私は毎年、冬休みにおばあちゃんの家に行く。
いつも楽しみにしている帰省だけど、実は本命はおばあちゃんじゃない。
近所に住んでる、半幼なじみの蒼空くんに会えるのが楽しみなのだ。
でも今年はいつもとは意気込みが違う。
そう、何を隠そう、蒼空くんに、こ、告白します!
12月30日という微妙に大晦日でもないけどギリギリな感じの誕生日の蒼空くんに、手作りのお菓子を渡します…!
ほ、ほら、ちょっと早めのバレンタイン的な、ね?
蒼空くん甘いもの好きだし?
まあ、何あげたらいいか分かんなくて親友の朱莉に相談したら「手作りならキュンとするはず!」って言われたからって言うね…。
まあとにかく…!
蒼空くんをびっくりさせてやる!
……とはいってもですね。私、壊滅的に、料理が出来ないんですね?
卵かけご飯は卵を割ろうとして殻が入った挙句醤油の瓶をうまく傾けられなくて入れすぎる。
(お母さんに「もはや料理でもないよね」と言われた。)
野菜を切ろうとするとめっちゃ分厚くなるし薄切りしようとすると紙みたいになる。しかも超スローペース。
こんな私がお菓子なんて作れない…。
はぁー、どうしよう…。
****************
「ねえねえ、結局彼には何をあげるの?」
「いやそれがさ〜。聞いてよ朱莉〜!」
とある昼休み。私は朱莉に泣きついた。
「あーーーー…ね。」
「いやねえ引かないで!?」
「う、うん。引いては、ないよ?でもねぇ…卵かけご飯作れないは大事件だなぁ〜…。」
「ねぇ、朱莉ぃ〜助けてー!」
「もはや救い用がないよねぇ。」
「そんなこと言わないで!見捨てないで!神様仏様朱莉様〜!」
「最近それそんな聞かないけどね。」
「え?マジ?」
どうやら時代遅れらしい。私は。
「で?助けてって言うけど、何を作りたいの?」
「スノーボールクッキー!!」
「えーーー。マジ?」
「え?なんかヤバかった?」
「バレンタイン代わりなんでしょ?ほらよく言うじゃない。チョコは本命、クッキーは友達、マシュマロは嫌いって。」
「え!!!うっそだぁ〜!」
「いや結構有名だよ?」
「う〜ん…。でもなぁ。スノーボールがいいんだよね〜。」
「なんで?」
「んー。思い出の品だから?」
キラッ。朱莉の目が光った。ヤバいぞこれは。
「へぇ〜?ちなみにどんな感じで?」
恋愛大好物の朱莉はちょっとでもにおいがすると凄い勢いで迫ってくる。こわい。こわいよ。
「そんな大したことじゃないんだけどねー。
ただ、初めて会った時に蒼空くんが持ってて、分けてくれたってだけだよ?それで仲良くなったから…。」
「ふ〜ん?」
「やめてよ。ニヤニヤしないで。」
「別にー?してないよ〜?」
****************
日曜日、私は朱莉の家に来た。
一応一回家で作ってみたんだけど、オーブン爆発して。いやマジで。漫画みたいなバーンじゃないけど、とりあえずオーブン壊れた。お母さんにめちゃくちゃ怒られたけど口調には呆れと哀れみも入っていた…。
ということで朱莉がおしえてくれることになったんですが…。
「ちゃんと分量は計りなさい!」
「え。目測で何となくこんくらいじゃない?」
「そんなんだから失敗するの!お菓子って分量違うだけで材料なんてほぼ同じなの!ちょっと違うと違うものになっちゃうんだからね!?!?」
「そうなの…!?」
「『切るように混ぜる』って書いてあるでしょ?そんなべちょべちょ混ぜないの!!」
「え。だってこの生地がべちょべちょじゃん。」
「そういうことじゃない!!」
と、スパルタ。
朱莉に言わせれば『綾が下手すぎる』とのこと。
丸めようとしたらデカすぎると怒られ、小さくしたらちっちゃすぎと怒られた。
「0か100かだよね。綾。」
すっごい呆れてる。ヤバい。見捨てられそう。
「ごめんなさい…。」
「ん〜。とにかく、易しいレシピ探して、とにかく忠実にやることだよね。」
「はい…。」
「そんな落ち込まないで。大丈夫だよ。」
そのあと3回くらい作り直して大量のスノーボールクッキーが出来た。
結構形になったし、普通の白いのもココア味や抹茶味なんかも作れた。でもそれはちょっと微妙な味なのを誤魔化すためなので蒼空くんには白いのを渡すつもり。やっぱスノーボールクッキーは白くなくちゃ。ゆきだまだもの。
