「さすがお見事です京也様」

「え、ああ、ども」

 俺が猪のモンスターを倒し終えると、リリィが何事もなかったかのように俺の近くやってきた。

 あれだけ俺が慌てていたというに、顔色一つ変えないとは何事だと言ってやりたいが、リリィの態度を見ると俺がこのモンスターを倒すのを確信していたようだった。

 いや、俺弱いって初めに言ったはずなんだけどな。

「どうかなさいましたか?」

「いや、多分どうもしてないんだろうな」

 きょとんとした顔を向けられてしまうと、俺が負ける方がありえなかったみたいな気になってしまう。

 まぁ、そんな勘違いをしたりはしないんだけどな。俺戦闘向きの『ギフト』じゃないし。

「さて、このモンスターどうしたものかな」

 いちおう、この世界のモンスターは物によっては食べることができるらしい。

 俺が倒したのは見るからに食用のモンスターだが、俺にさばける技術があるかは別の話である。スーパーに売ってある肉でさえまともに調理したことないのに、いきなりジビエから入るのは挑戦し過ぎだ。

 仕方ないけど、このモンスターはここに置いてーー。

 そう思った俺の頭に、『料理攻略』『モンスター解体攻略』という文字が流れてきた。

 どうやら、『攻略本』を使えばこのモンスターも調理することができるらしい。

「京也様、どうされました?」

「いんや、リリィって猪の肉好き?」

「そうですね、私は特に嫌いな物とかはござません」

「じゃあ、せっかくだから休憩がてらこの猪でも食べるか」

「え、京也様は料理もできるんですか?」

「多分、としか言いようがないな。いや、料理するにもフライパンもないし無理――」

そんな俺の思考に反応するように、『冒険者攻略』『サバイバル攻略』といった文字が流れてきた。

 ……。

「でも、俺火の魔法なんて使えないから、火を使った料理もないし、あと調味料もないから味付けもできないーー」

そんな言い訳を作ろうとすると、新たに『基礎魔法攻略』『ダンジョン飯攻略』の文字が頭に流れてきた。

まるで、会話でもしているんじゃないかというような反応速度。

 ……分かったよ、作ればいいんだろ、作れば。

「そうですよね、調理器具もなければ調味料もありませんし、難しいですよね」

「簡単な料理しかできないからな?」

 俺はそう言うと、『サバイバル攻略』に書かれている通りに燃える物を集めて、『基礎魔法攻略』に従って火をつけて、『サバイバル攻略』に指示をもらって、平たい石を見つけてフライパンの代わりにしてーー。

 とにかく、猪料理を完成させたのだった。

 その後どうしたか? 知らん、『攻略本』に沿って作っただけだ。味の保証だって知らんからな。


「お、おいしいです。京也様はなんでもできるんですね」

「いや、そんなことはないんだけどな」

「ふふっ、ご謙遜を」

「いや、本当なんだが」

 というか、今の今まで俺だって知らなかったんだけど。何この便利すぎる『ギフト』。なんでも攻略本に載ってるって結構なチートなんじゃないか?

 こんな能力だって知っていれば、俺だってずっと三軍なんかにいなかったんだけど。

 ……ていうか、今まで気づかなかったっておかしくないか?

 こんな助けてなんとかえもんみたいに便利だったら、もっと早くにこの能力の神髄に気づいたはずだ。

 それなのに、俺はこの能力に今まで気づくことがなかった。いや、本当にそれだけなのだろうか?

 それにして、猪って旨いのな。家に持って帰りたい旨さだわ。

「確か、この系統のモンスターは下処理が下手だと臭みが出ると聞いたことがあります。京也様はどこかで料理の修業をされていたんですか?」

「したことないよ。ていうか、ちゃんとした料理作ったのも初めてだし。それに、初めてさばいたし」

「ふふっ、京也様ったら」

「いや、冗談とかじゃないんだぞ。本当だぞ?」

 俺がずっとボケてると思っているのか、リリィはまるで俺の言葉を信じようとしない。

結局、俺が弱かったことも信じようともしないし、このままだと俺強いモンスターに遭遇したときに見殺しにされるんじゃないか?

『殺されるとは思いませんでした』とか驚いた顔で言いそうだよな、リリィって。

「京也様ほど強い人間に会ったのも、久しぶりです」

「そっちこそ、冗談言うなよ。五万といるだろ、俺みたいな強さの奴なんて」

「ふふっ、京也様ったら」

 またしても俺の発言を冗談として受け取ったのか、リリィは上品な笑みをこちらに向けた。

なんかユーモアのある人としてリリィの好感度は上がってそうだが、この勘違いは早めに解いておいた方がいいだろう。

「冗談なんかじゃないって。ほら、これが冒険者カードな。ここに書いてあるだろ、レベル42――。42? ていうか、何だこのステータスは?」

 急にレベルが上がっていた事にも驚きだが、それ以上にステータスが馬鹿みたいに上がっていたことに気がついた。

 体力、攻撃力、魔力、素早さーーというか、全部上がり過ぎだろ。なにこれ、バグってんのか?

 そんな困惑する俺の顔を見て、リリィはきょとんと首を傾げていた。

 そのくらいのステータスがあるのは当たり前ではないか、そんなことがリリィの顔に書かれていたように思えた。

 まてよ、もしかして『攻略本』の能力が急に増えたのって……。