《page1》

○ホライズンランド内 どこかの森の中

横たわって眠っているあすみ。巫女の装束は着けたまま。

何かがあすみの頬をベロンと舐める。

あすみ「う、うーん…」

目を開けるあすみ。大きな鹿の顔が目の前に。

あすみ「わ、わー!!」

あすみの声に驚いて逃げて行く鹿。

あすみ「あーびっくりした…鹿さんかあ…って!?」


《page2》

慌てて飛び起きるあすみ、キョロキョロと辺りを見回す。

あすみ「ここは…?」

辺りには見たこともない植物が生い茂っている。

あすみ「神社じゃないし…ジャングル??えーと…私はお祭りで五輪神社で踊ってて、それからエクスカリバーさんが急に光って…」

色々思い出した様子のあすみ。

あすみ「エクスカリバーさん!?」

見回すと、足元に落ちているエクスカリバー。

あすみ、大事そうに拾い上げる。

あすみ「エクスカリバーさん!エクスカリバーさん!」

エクスカリバー「…」

沈黙したままのエクスカリバー。

あすみ「…舞台では喋ってた気がするんだけど…」

あすみ、辺りを見回して、

あすみ「…とりあえず、人がいる場所に行こう!」

《page3》

○ホライズンランドの首都

エクスカリバーを抱えながら、キョロキョロと大通りを歩くあすみ。

あすみ「なんだろう…ヨ、ヨーロッパに来ちゃったの??それにしても皆さんおとぎの国みたいな格好して…」

自分達と違う風貌のあすみをジロジロと見ながら通り過ぎる通行人達。

あすみ「どう見ても日本じゃないよね…?え、英語通じるのかな…」

《page4》

あすみ、露天商のおじさんにおずおずと話しかける。

あすみ「あ、あのう…えくすきゅーずみー…」

露天商、あすみを怪訝な顔で見て、

露天商「ん?なんだ?…変わった格好だな」

あすみ「良かった!日本語わかるんですね!…ここはどこなんでしょう?」

露天商「ああん!?ホライズンランドの首都!キャピトルだろうが!」

《page5》

あすみ「ほらいずんランド??ヨーロッパですか?」

露天商「ヨーロ??何だか知らんけど、ここは世界の最果て、ホライズンランドなんだよ!」

あすみ「は、はあ…」

露天商「あんた何も買わないならどっか行ってくれ!…まったく…」

あすみ「す、すみません、お邪魔してしまって!」

あすみ、すごすごと立ち去る。

あすみ「どうしよう、スマホも持ってきてないし…とりあえず、公衆電話かネカフェを探そう!」

《page6》

○路地裏

ウロウロと彷徨っているあすみ。

あすみ「無いよー、電話もネカフェも交番も無いよー」

ため息を吐きながら独り言を話し始める。

あすみ「だいたいおかしいよ、目が覚めたらこんな知らない場所にいるなんて…誰かに拐われたにしても放っておくなんて酷い!せめて目的とかさ、教えてくれたりさ…」

ぶつぶつと呟きながらいじけ顔のあすみ。

すると、突然目の前にガラの悪そうな男が立ちはだかる。

驚いてぶつかりそうになるあすみ。

あすみ「わわっ」

《page7》

男、ジロリとあすみを見下ろして、

男「お前、異国の子供か?」

あすみ「こ、子供!?(ムッとして)私、高校生ですよ!?」

構わず続ける男。

男「その奇妙な服に漆黒の髪色…」

あすみ「そ、そうなんです。多分私は外国人で…誰も知り合いがいなくて困ってるんです!」

男、ニヤリと微笑んで、

男「そうかそうか、それなら俺が助けてやるよ。一緒に付いてきな」

あすみ「わーありがとうございます!良かった!親切な方に声をかけてもらって!」

素直すぎるあすみにちょっと引いている男…

男(なんて引っかかりやすいんだ…)