とりあえず朱莉から合格をもらったので家に帰った。朱莉の家にスノーボールクッキーを全部置いていくわけにもいかないので三分の二は持って帰った。そして隣の家に住んでる幼馴染、圭太にまたその半分を押し付ける。
「けーたー。」
「何だよ綾。」
「クッキーあげる。」
「え?どうした?」
「作った。」
「あ、いらないわ。腹壊したくない。」
「ひどいっ!でもね。今回は大丈夫!朱莉が手伝ってくれた!」
「あ、じゃあ大丈夫だな。」
「何それー。ひどー。」
ぶつぶつ言いながら渡すものの、内心ニヤニヤしていた。
ふふふ。私知ってるんだー。圭太、朱莉のこと好きなんだー。
「うまっ。9割朱莉が作っただろ。」
「いーえ。残念ながら朱莉は口出しだけですー。私が作りましたー。」
「ふーん。ほんとに綾が作ったのか。」
「うん!」
「じゃ、ありがと。」
「はいはーい。」
在庫処分だけど…。
ってか圭太食べるの遅かった。
やっぱほんとはまずかったのかなー…。
だって話してる間に食べ終わってなかったよ?持って帰ってたもん。
それか食欲ないとか?いや圭太に限ってそれは無いよな…。
ま、いっか。
****************
《side圭太》
綾の手作りクッキーだってよ。
食べれないなー。
でも腐っちゃうよなー。
食べるか…。
サクッ。
ほろほろ崩れていくスノーボールクッキーはフツーに美味しい。
でもなんで急にこんなお菓子作りなんて練習し始めたんだ?
作ってやりたい相手でもできた…?
ん?それならくれたってことはそれ俺くない!?
って考えると都合いいけど。そんなわけないんだよなぁ〜。
だって朱莉から聞いたけど、あいつ、俺が朱莉のこと好きだと思ってるんだろー?
はぁー。俺が好きなのは綾なのに…。
だれか、好きな奴がいるのか…。
そう思うと、口に入れた抹茶クッキーが酷く苦く感じた。
************************
《side綾》
「綾、ちょっといい?」
「何?」
「いいから来て。」
急に圭太に呼び出された。
こわいこわい。なんかしたか?
カオが怖いよー?
茶化そうにも顔が真剣すぎて何も言えない。
「綾、俺、綾のこと、好きです。」
一瞬、何で言ってるのか分からなかった。
うん。脳停止した。
「はぁー?」
「はぁってなんだはぁって?」
「何の冗談?!」
「いや本気なんだけど」
「え。だって朱莉でしょ?」
「だーかーらー、それがそもそも違うの。」
「本気?私のこと好きなの?」
「わざわざ言うな。」
変な間が空いた。
気まず、い、けど。
返事はしなきゃ。
「え。…。ごめん。ちょっと、あの。」
「うん。知ってる。ごめん。焦ってた。」
「焦ってた?」
「あいつに告るって朱莉に聞いた。」
「あー。うん。そう。だから…ごめん。」
「友達でいろよ?」
「うん。クッキーもあげる。」
「やったね。」
「じゃ、帰ろうか。」
「うん。帰ろ。」
二人で家に帰った。途中で急に圭太が立ち止まった。
「どうしたの?」
すると、私の質問には答えず、息を吸った。
あ、やばい。叫ぶ。
圭太声でかいから、近くにいると耳壊れる。
「うわぁーーーーー!!!!しーつーれーんーしーたー!!!」
「なになになになになに。気まずいからやめて!うるさいからやめて!私が恥ずかしいからやめて!」
商店街のお店からおばちゃんたちが出てきて、
「なにけいちゃん失恋したの〜?やーね〜。青春ねぇ〜。綾ちゃん、おばあちゃんのとこの男の子が好きなんでしょ〜?三角関係じゃなーい!アツいわぁ〜!」
「いやアツイも何ももう終わったんで。」
「あーらー。残念!けいちゃん、そう落ち込まないでね。はい。持ってって。」
「失恋してもいいことはありますねぇ。」
どっさりお菓子やら何やらをもらった圭太はそんなに落ち込んでるように見えなかった。
「ねえ何でそんなサッパリしてんの?」
「振ったお前が言うか?」
「あー。ごめん。」
「いや。振られるのわかってたし。好きって言えただけよかった。本当に。」
「ありがとう。」
「こちらこそ。だから綾も、告るって決めたら告りな。やらない後悔よりやる後悔だよ。」
「…うん!ありがとう!」
************************
なんか色々あったけど…。
冬休み!来たる12月30日!
