雨の夜は君に会いに行く

サーーーーーー。
ポタ。
パタパタパタパタ。
ピチョッ。
パシャ。パシャ。

静かな街は騒がしい。

雨の街は昼よりも夜の方がずっと綺麗だ。
濡れた道路に眩しい街が反射して、もっと明るく、きらきらとする。

雨の音。そうひとつに言っても、雨はたくさんの音を持っている。雨は至る所にたくさんいる。
その一音一音に耳を澄ませて、私は街を歩く。

昼間の肌にまとわりつくような湿気はどこへやら。
ひんやりとした涼しい風がビニール傘の間を通り抜ける。

手のひらを傘の内側に当てる。
雨つぶの落ちてくる感覚。
冷たい傘に落ちてくる雨を手のひらが受け止めて、ああ、水だ。と思う。

私はよく、雨をさわる。
雨が水なんだなと、思うのだ。
何だかどうしても雨として降ってくる水は、コップの水とは違うように人は感じていると思う。
水だと知識として知っている人はいても、水として感じている人は少ないんじゃないかなと思うのだ。

傘をくるくるとまわす。水が放射状に飛び散る。
街の光が反射する。
キラキラしていて、メリーゴーランドみたいだ。

ハッとして周りを見る。人は、いない。よかった。
小さな子どもじゃあるまいし、こんなとこ見られたら恥ずかしい。

再び傘を見上げる。
ビニールの上にはたくさん水の粒がのっかっていて、周りの光を、その一つ一つが閉じ込めている。


雨の夜はどことなく夢見がちな気分になる。
雨の夜だけは、世界が美しいと感じる。
ふわふわとした気分のまま道を歩く。


少し歩くと目の前に赤い屋根が見えてくる。
もう家の前に着いてしまった。

名残惜しさを込めて傘を丁寧にたたみ、傘を振って雫を落とす。
最後、一瞬の美しさを残して、雫は宙を飛び散っていく。

雨の落ちる街を惚けるように見つめて。地面に吸い込まれる雨を羨んで。
ああ、この雨と共に夜に溶けてしまえたら。

すぐに首を緩く横に振る。
だめだ。夢を見るのはやめよう。
私はため息をひとつついて、私は綺麗な夜に別れを告げた。