「ウエディングドレス、可愛い。着てみたいな」
高校1年生の10月。
優衣花の家で遊んでいる時だった。
彼女がリビングで少女漫画雑誌を読みながらそう呟いた。彼女がこうやって自分の気持ちを呟くのは珍しすぎた。俺は思わずドキッとして、彼女の横顔を盗み見た。
それから、その本を横からそっと覗いてみた。
優衣花が見ていたシーンの背景は、バラ庭園。
そして、花がいっぱいついた、フワフワで可愛いウエディングドレスをヒロインが着ていて、ヒーローにお姫様だっこをされていた。
☆。.:*・゜
いつも隣にいる優衣花は、俺の幼なじみだった。
保育園も同じで、その時からずっと一緒にいる。彼女は保育園ではひとことも話さなかった。笑顔も少なめな女の子で。
俺は不思議な子だなぁと思っていた。
ある日、母さんと公園に行くと、優衣花が彼女のお母さんといた。
めちゃくちゃ笑って、めちゃくちゃ喋っていた。保育園にいる時と雰囲気が違った。
「こんにちは」
親同士で挨拶を交わしている。
俺も、優衣花に「優衣花ちゃんだ」って話しかけてみた。そしたら彼女は無言になって、こっちをただじっと見ているだけだった。
俺と母さんは滑り台付近にいた彼女たちから離れて砂場のところへ行った。
「あの女の子、保育園でひとことも話さないんだよ。変だよね?」
俺は優衣花を指さしながらそう言った。
母さんはじっと、優衣花を見る。
「きっと保育園ではお話するのが苦手なのかな? 桃李にも得意なことと苦手なことがあるでしょ? 別に変じゃないとお母さんは思うな。もしもあの子が困ってたりしたら桃李、助けてあげればいんじゃない?」
言葉が心の中に、すとんと入ってきた。
母さんのその言葉をずっと覚えていて、高校生になった今ではその言葉の意味がよく分かる。
ちなみに俺の得意なことは、細かい作業を黙々とやるのが好き。
苦手なことは……何でも出来ると思うから、特に思いつかないかも。
母さんが公園でそう言った日から、優衣花のことが、前よりも気になってきた。意識して近くにいることも多くなった。
当時の自分は幼いながらも、彼女に何かしたいって考えていたんだと思う。
友達が積み木をしたり、おままごとをしていても彼女はじっとその風景を眺めているから「一緒に遊ぼ?」って誘って、手を繋いで一緒に遊んでいる友達のところへ行ったりした。
声は出さないけど、うなずいたり、首を振ったりして、返事はしてくれる。
だんだん沢山話しかけていると、俺に慣れてくれたのか、微笑んでくれるようにもなった。ふわっとした笑顔が、すごく可愛かった。
小学生になった。
優衣花と同じクラスになった。
優衣花は口数はすごく少ないけれど、高学年になると、学校で話をするようになっていた。
俺はそんな優衣花を見て、まるで自分のことのように嬉しくて、心が弾んだ。
相変わらず彼女が困ったりしたら助けたくて、さりげなく近くにいるのが当たり前になっていった。
中学も一緒だったけれど、高校は別になった。
優衣花は自分の気持ちをあまり言わないから心配だった。彼女と遊んだ時は毎回「学校で嫌なことない? 大丈夫?」って、おせっかいかなと思ったけれど、質問していた。嫌がらせ受けてたりしたらすぐ学校に乗り込む覚悟もしていた。
ちなみに喧嘩は勝つ自信がある。
小学生の時、よく喧嘩して先生に怒られたな。今もたまにするけれど。
でも彼女は、友達も出来たらしく。
にこにこして「大丈夫」だよって言いながら、スマホの写真も見せてくれた。
教室で5人で写っている写真。
その中に男の子もふたりいて、なんだか心がモヤモヤしていた。その男の子たちが優衣花に笑いかけてる姿を想像するだけで、胸が締め付けられて、頭の中がぐちゃぐちゃになった
もしかして、どっちかと付き合っていたりしないだろうかって。想像しただけでちょっとムッとした気持ちになる。でも、聞けない。
俺はだれよりも優衣花の一番近くにいたい。
だけどそれはワガママで。
だって、優衣花には優衣花の生活があるから。
彼女がどう思っているのか、俺には分からないし……。
そんな時、彼女は漫画を読みながら呟いた。
「ウエディングドレス、可愛い。着てみたいな」って。