朝早起きしてスノーボールを作り、ラッピングをして蒼空くんのいるであろう丘に行く。
見晴らしのいい丘は人があんまり来ないのもあって蒼空くんのお気に入り。
あ、やっぱりいた。
「蒼空くーん!」
「綾ちゃん。」
正直中学生にもなってちゃん付けは恥ずかしい。でも私もくん付けだからおあいこだ。
すぐに蒼空くんが振り返った顔を前に戻してしまってちょっと話を続けるタイミングを逃した。
ど、どうしよ。
棒立ちになっていると。突然顔に冷たいのがぶつかった。
「ひぇっ!?」
びっくりして前を見ると蒼空くんがニヤリ。
「わあ。すごい声。」
「この〜…!!」
私も負けじと雪玉を投げる、投げる。
蒼空くんも凄い勢いで投げてきて、私は疲れて途中で諦め、雪の上に倒れ込んだ。
「え!?綾ちゃん?大丈夫!?ごめん!え?」
どうやら私が蒼空くんの投げた雪玉のせいで倒れたと思ったらしい。
こっちに来ようとする蒼空くんを見て、私は何も言わずに倒れたフリをしたままラッピングしたスノーボールを投げた。
雪玉を投げようとする時よりずっと、ずっと慎重に、優しく、気持ちを込めて投げた。
「うわぁ!何?え?クッキー?」
私はむくりと起き上がって、蒼空くんを見据えた。
「誕生日おめでとう。蒼空くん。」
「あ、誕生日プレゼント?え、手作り?」
「うん。」
「ありがとう!でもちょっと味が心配だなー。」
「そ、それは…。」
否定できない。
私の料理下手はかなり有名な話らしい。
「嘘ウソ。」
ニコッと笑って袋を開け、一つ口に入れた。
もぐもぐもぐもぐ。
蒼空くんは険しい顔をしたまま…。
ん?そんなにまずい…?
圭太も微妙な反応っぽかったし。
だんだん不安になってきた頃、蒼空くんはパッと顔を輝かせた。
「え!?うまい!ホントに綾ちゃんが作った!?」
「え?反応遅くない?」
「いやなんか最初味しなくて…。」
「それ不味いってことだよね。」
「ん?美味しいよ?小麦粉感あって。」
それヤバいよね。粉っぽいってことだよね。小麦粉そのまま食べるのヤバいんじゃなかったっけ…??
「ごめん…。」
「え?なにが?美味しいよ?」
もぐもぐもぐもぐ。
無言で蒼空くんはクッキーを噛んだ。
いつまで経っても飲み込もうとしない。
「…クッキー、そんなに固かった…?」
「ん?ううん。なんか、飲み込むの勿体無いなーと。」
そう言うこと言わないでほしい。ちょっと期待しちゃうじゃん。
私は一息吐いて、思いっきり息を吸った。
「蒼空くん!!」
やば。思ったよりおっきい声が出た。
ん?と言う顔で私の目を見る蒼空くん。
「あ、あの!私蒼空くんのことが好きです!」
全部一息に、超早口になって言った。
思わず目をギュッとつぶって下を向いたものの、何も反応がないので恐る恐る蒼空くんの顔を伺う。
そこには口をぽかんと開けた蒼空くんがいた。
「…そ、蒼空、くん?」
思わず声をかけると解凍されたように蒼空くんは口を開いた。
「え?綾ちゃんが?俺のこと?好きなの?え?」
改めて聞かないでほしい。わざわざ繰り返さないでほしい。って、圭太も同じこと言ってたな。確かにやめてほしい。圭太の気持ちが分かった。
って言うかこれはダメなやつだ。ちっとも私のことなんて意識してなかったから「俺のこと好きだったの?マジ?」みたいな感じなのだ。あーあ。失恋決定。気まずいな。帰ろうかな。
「ごめん何でもない。」
私はくるっと踵を返して丘を降りようとした。
「待って、綾ちゃん。俺、綾ちゃんのこと好きなんだけど。」
「……え?」
「なんで行っちゃうの?俺、返事してないよ?付き合ってよ。ねえ。」
そうだ。この人は蒼空くんなんだ。一般常識の斜め上を来る人なんだ。
って言うか、そんな「ちょっとコンビニ行くから付き合ってよ」みたいなノリで言わないでよ。なんか軽いじゃん。
「うん。良いよ。付き合うよ。」
だから私も、同じノリで返す。
「何だ。綾ちゃんから告白してきたのに『いいよ』ってなんだよ。」
「私は好きですしか言ってないもん。付き合ってって言ったのは蒼空くんだもの。」
「確かに?」
「全然ロマンチックじゃないんだけど。初恋の告白なんてもっと甘酸っぱいんじゃないのよ。」
「んー、まあ俺だし。」
「自分で言うか。」
「まあまあ。じゃあ朝のお散歩デートでもしましょうか?彼女さん。」
彼女。言われてみると、ねえ。わぁっとなんか込み上げてくる感じ?
