雪やこんこん
あられやこんこん
降っても降ってもまだ降りやまぬ
犬は
ストーップ!やめてよ!
私は毎度毎度早梅が歌うたびにここで一声あげる。
「なーに?『犬』ってのが不満なの?」
そうよ!犬なんて名前聞くだけで嫌になる!早梅は猫派でしょ?
「ごめんごめん。私は猫派だってば。そんな目で見ないで〜。
あ、おやつ食べる?」
そうやって食べ物で釣ろうとしたって無駄だからね!絶対食べてなんかやらない…んだ…か…
モグモグモグ。
私は早梅をジト目で見ながらおやつを食べる。ひどい。ひどいよ。こんな美味しそうなの、食べないやついないわよ。
うわぁ。口についたぁ。
手と舌で一生懸命汚れを取ろうとしていると…
カシャ。
なんと!早梅さん!乙女のこんな場面を撮るなんてどんなセンスしてるのよ!デリカシー!
「ふふ。」
何が面白いのよ。ふん!出かけてやる!
「あれ。どっか行くの?行ってらっしゃーい。」
適当に相槌を打って外に出る。別に用事なんてないですけど。どこ行こうかなぁー。あの子んとこ行こっかな。お出かけって言ってたかしら。
白い粉砂糖をお空の雲が吐き出してる。道はうっすらと砂糖衣がかかっている。初雪。小雪。足でちょちょっとそれらを集めてこんもりと小さな山にする。かき氷みたいだ。早梅はかき氷に黒蜜をかける。ちょっと珍しいらしい。早梅の友達はみんなカラフルなシロップをかける。早梅がここ半年くらい連れてくる彼氏と思われる男も、シロップで食べていた。
やなのよね。あの男。早梅のお客さんだからいい顔してやってるけどさ。怪しまれない程度に早く帰れアピールをしてる。あの男ときたら!赤ちゃんに話しかけるみたいに話しかけてくるんだから!ホント鬱陶しいったらありゃしない。もう私、こんなにおっきいのに。
いや、私だってボーイフレンドくらいいるわよ?自分で言うけどそこそこモテるし。でもねー。あんな顔がいいやつ、信用ならないのよ!早梅は私がそいつにガン飛ばしてるのを何を勘違いしてるのか私が面食いで、イケメンだからそいつを気に入ってると思ってるんだがら!
早梅、美人だから男がブスだったらブスだったで文句言うけどね?イケメンって軽そうじゃん。(※偏見です)っていうか早梅は私のだし!その辺のどこの馬の骨かも分からないようなやつに取られちゃたまんないわよ!
ぷりぷりしながら街を歩き、いっつもそこにいる謎の友達の元へ。
「お、なんだ。また家出か。」
「私の顔見ると家出っていうのやめてもらえます?フツーに散歩ですぅー。」
「いやなんか君ってさ。風貌が家出少女なのよね」
「いやごめんちょっと何言ってるかわかんない。」
「まあとりあえず家でなんかあって出てきたけど暇だから私のとこに来たんでしょ?」
「うん。」
「んー、ごめん。今おやつ何もないや。」
「大丈夫。さっき食べた。」
「あ、そう。で?何があったの?早梅さんの彼氏がまた来たの?」
「例の歌をですね。早梅が歌ったんですよ。」
「はぁー。何だいそう言うことかい。心せっまーい。」
「え〜。だってさー。」
「別に自分と好みが同じだからといって相手のその好みが変わったら怒るって言うのは縛りつけすぎだよー。嫌われるよー?」
「なっ。」
思わず絶句。確かに?早梅も鬱陶しいと思ってるかも…?
え〜〜!!ヤダヤダヤダ!嫌われたくなーいー!!
悶々としたままさよらなを告げ、公園に行く。
えー。でも早梅も紛らわしいことするからいけないんだよー。
やっぱりちょっとムカついてきて、公園にある滑り台の階段をわざとカンカンと音が鳴るように上がる。
あんまり鳴んなかったけど。
雪だからか誰もいない。
えー。つまんないの。
仕方ないから滑り台の頂上に鎮座する。
子供のキャーキャー言う声も、ママ友の笑い声もない。
雪はしんしんとふりつづけてる。
こう見ると、ちょっと綺麗。
雪の中に閉じ込められたような感じ。いいかも。
体がブルブルしてきた。背中と頭に雪がいつのまにか降り積もっている。
そろそろあったかいとこ行きたい。
帰るー?帰るかぁ?えー。そう言う気分じゃないよねー。
すると車のエンジン音とスピーカーが叫んでる声が聞こえた。
いしやーきいもー
やーきいもー
おいしいやきいもはーいかがですかー
冬あるある。焼きいもトラック。焼きいもトラックってあったかいよね。よし。行こう。
トコトコとトラックについて行く。あったか〜い…。
トラックが止まった。あ。おじちゃんが出て来た。やばい。怒られるかな?