高校1年生の10月。
優衣花の家で遊んでいる時だった。
彼女がリビングで少女漫画雑誌を読みながらそう呟いた。彼女がこうやって自分の気持ちを呟くのは珍しすぎた。俺は思わずドキッとして、彼女の横顔を盗み見た。
それから、その本を横からそっと覗いてみた。
優衣花が見ていたシーンの背景は、バラ庭園。
そして、花がいっぱいついた、フワフワで可愛いウエディングドレスをヒロインが着ていて、ヒーローにお姫様だっこをされていた。
☆。.:*・゜
いつも隣にいる優衣花は、俺の幼なじみだった。
保育園も同じで、その時からずっと一緒にいる。彼女は保育園ではひとことも話さなかった。笑顔も少なめな女の子で。
俺は不思議な子だなぁと思っていた。
ある日、母さんと公園に行くと、優衣花が彼女のお母さんといた。
めちゃくちゃ笑って、めちゃくちゃ喋っていた。保育園にいる時と雰囲気が違った。
「こんにちは」
親同士で挨拶を交わしている。
俺も、優衣花に「優衣花ちゃんだ」って話しかけてみた。そしたら彼女は無言になって、こっちをただじっと見ているだけだった。
俺と母さんは滑り台付近にいた彼女たちから離れて砂場のところへ行った。
「あの女の子、保育園でひとことも話さないんだよ。変だよね?」
俺は優衣花を指さしながらそう言った。
母さんはじっと、優衣花を見る。
「きっと保育園ではお話するのが苦手なのかな? 桃李にも得意なことと苦手なことがあるでしょ? 別に変じゃないとお母さんは思うな。もしもあの子が困ってたりしたら桃李、助けてあげればいんじゃない?」
言葉が心の中に、すとんと入ってきた。
母さんのその言葉をずっと覚えていて、高校生になった今ではその言葉の意味がよく分かる。
ちなみに俺の得意なことは、細かい作業を黙々とやるのが好き。
苦手なことは……何でも出来ると思うから、特に思いつかないかも。
母さんが公園でそう言った日から、優衣花のことが、前よりも気になってきた。意識して近くにいることも多くなった。
当時の自分は幼いながらも、彼女に何かしたいって考えていたんだと思う。
友達が積み木をしたり、おままごとをしていても彼女はじっとその風景を眺めているから「一緒に遊ぼ?」って誘って、手を繋いで一緒に遊んでいる友達のところへ行ったりした。
声は出さないけど、うなずいたり、首を振ったりして、返事はしてくれる。
だんだん沢山話しかけていると、俺に慣れてくれたのか、微笑んでくれるようにもなった。ふわっとした笑顔が、すごく可愛かった。
小学生になった。
優衣花と同じクラスになった。
優衣花は口数はすごく少ないけれど、高学年になると、学校で話をするようになっていた。
俺はそんな優衣花を見て、まるで自分のことのように嬉しくて、心が弾んだ。
相変わらず彼女が困ったりしたら助けたくて、さりげなく近くにいるのが当たり前になっていった。
中学も一緒だったけれど、高校は別になった。
優衣花は自分の気持ちをあまり言わないから心配だった。彼女と遊んだ時は毎回「学校で嫌なことない? 大丈夫?」って、おせっかいかなと思ったけれど、質問していた。嫌がらせ受けてたりしたらすぐ学校に乗り込む覚悟もしていた。
ちなみに喧嘩は勝つ自信がある。
小学生の時、よく喧嘩して先生に怒られたな。今もたまにするけれど。
でも彼女は、友達も出来たらしく。
にこにこして「大丈夫」だよって言いながら、スマホの写真も見せてくれた。
教室で5人で写っている写真。
その中に男の子もふたりいて、なんだか心がモヤモヤしていた。その男の子たちが優衣花に笑いかけてる姿を想像するだけで、胸が締め付けられて、頭の中がぐちゃぐちゃになった
もしかして、どっちかと付き合っていたりしないだろうかって。想像しただけでちょっとムッとした気持ちになる。でも、聞けない。
俺はだれよりも優衣花の一番近くにいたい。
だけどそれはワガママで。
だって、優衣花には優衣花の生活があるから。
彼女がどう思っているのか、俺には分からないし……。
そんな時、彼女は漫画を読みながら呟いた。
「ウエディングドレス、可愛い。着てみたいな」って。