男「こっちだ!俺の仲間達もいるから」

あすみ「はい!」

男、歩きながら振り返り、

男「ところでお前、どこから…ってあれ!?」

忽然と姿を消しているあすみ。

男「何だ!?消えちまった…」

《page8》

○真っ暗な家の中

何者かに背後で口を塞がれているあすみ。

ドアに耳をつけ、外の様子を伺っているあすみを捉えた人物。

レイ「…行ったか」

あすみを解放するレイ。

あすみ「ぷはー!」

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顔を上げると、20歳くらいの金髪の女性が立っている。

あすみ「あ、あの…」

レイ「あなたねー、あんなチンピラにのこのこついていく奴がいますか!」

あすみ「あ、でもあの人助けてくれようとして…」

レイ「んなわけないでしょーが!どう見てもあなたを女衒の元に連れてって売っぱらうつもりだったでしょーが!」

あすみ「売っぱらう…」

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レイ「私が!たまたま2階の窓からあなたを見てたから助けられたけども…まったく!」

青ざめているあすみ。

あすみ「私…てっきり…」

呆れて怒りが収まらない様子のレイ。

レイ「今のホライズンランドは子供が1人でうろうろできる状況じゃないんですよ⁉︎しかもそんなおかしな格好で髪まで真っ黒 で…」

あすみ「私、私…」

あすみの目からポロポロと涙が溢れる。

とたんにあたふたするレイ。

レイ「わわっ、泣かなくても!す、すみません、ちょっとキツく言いすぎたかな…」

《page11》

あすみ「…ごめんなさい。あの、誰も知り合いがいなくて…歩くのももう疲れて…やっと、助けてくれる人に出会えたと思ったのに…」

泣いているあすみを前に、やれやれと言う表情で見つめるレイ。

レイ「何か事情がありそうですね…しばらくはこの家で休みなさい。どうせ私しか居ませんしね」

あすみ「あ、ありがとうございます…えっと…」

レイ「レイ、薬屋のレイです」

にっこりと微笑むレイ。

《page12》

○レイの家・居間

居間に続く台所でお茶を淹れる準備を始めるレイ。

レイ「今、お茶を淹れてあげるから、ゆっくりして下さいね」

あすみ、家の中をキョロキョロと見渡す。

棚には色々な瓶がぎっしりと詰められていて、天井からは無数に乾燥した植物らしきものが吊り下げられている。

あすみ「あの、レイさんはお薬屋さんなんですか?」

レイ「そうです。うちは代々薬屋」

あすみ「あ、あの…私、あすみって言います。それで、その…なんて説明したらいいか…」

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レイ、急に苦しそうな表情であすみを見て、

レイ「…いいよ!言わなくて良いです!あなたのその格好…だいたい想像がつきました…」

あすみ「ん?あ、これは巫女の…」

レイ、あすみを遮って、

レイ「あなた、貴族の家の召使ですね?まだ子供なのに、家が貧しいんですねぇ…かわいそうに」

あすみ「ん??あ、いや…」

レイ「それにその格好!主人の夜伽の相手をさせられそうになったんですね!ああ、かわいそうに…」

あすみ「よ、ヨトギ?」

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レイ「金持ちってのはロリコンの変態が多いって本当なんですね!あなたまだ子供じゃないですか!」

あすみ「あ、あのレイさん?ちょっと話が…」

レイ、なおも遮って、

レイ「それにその剣!ぼろっちく見えるけど、立派な装飾ですね…路銀の足しにしようとしてロリコンの貴族の家からかっぱらってきたんですね!」

エクスカリバー「…」

あすみ「あ、エクスカリバーさんは聖なる剣で…」

全然あすみの話を聞かないレイ。

レイ「わかってます!逃げ出してきたは良いけど、どうせ家にも帰れないし…何故ならあなたの家は貧しいから…嗚呼!かわいそうに!!(涙ぐんでいる)」

あすみ「えーと、レイさん…?」

レイ、あすみに駆け寄り手を握る。

レイ「大丈夫です!しばらくここにいても良いですよ。どうせ家族も疎開して私1人なんだから!遠慮しなくて良いですよ!」

あすみ「あ、アリガトウゴザイマス…?」

レイ「うんうん今まで辛かったですねぇ」

レイ、あすみを引き寄せて頭をヨシヨシする。

あすみ(レイさん何か勘違いしてるけど、話を聞いてくれない…)


