芳賀瀬まりかは成績優秀で、スポーツ万能な女子高校生。さらにピアノが上手で趣味で習っているにもかかわらず入賞歴もある。友達も多く、いじめられたこともない。不幸とは無縁の幸運な人生を歩んできた。現在高校3年だが、成績はとてもいいので、推薦で有名大学に行くことも可能だし、実力で難関大学に行くことも可能だ。彼女は人生の選択の幅が非常に大きかった。全てをそつなくこなせる人間だ。だから、悩むことなく何事にも真摯に行動してきたのだと思う。まりかの清らかな艶のある髪の毛は長めで、黒髪ストレートヘアの正統派の美人だ。お世辞にもメガネの奥の細い瞳を持つ兄の芳賀瀬志郎とは全く似ていない。まりかの瞳は黒目が大きくくっきりとした二重でまつげが長い。大きな瞳で先を見据えた精神的に独立した女性だった。
そんな彼女の人生が急に暗転したのは呪いのアプリだった。突如送られてきたアプリはとても不気味なアイコンで、気づいた時にはアプリにスマホを支配されていた。それでも、まりかは前向きな精神と洗練された頭脳で立ち向かう。おそらく、無視しても自分自身が破滅するということは気づいていた。第六感も優れている彼女は、時に霊感や怨念を察知する力を持っていた。幼少のころから、オカルト好きな兄がよくテレビや本で不思議な現象を見ていたので、その手の話には詳しい方だった。だからこそ、本物の呪いだということに気づいた。
まず、相談したのは兄である芳賀瀬志郎だった。彼女はカルトの友人である芳賀瀬の実の妹だ。芳賀瀬はカルトにも相談されたのと同時に、実の妹にも謎めいた呪いがかけられたことにひどく心を痛めた。そこで、カルトに報告する。そして、もう一人、高校と大学が一緒だった真崎壮人に相談した。真崎壮人とは高校からの友人だ。岡野カルトと芳賀瀬志郎は小学校から大学まで一緒だった。3人は高校時代にオカルト研究会に所属していたという接点があり、友情が成立していた。
とはいっても、芳賀瀬はとても堅物と言われる研究者タイプだし、岡野カルトは一般的な常識人で正義感が強く一途な男。三者三様の性格だが、なぜかうまく調和していたように思う。それは立花結という中和剤となりうる女子がいたからかもしれない。
真崎壮人は勉強は一番できるが、大学に入ってからは優等生という感じではなくなっていた。いわゆるゆるく楽に生きていきたいという脱力系なタイプで、面倒なことには関わらないタイプになっていた。三人の中では、見た目は一番派手で大学生になってからは、ずっとメッシュの入った金髪だったし、未だに留年のため大学生だ。卒業する気がないのではないだろうかと勘繰ってしまうが、本人曰く今年こそ卒業するらしい。大学に入ってからは学部が違うこともあり、芳賀瀬やカルトとは、自然と距離ができていた。
高校時代から、三人共仲が良く、一見別なタイプの三人の共通の話題は、都市伝説や怖い話だった。だからこそ、壮人ならば絶対に話に乗ってくると思った。そして、何か有力なアドバイスがもらえるかもしれないと芳賀瀬は密かに期待していた。彼の人脈と頭脳は三人の中で一番有力だ。広く浅く友達がいる壮人はある意味心強い味方になるのではないだろうかと思っていたのだ。
『呪いのアプリについて協力してほしい』
芳賀瀬はメッセージを送る。
『呪いのアプリ? 最近そういう話に疎いんだよな』
出鼻を挫かれる。
『昔からある呪いの子どもを使ったアプリが最近出回っているらしい。身内が巻き込まれてしまってな』
『誰が巻き込まれた?』
『妹だ』
『マジか。でも、俺はこれ以上やばい案件に足をつっこみたくないって思ってる。今年こそは卒業して真っ当に就職したいしさ』
『霊感があるんだろ。協力してほしい』
少し時間が経ってからの返事の内容はあまり期待できるものではなかった。
『できる範囲でなら、協力するよ』
体感温度差を感じる。かつての真崎壮人ならば、そういった話題に首を突っ込んでくる人間だった。意外にも彼は冷めた対応をした。もちろん、協力はすると言ったのだが、距離感が否めない。かつてのオカルト好きなお人好しな彼の面影を知っていたからこそ、余計にそう感じてしまったのかもしれない。
高校時代から歳月が経ち、環境も考えも変化して当然だ。でも、霊感があるからこそその手の話に対して、冷めるということはないような気がしていた。興味本位ではなく、本質的に彼は体感している。
前のめりに食いつくのが以前の壮人だ。もちろん歳を重ねた彼はちゃんと卒業して落ち着きたいと考えていてもおかしくない。もしかしたら、首を突っ込んだら、やばいと感じているのだろうか。最悪の事態に巻き込まれないように避けているのではないだろうか。色々と疑念が沸き上がる。何かを知っている――?
