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人は誰もが、何かを隠している。
その人が隠してると思ってなくても、無意識のうちに会話に出してなくて、誰も知らないことってある。
私も、やっぱりあると思う。
例えば、親が離婚してるとか。
例えば、新しい母親が私に気を使いすぎていて鬱陶しいとか。
例えば、なるべく家に帰らないようにしてるとか。
例えば、夜に外を出歩いてるとか。
別に隠してるわけじゃないけど。話すようなことでもないので。
話すような相柄の人もいないし。
悩みってほどでもないし。
バレたらちょっとめんどくさいし。
夜出歩いてるとか不良っぽいし。
変な噂広まってもやだし。
誰にというでもなく私は言い訳じみた言葉を浮かべては消す。
家に、つく。
スマホで時間を確認する。
多分まだ、いないはず。
今日は珍しくグレーゾーン。
担任に雑用押し付けられたせいだ。
そうっとドアをこじ開ける。
靴が、ある。
せめてバレないようにとなるべく音を立てずに部屋に入る。
分かってる。あの人は絶対に気づくんだ。
いつも私の気配に耳をすませて、とにかく気を使ってるんだ。
「あ、澪ちゃん、おかえり。おやつあるよ?」
ほら来た。
精一杯私の神経を逆撫でしないように優しく優しく話しかけてるのが感じ取れて余計に鬱陶しい。
「ううん。大丈夫。」
私も特に興味ない人に向かって噛みついて無駄に陰で泣かせるとかそんなめんどくさいことしない。そしたらもっと気を遣ってくるから。
だから私も普通の声を装ってにっこりして、でもいらないとキッパリとした圧をかけて言葉を言う。そのくらいはしないと遠慮しないでいいのよ、とかなるから。
「あ…、そっか。じゃあまた食べたくなったら言ってね?」
「うん。ありがとう。」
よそ行きの声を使う。母親に向かって。それってなんだか滑稽だ。
サッとリビングから離れて部屋に入る。
着替えてそれから小さなリックサックに荷物を詰めて、家を出る。
「あれ、澪ちゃんもう行くの?」
「うん。バイトがあるから。」
「いってらっしゃい。」
「うん。行ってきます。」
いちいち見送りとか来なくていいから。
もう行くの?だって。いつも家から帰ったらすぐに家を出てるのに今更。
すぐにまた毒が出てくる。
心が黒くくすんでいく。