ちょっと身構えてるとおじちゃんがちょっとびっくりした顔をして、それからニカっと笑った。大丈夫そうだ。
「お?なんだ?かわいいねー。あ、失敗したやつならあげられるけど、いるか?」
もちろん!おじちゃんやさしーい!全然失敗してるようには見えない。いや、まあおこげのレベルじゃないくらいの焦げはあるけど。一部結構黒いけど。甘いからよし。美味しい!
もっきゅもっきゅと食べながら、お客さんを観察。さっきまで人なんていないように見えた道路は沸いて来たかのように人でいっぱいだ。
部活帰りの男子高校生。小学生の集団。小さい子とお母さん。主婦のおばちゃん。常連さんらしきおじさん。あと私を見て「かわいい〜!」とキャーキャー叫んで写真を撮り、「焼きいも懐かし〜!」って言って焼きいもを買って行った女子高生。
へへ。撮りたくなっちゃうよねぇ〜。こんな可愛い子が焼きいも食べてるんだから〜。
そんなふうにして焼きいもは売れていく。おじちゃんは笑顔でアツアツの焼きいもをお客さんに渡す。
お客さんは嬉しそうに手の中で焼きいもをころがす。
ほわほわと甘い湯気をあげる黄金の焼きいもに顔が綻んでいる人たち。
このおじさんは幸せを売っているように見える。魔法使いみたいだ。
焼きいも屋さん。減ってるって早梅が言ってたけど。なくなって欲しくないよね。焼きいもトラック。いいな。
雪を吐き出す雲は勢いを増し、空は暗くなって来た。お客さんも減ってきいき、焼きいもトラックの明かりが消された。シュンと周りの明かりがランタンに閉じ込められたように見えた。
「おチビちゃんごめんな。今日はおしまいさね。あんた迷子じゃないよな?おうちはありそうだ。大丈夫だね。またおいでな。」
そっか。とあっさり答えて私はおじさんにさよならをする。おじさんが私を見守っている気配がする。
私はくるりと方向転換をして、しゃなりしゃなりと、振り返らずに歩いて行く。なんて。ちょっとドラマの女優気分。かっこつけたけど。そんなことしてる場合じゃないことに私は気が付いた。
はて。ここはどこなんだろうか。
やばい。非常にやばい。もう夜だし。暗いし。雪だし。寒いし。今迷子はやばい。早梅が心配するだろうに。夜になってまた一段と冷え込んだように思う。なんか知らないけど怖くなって来た。この状態で私の本能が「危険を察知」ってしたんだろうか。思わず反射的に走り出す。
早梅、はやめっ!
早梅に会いたい。おうちに帰りたい。ねぇ、どこ?分かんない。分かんないけど分かんないなりに走る。おうちと反対の方向に走ってたらどうしよう。曲がるたびに思う。でも止まってたら怖くて止まれない。まだ誰も歩いてない道に私の足跡がつく。その踏んだ足は思いっきり雪を蹴り飛ばす。足跡はちっとも足の形をしてない。でもちゃんと、私の足だ。
そこでふと私は気がついた。このまま帰れなくって。早梅に会えなくて、夜の闇に消えちゃうんじゃないかと。雪の奥に消えちゃうんじゃないかと。そんなことが怖かったんだと。大丈夫。だいじょうぶ。私はここにいる。きっと早梅は私を探してる。私はもっと強く、雪を蹴る。
あ。ここは。
早梅のお気に入りの雑貨屋さん。いつも行ってる商店街。ここからはおうちまでまっすぐ!
ラストスパートを駆け抜ける。はっ、はっ、と吐き出される息が白い。
おうちのアパートの大きい木が見える。
「あっ!いたっ!」
早梅が私を見つけた。早梅の腕の中に駆け込む。早梅は私をぎゅっと抱きしめた。手が冷たい。頭には雪が積もってる。長いこと探してくれてたんだ。
「もうっ!心配してたんだからね!もっとはやく帰って来なさいよぉ〜!なんて、ねー。言っても分かんないよね。おうち、入ろうね。」
くしゃっと笑ってまた私を抱きしめる。いっつもあんまり触らせたくないけど、今日ばっかりはトクベツ。もぞもぞ動くと早梅が身をよじった。
「ふふ。くすぐったいよ。」
早梅はやっぱり私を探しててくれた。嬉しい。うれしいっ!
「ねぇ、もう歌わないからさ。家出しないでよ、クロミツ?」
別に歌ってもいいんだけどな。もっと猫を愛でてくれてもいいのよ?ってハナシ。
そんなの言っても伝わらないから一言だけ、私は言う。
「にゃあ」 と。
あられやこんこん
降っても降ってもまだ降りやまぬ
犬は
ストーップ!やめてよ!