でも、今はとりあえず警察に所属しており、婚約者である彼女が呪われている岡野カルトを頼るほかない。同じ目的と同じ恐怖に立ち向かう同士だ。見えない呪いの子ども。正体もわからない巨大な闇に取り込まれるかのような気持ちになる。
怖い世界に足を踏み入れてしまうのかもしれない。でも、それ以上に身内を失うことは恐怖だ。どちらの道もいばらの道。ならば、立ち向かうしかない。幸せな未来のために。
連絡を受けたカルトが芳賀瀬の自宅にやってくる。芳賀瀬は研究していた資料をもう一度読み直す。どこか抜け道があるのではないかと思っていたからだ。
14日ルールというのはあるけれど、何かを条件にそれを引き延ばす手段があるかもしれない。または、呪われた人を変える手段があるのではないだろうか。古い文献も調べる。昔、アプリがない頃には、手紙で送られてきたという話があった。当時は郵送に時間がかかるので、14日ではなかったのかもしれない。14日というのは多分だが、アプリになってからだ。
そして、誰かが呪いをアプリという形でリメイクして開発した。誰かが何かのためにアプリを開発している。その人物にたどり着けばきっと――。
スマートフォンが普及する前、公衆電話電話で呪いの子どもと連絡するという手段があったという記事を見つける。手紙が届いたら、公衆電話で4を押し、呪い主を言う。手法は変わったが、本質は変わらない。3人までというルールも変わらない。都市伝説のひとつなので、その根拠が本当かどうかなんてわからない。まして、古い話だと信憑性は薄い。たいてい、その手の話は匿名や偽名なので、その人物を探すことは難しい。ブームの火付けとして雑誌編集者のヤラセの可能性もあり、古い雑誌だと出版社自体が倒産している場合が多かった。
カルトは芳賀瀬志郎に秋沢葉次について話す。芳賀瀬は存在こそ認知している程度だったが、彼も呪いの子どもと実際につながっていた人間だ。そして、同時に呪いの子どもとつながっているのが、芳賀瀬まりかだ。呪いの子どもは多分一人なのだろうが、同時に呪いを拡散する力がある。それを開発した本物の呪い主がいるのならば――それはきっと――相当な怨念を抱いたものなのかもしれない。
芳賀瀬まりかを呼び、スマホを持参してもらう。実際に呪いの子どもと会話をする。
「呪いの子ども、君は14日以上同じ人を呪うことはできるのかい?」
カルトが質問する。
「つまり、14日以上生きる術があるということを聞きたいんだね。手段は絶対にないわけじゃない」
一抹の光を見つける。呪いの子どもが14日以上生きられる抜け道があることを認める発言をしたのだ。長い長いトンネルの先が見えたような気がする。
「14日を引き延ばすやり方を教えてくれないか」
「僕は教えるためにいるわけじゃない。君たちと取り引きを楽しむために存在しているんだよ」
この発想。いかにもアプリの開発者の脳内を表したかのような発言だ。呪いのアプリを開発した人は、多分、昔からの都市伝説をアプリに閉じ込めて呪いを発生させるように作ったのだろう。相当頭のキレるアプリの創造主は、恐怖に怯える姿を見たいのか。それとも、この世界の誰かを懲らしめたいがために創造したのだろうか。
「もし、スマホの所有権を譲渡したら?」
呪いの子は珍しく黙る。
「……」
「不可能じゃないってことよね?」
まりかも真剣に質問する。
「譲渡するにはあるルールがあるんだ」
呪いの子どもが答える。
「どんなルールなの?」
「それは、自分で考えて」
「携帯電話会社で譲渡するってこと?」
「違うよ。そういった形式上のことじゃないんだ」
「ただ、誰かに送りつけるとか、あげればいいんじゃないか?」
「それも違う」
呪いの子どもはひたすら否定し続ける。
譲渡する――これは、今までなかった発想だ。3人とも大きな収穫を得たが、実際にどうすればいいのかは手掛かりがない。一応、カルトはスマホの譲渡についてヨージに調べてほしいとメッセージを送る。