私は蒼空くんの彼女なんだ。
「行きましょうか、彼氏くん。」
手を繋いで、私たちは丘を降りた。
****************
家に帰ってくると、圭太がうちを訪ねてきた。
「で?告った?どうだった?」
「失恋したって言ったらどうすんの?」
「慰める。でもどうせうまくいったんだろ?」
「…うん。何でわかったの?」
「ニヤニヤしてるから。」
うそっ。慌てて顔に手を当てた。
「嘘だけど、嬉しそうだから。綾、失恋してたらこの世の終わりみたいな顔するだろ。」
「そう、だね。」
「よかったな。」
「圭太も、朱莉と頑張ってね!」
「だから違うって。」
ふふふ。違うんだ。私が圭太が朱莉が好きって言ってた理由はもう一個あるんだ。
朱莉が、圭太のこと、好きだから。
どうなるかな。
見上げた空は、きれいな茜色をしていた。
いつも楽しみにしている帰省だけど、実は本命はおばあちゃんじゃない。
近所に住んでる、半幼なじみの蒼空くんに会えるのが楽しみなのだ。
でも今年はいつもとは意気込みが違う。
そう、何を隠そう、蒼空くんに、こ、告白します!
12月30日という微妙に大晦日でもないけどギリギリな感じの誕生日の蒼空くんに、手作りのお菓子を渡します…!
ほ、ほら、ちょっと早めのバレンタイン的な、ね?
蒼空くん甘いもの好きだし?
まあ、何あげたらいいか分かんなくて親友の朱莉に相談したら「手作りならキュンとするはず!」って言われたからって言うね…。
まあとにかく…!
蒼空くんをびっくりさせてやる!
……とはいってもですね。私、壊滅的に、料理が出来ないんですね?