私は毎度毎度早梅が歌うたびにここで一声あげる。
「なーに?『犬』ってのが不満なの?」
そうよ!犬なんて名前聞くだけで嫌になる!早梅は猫派でしょ?
「ごめんごめん。私は猫派だってば。そんな目で見ないで〜。
あ、おやつ食べる?」
そうやって食べ物で釣ろうとしたって無駄だからね!絶対食べてなんかやらない…んだ…か…
モグモグモグ。
私は早梅をジト目で見ながらおやつを食べる。ひどい。ひどいよ。こんな美味しそうなの、食べないやついないわよ。
うわぁ。口についたぁ。
手と舌で一生懸命汚れを取ろうとしていると…
カシャ。
なんと!早梅さん!乙女のこんな場面を撮るなんてどんなセンスしてるのよ!デリカシー!
「ふふ。」
何が面白いのよ。ふん!出かけてやる!
「あれ。どっか行くの?行ってらっしゃーい。」
適当に相槌を打って外に出る。別に用事なんてないですけど。どこ行こうかなぁー。あの子んとこ行こっかな。お出かけって言ってたかしら。
白い粉砂糖をお空の雲が吐き出してる。道はうっすらと砂糖衣がかかっている。初雪。小雪。足でちょちょっとそれらを集めてこんもりと小さな山にする。かき氷みたいだ。早梅はかき氷に黒蜜をかける。ちょっと珍しいらしい。早梅の友達はみんなカラフルなシロップをかける。早梅がここ半年くらい連れてくる彼氏と思われる男も、シロップで食べていた。
やなのよね。あの男。早梅のお客さんだからいい顔してやってるけどさ。怪しまれない程度に早く帰れアピールをしてる。あの男ときたら!赤ちゃんに話しかけるみたいに話しかけてくるんだから!ホント鬱陶しいったらありゃしない。もう私、こんなにおっきいのに。
いや、私だってボーイフレンドくらいいるわよ?自分で言うけどそこそこモテるし。でもねー。あんな顔がいいやつ、信用ならないのよ!早梅は私がそいつにガン飛ばしてるのを何を勘違いしてるのか私が面食いで、イケメンだからそいつを気に入ってると思ってるんだがら!
早梅、美人だから男がブスだったらブスだったで文句言うけどね?イケメンって軽そうじゃん。(※偏見です)っていうか早梅は私のだし!その辺のどこの馬の骨かも分からないようなやつに取られちゃたまんないわよ!
ぷりぷりしながら街を歩き、いっつもそこにいる謎の友達の元へ。
「お、なんだ。また家出か。」
「私の顔見ると家出っていうのやめてもらえます?フツーに散歩ですぅー。」
「いやなんか君ってさ。風貌が家出少女なのよね」
「いやごめんちょっと何言ってるかわかんない。」
「まあとりあえず家でなんかあって出てきたけど暇だから私のとこに来たんでしょ?」
「うん。」
「んー、ごめん。今おやつ何もないや。」
「大丈夫。さっき食べた。」
「あ、そう。で?何があったの?早梅さんの彼氏がまた来たの?」
「例の歌をですね。早梅が歌ったんですよ。」
「はぁー。何だいそう言うことかい。心せっまーい。」
「え〜。だってさー。」
「別に自分と好みが同じだからといって相手のその好みが変わったら怒るって言うのは縛りつけすぎだよー。嫌われるよー?」
「なっ。」
思わず絶句。確かに?早梅も鬱陶しいと思ってるかも…?
え〜〜!!ヤダヤダヤダ!嫌われたくなーいー!!
悶々としたままさよらなを告げ、公園に行く。
えー。でも早梅も紛らわしいことするからいけないんだよー。
やっぱりちょっとムカついてきて、公園にある滑り台の階段をわざとカンカンと音が鳴るように上がる。
あんまり鳴んなかったけど。
雪だからか誰もいない。
えー。つまんないの。
仕方ないから滑り台の頂上に鎮座する。
子供のキャーキャー言う声も、ママ友の笑い声もない。
雪はしんしんとふりつづけてる。
こう見ると、ちょっと綺麗。
雪の中に閉じ込められたような感じ。いいかも。
体がブルブルしてきた。背中と頭に雪がいつのまにか降り積もっている。
そろそろあったかいとこ行きたい。
帰るー?帰るかぁ?えー。そう言う気分じゃないよねー。
すると車のエンジン音とスピーカーが叫んでる声が聞こえた。
いしやーきいもー
やーきいもー
おいしいやきいもはーいかがですかー
冬あるある。焼きいもトラック。焼きいもトラックってあったかいよね。よし。行こう。
トコトコとトラックについて行く。あったか〜い…。
トラックが止まった。あ。おじちゃんが出て来た。やばい。怒られるかな?