「今日は、もう遅い。一度カルトも帰宅したほうがいいんじゃないか」
芳賀瀬はカルトの体調をねぎらう。
「結さんは大丈夫か? こんな時こそ、君が傍にいてあげるべきだ」
無愛想だが心根が優しいのが芳賀瀬志郎という男だった。
「ありがとう。結はすっかり気落ちしてしまってな。俺は捜査で忙しいし、かまってあげられない。ほとんど彼女の家に行く時間がなくなってしまったよ。彼女の残りは11日だ。長い目で見たら今、傍にいるよりも結を助けてあげることが俺の使命だ」
カルトの真っ直ぐな目は輝いている。髪はぼさぼさで寝不足でクマはあるが、なんとしてでも呪いから結を救うことを考えていた。だから、一時の傍にいる優しさよりも、長い目で見た結が生きられるという方法を選んだ。今は一刻を争う。
「さすがは刑事さんね。素晴らしい正義感と使命感を感じるわ。でも、きっとこういったときは心にスキマができてしまうの。人間は弱いもの」
女子高生ながらとてもしっかりしているまりか。呪われた当事者とは思えない。異常に肝が据わっている。
「まりかさん、アプリの捜査に協力してほしい。もう一人の呪いのアプリを持つ秋沢葉次にも近々会わせるよ。明日、捜査本部で話そう。スマホの解析をしたいので、スマホを捜査本部に貸してほしい」
「面白そうね。私、そういうの大好き。少し私にも協力させてよ。捜査の力になりたいと思ってる」
意外にもまりかは恐怖を感じていないようだった。それよりも呪いのアプリのからくりについて調べたいという好奇心に満ち溢れた人間だった。結とはタイプが違う。依存という言葉とは無縁の精神的に自立した女性だった。
「君たち、アプリの創造主を逮捕したいと思ってる?」
突然呪いの子どもが覚醒する。もしかして、今、創造主につながっているのだろうか?
「逮捕できるように頭脳を駆使してかならず突き止めてやるよ」
カルトの瞳はまっすぐだった。
そんな彼女の人生が急に暗転したのは呪いのアプリだった。突如送られてきたアプリはとても不気味なアイコンで、気づいた時にはアプリにスマホを支配されていた。それでも、まりかは前向きな精神と洗練された頭脳で立ち向かう。おそらく、無視しても自分自身が破滅するということは気づいていた。第六感も優れている彼女は、時に霊感や怨念を察知する力を持っていた。幼少のころから、オカルト好きな兄がよくテレビや本で不思議な現象を見ていたので、その手の話には詳しい方だった。だからこそ、本物の呪いだということに気づいた。
まず、相談したのは兄である芳賀瀬志郎だった。彼女はカルトの友人である芳賀瀬の実の妹だ。芳賀瀬はカルトにも相談されたのと同時に、実の妹にも謎めいた呪いがかけられたことにひどく心を痛めた。そこで、カルトに報告する。そして、もう一人、高校と大学が一緒だった真崎壮人に相談した。真崎壮人とは高校からの友人だ。岡野カルトと芳賀瀬志郎は小学校から大学まで一緒だった。3人は高校時代にオカルト研究会に所属していたという接点があり、友情が成立していた。
とはいっても、芳賀瀬はとても堅物と言われる研究者タイプだし、岡野カルトは一般的な常識人で正義感が強く一途な男。三者三様の性格だが、なぜかうまく調和していたように思う。それは立花結という中和剤となりうる女子がいたからかもしれない。
真崎壮人は勉強は一番できるが、大学に入ってからは優等生という感じではなくなっていた。いわゆるゆるく楽に生きていきたいという脱力系なタイプで、面倒なことには関わらないタイプになっていた。三人の中では、見た目は一番派手で大学生になってからは、ずっとメッシュの入った金髪だったし、未だに留年のため大学生だ。卒業する気がないのではないだろうかと勘繰ってしまうが、本人曰く今年こそ卒業するらしい。大学に入ってからは学部が違うこともあり、芳賀瀬やカルトとは、自然と距離ができていた。