卵かけご飯は卵を割ろうとして殻が入った挙句醤油の瓶をうまく傾けられなくて入れすぎる。
(お母さんに「もはや料理でもないよね」と言われた。)
野菜を切ろうとするとめっちゃ分厚くなるし薄切りしようとすると紙みたいになる。しかも超スローペース。
こんな私がお菓子なんて作れない…。
はぁー、どうしよう…。
****************
「ねえねえ、結局彼には何をあげるの?」
「いやそれがさ〜。聞いてよ朱莉〜!」
とある昼休み。私は朱莉に泣きついた。
「あーーーー…ね。」
「いやねえ引かないで!?」
「う、うん。引いては、ないよ?でもねぇ…卵かけご飯作れないは大事件だなぁ〜…。」
「ねぇ、朱莉ぃ〜助けてー!」
「もはや救い用がないよねぇ。」
「そんなこと言わないで!見捨てないで!神様仏様朱莉様〜!」
「最近それそんな聞かないけどね。」
「え?マジ?」
どうやら時代遅れらしい。私は。
「で?助けてって言うけど、何を作りたいの?」
「スノーボールクッキー!!」
「えーーー。マジ?」
「え?なんかヤバかった?」
「バレンタイン代わりなんでしょ?ほらよく言うじゃない。チョコは本命、クッキーは友達、マシュマロは嫌いって。」
「え!!!うっそだぁ〜!」
「いや結構有名だよ?」
「う〜ん…。でもなぁ。スノーボールがいいんだよね〜。」
「なんで?」
「んー。思い出の品だから?」
キラッ。朱莉の目が光った。ヤバいぞこれは。
「へぇ〜?ちなみにどんな感じで?」
恋愛大好物の朱莉はちょっとでもにおいがすると凄い勢いで迫ってくる。こわい。こわいよ。
「そんな大したことじゃないんだけどねー。
ただ、初めて会った時に蒼空くんが持ってて、分けてくれたってだけだよ?それで仲良くなったから…。」
「ふ〜ん?」
「やめてよ。ニヤニヤしないで。」
「別にー?してないよ〜?」
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日曜日、私は朱莉の家に来た。
一応一回家で作ってみたんだけど、オーブン爆発して。いやマジで。漫画みたいなバーンじゃないけど、とりあえずオーブン壊れた。お母さんにめちゃくちゃ怒られたけど口調には呆れと哀れみも入っていた…。
ということで朱莉がおしえてくれることになったんですが…。
「ちゃんと分量は計りなさい!」
「え。目測で何となくこんくらいじゃない?」
「そんなんだから失敗するの!お菓子って分量違うだけで材料なんてほぼ同じなの!ちょっと違うと違うものになっちゃうんだからね!?!?」
「そうなの…!?」
「『切るように混ぜる』って書いてあるでしょ?そんなべちょべちょ混ぜないの!!」
「え。だってこの生地がべちょべちょじゃん。」
「そういうことじゃない!!」
と、スパルタ。
朱莉に言わせれば『綾が下手すぎる』とのこと。
丸めようとしたらデカすぎると怒られ、小さくしたらちっちゃすぎと怒られた。
「0か100かだよね。綾。」
すっごい呆れてる。ヤバい。見捨てられそう。
「ごめんなさい…。」
「ん〜。とにかく、易しいレシピ探して、とにかく忠実にやることだよね。」
「はい…。」
「そんな落ち込まないで。大丈夫だよ。」
そのあと3回くらい作り直して大量のスノーボールクッキーが出来た。
結構形になったし、普通の白いのもココア味や抹茶味なんかも作れた。でもそれはちょっと微妙な味なのを誤魔化すためなので蒼空くんには白いのを渡すつもり。やっぱスノーボールクッキーは白くなくちゃ。ゆきだまだもの。
とりあえず朱莉から合格をもらったので家に帰った。朱莉の家にスノーボールクッキーを全部置いていくわけにもいかないので三分の二は持って帰った。そして隣の家に住んでる幼馴染、圭太にまたその半分を押し付ける。
「けーたー。」
「何だよ綾。」
「クッキーあげる。」
「え?どうした?」
「作った。」
「あ、いらないわ。腹壊したくない。」
「ひどいっ!でもね。今回は大丈夫!朱莉が手伝ってくれた!」
「あ、じゃあ大丈夫だな。」
「何それー。ひどー。」
ぶつぶつ言いながら渡すものの、内心ニヤニヤしていた。
ふふふ。私知ってるんだー。圭太、朱莉のこと好きなんだー。
「うまっ。9割朱莉が作っただろ。」
「いーえ。残念ながら朱莉は口出しだけですー。私が作りましたー。」
「ふーん。ほんとに綾が作ったのか。」
「うん!」
「じゃ、ありがと。」
「はいはーい。」
在庫処分だけど…。
ってか圭太食べるの遅かった。
やっぱほんとはまずかったのかなー…。
だって話してる間に食べ終わってなかったよ?持って帰ってたもん。
それか食欲ないとか?いや圭太に限ってそれは無いよな…。
ま、いっか。
****************
《side圭太》
綾の手作りクッキーだってよ。
食べれないなー。
でも腐っちゃうよなー。
食べるか…。
サクッ。
ほろほろ崩れていくスノーボールクッキーはフツーに美味しい。
でもなんで急にこんなお菓子作りなんて練習し始めたんだ?
作ってやりたい相手でもできた…?
ん?それならくれたってことはそれ俺くない!?
って考えると都合いいけど。そんなわけないんだよなぁ〜。
だって朱莉から聞いたけど、あいつ、俺が朱莉のこと好きだと思ってるんだろー?