《page15》

○場面転換して、シャングリラ王国内・田舎道

のどかな牧草地を馬に乗って移動するガイ。

ガイ「もう城を出て5日も立つのに、まだシャングリラ王国内から出ないな…今はどの辺りだろう」

遠くに小さな町が見える。

ガイ「よし、今日はあの町で泊まろう」

《page16》

○シャングリラ王国外れの小さな町

馬を引きながら町に入ってくるガイ。

沢山の人たちで町はごった返している。

ガイ「…何だ?このような小さい町にしては人が多いような…」

家財道具を乗せたリヤカー等を引っ張り行き交う人々。

ガイ「随分と旅人が多いな。それに皆すごい荷物だ」

広場の一角、人だかりができて、新聞屋が号外をばら撒いている。

新聞屋「号外!号外だよ!」

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ガイ「ん?なんだ?」

ガイ、落ちていた新聞を拾い上げる。

ガイ「わー!何だこれは!」

新聞の一面にカボチャパンツ姿のガイ。下に小さく王妃(泣き顔)と兄ロイの写真。

見出しには、『家出したお騒がせ王子ガイ様!生きたまま連れ帰った者には報奨金!』

集まった人々が話している。

町人1「報奨金て、いくら貰えるんだ!?」

町人2「とりあえず、生きていればいいんだな?」

会話を聞いて青ざめるガイ。

ガイ「大変だ…」

フードを深く被り、こそこそとその場を離れる。

《page18》

○町外れの酒場

ガイ、酒場に入ってきて、やれやれとテーブルに腰を下ろす。

ガイ「ふー、」

酒場の女将「いらっしゃい!お兄さん何にする?」

ガイ「とりあえず水と、何か食べ物をくれないか」

酒場の女将「あいよっ」

ガイ、拾った号外を握りしめて、

ガイ「まったく母上は…」

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ガイの隣のテーブルでは、男達が雑談をしている様子。

隣の客「…とにかく、ホライズンランドはもうおしまいだ」

客2「お世継ぎがおられないんじゃしょうがないなあ」

客1「国王が崩御されてからみるみる荒れてしまって…」

ガイ(なるほど、それでシャングリラ王国内に難民が押し寄せているのか…)

客1「家臣達が玉座を巡って争っているからな。これは長引きそうだ」

客2「こんな時こそ“聖剣の乙女”が現れてくれたら良いんだが」

思わず会話に参加するガイ。

ガイ「聖剣の乙女?」

客2「にいちゃん知らないのか?ホライズン王国に伝わる伝説だよ」

ガイ「伝説…」

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客1「その昔、聖剣を携えた清らかな異世界の乙女が、王を選んだって言う伝説さ」

客2「もう何千年も昔の、ホライズンランドの昔話さ」

客3「とっくの昔に聖剣も失われて行方不明だ」

ガイ「ふーん、聖剣の乙女か…」

客の1人がガイの顔を覗き込む。

客1「あれ?にいちゃんどこかで見た顔じゃねえか?」

客2「ん?俺も見覚えがあるような…」

青ざめてフードを被り直すガイ。

ガイ「わー!お、俺、たまに八百屋でバイトしてるからっ、た、多分そこで…。も、もう帰らないと!」

ガイ、慌てて立ち上がり、逃げるように酒場を出る。

《page21》

○酒場の外

ガイ「危なかった!号外をばら撒くなんて…母上を甘く見ていた…!」

空を見上げると、もう暮れかかっている。

ガイ、ため息を吐いて、

ガイ「今夜は街を出て野宿するしか無いな…」

○町の外

沢山の人々がテントを張り、焚き火で料理などしている。

ガイ「ホライズンランドの人々はここでキャンプをしているのか…」

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ガイ、少し離れた場所に馬を繋ぎ、袋からカチカチのパンを取り出す。

ガイ「今夜はこれしかないな…」

辺りを見回すと、近くで焚き火をしている家族の元へ歩み寄る。

ガイ「あの、すみません、このパンを温めさせて貰いたいのだが…」

快く応じてくれる父親。

父親「どうぞどうぞ!」

ガイ「ありがたい!」

《page23》

ガイ、パンを木に刺して炙る。

父親、ガイのパンを見て、

父親「…ん?君の食事はそれだけかね?」

ガイ「あ、ああ…ちょっと事情があって…」

父親「お母さん!スープ残ってたね?この若者に出してあげなさい!」

ガイ「いやいや、そんな!申し訳ない!」

父親「困った時はお互い様だ。こんな時こそ助け合わないと!」

ガイにウィンクして見せる父親。

ガイ「…では、あなた達もホライズンランドから?」

《page24》

父親、深刻そうな顔になり、

父親「うむ。ここのキャンプの人達はみんなそうだよ。ホライズンランドは酷い有様だ」

ガイ「そのようだな…」

母親、温めたスープを持ってくる。

母親「どうぞ!キノコしか入ってないけど美味しいわよ!」

スープを受け取るガイ。

ガイ「ありがたい…!」

美味そうにスープを口に運ぶ。

父親「ところで君は…」

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ガイ「…俺はこれからホライズンランドに行ってみようと思う」