高校時代から、三人共仲が良く、一見別なタイプの三人の共通の話題は、都市伝説や怖い話だった。だからこそ、壮人ならば絶対に話に乗ってくると思った。そして、何か有力なアドバイスがもらえるかもしれないと芳賀瀬は密かに期待していた。彼の人脈と頭脳は三人の中で一番有力だ。広く浅く友達がいる壮人はある意味心強い味方になるのではないだろうかと思っていたのだ。
『呪いのアプリについて協力してほしい』
芳賀瀬はメッセージを送る。
『呪いのアプリ? 最近そういう話に疎いんだよな』
出鼻を挫かれる。
『昔からある呪いの子どもを使ったアプリが最近出回っているらしい。身内が巻き込まれてしまってな』
『誰が巻き込まれた?』
『妹だ』
『マジか。でも、俺はこれ以上やばい案件に足をつっこみたくないって思ってる。今年こそは卒業して真っ当に就職したいしさ』
『霊感があるんだろ。協力してほしい』
少し時間が経ってからの返事の内容はあまり期待できるものではなかった。
『できる範囲でなら、協力するよ』
体感温度差を感じる。かつての真崎壮人ならば、そういった話題に首を突っ込んでくる人間だった。意外にも彼は冷めた対応をした。もちろん、協力はすると言ったのだが、距離感が否めない。かつてのオカルト好きなお人好しな彼の面影を知っていたからこそ、余計にそう感じてしまったのかもしれない。
高校時代から歳月が経ち、環境も考えも変化して当然だ。でも、霊感があるからこそその手の話に対して、冷めるということはないような気がしていた。興味本位ではなく、本質的に彼は体感している。
前のめりに食いつくのが以前の壮人だ。もちろん歳を重ねた彼はちゃんと卒業して落ち着きたいと考えていてもおかしくない。もしかしたら、首を突っ込んだら、やばいと感じているのだろうか。最悪の事態に巻き込まれないように避けているのではないだろうか。色々と疑念が沸き上がる。何かを知っている――?
でも、今はとりあえず警察に所属しており、婚約者である彼女が呪われている岡野カルトを頼るほかない。同じ目的と同じ恐怖に立ち向かう同士だ。見えない呪いの子ども。正体もわからない巨大な闇に取り込まれるかのような気持ちになる。
怖い世界に足を踏み入れてしまうのかもしれない。でも、それ以上に身内を失うことは恐怖だ。どちらの道もいばらの道。ならば、立ち向かうしかない。幸せな未来のために。
連絡を受けたカルトが芳賀瀬の自宅にやってくる。芳賀瀬は研究していた資料をもう一度読み直す。どこか抜け道があるのではないかと思っていたからだ。
14日ルールというのはあるけれど、何かを条件にそれを引き延ばす手段があるかもしれない。または、呪われた人を変える手段があるのではないだろうか。古い文献も調べる。昔、アプリがない頃には、手紙で送られてきたという話があった。当時は郵送に時間がかかるので、14日ではなかったのかもしれない。14日というのは多分だが、アプリになってからだ。
そして、誰かが呪いをアプリという形でリメイクして開発した。誰かが何かのためにアプリを開発している。その人物にたどり着けばきっと――。
スマートフォンが普及する前、公衆電話電話で呪いの子どもと連絡するという手段があったという記事を見つける。手紙が届いたら、公衆電話で4を押し、呪い主を言う。手法は変わったが、本質は変わらない。3人までというルールも変わらない。都市伝説のひとつなので、その根拠が本当かどうかなんてわからない。まして、古い話だと信憑性は薄い。たいてい、その手の話は匿名や偽名なので、その人物を探すことは難しい。ブームの火付けとして雑誌編集者のヤラセの可能性もあり、古い雑誌だと出版社自体が倒産している場合が多かった。