はぁー。俺が好きなのは綾なのに…。
だれか、好きな奴がいるのか…。
そう思うと、口に入れた抹茶クッキーが酷く苦く感じた。
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《side綾》
「綾、ちょっといい?」
「何?」
「いいから来て。」
急に圭太に呼び出された。
こわいこわい。なんかしたか?
カオが怖いよー?
茶化そうにも顔が真剣すぎて何も言えない。
「綾、俺、綾のこと、好きです。」
一瞬、何で言ってるのか分からなかった。
うん。脳停止した。
「はぁー?」
「はぁってなんだはぁって?」
「何の冗談?!」
「いや本気なんだけど」
「え。だって朱莉でしょ?」
「だーかーらー、それがそもそも違うの。」
「本気?私のこと好きなの?」
「わざわざ言うな。」
変な間が空いた。
気まず、い、けど。
返事はしなきゃ。
「え。…。ごめん。ちょっと、あの。」
「うん。知ってる。ごめん。焦ってた。」
「焦ってた?」
「あいつに告るって朱莉に聞いた。」
「あー。うん。そう。だから…ごめん。」
「友達でいろよ?」
「うん。クッキーもあげる。」
「やったね。」
「じゃ、帰ろうか。」
「うん。帰ろ。」
二人で家に帰った。途中で急に圭太が立ち止まった。
「どうしたの?」
すると、私の質問には答えず、息を吸った。
あ、やばい。叫ぶ。
圭太声でかいから、近くにいると耳壊れる。
「うわぁーーーーー!!!!しーつーれーんーしーたー!!!」
「なになになになになに。気まずいからやめて!うるさいからやめて!私が恥ずかしいからやめて!」
商店街のお店からおばちゃんたちが出てきて、
「なにけいちゃん失恋したの〜?やーね〜。青春ねぇ〜。綾ちゃん、おばあちゃんのとこの男の子が好きなんでしょ〜?三角関係じゃなーい!アツいわぁ〜!」
「いやアツイも何ももう終わったんで。」
「あーらー。残念!けいちゃん、そう落ち込まないでね。はい。持ってって。」
「失恋してもいいことはありますねぇ。」
どっさりお菓子やら何やらをもらった圭太はそんなに落ち込んでるように見えなかった。
「ねえ何でそんなサッパリしてんの?」
「振ったお前が言うか?」
「あー。ごめん。」
「いや。振られるのわかってたし。好きって言えただけよかった。本当に。」
「ありがとう。」
「こちらこそ。だから綾も、告るって決めたら告りな。やらない後悔よりやる後悔だよ。」
「…うん!ありがとう!」
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なんか色々あったけど…。
冬休み!来たる12月30日!
朝早起きしてスノーボールを作り、ラッピングをして蒼空くんのいるであろう丘に行く。
見晴らしのいい丘は人があんまり来ないのもあって蒼空くんのお気に入り。
あ、やっぱりいた。
「蒼空くーん!」
「綾ちゃん。」
正直中学生にもなってちゃん付けは恥ずかしい。でも私もくん付けだからおあいこだ。
すぐに蒼空くんが振り返った顔を前に戻してしまってちょっと話を続けるタイミングを逃した。
ど、どうしよ。
棒立ちになっていると。突然顔に冷たいのがぶつかった。
「ひぇっ!?」
びっくりして前を見ると蒼空くんがニヤリ。
「わあ。すごい声。」
「この〜…!!」
私も負けじと雪玉を投げる、投げる。
蒼空くんも凄い勢いで投げてきて、私は疲れて途中で諦め、雪の上に倒れ込んだ。
「え!?綾ちゃん?大丈夫!?ごめん!え?」
どうやら私が蒼空くんの投げた雪玉のせいで倒れたと思ったらしい。
こっちに来ようとする蒼空くんを見て、私は何も言わずに倒れたフリをしたままラッピングしたスノーボールを投げた。
雪玉を投げようとする時よりずっと、ずっと慎重に、優しく、気持ちを込めて投げた。
「うわぁ!何?え?クッキー?」
私はむくりと起き上がって、蒼空くんを見据えた。
「誕生日おめでとう。蒼空くん。」
「あ、誕生日プレゼント?え、手作り?」
「うん。」
「ありがとう!でもちょっと味が心配だなー。」
「そ、それは…。」
否定できない。
私の料理下手はかなり有名な話らしい。
「嘘ウソ。」
ニコッと笑って袋を開け、一つ口に入れた。
もぐもぐもぐもぐ。
蒼空くんは険しい顔をしたまま…。
ん?そんなにまずい…?
