クラスでパッとしない男子生徒。それが俺、上田京也だった。

 特に部活に属すわけでもなく、ただの帰宅部でイケメンでもなければスポーツだって得意ではない。勉強も特にできるという訳ではない。

 平凡凡庸。そんな俺でもアニメとかラノベとかは好きだったりした。

 中学二年生の頃なんかは、学校にテロリストが入ってきたらどうすればいいのかを何度も考えたことがあった。

 それと同じくらい考えているのが、クラスごと異世界に転移した場合にどうすればいいのかだ。

 そうして、異世界に行った場合にはクラスのみんながチート能力を貰える。これは鉄板だ。異世界に連れてこられた者には何かしらの能力が与えられるのだ。

 でも、俺みたいなモブには最強のチート能力は貰えない。それでも、一見弱く見えるチート能力を強化していくことで俺は最強のチート能力持ちになることができるのだ。

 休み時間。そんなことを考えていると、急に体に重力のようなものに押しつぶされる感覚があった。そう、まさにこんな感じに始まるのだ。

 そして、目を開けたときにはきっと異世界の景色が広がっているのだ。

 こんなふうに中世ヨーロッパの王宮みたいな景色が広がっていて、玉座に座る王にこう言われるのだ。

「来たか、異世界からの救世主たちよ」

 白い髭を生やしたおっさんが、王冠を被って玉座にふんぞり返っているおっさんがそんな事を言う。鉄板の王道パターン。

 ……あれ? これって、本当に言ってないか?

 俺の妄想ではないな、本当におっさんが目の前にいるな。

「なんだよ、ここ」

「え、どこなの?」

「教室にいたはずだよね? なにここ」

 俺はゆっくりと瞬きを一つした。

 辺りに見える景色は中性ヨーロッパのような建築。赤い絨毯と大理石のような物が引き詰められている。俺達の前には西洋や欧米のような顔立ちの人々がいて、ここに日本人がいないことが分かる。

 日本人は俺のクラスメイトだけ。どうやら、俺達はクラスごと異世界に来てしまったらしい。

「異世界だ……」

「異世界?」

「やったよ、僕たちは異世界に勇者として呼ばれたんだ!」

 俺の心の声を代弁したかのように、後ろの方で一部のクラスメイトが盛り上がりを見せていた。

 普段はクラスの隅でアニメの話をしている集団。どうやら、クラスのリア充たちよりもオタクたちの方が現状の理解をするのは早かったようだった。

「チートだよ! チート持ちだよ、僕たち!」

 チート。やはり、異世界と言われて初めに思い浮かべるのはチートだよな。

 その集団から離れながら、俺は一人で小さくガッツポーズをしていた。そうだ、これは異世界アニメ好きなら一度は憧れる展開。

 現実世界ではモブだった俺達が輝ける世界が、俺達を待っている。そんな俺を含めたキラキラした視線を受けて、玉座に座っているおっさんは口を開いた。

「なんだ、すでに神から与えられし『ギフト』については知っているのか」

 そのおっさんは失笑気味にそんな言葉を漏らした。それから、そのおっさんは隣に立っている若い女性に目配せを一つすると、説明を引き継がせた。

「突然、異世界からあなたたちを召喚してしまい申し訳ない! しかし、わが国も魔王の恐怖に対抗をする策のためには、こうすることしかなかったのだ。許して欲しい!」

 説明を引き継いだ女性からは、謝罪の言葉のわりに悪びれる様子が感じられなかった。急に異世界に連れて来たことを詫びるというよりも、むしろ誇らしく思えとでも言いたげな口調。

「別世界からこの世界に渡った物には、神からの『ギフト』が贈られると言われている! 君達にはその『ギフト』を駆使して、この世界で魔王の恐怖から民を守ってもらいたい!」

 それから、その女性は俺達が置かれている現状を説明した。

 この世界が魔王からの侵略を受けていること。それを阻止するために多くの兵士を使ったが、侵略を止められないでいること。また、魔王からの恐怖に対抗する策として、異世界人をこの世界に召喚したこと。

 そして、この世界に連れてこられた異世界人には『ギフト』という能力が付加されるとのこと。過去の勇者もその『ギフト』で手にした力で魔王を滅ぼしたと言われているとのこと。

 こんな話を聞かされて、一体どうしろというのか。知りもしない国が知らない奴に襲われている。

 だから、命をかけて戦ってくれってか?

 馬鹿馬鹿しい。ていうか、なんなんだ、あんたのところの王様は。ずっとふんぞり返っていて、人にものを頼む態度じゃないだろ。

 異世界でチート能力を貰えるのはいいとして、この世界のために命を懸けるのは馬鹿らしいな。

「それでは、それぞれ神から与えらし『ギフト』の鑑定に移る!」

 そんな俺の考えなど知る由もなく、話はとんとん拍子で進んでいった。

 どうやら、俺達の能力を鑑定できる水晶があるらしく、俺達のステータスや能力、『ギフトを』鑑定していた。その鑑定結果を水晶の近くにいる人がカードに書き写していた。手をかざすことで、文字を書き込んでいるらしい。

 初めて見る魔法と言う奴だ。よく見ておこう。

 よっぽど高い戦闘能力があって周りに頼られるならともかく、ハズレの『ギフト』を引いて身を粉にして働くことだけは嫌だな。

 勇者とかしてこの世界でモテモテになるって言うなら、それもやぶさかではないが。

「次、上田京也! お前は、『攻略本』? なんだこの能力は? ダンジョン攻略などの際の攻略ルートの最適解を導きだす能力? 補助要員としていては使えなくもないか。でも、勇者や戦士の能力が強ければ別にいらない気がするな。……まぁ、いい。日々鍛錬に励め!」

「うす」

 俺は貰ったカードを見てその能力を確認した。ギフト『攻略本』。どうやら、ゲームの攻略本などに書かれているルートが分かる能力らしい。

 一見、便利そうに見える能力ではあるのだが、特にステータスが高いわけではない。良くても、勇者の後をついて道を教えるだけのナビゲーター。

 どうやら、俺は結局異世界まで来ても、人生が変わるようなチート能力を手にできるわけではなかったらしい。

 俺は小さくため息を一つついて、『ギフト』の能力が書かれているカードに興味なさげに目をとしたのだった。