カルトは芳賀瀬志郎に秋沢葉次について話す。芳賀瀬は存在こそ認知している程度だったが、彼も呪いの子どもと実際につながっていた人間だ。そして、同時に呪いの子どもとつながっているのが、芳賀瀬まりかだ。呪いの子どもは多分一人なのだろうが、同時に呪いを拡散する力がある。それを開発した本物の呪い主がいるのならば――それはきっと――相当な怨念を抱いたものなのかもしれない。
芳賀瀬まりかを呼び、スマホを持参してもらう。実際に呪いの子どもと会話をする。
「呪いの子ども、君は14日以上同じ人を呪うことはできるのかい?」
カルトが質問する。
「つまり、14日以上生きる術があるということを聞きたいんだね。手段は絶対にないわけじゃない」
一抹の光を見つける。呪いの子どもが14日以上生きられる抜け道があることを認める発言をしたのだ。長い長いトンネルの先が見えたような気がする。
「14日を引き延ばすやり方を教えてくれないか」
「僕は教えるためにいるわけじゃない。君たちと取り引きを楽しむために存在しているんだよ」
この発想。いかにもアプリの開発者の脳内を表したかのような発言だ。呪いのアプリを開発した人は、多分、昔からの都市伝説をアプリに閉じ込めて呪いを発生させるように作ったのだろう。相当頭のキレるアプリの創造主は、恐怖に怯える姿を見たいのか。それとも、この世界の誰かを懲らしめたいがために創造したのだろうか。
「もし、スマホの所有権を譲渡したら?」
呪いの子は珍しく黙る。
「……」
「不可能じゃないってことよね?」
まりかも真剣に質問する。
「譲渡するにはあるルールがあるんだ」
呪いの子どもが答える。
「どんなルールなの?」
「それは、自分で考えて」
「携帯電話会社で譲渡するってこと?」
「違うよ。そういった形式上のことじゃないんだ」
「ただ、誰かに送りつけるとか、あげればいいんじゃないか?」
「それも違う」
呪いの子どもはひたすら否定し続ける。
譲渡する――これは、今までなかった発想だ。3人とも大きな収穫を得たが、実際にどうすればいいのかは手掛かりがない。一応、カルトはスマホの譲渡についてヨージに調べてほしいとメッセージを送る。
「今日は、もう遅い。一度カルトも帰宅したほうがいいんじゃないか」
芳賀瀬はカルトの体調をねぎらう。
「結さんは大丈夫か? こんな時こそ、君が傍にいてあげるべきだ」
無愛想だが心根が優しいのが芳賀瀬志郎という男だった。
「ありがとう。結はすっかり気落ちしてしまってな。俺は捜査で忙しいし、かまってあげられない。ほとんど彼女の家に行く時間がなくなってしまったよ。彼女の残りは11日だ。長い目で見たら今、傍にいるよりも結を助けてあげることが俺の使命だ」
カルトの真っ直ぐな目は輝いている。髪はぼさぼさで寝不足でクマはあるが、なんとしてでも呪いから結を救うことを考えていた。だから、一時の傍にいる優しさよりも、長い目で見た結が生きられるという方法を選んだ。今は一刻を争う。
「さすがは刑事さんね。素晴らしい正義感と使命感を感じるわ。でも、きっとこういったときは心にスキマができてしまうの。人間は弱いもの」
女子高生ながらとてもしっかりしているまりか。呪われた当事者とは思えない。異常に肝が据わっている。
「まりかさん、アプリの捜査に協力してほしい。もう一人の呪いのアプリを持つ秋沢葉次にも近々会わせるよ。明日、捜査本部で話そう。スマホの解析をしたいので、スマホを捜査本部に貸してほしい」
「面白そうね。私、そういうの大好き。少し私にも協力させてよ。捜査の力になりたいと思ってる」
意外にもまりかは恐怖を感じていないようだった。それよりも呪いのアプリのからくりについて調べたいという好奇心に満ち溢れた人間だった。結とはタイプが違う。依存という言葉とは無縁の精神的に自立した女性だった。
「君たち、アプリの創造主を逮捕したいと思ってる?」
突然呪いの子どもが覚醒する。もしかして、今、創造主につながっているのだろうか?
「逮捕できるように頭脳を駆使してかならず突き止めてやるよ」
カルトの瞳はまっすぐだった。