圭太も微妙な反応っぽかったし。
だんだん不安になってきた頃、蒼空くんはパッと顔を輝かせた。
「え!?うまい!ホントに綾ちゃんが作った!?」
「え?反応遅くない?」
「いやなんか最初味しなくて…。」
「それ不味いってことだよね。」
「ん?美味しいよ?小麦粉感あって。」
それヤバいよね。粉っぽいってことだよね。小麦粉そのまま食べるのヤバいんじゃなかったっけ…??
「ごめん…。」
「え?なにが?美味しいよ?」
もぐもぐもぐもぐ。
無言で蒼空くんはクッキーを噛んだ。
いつまで経っても飲み込もうとしない。
「…クッキー、そんなに固かった…?」
「ん?ううん。なんか、飲み込むの勿体無いなーと。」
そう言うこと言わないでほしい。ちょっと期待しちゃうじゃん。
私は一息吐いて、思いっきり息を吸った。
「蒼空くん!!」
やば。思ったよりおっきい声が出た。
ん?と言う顔で私の目を見る蒼空くん。
「あ、あの!私蒼空くんのことが好きです!」
全部一息に、超早口になって言った。
思わず目をギュッとつぶって下を向いたものの、何も反応がないので恐る恐る蒼空くんの顔を伺う。
そこには口をぽかんと開けた蒼空くんがいた。
「…そ、蒼空、くん?」
思わず声をかけると解凍されたように蒼空くんは口を開いた。
「え?綾ちゃんが?俺のこと?好きなの?え?」
改めて聞かないでほしい。わざわざ繰り返さないでほしい。って、圭太も同じこと言ってたな。確かにやめてほしい。圭太の気持ちが分かった。
って言うかこれはダメなやつだ。ちっとも私のことなんて意識してなかったから「俺のこと好きだったの?マジ?」みたいな感じなのだ。あーあ。失恋決定。気まずいな。帰ろうかな。
「ごめん何でもない。」
私はくるっと踵を返して丘を降りようとした。
「待って、綾ちゃん。俺、綾ちゃんのこと好きなんだけど。」
「……え?」
「なんで行っちゃうの?俺、返事してないよ?付き合ってよ。ねえ。」
そうだ。この人は蒼空くんなんだ。一般常識の斜め上を来る人なんだ。
って言うか、そんな「ちょっとコンビニ行くから付き合ってよ」みたいなノリで言わないでよ。なんか軽いじゃん。
「うん。良いよ。付き合うよ。」
だから私も、同じノリで返す。
「何だ。綾ちゃんから告白してきたのに『いいよ』ってなんだよ。」
「私は好きですしか言ってないもん。付き合ってって言ったのは蒼空くんだもの。」
「確かに?」
「全然ロマンチックじゃないんだけど。初恋の告白なんてもっと甘酸っぱいんじゃないのよ。」
「んー、まあ俺だし。」
「自分で言うか。」
「まあまあ。じゃあ朝のお散歩デートでもしましょうか?彼女さん。」
彼女。言われてみると、ねえ。わぁっとなんか込み上げてくる感じ?
私は蒼空くんの彼女なんだ。
「行きましょうか、彼氏くん。」
手を繋いで、私たちは丘を降りた。
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家に帰ってくると、圭太がうちを訪ねてきた。
「で?告った?どうだった?」
「失恋したって言ったらどうすんの?」
「慰める。でもどうせうまくいったんだろ?」
「…うん。何でわかったの?」
「ニヤニヤしてるから。」
うそっ。慌てて顔に手を当てた。
「嘘だけど、嬉しそうだから。綾、失恋してたらこの世の終わりみたいな顔するだろ。」
「そう、だね。」
「よかったな。」
「圭太も、朱莉と頑張ってね!」
「だから違うって。」
ふふふ。違うんだ。私が圭太が朱莉が好きって言ってた理由はもう一個あるんだ。
朱莉が、圭太のこと、好きだから。
どうなるかな。
見上げた空は、きれいな茜色をしていた。