察を呼んで!」

店員が何かを言っていたような気がするけど、今はそんなことに構っている時間はない!

わたしは無我夢中で走った。

パトカーのサイレンが聞こえる。

遠くへ逃げないと捕まっちゃう…!

どこでもいいから、何でもいいから早く逃げなきゃ…!

でも…逃げるってどこへ?

全ての持ち物は、先ほど店員に向かって投げつけたカバンの中にある。

それに、学校にも家族にも連絡が行くのは時間の問題だ。

どうすればいいの?

何をすればいいの?

どこへ逃げればいいの?

そんなことを思っていたせいで、周りを見ていなかったのが悪かった。

「ちょっと、まだ信号が赤よ!」

「あ、危ない!」

…えっ?

その声に気づいたのと同時に、クラクションが鳴った。

クラクションを鳴らした大型トラックがわたしに迫ってきている。

「ーーあっ…」

声を出したその時は、もう遅かった。

わたしの躰は大きく宙を舞うようにして飛んだ。