数学の時間、先生に当てられてるのにボーッとしてる女子がいた。
気づいた時にはもう遅し。
あたふたしてるこの人を見てたら自然と笑顔になった。
「....ねぇ」
彼女がこちらを振り向いた。
潤んだ瞳と助けを求めるような表情。
「これ」
俺は答えをノートの隅に書いて見せた。
そう言って彼女のいない窓の外を意味もなく見ていた。
右からは彼女が答えを言う声が聞こえてきた。
彼女は俺に小さな声で「ありがとう」と言ってくれた。
言わなくても良かったのに。こんなことでしか『これ』を活かせないんだから。
とりあえず仮面をつけて「いいえー」と笑顔で言っておく。
授業が終わった後も彼女は俺を呼び止めてわざわざ感謝を伝えてくれた。
「さっきはその、ありがとうございました。すごい助かりました」
こんなに嬉しくなったのはいつぶりだろう。
「あぁ、気にしないで。これからはもっと真面目に授業を受けようね」
少し意地悪なことを言ってみると顔を赤めていた。
「じゃね〜」
彼女に背を向けて俺は歩き出した。
「翔夜ー!行こーぜ!」
朝からうるっせぇな。
こいつは宮舘陽飛(みやだてはるひ)。唯一仮面を外して話せる親友だ。
でも陽飛にも言ってないことはたくさんある。
「あの女の子、翔夜の事すきなの?」
何言ってんだ。
「んなわけねぇだろ。あの子はきっと違う」
「何人にも告白された奴が何言ってんだよ」
陽飛はニヤニヤしながら俺の背中を叩いてきた。
「痛ってえな!告白されたくてしてるわけじゃねえよ」
「だってお前猫かぶってるやん」
それ言われたら何も言えねえな。
「翔夜くんっ!今日一緒に帰ろ?」
誰だっけ?確か花岡莉南だった気がする。
「いいよ」
完璧な笑顔を貼り付けていたら横で陽飛が笑いをこらえているようで莉南が首をかしげていた。
「いった!!」
陽飛は俺を睨みつけながら背中をさすっていた。
余計な事言ったり笑ってるからだよ。
「翔夜くん。怖いよっ?莉南怖〜い!」
明らかに猫撫で声で話す莉南は上目遣いでこちらを見つめてきた。
名前も覚えてないさっきの子と話したい。
「ごめん。ちょっと俺、戻るわ」
俺は歩き出した。
「え!翔夜くん戻っちゃうの?じゃあ今日一緒に帰ろーね!」
莉南は高過ぎる声で話した後走ってどこかへ行った。
「お前、大丈夫か?」
陽飛は心配してくれたけどそれどころじゃなくて。
早く数学の時間になってくれないかな。