父親「なんと!」

ガイ「自分の目で何が起きているのか確かめたい!」

父親「…」

ガイ「俺はシャングリラ王国から出たことがないからな。本当に何も知らないのだ…今だって、このように旅に出ていなかったらホライズンランドの惨状も知らなかった…」

《page26》

突然家族の子供が父親の元へ駆けてくる。

子供「パパー!」

父親、笑いながら子供を受け止める。

子供、ガイの顔をじっと見つめる。

子供ににこやかに応じるガイ。

ガイ「ん?なんだい?」

子供、ガイを指さして、

子供「このお兄ちゃん知ってるー」

ガイ、ギョッとする。

子供「かぼちゃのパンツがあ…」

慌てて子供を遮るガイ。

ガイ「ああっと!ゴホン!それじゃあ、俺はもう寝るよ!明日早いからな!」

父親「うん?そうかい、おやすみ」

ガイ「世話になったな!おやすみ!」

ガイ、そそくさと立ち去る。

ガイ(あっぶねー)


《page27》

○場面転換・翌朝

荷物をまとめて旅立つ準備をしているガイ。

父親「おーい!昨日の若者!」

遠くから父親が駆け寄ってくる。

ガイ「おう!昨日は世話になったな!」

父親「君に頼みがあってね。ホライズンランドに行ったらこの包みを私の娘に渡して貰いたいのだ」

ガイ「えっあんたの娘はまだ残ってるのか?」

《page28》

父親「ああ、一番上の娘がな。こんな時こそビジネスチャンスとか何とか言って…」

ガイ「へ、へぇ…たくましいな」

父親「言い出したら聞かないんだよ。とにかく、この包みを頼むよ。住所も書いておいた」

ガイ「わかった!預かろう」

ガイ、荷物を受け取って荷造りを再開する。

父親、ガイの後ろ姿をじっと見つめて、

父親「…ところで…どこかで見た顔だと思ったら、君はガイ王子じゃないかね?」

驚いて振り向くガイ。

ガイ「!!」

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得意顔になる父親。

父親「やはりな。新聞の写真とはあまりにも衣装が違うので、もしやと思ったが…」

ガイ、赤面して、

ガイ「あ、あの屈辱的な衣装は母上が勝手に…!」

父親「ふっふっふ…もう一つ当てて見せよう。さては、君、家出と見せかけて花嫁探しの旅に出るのだね?」

ガイ「ん??花嫁??」

したり顔の父親。

父親「あー!やはりな!王族にありがちな、決められた政略結婚が嫌で、自ら花嫁を探す旅に出るのだな!?」

ガイ「ち、ちがっ…」

父親、ガイを遮って、

父親「いやー!わかっとるわかっとる!ワシも若い頃は絶対恋愛結婚がしたいと思って、親の薦める見合い相手ではなく自力で妻を…」

ガイ「おっさん…勘違いしてるぞ…」

《page30》

またもやガイを遮る父親。

父親「あー!心配するな!報奨金目当てに君を売ったりせんよ!わしはそこまで野暮じゃない!」

ガイ「…」

遠くで妻の呼ぶ声

妻「あなたー!」

父親「む、我が愛妻が呼んでおる。じゃあ、ガイ王子、小包みを頼んだぞ!」

ガイ「お、おう…」

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父親、去り際に振り向き、

父親「あ、それと…わしの娘も中々美人だからな。惚れるなよ!?」

ガイ「…」

父親「まあ、そうなったらワシも王族と親戚か!」

父親、ガハハと笑いながら去る。

ガイ(なんちゅう思い込みの激しいおっさんだ…)

《page32》

〜その頃のあすみとレイ〜

○場面転換してレイの店

キッチンで料理しながら泣いているレイ。

レイ「あすみはきっと、あんなこともこんな事もされたに違いない…(泣)嗚呼、本っ当に可哀想な子だ!」

ドアの隙間からそっと見ているあすみ。

あすみ(レイさんの思い込みで私がどんどん悲惨なキャラ設定になってる…)