ちょっと身構えてるとおじちゃんがちょっとびっくりした顔をして、それからニカっと笑った。大丈夫そうだ。
「お?なんだ?かわいいねー。あ、失敗したやつならあげられるけど、いるか?」
もちろん!おじちゃんやさしーい!全然失敗してるようには見えない。いや、まあおこげのレベルじゃないくらいの焦げはあるけど。一部結構黒いけど。甘いからよし。美味しい!
もっきゅもっきゅと食べながら、お客さんを観察。さっきまで人なんていないように見えた道路は沸いて来たかのように人でいっぱいだ。
部活帰りの男子高校生。小学生の集団。小さい子とお母さん。主婦のおばちゃん。常連さんらしきおじさん。あと私を見て「かわいい〜!」とキャーキャー叫んで写真を撮り、「焼きいも懐かし〜!」って言って焼きいもを買って行った女子高生。
へへ。撮りたくなっちゃうよねぇ〜。こんな可愛い子が焼きいも食べてるんだから〜。
そんなふうにして焼きいもは売れていく。おじちゃんは笑顔でアツアツの焼きいもをお客さんに渡す。
お客さんは嬉しそうに手の中で焼きいもをころがす。
ほわほわと甘い湯気をあげる黄金の焼きいもに顔が綻んでいる人たち。
このおじさんは幸せを売っているように見える。魔法使いみたいだ。
焼きいも屋さん。減ってるって早梅が言ってたけど。なくなって欲しくないよね。焼きいもトラック。いいな。
雪を吐き出す雲は勢いを増し、空は暗くなって来た。お客さんも減ってきいき、焼きいもトラックの明かりが消された。シュンと周りの明かりがランタンに閉じ込められたように見えた。
「おチビちゃんごめんな。今日はおしまいさね。あんた迷子じゃないよな?おうちはありそうだ。大丈夫だね。またおいでな。」
そっか。とあっさり答えて私はおじさんにさよならをする。おじさんが私を見守っている気配がする。
私はくるりと方向転換をして、しゃなりしゃなりと、振り返らずに歩いて行く。なんて。ちょっとドラマの女優気分。かっこつけたけど。そんなことしてる場合じゃないことに私は気が付いた。
はて。ここはどこなんだろうか。
やばい。非常にやばい。もう夜だし。暗いし。雪だし。寒いし。今迷子はやばい。早梅が心配するだろうに。夜になってまた一段と冷え込んだように思う。なんか知らないけど怖くなって来た。この状態で私の本能が「危険を察知」ってしたんだろうか。思わず反射的に走り出す。
早梅、はやめっ!
早梅に会いたい。おうちに帰りたい。ねぇ、どこ?分かんない。分かんないけど分かんないなりに走る。おうちと反対の方向に走ってたらどうしよう。曲がるたびに思う。でも止まってたら怖くて止まれない。まだ誰も歩いてない道に私の足跡がつく。その踏んだ足は思いっきり雪を蹴り飛ばす。足跡はちっとも足の形をしてない。でもちゃんと、私の足だ。
そこでふと私は気がついた。このまま帰れなくって。早梅に会えなくて、夜の闇に消えちゃうんじゃないかと。雪の奥に消えちゃうんじゃないかと。そんなことが怖かったんだと。大丈夫。だいじょうぶ。私はここにいる。きっと早梅は私を探してる。私はもっと強く、雪を蹴る。
あ。ここは。
早梅のお気に入りの雑貨屋さん。いつも行ってる商店街。ここからはおうちまでまっすぐ!
ラストスパートを駆け抜ける。はっ、はっ、と吐き出される息が白い。
おうちのアパートの大きい木が見える。
「あっ!いたっ!」
早梅が私を見つけた。早梅の腕の中に駆け込む。早梅は私をぎゅっと抱きしめた。手が冷たい。頭には雪が積もってる。長いこと探してくれてたんだ。
「もうっ!心配してたんだからね!もっとはやく帰って来なさいよぉ〜!なんて、ねー。言っても分かんないよね。おうち、入ろうね。」
くしゃっと笑ってまた私を抱きしめる。いっつもあんまり触らせたくないけど、今日ばっかりはトクベツ。もぞもぞ動くと早梅が身をよじった。
「ふふ。くすぐったいよ。」
早梅はやっぱり私を探しててくれた。嬉しい。うれしいっ!
「ねぇ、もう歌わないからさ。家出しないでよ、クロミツ?」
別に歌ってもいいんだけどな。もっと猫を愛でてくれてもいいのよ?ってハナシ。
そんなの言っても伝わらないから一言だけ、私は言う。
「にゃあ」 と。